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第二十話 ワル、ピリオドの向こうへ

「うおおおおおおおおおおおおッ!!」

「いけっ、いけっ、太郎!」


 今全力疾走で(盗まれた)下着を求めて走る僕は悪の組織に所属するただの戦闘員。

 強いて違うところはあげないから安心しとけ!


「うおおおおおおおお速えええええええええええ」

「うーむ、なかなか追いつけぬな」


 前を進む風の塊との縮まらない差に、追走しながら悲鳴を上げる俺。

 メルー様を肩車しながら走っているとはいえ、俺の全力疾走は法定速度をわりと守ってない程度の車なら余裕で追いつけるというのに。

 流石は風。どれだけ腐っても速さで簡単に追い抜かれることはないということか。

 一応怒りのギアは入っているものの、案件が実にしょうもない案件なだけに、俺のパワーも当社比1.5倍くらいが限界です。


「頑張らぬか太郎! お前今絶世の美幼女の大事な部分を後頭部で守ると言うご褒美を与えられとるんじゃぞッ!」

「今の俺の状態だと感触とかイマイチわからねーんだよッ!? 後自分で絶世とか言うなッ!」

「ほーらパタパタ。見たければ頑張るのじゃぞー」

「く、クソッ、幼女がスカートをパタパタさせながら俺を誘惑するッ! くやしい……でもみなぎっちゃう!」


 幼女の誘惑によって、スピードが倍プッシュ……ッ! 更に加速する。

 欲望のギアを持ってしても、そのスピードはやはり後一押し足りない。

 打開するにはどうすればいいのか。このままだと運が良ければご町内を一周、運が悪ければそのまま県境でも越えて日本一周下着泥棒の旅とかはじめちまうぜ?


「待って、待てぇぇぇぇぇッ! この街の平和を乱すのは許しませんよぉぉぉッ!!」

「……うらー、うらー」


 何か聞き覚えのある声が二つ、家々の上から聞こえて来る。

 ふと見やると、きらきらとどこか煌めくような影が二つ、俺達と同じ方向へ向かって屋根の上を飛び跳ねていた。

 影もまた俺達に気づくと飛ぶのをやめて、こちらへと降りてくる。


「あれ、ブラックにメルー様。何でアレを追ってるんですか?」

「……偶然です」

 

 何の因果か、いつも通りの眩いばかりの白いヒーロー衣装のブルーシェリフと、これまたいつもと同じくゴスロリパーカーという出で立ちのシャムシールの二人が俺達の隣に降り立った。

 速度を落とさない辺りは流石に二人も意味不明なレベルで強化されてるヒーローである。どこかシャムシールの走り方がぎこちないのは気になるが。

 しかし、ヒーローって改造もせんとどうやって強くなってんだ。ズルくね? 俺なんて死んでもおかしくないような改造を施されてんのに。


「お前らもアイツ追ってんの?」

「はいッ! あの風が下着泥棒だということで毎日追ってるんですッ!」

「……でもいつももう少しで逃げられるんです」

「あの風の中にだって入ったのに……ッ! もうちょっとってなると最後の切り札みたいにドカンって速くなるんですよ!」


 マジかよ。追いついたら速くなるとか最悪じゃねえか。


「つーか追いつけるもんなのな。俺なんて結構頑張ってこれなのに」

「……もう一人を踏み台にしたり?」

「二人いればやりようはありますよ!」

「なるほど。ブラックメイルよ、ワシも加えて女子三人でお前を踏み台にして跳ぶというの、アリじゃね?」

「無いわー。結構なご褒美だけど無いわー」

「そうですかー。うーん、今日は秘策も使ったから何としてでも捕まえたいんですよね」


 秘策とはなんじゃらほい。


「秘策ってなんじゃ?」


 メルー様は正義と悪の配慮とか気にしないから堂々と聞いちゃうんだよねうん。


「なんと、聞いて下さい。シャムちゃんのパンツを生贄に捧げて」

「……やめてっ」


 ブルーの口を走りながら器用に塞ぐシャムシール。お前らもかヒーロー。


「お前……もしかしなくても今ノーパ」

「……言わないでください」


 なるほど。どーりで走りがぎこちないわけだ。ぎこちないのに今の異常なスピードでのチキチキ極限チェイスレースが出来るんだからもうお前がナンバーワンな気がするけどな!


