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悪のビガクはこの手の中に  作者: 連開花
二人はプリティでヒーロー編
33/38

第三十三話 ワル、ゴートゥースクール

 両腕が直り、珍しく元気に学校に登校した、ある日のある時の事だ。俺はただひたすらに机に突っ伏していたのだが、突然妙な悪寒に包まれた。

 視線……? い、いや、パッと見は誰も俺を見ていない。


 だ、だが……。


 ヤバイ、背筋になにか感じてはいけない類の悪寒を感じた……。具体的に言うと、どこかで新しい作品が始まり、もうそっちでええんやないかなとか思ってる類いの悪寒……ッ!

 一瞬でお気に入りの登録数すら先を行かれ、点数すらついたし、こんな作品ではダメだったのかという悪寒……ッ!

 神は……神は俺を見捨てたもうたッ!?

 くそ、どう考えても俺の方がイケメンなのにッ! なんか俺と対して思考に差もねえ主人公が強くてニューゲームしてる気がするうううううグギギギキ。

 

「うおおおおおお、神は死んだ――――ッ!!」


 昼休みの一角、突如として哲学的な叫びをまき散らした俺を、周りのみんなは一度見つめ、「なんだ悪童か……」と言わんばかりに興味を失って、友達との会話に戻っていく。

 冷たいぜ、日本の今の世の中は。みんな心がセメダインで固められてるよ。


「太郎君太郎君たろぉ――――く―――――ッん!!」


 ボゴオォッ!!(俺の腹部が何者かのタックルによりひぎぃした音)


「あわびゅッ……!?」


 見える……エンディングが……ッ!

 見てはいけない終わりを幻視しながら、俺は泡吹いて崩れ落ちた。


「太郎君太郎君太郎君はーい、ボクが焼きそばパンとカレーパン買ってきたよ☆」


 痛めつけた腹部にダメ押しの顔面スクラッチを加えてくる何者かに、俺は震えながらアイアンクローをかます。

 その頭蓋骨をぶち抜いてもいいという覚悟……ッ!

 俺は敵の顔面を五指で掴み上げ、握力だけでぶらりと宙にぶら下げた。

 

「テメエ……みより……パン買ってきてくれてありがとうございます」

「もっと感謝して!」

「フンッ!」

「鼻がッ!」


 ズビシッと鼻フックをぶら下げていた女生徒にかまして引き抜く。

 ハイテンション女子は痛みにもがきながら沈黙した。フッ、勝った。


 はい、というわけで今日は珍しいことに悪童君の日常をお送りいたします。


 ちなみに、このいきなりエネルギー四個で相手と自分に八十ダメージを与えてきそうな捨て身●ックルをかましてきた女子生徒は、うちの幼馴染です。同じクラスです。

 ドヤッ? 取ってつけたように現れたが、俺にも幼馴染がいたのだよッ!

 名前は、碧音(みどりね)みより。愛が重そうな子です。かわいがってあげてください。

 俺? 俺はちゃんとかわいがってあげてるよ。愛が重いからたまに辛く苦しいけどね!


「太郎君。今日は結構積極的だね。いつもだと、なんか機械音交じりな感じにボクのこと褒めてくれるだけでつまらないんだー」


 ああ、うん。高性能代返装置はそこまで何でもかんでも対応出来るようには出来てないからね……。

 ていうか、俺もう疲れてんだよ……。高校編とか無駄なターンで稼ぐのはやめようぜ。


 別に普段の俺は、それこそ本当にただの学生だ。やる気も無くただ机に突っ伏して、いつ役に立つかもわからない物理をこねくりまわし、漢文古文の無意味さに辟易する。

 飯を買いに行くのすら面倒臭がる最強の物ぐさであり、みよりが勝手に買ってくるパンを頂いて腹を繋いで。

 ただ呆然と日々をやる気なく潰すだけの学生である。

 家に戻っても、父と母と姉に囲まれて暮らす一般人になるだけ。

 自分でもこうして日常に戻っていると、ブラックメイルという姿は嘘なんじゃないかと思ってしまう時がある。


「最近、太郎君本当にやる気なくなったよね。昔はもう少しあったのに」


 心配そうに眺めてくるみよりに、手を上げて大丈夫だと無言の返答をする。

 お向いさんの彼女とは子どもの頃からの付き合いなので、ちょっとした変化も目ざとく見つけられてしまう。

 実際、今まで以上にやる気は無い。

 これは最初からメルー様にも教えられたが、『業炎のイド』の弊害。そして、もう一つ……ただの日常に満足出来なくなってしまったという証拠なのだろう。


 俺はもうメルー様達とワイワイ悪い事をやることに慣れて、ブルー達と戦うことなどの方が自分に相応しい日常だと感じてしまっているのだ。


「みよりはよぉ、今の世の中、何か退屈でやる気が出ないとかないのか?」

「ボクは太郎君がいれば大体大丈夫かな」


 すごいよ。愛が重い。一歩間違えるとヤンデレルートで俺の命が危険な気がしてきた。


「それに今の世の中が退屈っていうのもボクにはわからないしなー。ヒーローとか悪の組織が蔓延って、ご町内で戦ってたりしてて……。街の人達に応援されたりしてるような世の中だよ。退屈なの?」

「今は、わりと」


 その戦いに身を投じてると、段々そっちが当たり前に思えてきちゃうしなあ。


「まあ、ボクは太郎君さえいればどうとでもなるから。んふふ」


 ……何故このように育ってしまわれたのか。

 心当たりはある。


 俺が……俺が……ッ!




 沢山俺が甘やかして育ててしまったのだ……ッ!


