第三十四話 ワル、ろくでなし強制イベントブルース
しずくはここのところあった様々な出来事に嫌気がさしていた。
そういう意味では、カラオケに来たのは良いストレス発散になっている。
だが、それでも尚、胸に燻る何かを消化は出来ないでいた。
今日に至っては、何も……というわけではないが、主には悪くない悪童太郎にも厳しい視線を向けてしまった。
「ごめん、ちょっと外の空気吸ってくるね」
「え、うん。わかったー」
ニヘラと笑って見送ってくれるみよりが、せめてもの救いだ。
しずくは、はあとため息を吐きながら部屋の外に出た。
折角のカラオケもストレスの発散が主で、なかなか楽しめていない気がする。
こんなことではいけないと、頬を打つ。
部屋に戻ろうと一歩踏み出したところで、横から歩いてきた背の高い人物二人とぶつかった。
「んだァ?」
「おお、かわいこちゃん!」
しずくは、ふむと二人を見た。
腰布一丁だけの緑の肌色をした鳥人間と、同じく腰布一丁だけした全身赤色の鬼だった。
しずくは、もう一度ふむと頷いた。
こいつは侵略者だ。
数分後、彼女達がいた階が轟音と共に爆発した。
***
「このあごち●博士というのには無駄にシンパシーを感じるな悪童君」
「アンタとマッドな部分で共鳴しあってんじゃないの?」
うちの上司が、淡々とフリーゲームをこなす中、俺は仕方ないのでG●版ぶつ森で愛らしい白い猫と戯れていたのだが。
突然鳴り響く、『君はホエホ●娘』に俺は慌てて腰のポケットを開く。
「流石にその着メロのチョイスはどうだろうか……」
「このチョイスがわからぬとは、所詮イカルガさんも凡人……」
「いや、個人的にはやはりオーソドックスにマ●オの通常ステージの曲をだな」
「個人的には洞窟の曲を推したい」
あのちょっと地味におどろおどろしい感じがいいよね。
そんなことよりもと俺は取り出したガラケーの通話ボタンを押した。
「オッス、オラ悟空」
『え、あの、あ、悪童君じゃない?! 間違えました!』
「すまん、冗談につきあってくれない人が電話にかけてくることは稀だったもので俺が悪童太郎です」
というか、かけてきたの、みよりとカラオケに行っている友達さんじゃないですか。
チーッス、なんで電話してきてんの? いや、流石に変人とか思われるから口では言わないよ?
「なんで俺の番号知ってんの?」
『あ、みよりがね。自分がピンチに陥ったらこの番号に電話して助けを呼んでって日頃から』
あの子俺の番号をなんか勘違いしてない? 呼べば来るヒーローかなんかと勘違いしてない?
『そ、そんなことより大変なの! お店が悪人に襲われて、みよりとしずくとはぐれちゃって……!』
「what?」
『で、でもお店から出てこないの! 連絡しても出てくれないし……』
慌てたような怯えたような声で言う友達さん。
「まあ、落ち着いてくれ。どこではぐれたんだ」
『あ、あの、お店の中で、私だけ別の階のトイレに行ってて。そしたら、私達のいた階が突然、突然爆発したの……どうしよう、みよりが、しずくが死んじゃってたら……!』
「ほう」
俺はのそりと立ち上がった。
「? どうした悪童君」
「うん、まあ、そのなんだ、イカルガさん」
***
ガッシャアアアアアアアアアアアアアアン!!!!
「うおおおおおおおおおおおおみよりいいいいいいいいいいいいいいいいッ!!」
「悪童くぅぅぅぅぅ―――――――――――――――ん!?」
俺は今、風になる。
地下基地に置いていたエンジンがついてる方のバイク、ハビソン号に跨り、盗んだバイクで走り出した。
地下基地へと続く地上の扉をぶち破り、太陽の下へとその黒鋼の巨体を露わにするハビソン号(バイク)と俺。
唸りを上げるエンジンを更にふかせて、俺はアクセルを回した。
運動場を駆け、フェンスをぶち壊し、路上ではしっかりと左側通行しながら俺は友達さんから聞いたカラオケ店目指し風を切る。
乗ることは無いだろうと思っていたハビソン号(バイク)。すまなかったな、埃をたんまりと被せてしまって。だが、お前がいてくれてよかった。お前がいてくれたから、うちの大切なヤンデレ気質っ子の下へと一秒でも早く俺をお届け出来るというものだ。
さあ、俺と一緒にスピードの先へと向かってくれ。
一秒でも、一ミリでも早く、うちの子の下に!
ハリーハリーハリー!
仕方ねーんだよォ! 俺が手塩にかけて育てた娘のピンチだぞ!? 焦らなくて何が男か!