「大丈夫だ。お前は独りじゃない。俺の上に跨る彼女もまた、お前の同志だ」

「ワシもまた同じように奪われ、ばんそうこうが無二の友。下手人はこのバカ」

「……装備も被っててうれしくない……っ!」


  えっ、マジで。


「ブルー、お前ってばなかなか鬼畜だな」

「ふふ、ブラックには敵いませんよ。年端もいかない少女のパンツを奪らせるなんて」


 俺達は通じ合う何かを感じて、ガッと腕を合わせた。

 親愛の証である。今俺とこの天使はサドという名の深い絆で結ばれたのだ。


「……」

「お前もエキセントリックな恰好のわりに苦労人じゃのう……」

「……(じわっ)」


 シャムシールをからかうのが楽しいってレベルじゃなくなってきた。

 だが今は一応有事なので、からかうのはほどほどにしつつ……。


「待て、待つのだ! 返すのだ!」

「返しやがれよッ!!」


 ……何かさあ、またどこからともなく知った声みたいなのが聞こえるんだけど。

 ていうか、既にいつのまにか俺達と併走してんだけど0時だよ全員集合なの? ねえ?


「ん? おお! 貴様、ブラックメイル! この前の一件をよく考えて、借りはチャラにしておいてやることにしたぞ。感謝するがいい」

「おうテメエ骸骨野郎。お前のせいでル●バを取り逃したんだからチャラどころの話じゃねえ。三倍返しで菓子折り持って礼しにこいや」

「なぜ究極の悪たる私がそんなことを……」

「ん? お前ドン・スカルか? 久々じゃのー、なに、ブラックメイルと知り合いじゃったの?」

「な、なんだこの幼女は……馴れ馴れしい。ブラックメイル、貴様子どもをこんな時間に同伴させるとは、好漢かと思えば何時の間に悪以下に成り下がったか」


 何で俺が批難されるのかわから……いや、わかるわ。うちの幼女は見た目は確かにただの幼女だわ。


「いや、ちげーから。合法幼女だから。メルー様は十八歳以上だから」

「馴れ馴れしいとはなんじゃい! 人が折角技術とかで支援して立派な悪にしてやったというのに。ぷんぷん」

「メ?! メメ、メルー様……ッ!? なぜこんなところに……?! ていうか何で幼女……?!」


 ドン・スカルが顎が外れそうなくらいに驚いている。あ、外れた。

 ていうか、こいつからも様付けなのかよ……。顔が広い上にどういう交友関係なのかわからない幼女だ。


「わっはっはっ! 働きたくなかったが、まあ面白い人材も手に入れたしのう! ていうかお前らも近くに住んでおったのか! 全く、年賀状も寄越さんと知り合い甲斐のないやつらめ!」

「ち、違う、違うのですよメルー様。メルー様が住んでいた住居がもぬけの殻になっていたので、送るとかそういう問題では無かったのです。それで、ですから何故に幼女に……」


「悪も知り合い付き合いが大変そうですね。シャムちゃん」

「……会社か」


 ごもっとも。

 で、そんな幼女と骸骨の言い合いの横で澄ました顔しているのは、なんとスーパーキンニク君であって、スーパーキンニク君ではない……。


「よう、ドンが悪いな。お前らも下着泥棒を追ってるのか?」


 スーパーキンニク君(女)だった。言い難いなこれ。ニクちゃん(仮)とでもしとく?


「そうだけど……二つくらい訊いていい?」

「いいぞ。オレは身体に似合わず懐がデカいからな」

「お前このスピードについてこれるならあのスーツいらないんじゃあ……」

「何言ってんだテメェッ! キンニクを愚弄するヤツは好敵手(ライバル)であっても許さねえぞッ!」

「いや、してねえよ……というかね、お前あんな自分が鍛えても弱かったとか言ってたけど、もしかしなくても素で強いんじゃあ……」

「バカ言うな。敏捷性と筋力はパラメーターが違うだろ? オレなんてスーツが無ければ速力Sの打撃Gさ……」


 このキンニク狂いはやっぱりスーツ無くても強くなれる才能持ってんじゃない?


「まあそれはいいや。何でお前らも下着泥棒追ってんの? ま、まさか……」


 スーパーキンニク君(♀)のパンツまでもが毒牙に……?!


「ああ、そうパンツを取られちまったんだよ……」

「何てことだ、キンニク狂い以外は将来勇猛(誤字ではない)な可愛い女の子のパンツまでもが毒牙に……」

「ドンのブーメランパンツがな……」

「俺のやる気が萎んでいく……ッ?!」


 いらねえだろッ?! いらないよねえ骸骨にパンツ!


