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第十九話 ワル、その至宝を守るため

 元々の行き先だった、みきちゃんの家に寄って、俺とメルー様は話を聞いていた。

 メルー様と会うのが楽しみ過ぎて走って探しに来ちゃうなんて、もう御茶目さん☆

 彼女の家はしっかりとした二階建ての一軒家で、ローンの額を聞いてみたくなる程度には広めの敷地にドンと建てられていた。

 確かに一軒家であるならば、マンションと違い、干してある下着程度取るのは容易な話だろう。

 多少身体能力に自信があるものなら易々取れる筈だ。


「こわいの。最近、毎日毎日……」


 震える声でそう言うみきちゃん。その体も小刻みに震えていた。

 かわいそうにという思いと、今日のパンツは何なのかなって思いが同居してるぼくは最低です。


 みきちゃんの部屋は二階で、彼女の洗濯物は自分で部屋の外の物干しを使って干しているらしい。

 ベランダのような足場は無い。しかし、外にある排水管は丁度彼女の部屋の窓と物干しの横に備え付けられており、それを足がかりにしてしまえばさして苦も無く上ることは出来そうだった。

 一般人でも無理をすれば取れないことも無さそうだ。

 だが、そうなると身体的に優位なヤツ―-例えば、怪人や戦闘員、ヒーロー……――の仕業なのか、一般人の仕業なのかわからないという手間が出てくる。


「犯人っていうのは全然わかってないのか?」

「うん……でも、最近色んな人が下着がぬすまれてるって言ってた」


 みきちゃんにパソコン使用の許可を貰って地図を開いた。

 要所にピンを刺すツールを使ってみきちゃんが覚えてる範囲での被害を教えてもらっていく。

 回覧板を見たり、親の話から井戸端のおばちゃん達の会議などをこの幼女はよく聞いていた。

 おかげさまで範囲の絞り出しはわりとスムーズに終わる。よくやった。オ●ーナを買う権利をやろう。

 ていうか、この幼女スペックたけーなあ。子どもにしとくのが惜しいぜ。子ども探偵でもしてみる?


 取り敢えず、被害の範囲はかなり広範囲で出ていたが、無理はしていても不可能な範囲で無いことはわかった。

 ただそれがわかったところで、無差別さや距離などを考えた時、全てが同一人物の仕業なのかというアタリはつけられない。


「マンションも狙っているし同一人物ではないのか……? 他には何か無いのかみきちゃんや」

「ううううう……なさそう」

「いや、まあそりゃそうだよね。被害者ってだけの一般人だもんね。ごめんね」


 もう少し情報が欲しかったが致し方ない。

 こうなってくるとやはり至って安直な手段に出るのが一番だろうが……。

 しかし、と俺は一考する。

 もしや、うちの首領様ならば、何か想像もつかない一手で相手を捕まえることが出来るんじゃないか?

 と思って隣の幼女を見てみたが……。


「メルー様はなぜさっきから黙ったり唸ったりせわしく貧乏ゆすりをしていらっしゃるんですかねえ……」


 うーうーうめき声を上げながら、貧乏ゆすりをしている幼女に俺は声を掛けた。

 幼女様はギロリと俺を睨むと、ゆすった膝を止めることなく、苛立ちの赴くままと言った趣で答えを返した。


「当たり前じゃ……ワシは怒っておるんじゃッ!」


 憤怒の形相でまだ見ぬ下着泥棒をへの怒りを露わにするメルー様。


「幼気な少女のパンツを盗むなど許せぬヤツよ……ましてそれが友人のパンツとあればなお許せん……! 久々にワシが本気を出す時が来たようじゃな」

「うん、ちょっとこんなしょうもない事で本気出さないでくれる?」

「しょうもなくあるかァッ?! 乙女の一大事じゃぞ。乙女はなあ、パンツ一つに命かけ取るんじゃよ!!」


 いや、そこまではかけてねーよ。

 だがしかし、俺とても怒りはある。幼女のパンツを盗むなど紳士の……人間の風上にも置けぬヤツよ。

 

