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第十七話 ワルとバカと高いところ

 草木も眠る丑三つ時。今僕は高層ビルの屋上にいます。

 強風にあおられながらもビルのへりに足を掛けて、百万ドルよりは安いかなって夜景を優雅に展望する。流石に深夜なので、どこもかしこも光が消えていて、夜景と言うには若干寂しい。


「ふふふーんふーふふー、ふふふーんふーふふーん」

「やめよ太郎、どんなに著作権に配慮してもサラ●を流すにはまだ早い。まだエンディングじゃないのじゃ」

「エンディングまで泣くんじゃないけどエンディングだから泣いていいよね……違う、そうじゃない。だってメルー様、誰も来ないんですよ、どうしたらいいんですか」

「そのキャッチフレーズもやめよう太郎。何に挑戦しとるのじゃお主は」

「強いて言うなら自分に……ですかね」

「カッコよく言ってもダメじゃ。怒られるのじゃ」

「ぶーぶー」


 伏せてれば大目に見てもらえるというチャレンジャー的な思考の下、俺とメルー様の一歩も引かない著作権商標権チキンレースは続き、俺の鼻歌も続く。

 歌詞? 出せるかバカ! これが文章媒体でどこかに放流されたらどうする気だ。

 俺の思考を読み取ってネットの海に流すスーパーハカーがいてもおかしくない世の中だ。

 用心するに越したことはないだろ。

 え? 要らない配慮?


「まあ、つまらなくなってきて無茶な遊びがしたくなる気分もわからなくはないがね」


 どこから用意したのかは知らないが、デッキチェアとテーブルを用意して常夏気分のイカルガさんがそう言った。

 アンタの余裕のあり方も大概だよな……。


「うーむ、折角の我々みんなで行く犯罪予告の旅じゃのに、どうして誰も駆けつけて成敗しに来てくれんのじゃ……」


 眼中にねーんじゃねえの? 俺らごとき小粒な悪。


 はい、というわけで我々、秘密結社A(暫定)はとあるビルを爆破するためにここにいます。必殺技チケットのことは忘れろ。あんなものは無かった。

 住宅街にほど近い場所に建てられたビルを爆破するというミッション、実に心打ち震える。

 心はブレイク工業だ。


 なに、ビルの所有会社のこととかは気にするな。この世界はバブルがはじけていない(気がする)からな。ビルの一つや二つ爆破したところで、リストラや雇用問題は全く問題ない(気がする)。

 気がするなら仕方ない。


「それにしても、メルーの気紛れには困ったものだ」

「き、気紛れじゃないぞ?! 確かに気紛れにしか見えんけど、色々な事情に則ってじゃよ?!」

「気紛れにしか見えんけど」

「太郎! 一の幹部が首領を信用しないのでは世のヒーロー物の序盤中盤は成り立たんのじゃよ?!」

「何言うてるんですかぼく雑魚戦闘員ですし。どちらかといえばショッ●ーですし」

「ええい、ああ言えばこう言う! とーにーかーくー、ワシにはワシなりの考えってものがあるんじゃよぉー、信じてついてきてよぉー」


 駄々っ子になる幼女様はかわいいんだけどイジメたくなるね。

 ていうか、もうこんなビルの屋上までわざわざついてきている時点で無償でアンタに尽くすし信じてるよみたいな感じなんだから察せよ。


「しかし、わざわざヒーローに予告して到着まで待つ必要はあるのかい? 私からすると相変わらず不可解過ぎて話にならんよ」


 イカルガさんが、全く理解出来ないと言った趣でそう口にした。

 わかってねえ。わかってねえな。


「その方が」

「カッコいい」

「だろうがッ!!」「じゃろうがッ!!」


「……君ら二人の考え方が効率度外視なのは知っているが、たまには目標の為に卑怯な手段を講じるのも悪だと思うぞ」

「美しくない勝ち方なんて愚の骨頂だと思いませんかメルー様」

「全面的に同意しよう」

「いや、君達がそれでいいなら私はいいんだけどね。悪の定義がそろそろ崩れそうだよ、私は」


 定義が崩れそうなことについては全く持って否定出来ないかな……。


「悪いことしてるんじゃよー?」

「うん、してるね。してるからちょっと良い子は黙ってようね」


 この人……、全体の展開が思わせぶりなだけでこの人自体は何も深いこと考えて無いんじゃねーかなってちょっと思ってきたぞッ!