ポッと出の幼馴染にしか思えないかも知れねーが、脳内プロットでは結構早い段階からいた娘であって、俺にとっちゃあ長い年月一緒にいる幼馴染さんだよクソォ!
でもみんなは無免許運転は絶対しちゃいけないぞ! 切羽詰った悪のお兄さんとの約束だ!
おっと、そうこうしてたら見えてきたじゃねえかカラオケ●ッ!
あ、伏せる場所が変だと、もう何が言いたいのかさっぱりわからなくなる弊害。
って、そういうことじゃねーんだよォッ!
友達さんが言っていた階、八階を見据えて俺はアクセルを更に回す。限界ギリギリまで速度を上げるバイクを、持ち上げ、前を行く自動車のトランクにフロントホイールを乗り上げた。
何か驚愕してる親子がリアガラス越しに見えるが、なに気にするな。大事の前の小事だ。
そのまま自動車を発射台代わりに、俺とハビソン号は空を、飛んだ!
「足りない分は科学と勇気で補うんだよォッ!」
自転車の方についていた、右ハンドルのボタン。
それと似たようなボタンはコイツの両ハンドルにもついている!
今回は左ハンドルのボタンだ! ポチっとな!
自転車の時と同じように小型のブースターが車体から姿を現し、点火。エネルギーを失いかけていた車体が、更なる上昇のためのエネルギーを得て、一直線にカラオケ●の八階へと向けて空を走り出す。
今行くぞッ!
八階が迫る。窓は全て割れていた。爆発の影響だろうか。
クソ、無事でいてくれみより、涅。
迫る八階を前に、俺は祈りを込めながら突入の為の準備を整える。
すまん、相棒……ッ! 俺はここまで連れて来てくれた最高の相棒に、涙も滲むような謝罪をしながら、そのハンドルから手を放した。
進む先全てを破壊していくような黒い質量が回転しながら八階を駆け抜けていく。
だが泣いてはいられない。俺は、今日この日だけ、ヒーローとなる。
「うおおおおおおおお、お邪魔しマンモス――――――ッ!!!!」
俺もまたハビソン号に続くように八階へと突入した。
転がりながら八階の一室へと侵入して、伏せた身をそのままに、素早く足を整え、手を己の眼前につき、
「無垢な少女にエロ同人みたいなことをするのはやめて、俺にしろォォォォォ――――――ッ!!!!」
と五体投地を華麗に決めた。
頼む、俺も日常生活から離れて久しいが、俺の日常生活の象徴を奪わせはしないッ!
……。
「あ、悪童君?」
俺を呼ぶ声。
土下座から顔を上げると、そこには何故かブルーシェリフと……
「ぐあああああ、なぜだ、なぜ勝てないッ!! 私の美声がなぜ負けるッ!!」
「……フッ」
「ぬおお、グリンピースどん。鼻で笑われているぞ!」
「レッドピマン。俺は……俺はもうダメかもしれない……。こんな根暗そうな少女に、あっさりと九十点台を出されて大差敗けしてしまうなんて……」
「だ、大丈夫だ。九十九点と九十点だ。グリンピースどんも敗けてなかったよ!」
「九点の差は大きいんだよレッドピマン!」
よくわからん二体の怪人に、相変わらずの根暗な色合いをしたネコミミパーカーを着こなすシャムシール。
シャムはマイクを持ったまま、高らかに『蒼●鳥』とか歌い出して、自分の歌唱力の高さを主張してくる。クソ、うまいだけにこちらをチラ見しながらドヤ顔されても、文句の一つも言えん!
「ていうか、お前らなんで……?」
「あー、その、色々とあって侵略者の方々と歌と踊りで勝負になってしまいまして」
どこのスペース●ャンネル5だよ。
え、なにこれ? 俺、来る意味とか無かったの?
悲しい別れを済ませたハビソン号は無駄死になの?
「ひ、被害者とかは……?」
「あー。誰もいませんよ。全員無事脱出したんじゃないですか。重傷者がいたとかいう報告も来てませんし」
絶対無駄死にだコレェッ!
うおああああああ、みよりのバカッ! バカッ! バカおっぱい!
携帯の電源入れろよッ!
「すまん、ハビソン号。後で絶対回収してやるからな……」
「あ、あの、えっとなんでここにきたのかわかりませんけど……」
俺が落ち込んでる理由がわからずに、あたふたと慌てるブルーが、「そうだ」とマイクを差し出した。
「よくはわかりませんが、もう、取り敢えず歌いませんか」
「……うたゆ!」
もうなんか色々忘れて取り敢えず侵略者をボコボコにする歌唱力を三人で披露してやった。
終わり際、一瞬『俺、なんのために来たんだっけ……』と思ってしまうくらいに、何の意味も無い回だった。
あ、ハビソン号はちゃんと回収しました。