「すまぬ、キンニク君。私が一張羅を盗まれてしまったばかりに、隠密任務でスーツも着ることが出来ず……」

「いいんだよドン。オレはアンタに救われてアンタの為に組織にいるんだから。どう使ってくれたって構わないさ」


 パンツを取り返す話じゃなきゃわりと良い話なんだけどよ……これはパンツを取り返す為の話なんだよ……。

 ところで、こんなグタグダに色々な人と出会って時間は大丈夫なの? と思ったあなた。

 実はもう既に町内を三週くらいしております。全く追いつけてねえ!


「うーむ、謎の御都合主義かつ場繋ぎだけの感じで人が集まったんじゃが、追いつけるわけじゃなくて歯痒いのう」

「メルー様、御都合主義とか言っちゃダメ」


 はてさて。確かに人が増えたからスピードが上がるなどということは、普通に考えてまあ無い訳で。

 この状況を打開する素晴らしいアイディアを俺達は思いつかなければならないわけだ。

 現実は非情だから諦めちゃダメかな? ダメか。


「よし、私が良い事を思いついた。そこのヒーロー二人がスッパになって色仕掛けでヤツを止める」

「却下だバカ。お前、正義相手なら何でも言っていいとか何でもさせていいとか思ってるだろこの骸骨野郎」

「でも……見たいと思ってるのではないか? ブラックメイル?」

「正直思ってるッ!」


 俺とドン・スカルが向き合う。ガッと腕を合わせて友情の誓いを以下略。


「天丼してないでさっさと考えましょうッ! 取り漏らしもそろそろ全部取られて、相手が完全に逃げちゃいますよ!」

「……追いつけないと油断してる今しかないです」

「じゃあそうだな、アレは出来ないのか? 明日から本気出すみたいなヤツ」


 ニクちゃん(仮)が俺に無謀な提案をあげる。いや、出来んことは無いけど、無理かなあ。


「無理だな、ちょっと本気モードは」

「じゃなあ。使いこなせんからワシが封印しとるんじゃけど、この体勢から封印解除はちょっと恐いからやりたくない」

「そっちかよォッ!? 俺の身体の心配してよォッ!」

「お前は殺しても死なんから大丈夫じゃ」


 ぐすん、すごい信頼されてるね、俺。悲しいね。


「……仕方ありません。……シャムシールを使います」


 シャムが自分の名前じゃなくて武器の名前を呼ぶ。紛らわしいわい。

 すらりと取り出された剣を肩ほどに上げて構えた。


「シャムちゃん! でも……この前の一件で大分魔力を使ったし、今回も使い過ぎるのは……」

「……どうせ前回で使い過ぎた感もあります。……これくらいの消費構わないのです」

「シャム、お前……」


 なんて献身だ……。自己を犠牲にしてまで……。

 今度からいじめるのはもう少し優しくしてあげよう。いじわるの量を二割ほど増やせば良い具合のバランスかな?(ド鬼畜)


「……いきますよ。風の魔剣、解放……ッ!」


 言葉とともに、無遠慮な突風が俺達を跳ね上げた。最早、これは浮遊である。

 風の膜に覆われて運ばれるような感触には奇妙なモノを感じざるを得ないが、おかげさまで前を行く風の塊へとグングン距離を縮めていく。


 相手もこれだけ突然の速度の急上昇には対応出来なかった。

 微風の竜巻と言うより無い塊に、俺達六人は突貫する。六人の力を合わせた蹴りを、今必殺でお見舞いするッ!


「「「「「「死ねえッ!!」」」」」」


 六人の思いが、ありとあらゆる意味で一致した瞬間だった(到達するまでの道のりは全く違ったが)


 ドゴォッ!

 とか鳴ったかは強風による耳鳴りで全くわからなかったが、誰かの足がコアを捉えたのだろう……風が止み、風の中からぼとりと何かが落ちた。

 渦巻いてた下着も一緒に飛散したけど、地獄絵図だよこれは。色んな意味で。


「く、な、なんてことだ。偶然とは言えコアに一撃を喰らうとは……よもや人型にされるとは思ってもいなんだ」


 二足歩行の鳥……。一応、人型をしているものの鳥の部分が大きく反映されているだろう鳥人は、落下の衝撃に頭を振りながら立ち上がった。


「くっ、どれがワシの下着なのかもう混ざり過ぎてわからんのじゃ」

「……うう、わからないです……」

「いや待てよ? もういっそどれでもいいから似合いそうなゴージャス下着でも……」

「……それです」


 ちょっと待とうねお嬢ちゃん達、窃盗は犯罪だから。

 終わったら絶対どっかで買ってあげるから。


「さあ、ガルウインド! お前の美しくない侵略行為もここまでだ。大人しく罪を裁かれなッ!」

 