「ま、そんなことより今は来ない正義の味方じゃよ! そろそろこうしてダベるのも飽きてきたし、一つドカンといこうかと思うがどうじゃろうか?」

「異議なし」

「君達の好きにしてくれ。どうせ私は戦闘はからっきしだから退避するしね」


 俺とイカルガさんの返答に、メルー様はうむうむと頷いた。

 身の丈以上もある巨大なマントをはためかせて、少女は何かを掴まんとばかりに手を突き上げた。



「太郎! 許可する! 一番を爆破じゃ!」

「おうよ、ポチっとな」


 突き上げた手に演出以上の理由とか無いので悪しからず!

 俺はあらかじめ渡されていた二つのボタンの内の一つを押した。


 ボタンの押下後、一瞬のタイムラグを経て、下の階の幾つかが強烈な閃光を放った。

 続く爆音とともに火が階を埋め尽くしビルが強く揺れる。一瞬にして焼け落ちた階層はしかし、基盤となる建材は一応保ったままだ。ビルはなんとか揺れをおさめて、危うい姿で静止した。というところまでがイメージ映像です。

 恐らくこんな感じだろうというビル上の悪童君の想像に基いた表現なので、現実の状態と違ってもクレームは御遠慮下さいマジで。よし、配慮はバッチリ。


「良い仕事をした。私のパーフェクトボムなら柱を壊さずその他を粉砕することも容易い」

「やっぱりもうこれで終わりでいいんじゃないんすかメルー様。なんかイカルガさんも無駄な達成感に打ち震えてますよ」

「確かにビール飲んでゆっくりしたい」


 例え実年齢は大丈夫なロリババアとか色々な言い訳はあっても、幼女の飲酒は絵面的にアウトだと思うので後で飲みそうになったら子どもビールに差し替えよう。


「……じゃあもう帰るかの! 最後にボンッとやって!」

「「異議なしッ!」」


 俺達の意見の方向性が一本の線へとやっと収束したところへ。


「いやいやいやいやいや待てやッ?!」


 ドタドタと下品なくらいにうるさい足音とともに、闖入者が扉を破って現れた。


「お、お前ら、何か無害っぽそうで特に大きな悪いこと出来んヤツらだと思って泳がせておけば、マジでビル爆破するとか正気か?!」


 闖入者は俺達へと指を差して、その鬼畜な所業を非難してくる。

 その姿、紺地の生地に白の大きなバツを描いたシンプルなスーツ。右半分を覆う金色の巨大な三日月のような半円のオブジェクトの仮面。コイツは間違いない。変態だ。


「ど、独眼竜……?」

「違うッ! 俺の名前はクレインリッパー! 正義のヒーローだ!」

「どうも、わたくしブラックメイルと申します」

「メルーじゃ。様はつけろよデコスケ」

「どうもご丁寧かつ乱暴に……ってどこかで見たような光景を繰り返してんじゃねえよッ?! 裂くぞッ!!」


 昭和臭漂うスーツの割に、言い回しは最近のラノベみたいな臭いが漂うヤツだな……。

 ほのかに俺と似たスメルを感じるが、きっとそんなことは無いよって誰か言って! お願い!


