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第三十一話 ワル、本当に終わった……?

「……無様な私の姿でも笑いに来ましたか?」


 ナルシストンは懲罰房の中から、そう自虐げに呟いた。

 既に身体は元のだぼついた贅肉だらけのだらしない身体に戻っている。今回で消耗したエネルギーを差し引いたくらいでは、あの贅肉は取れないようだった。

 スロスは、満足げながらも自嘲気味なそのナルシスト極まりない仕種を見て。



「プッ、バーカ、負けてやんのプププ。新人組に負けるとか恥ずかしいブフッ、クク」


「ちょ、あなた! 言うに事欠いてそんなこと言いますか普通!?」

「言わないつもりだったんだが、お前のやり切った感じの顔を見たらついムカついて……」

「本当に最低ですねェ……ッ。ていうか、あなた! なんでティアちゃんが生きてるって教えてくれなかつたんですか!? ふざけてるんですか!!」

「……」


 スロスは何度かうん? うん?と言った感じで、意味がわからないと言った顔で首を傾げる。

 そしてしばらく間を置いてから、汗をダラダラ流して手を叩いた。


「……忘れてた。あ、あれ、言ってなかったけ?」

「キイィィィイイイィィィィサマァァァアアアァァァ」


 醜く肥えた腹をぼよんと揺らして立ち上がり、憤怒の闘気を燃え上がる炎のように放つナルシストン。


「ち、違うんだ。てっきりメルー様が伝えてると思って」

「あの実は脳筋おバカも大体似たようなこと考えてましたよッ!!」

「なにッ!? くっ、向こうも責任を丸投げしてくるとは……ッ!」

「いっぺん死にますかッ? 死んでもいいんですよォッ!? 五割くらい失敗しますが復元光線で蘇らせてあげますよォッ!?」

「お、落ち着け。不慮の事故だ……だ、たいたいナルちゃんが訊いて来ないのがいけない」

「訊いて『殺しました』なんて返されたらあなたを憎しみで殺しそうだったからですよスロォォオオオオオオスッ!! 幾らあなたとは反りが合わなくても協会のトップを殺すわけにはいかないでしょうがああああぁぁあッ!?」

「うん、意外とナルちゃんはそこら辺理性的だよね。まあ真面目な話忘れてたのは事実だが、もう時間も経ったし時効ということでここは一つ」

「澄ました顔で平然と十年の憎しみを忘れろとかあなた……」

「勿論、タダでとは言わない。無理を言って譲ってもらったこれをお前に授けよう」


 スロスは懐から写真らしきものを取り出して、ナルシストンに渡す。


「なんですか、写真なん……て……ッ!?」


 絶妙な角度から撮影されたティアの着替え中の写真だった。


「スロオオオォォォォォオオスッ!?」


 ビリィッと写真を引き裂いて、怒りに身を焦がした強烈なタックルでナルシストンは房の檻を破壊する。

 勢い余ってスロスを張り倒したが、全く問題はなかった。本人的に。


「ぐおおおお、な、何故だナルちゃん。ティア君に無理を言って撮影したものだったのに。もしやこれよりも更に先を……!?」

「違うッ!! ていうか、どうしてそのチョイスをしたッ!?」

「えっ……だ、だって、ナルシストン、君、あんなにティア君を引き摺るとか、恋をしてるとしか……」

「創造主だからですよッ! 私の分身みたいなものを守ることも出来ず殺された無力感に苛まれてたんですよッ!! それで必死に強くなったんですよわかってるんですかクソトップ!!」

「……な、なんてことだ。読み違えたか……。ブラックメイル君にも背中を押された策だったのに……ダメだったよ、と……メルメル」

「なんなんですか本当に……。全く」


 懲罰房の中に戻って、どかりと座り直すナルシストンに、スロスはすまなさそうに声をかけた。


「悪かった」

「もういいです……。どの道、あの時ベストを尽くせなかった私自身のせいでもあります。……で」


 ナルシストンはスロスに向かって、苦笑いを向けた。


「私の処罰はどうするんですか。処刑でもしますか。出来れば、私の美を意識出来る死に方がいいんですがねェ……首吊りとか死体としても美しくない死に方は御免被りたいのですが」


 その言葉に返されたのは、笑みだった。


「お前、ナルちゃん。協会に入る時、私に約束させたことがあるんだが憶えているかな?」

「なんでしたっけねェ……元々は敵だったあなたに頭を下げるとか屈辱的で、忘れてしまいましたよ」

「『あなたが不甲斐なくなったら、いつでも寝首を掻きますからね』って言ったんだぞ、ナルちゃん。……雇用時の約束を果たしただけだろ? それでいいではないか」

「……感謝はしませんよ」


 笑みに向けて、ナルシストンはどこまでも不快感を顕わにした殺意を叩き付けた。

 温情のように助けられたことが気に食わないし、それを当然のように言い放つ目の前の男もナルシストンは気に食わなかった。

 全くもって、コイツとは馬が合わない。本当に心底嫌いだ。


「私はあなたが気に食わない。いつでもその寝首、掻き切ってやりますよ」

「そういうヤツを置いておく懐の広さも見せないと、トップというのは勤まらないものだ」

「……フンッ。……ああ、そういえば……」

「なんだ?」

「デルフィニウムさんは、私が不安定なのを知っていて狙って計画に入れただけですから、あまり彼女を責めるのはやめなさいよ」

「勿論そんなことはしないさ。彼女については、彼女を一番よく知る男がどうにかしてくれたしな」

「そう、そしてスパロウマンのこともですよ。私ははっきり言って今回本気で叩き潰す気でやりましたよ。スパロウマンなんて殺しても問題無いという腹積もりで本気でやりましたからねェ……無罪放免というのも後味が悪いんですが」

「スパロウマンがいいと言っているからな。罪を憎んで人を憎まずとはよく言ったものだ。少しでも罪悪感を感じるなら、彼が今後強くなるために力を貸してやればいい。それが一番彼のためにもなる。スパロウマンは見所があるぞ、色々な意味で。……弱過ぎるところとか」

「……まあそういう目論見があるなら……いいでしょう。乗りましょうか」

「ああ、それでいい。頼むぞ、ナルシストン」


 ナルシストンは立ち上がって、壊れた檻から悠然と歩いて出た。

 そこに向かって、スロスが思い出したように言葉を付け加える。


「そうだ。ところでナルちゃん、折角だ。無罪放免がイヤなら、出るかわりついでに取引をしよう」

「わざわざ私が出た後に言って白々しい……どうせアレでしょう」

「ああ」


 スロスは神妙な顔つきでナルシストンに向かって頷いた。


「どこであの男と出会い、どうやって今回の裏切りを画策したのか、全て話してもらおう。仮にあの男となにか契約があろうともだ」

「……いいでしょう」


 ナルシストンもまた、苦々しい顔つきで頷いた。



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