 俺の啖呵に、ガルウインドはゆらりとこちらを向いた。


「ふ、ふふふ……まさか名前までバレるとは。コアを蹴り飛ばしたのはただの偶然では無いといったところか。狙ってやったとも思えんが」


 なるべく面を意識して攻撃したけど、流石に狙ってコアは攻撃出来なかったね、うん。

 何がおかしいのか、ガルウインドは含み笑いを崩さずにこちらに視線を向ける。


「まあいい。今日の戦利品(パンツ)をクンカクンカ出来なかったのは残念だが、私もまだまだ侵略者として君達に捕まる訳にはいかないからな……この辺で失礼するよッ!」


 ふわっとガルウインドの身体が浮き上がった。そして―――


「マックススピードッ!」


 ガルウインドがそう叫ぶと、一瞬の空白の後、ヤツの後方にジェットエンジンもかくやという圧が生まれ放たれた。

 吹き飛ぶ俺達。散る下着。


「なんじゃとぉぉぉぉッ?!」


 喚く幼女。そんな驚かんでもあんなこと言い出したらまあこうなるって大体予想つくでしょーが。


「クソッ、太郎! 潔さが欠片も無い上、下着まで散らしおったアイツ! 許すまじ、許すまじィィッ!!」

「名前で呼ばないでッ!? 仕方ないのでそろそろ切り札を呼びましょうか」

「ぐううう、ダサいからこういう時は封印して欲しかったが、背に腹は変えられんのじゃ……許可する! ついでにワシも呼んでやるッ!」


 吹き飛ばされた空中。俺は何とか平泳ぎでメルー様へと辿り着き、その体を抱き寄せた。

 俺はロリコンじゃないので肩車するだけですよ?

 合体完了したら、さあ呼ぶぜッ!



「「来い、ハビソン号(自転車)ッ!!」」



 パチンと鳴らした指。認識完了のウインドウが俺達の前に開く。自転車一つ呼ぶのになんて無駄なギミックを搭載してんだイカルガさん……ッ!

 いや、本来はバイクをカッコよく呼ぶ為のギミックだろうけどね?

 空中飛ぶ俺らの下へと、唸りを上げながら屋根を越え疾走する自転車。

 どういう原理かは知らないが空中へと飛び出し、寸分違わず俺らの下へと現れた自転車にまたがる。


「おらっしゃアアアアアアッ! 俺もマックススピードじゃああああああああッ!」


 勢い良く踏んだペダル。道でもあるかのように、空中にも関わらず自転車は一切のエネルギーを損なわずに急発進した。


「あ、下着の回収は任せたぞおおおおおおおッ!」


 未だ空中散歩から逃れられない四人に向かって俺はそう残し、チャリでの追走を開始するのだった。


「……回収しましょうか」

「そうしよう」

「そうしましょう」

「まさか出番がこれだけとはこのドンスカルの目を持ってしても……」

「ドン、お前に目は無いぞ」

「そうでした……」


 ***


 …………。

 ……。


 相手も相当速かった。町内を更に一周しかねないレベルでのカーチェイスならぬ自転車チェイス。

 だが人型になったせいで速さに対して、柔軟性が無い。曲がり角などに来ると律儀に曲がってくれるおかげで、ハビソン号のパワーを持ってすれば追いつくのは不可能ではなかった。