「太郎、今日のワシらは悪である前に一人の女の子を救う紳士じゃ」

「ああ……メルー様、これは人々の……みきちゃんのパンツを守るための聖戦(ジハード)。誓いある限り俺は戦おう」

「さあ、乙女のパンツを守りに行くぞッ!!」

「応ッ!!」


「……本当にだいじょうぶかな?」


 みきちゃんの不安そうな声は聞かなかったことにした。

 俺もこんなこと言っちゃう人達に自分のパンツの行方は任せたくないな。うん、我ながら。



 …………。

 ……。



「で、大口叩いといて、結局夜まで張り込みするだけですか」


 俺達は、みきちゃんの洗濯物を視認出来る裏道に隠れて、泥棒の出現を待っていた。

 時計の針はそろそろ十一を回ろうとしている。


「仕方ないじゃろ……手がかり無いし、そんな簡単に捕まえられるような手段とかワシ持ってないし」

「役に立たない幼女め」

「酷いッ?! 最近ワシに対しての扱いがぞんざいじゃぞ?!」


 当たり前だメルー様よ。役立たずにかける情けを俺は持ち合わせていない。

 今こんな夜中に関わらず貴様を側に置いているのは可愛くて癒されるから以上の意味は無いわッ!


「ううう……絶対捕まえてやるんじゃからな」

「メルー様、落ち着こうぜ。そんな力んでも可愛いだけで何の意味もないし」

「お前のせいで落ち着けんのじゃッ! うぐぐぐぐぐ……」

「まあまあ、メルー様。今からそんなカッカッしてると倒せるもん倒せませんよ(ポチポチ)」

「お前その憎たらしいくらいの余裕な態度でスマホいじるのやめよッ! ワシもそろそろ怒るぞッ!」


 メルー様をからかいながら時間を潰す。

 そうやって更に夜も深まり、針は遂に十二時を指した。日が替わり、もしかすると今日は泥棒は現れないんじゃないかと思い始めた頃だった。


 凪いでいた風が突然強く動き始めた。


 木々が不気味にざわめき、風に洗濯物が勢い良くはためきだす。

 なにかの前兆のようなものを感じ取り、俺が身構える。メルー様もまた、同じように何かに気づいたのか、険しい表情を作っていた。


「何か来るぞ、太郎」

「ええ、わかってますよメルー様」


 俺達がそう確信した次の瞬間。




 洗濯物が消失していた。


「……」

「……」


「「ハァ―――ッ?!」」


 目の前の現象が意味不明過ぎて、二人でシンクロして叫んじまったよ。

 みきちゃんの洗濯物は下着類のみ、風に攫われるかのように突風の一薙ぎで消失していた。

 いや、それだけじゃない。


「そ、そんな! 周りの下着も消えていくッ!?」


 近くの家々に干されていた下着も、どんどん消失していく。

 今日こそは来ないだろうという万感の思いを込めて干されていた洗濯物達が、人々の期待が、消失していくッ!


「ク、クソッ、何が起こっておるのかさっぱりわからぬ?!」


 俺もメルー様も狼狽えることしか出来ずに、ただただパンツがブラが蹂躙されていく様を見守るしかなかった。

 世界の至宝が……いや至宝とは言えない年齢の方々の物もあるけど、生命が作り上げた奇跡が蹂躙されるのを俺はただ見ることしか出来ないのかッ?!

 クソックソッ……クソォ―――ッ!!!


「やめろおおおおぉぉぉぉぉッ! 蹂躙するならうちの幼女のパンツだけにしろおおおぉぉぉッ!!」

「ちょ、太郎ッ?!」


 ズバァッと幼女様の短めのスカートを、後ろから一気にまくり上げたる俺様。

 頼む風よ。我が最高の幼女のパンツを捧げるから鎮まりたまえッ!