 子どもながらに、自分を慕ってくれる喜びに目覚めた俺。全ての間違いはそこだったのだ。

 一緒にいる時は甘やかし放題だった。それこそ手を繋いで連れまわしてあげて、自分のおやつもあげて、もう猫可愛がった。

 だって……だって妹みたいで可愛かったんだもんッ!

 そりゃあお前……プリンセスメーカーするしか無いだろうよ!?

 とにかく自分に懐いてくれる女の子にメーカーするしかないだろうよ!?

 しかし、そうした猫可愛がりによって、彼女が目覚めた方向性は我が侭放題な環境の中で、それではなかった……。


「あ、太郎君。デザートいる?」


 不思議なもので、可愛がり続けたら、挙句の果てに俺への過剰な献身に目覚めてしまったのだから、人生というのはよくわからない。

 まあ先に申しあげた通り、愛が重くなった以外は結局妹みたいで可愛いので、なんだかアレだがとにかく良し。


「今日も、明日も、わたしは悪童くーん♪」


 でも変な歌歌わないで。


「あ、みよりー。学校終わったらカラオケいかなーい」

「あ、うん、いいよ! 今日だったら空いてるしね」


 みよりもまた塾などで忙しいのだ。高校生っていうのは罪な職業だぜ。

 遊びと勉学を両立しないといけねえ。覚悟は出来てるか? 俺は出来てない。

 友達少ないんだよね。やる気出さないから、誰も構ってくれない。


「あ、しずく! しずくもいこーよー」


 しずくー、とみよりが教室の前の席へと駆けていく。

 連れてきたのは、絶やさず浮かべる笑顔が眩しい黒髪ロングの女の子だった。

 彼女は(くろつち)しずく。彼女と直接の接点は無いが、みよりの友達なので関わる機会はほどほどにある。


「カラオケだよね。私も行く!」


 はい! と手を上げながら快活に振舞う様は、黒髪ロングに浮かべる印象とは随分趣が異なる。

 とは言え、勿論このアイドル染みた快活さもアリではある。


「みよりとしずくは本当仲良いよね」

「えへへ、ボクとしずくは親友だから」

「高校からの、だけどね」

「長さは関係ないよ! ボクと太郎君への愛情の次くらいには重い友情だよ!」


 明言しないでよ。オカーサン恥ずかしいから。

 キャピキャピともう同年代男子がどう足掻いてもついていく余地が無くなるような、女子だけトークを開始し始めた集団。

 俺は興味を失って、まあいつも通りに外を見る。

 ああ、空が青くて綺麗。しばらく見れてなかったので、とても心休まるわ……。


「……ん?」


 ふと視線を感じて俺はキョロキョロと辺りを見回す。

 すると、涅と眼があった。彼女は、珍しいくらいに敵意というべきか……どうにもあまり快く思ってないような、らしくない視線と表情をこちらに送ってくる。

 誰にも明るく接するし、俺もみよりの友達だからとかなり良くしてくれたのだが……。何だ、あの視線は。

 俺は心当たりのない妙な視線に、困り果てて目を揉みほぐす。

 なんか、あの子にしちゃったっけ。いや、そもそも俺自身学校にはあまり行かなくなってるしな……。

 もう一度見上げると、既にその視線も表情も嘘のように消えて、楽しそうに友達とお喋りをする涅がいた。

 みよりはさっきの涅に気づいた様子は無く、ペチャクチャと会話を続けている。


 ……何だっていうねん。


 ***


「おや、お帰り悪童君。どうした疲れた顔をしてるが。久々の学校で気疲れでもしたかい?」


 いつも通り、ニートも真っ青な張り付き具合でパソコンと向かい合ってるイカルガさんが俺の帰宅を労ってくれる。


「まあ仕方ないさ。両腕も直ったとはいえ、本当にやっとと言った感じだったしな。色々疲れることも重なったわけだし、ここでゆっくりと休むと良いさ」


 珍しく端から端までしっかりと労わられてしまった。この人良い人なんじゃなかろうかと、目が潤む勢いで錯覚して感動しそうです。

 ブラックメイルの姿でどっかりとちゃぶ台前の座椅子に腰かけた俺は、疲れたようなため息を一度吐く。


「ありがとうございます。まあ確かに疲れることだらけだったのもあるとは思いますけどね……。でも、今日の疲れはちょっと違うんですよ……。なんか妙な……敵意なのかなんなのかよくわからん感情に晒されてめちゃくちゃ疲れました……」


 あれからも、時たまちらりと視線が合う度、そんな感じの刺すような感情を感じていた。

 俺が何したっていうの……?

 可愛い子に冷たい視線を送られるとか……アレッ、これはこれでご褒美ッ!?

 どうやら数日の寝ることしか出来ない空虚な生活が、俺の活力や欲求を著しく奪っていたらしい。

 クソッ、ご褒美を見逃すなんて……。

 悔しそうにしてる俺を、余程疲れたものだと勘違いしたイカルガさんは、優しく俺にG●版の初期の青基調のコントローラーを差し出してきた。


「そうか。そういう時こそゲームをして癒されるのが良いぞ。オススメはどうぶつの●だ」

「提案したんなら3D●貸せよ上司」

「君! いいからこのコントローラーを受け取って空いてるG●版をだな……!」

「うるせーあんた今パソコンしかしてねーだろうがッ!!」

「だが渡さん渡さんぞ。今平行してポケ●ン中だからな。そして、いいか、今私は一部から伝説のフリーゲームと崇められ書籍化も果たしたタオルケ」

「それ以上いけない」


 結局、俺は仕方なく途中でやめていたVP・咎を背負●者をクリアするのだった。

 ゲートは……まだいいかな!


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