 最早この自転車は俺と一体。この身は自転車よ。


「く、やるな貴様。人型とはいえこのガルウインドに追いつける人間がいるとはッ!」


 鳥人の背を捉え、何とか縋りつくようにペダルを超高速で回す俺。

 射程距離には納めている。後はタイミングと言ったところだ。


「つーかお主なんで律儀に曲がり角で曲がるんじゃ」

「ふふふ、実はこの人型になってしまうと、重力に縛られ浮遊は出来ても飛ぶことは風の時以上に叶わないのさ」

「太郎、こいつはダメなヤツじゃ。侵略者に向いとらん」

「な、なに?!」

「メルー様、そのはっきり言うところ、嫌いじゃないぜ!」

「く、くそっ、貴様ら、言わせておけば……」


 はっきりと言われ、悔しそうに声を上げるガルウインド。

 それでも挑発に乗ることなく逃げることを続行するのは流石だ。流石過ぎて閉口してしまう。


「いいだろう。この私を本気にさせたことを後悔するがいい……」

「むっ、ヤツが懐から何か取り出したんじゃ……」


 パンツとブラだった。


「最悪じゃぁッ!?」

「私の身体は力を蓄える為に一時的に人型を成してるに過ぎない。故に身体の中に多少の物質は取り込めるのだ。そして、取り出した下着を……」


 口に咥え出した。


「最低じゃぁッ!?」

「ああ、あんなことが出来る変態……流石に見たことが無いぜ」

「何とでも言うがいい! 俺はこの下着の芳醇な香りに包まれ、進化する! そのスピードは風を越えるッ!!」


 ガルウインドはきっちりと下着を味わい尽くし飲み込むと、身体を更に前傾にした。


「おおおおぉぉぉぉぉぉッ!!」


 気合一声。変質者は風を越え、音へと変わりゆくように、その身を投げた。

 速度の壁を越え、どこまでも走りゆくようにその姿は霞んでゆく。


「させるかぁぁッ!!」


 俺は自転車の右ハンドルにつけられた本当に最後の切り札……ボタンを押す。ポチッとな!


「ジェットモードッ!!」


 後輪のスポークを支える支柱から小型のジェットが現れ、一気に点火した。

 

「ジェットは!」

「男のロマンじゃあッ!!」


 メルー様とともに俺達もまた速度の壁を越え、ピリオドの向こうへと至る。

 極限まで加速するチャリンコをどうにか制御しつつ、敵の背中へと追いつく。

 相手もまた速度の壁を越えていたと言うのに、ほんの一瞬で追いつくこの異常な加速力……いや、イカルガさんこれちょっと出力間違ってんじゃない?

 一体、どういう改造をすればこれだけのエネルギーを放てる物体があんな小さなところに収まると言うのか。

 いや、今はそんなことは関係無い。ここで語らなければ一生語る機会は無さそうだが、もうそんなこと知った事じゃないもんねッ!


「いくぞ太郎ッ!」

「いきますよメルー様ッ!」


 俺達二人、お互いにやることを目で語り合う。


「「『悪童(ただの)ォ―――――』」」


 二人で放つのは迫る背中に向けての、渾身の一撃ッ!!


「「『ナックル(パンチ)』ッ!!!!」」


「そ、そんな……そんなバカなァ――――ッ?!」



 風を、速さを、全てを越えて、俺達の放ったパンチはガルウインドを捉えた。

 勝った。この一撃は必殺の一撃。手応えアリ。

 そして、周囲の時間すら遅れて感じるようなスピードの中、その快感とは別に俺は漠然と考えることがあった。


 ああ――――――。




 こりゃ止まるの無理だわ。

 

 ジェットの推進力を止めきることなんて出来るわけも無く、俺達三人は近くの巨大ショッピングパークに突っ込んだのだった。


 ***


 パトカーが何台も周囲を覆う中、俺の手には冷たい輪がはめられ、幼女様は何故か被害者として保護されていた。

 ショッピングセンターを圧倒的に破壊し、ガルウインドの身体に収納されていた大量の下着までもバラまいた中にいれば、そりゃ捕まるよね。

 ガルウインドさんもノびてるところを敢え無くお縄になったので、この戦いは無駄では無かったのだがな……。


「ほら、しっかり歩きなさい」


 促されて、俺は釈然としない気持ちで呟いた。


「俺もまた小さい直角三角定規に踊らされた一人に過ぎないというのに……」

「おまわりさん、そこのパロってる余裕のあるバカはちゃんと連れて行って叱ってやって欲しいのじゃ」

「メルー様の裏切りモノォッ!」


 一応、事情とか説明して、下着泥棒逮捕と合わせて厳重注意で済みました……。

 次は罰金とかじゃ済まないそうです、はい。





 ***





「……」

「……」


 ジェネラルスロスとデルフィニウムはお互い向かい合って沈黙を破れないでいた。

 二人の間……ワーキングデスクの上には被害報告書が乗っている。

 今回のブラックメイル達の騒動についてだ。


「……」

「デルフィニウム君」


 重々しく、やっとスロスが口を開き……デルフィニウムは俯けていた顔を何とかあげた。



「私もこう続くのは予想外」



「もう私何も信じられませんッ!!」

「あっ、デルフィニウム君?! デルフィニウムくぅぅ――――ッん?!」


 泣きながら出ていくデルフィニウム。

 腰を上げたスロスは、もう追いつけないと理解してゆっくりと座り直した。

 彼女も大人なのだ。ゆっくりと理解を深めていって貰えれば、自分の考えをいつかわかって貰える……。



 そう安易に考えていたことが全ての間違いだと、スロスはすぐに気づかされるのだった。



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