 

 ……しかし、なんてことだ。今日のパンツは黒の際どいのか。よくこんなミニサイズがあったな。


「バッカ! やめよ太郎ッ!?」


 いきなりの事態にどこを掴んで戻せばいいのやら。

 俺のバカ力もあいまってメルー様がもたついている隙に、一陣の風が目の前を通り過ぎた。


「ひゃう?!」


 バッとスカートの前を勢いよく降ろし、顔を真っ赤にするメルー様。


 ……無くなってたよ。黒いアレ。


「――――太郎、貴様、おぼえとれよ……」

「あ、はい」

「だああああああ、もうッ! なんなのじゃなんなのじゃ! あの風えええええええッ!!」


 どんどん次の下着を求めて移動していく風に、地団駄を踏んで悔しがるメルー様。

 確かに一体なんだというのだ。人の仕業ではないとでもいうのか。

 そう思った時に、俺の装甲がブルブル震えた。


「あ、メル友のマグマカイザー君からメールだ」

「お前いつのまに自分で叩き潰した相手と仲良くなっとるんじゃ……」

「叩き潰した後、『地上の情報欲しいから我とメル友となろう。シンパシーも感じるし』って言われて」

「お前ワシらにあーだこーだ言うわりに、お前が一番フリーダムじゃよな」

「そう褒めるなよメルー様。ハイ●ットフル●ーストしちゃうだろ?」

「褒めとらんわい……」


 メルー様との会話もそこそこにメールを見る。なになに。


「いや、何故この状況で読み始めるのじゃ……」

「待ってメルー様。こういう時はね、何気ない情報から大事な手がかりが入手出来るんですよ」

「絶対無いわ……」


『拝啓、クロちゃん(あだな)。この前借りた『美少女貸与シリーズ』はなかなか良くて、我は大変満足しました。お礼に我のとっておきのお気に入りの、『十連発シリーズ』を送りますね』


「……」

「幼女からの蔑みの目って、すげー心が震えるぜ」


 なにかに目覚めちゃいそう。はい、次。


『ところで下着泥棒を探してるとかいう話ですが、面白いことに最近似たような話を聞きました。『侵略者互助会』で、最近地球に来たけどなかなか馴染めずにいる風の化身『ガルウインド』君。彼が、この前、最近の自分の侵略記録を自慢げに話してくれたのですが、人間がとても大事にしている下着を盗むことによって、人は往来を歩けなくなる筈だと言っていました。侵略成功に近づいているらしく嬉しそうに……』


「「絶対コイツだァァァァ―――――ッ?!」」


 俺は慌てて続きを読み解いていく。何か、何かヤツを止める手がかりは無いのか。


『ガルウインド君は風そのものだけど、異世界出身で地球の風に馴染めてないそうです。狭い範囲しか風になれず、あまり素早く動けないようでした。滞留してるような時は、風に突進すれば一割くらいの確率でコアを殴り飛ばせるんじゃないかなあという感じです』

「この侵略者良いのか……あっさり身内の術をバラしおって」

「フッ、俺の人徳が成せる業」

「どう見てもうっかりポロってるだけな気がするぞ」


 そ、そんなことねーし。マグちゃん(あだな)と俺との紳士の結束のたまものだし。


「だが、取り敢えずあの風の中を荒らせばどうにかなるわけか」

「しかし、遅いと言うても結構な速度で……ウヌッ?!」


 俺達の存在に気づいたとでも言うのか。

 まるで逃走するかのように、風は歩むような速度から全力疾走もかくやという速度に変わる。

 これはすぐに追いかけなきゃあ、追いつけない!


「マズイッ! 追いますよメルー様ッ!!」

「ちょちょちょおま、待てぇい?! ワシってばあれじゃぞ?! はいてないんじゃぞ?!」

「クソッ、誰がこんな非道なことを」

「七割お前のせいじゃァァァァッ!」


 似たようなことをされた気がする! 決して幼女様を使った腹癒せじゃない!

 だが、動けないメルー様を放っておくわけにもいかない。

 夜、こんなところに放置していたらあんなことやこんなことでダブルピースしちゃう! エロ同人みたいに! エロ同人みたいに!

 俺は仕方なく腰部の装甲を展開し、入れておいた道具を漁る。ポケットみたいなもんです。


「仕方ない、メルー様。最終手段です。これをお使いください」


 ばんそうこう(局部装備アイテム)。


「……ワシ、ちょっと泣きそうなのじゃ……」

「わりとマジですんません」


 泣きそうになりながらそれを貼ったメルー様を俺は肩車する。


「よし、太郎。この怒り、取り敢えず今お前にぶつけるのはやめて全てあやつにぶつけるぞ」

「サンキューアンド合点承知ッ!!」


 今、風を越えるぜ。


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