「ちっ、楽な仕事かと思って受けてみりゃあ、結局こうなんのかよ……おい、聞いてんのかキバ!」


 開け放たれた扉に向かってリッパーがそう声を掛けると、のそりと現れる影があった。

 胸、腰部など、動きを阻害しない程度の装甲を備えた仮面の男が、根元から粉砕された扉であったものを踏み越えて出てくる。

 月光に煌めく赤を基調とした装甲は主張し過ぎずカッコいいなあ……。リッパーがかわいそうになるくらいカッコいい。


「やるのかリッパー」

「仕方ねーだろ。流石に正義のヒーローが怠慢して悪の行いを見過ごしましたじゃカッコがつかねえ」

「ならば、自己紹介をば。レッドトゥースと申す」

「ああ、どうもご丁寧に……って天丼だなあ……俺達の自己紹介いる?」

「いや、拙者、お二人の事はスロス殿から聞いておるし、先ほども影から聞いておった。説明は不要」

「リ、リアル拙者じゃぞブラックメイル!」


 ああ、うんそうだね。もうここまでのグダグダで相槌打つのも面倒だから返さないけど。


「キバの芝居かかった台詞は良いだろ! ヒーローの中でも演技派だぜ!」

「えっ……しば……ふ、ふんっ、知っておったもん。ワシ知っておったもん。口調作ってたって知っておったもん!」

「演技って言わないであげてください! 残念がってる幼女もいるんですよ!」

「な、なんか……申し訳ない」

「せ、拙者も……申し訳ない」


 レッドトゥースとクレインリッパーが両者とも軽く頭を下げてくれたが、壊れた幼女の夢や希望はもう戻ってこないんや……。

 許すまじ正義。


「ってちげーんだよォッ?! オメーらの空気につきあってやってる場合じゃねえッ! サクッと倒してサクッと帰らせて貰うぜ」

「二対一というのは些か卑怯な気もするが、人員がおらぬ自分達の組織を恨んでいただきたい、ブラックメイル殿」

「テメーは戦闘員という分類だが侮れないって話は聞いてたからな。キッチリここで叩いて悪いことできねーようにしてやるぜ」


 リッパーがどこからともなく、チャクラムというべきか小さな輪状の武器を取り出した。

 レッドトゥースも合わせるように、普通の刀より小さい身幅をした細身の刀を握り締めていた。

 相手は準備万端であるようだが、二対一というのは実は若干正しくない。

 何故ならば。



「ワシを忘れて勝手に戦いの話というのは許されざることじゃなあ。のう、ブラックメイル」



「うちの首領様が御立腹だから今のうちに謝っておいた方がいいぞ。泣く子と地頭には勝てないって言うだろ」

「なんか今日のワシ、いつもより直接的に幼女扱いされとることが多くない……?」

「気にしないで幼女様!」

「絶対されとる―――――ッ!」


 まあまあ、三十秒ほどなだめて機嫌を直したメルー様を用意して再チャレンジ。

 いつもおふざけしても待ってくれるヒーローの方々には頭が上がらない。


「というわけで、ワシとブラックメイルの二対二じゃ。いや、お互い二人いるんだから一対一にわかれるのがいいな。さあ、一対一で尋常に勝負せいッ!」


 トゥースとリッパーがお互い、「え、どうしよう」みたいな雰囲気を漂わせながら顔を合わせて戸惑っている。

 まあ、メルー様は見た目はただの幼女だからな……。勝負とか言われても困るのは俺もよくわかるぞ。


「まあこう幼女様が仰られてるから気にせずボコり倒すくらいのつもりで挑んで下さい話も進まないしお願いします」

「ま、まあそこまで頼まれちゃあしょうがねえ……キバ、幼女の相手は任せたぞ」

「気が進まぬが、承知」


 広いビルの屋上で、それぞれ距離を取る為に左右に分かれていく。

 俺はリッパーと向き合っているわけだが、肝心のリッパーさんはあまりやる気が無い御様子。

 チャクラムをクルクルと手で弄びながら、特にこれといって動く様子も無く、こちらに先手はくれてやるといった(てい)だ。

 よしふざけんな。


「おいおい、やる気出せとは言わないけど、ヒーロー様がそんな調子でいいんですかねぇ?」

「あア゛? やる気もクソもあるかよ。お前ら……というお前は何かよくわからんビガクとかいうので動く、最近出てきた悪にしちゃあ見所のあるヤツだと思っていたのに、こんなくだらない事しやがってよ」


 口の悪さにオブラートされ過ぎてて微妙だけど、それは一応俺の事を評価してくれてるんですかねえ……?


 確かに、俺の行動はビガクに基づいている。が、それは決して縛られているわけではない。

 コイツらは全くわかっていない。全く持って全然俺の事をわかっていない。

 俺は、いつも通り指をビシッと突き付けてやる。


「お前らは間違っている。俺達は悪だ。悪が悪い事するのは当然だろ? 何、都合の良い勘違いをしてやがる」

「んだと……?」

「確かに俺の行動はお前達から見れば都合が良い時が多いかもしれんが――――」


 そうだ。言わせて貰おう。


「ビガクを決めるのは俺だ。テメエらじゃねえ。勝手にテメエらが作り出した俺というハリボテに、テメエらの調子の良いビガクを押し付けてんじゃねえぞクソ野郎ォォォ――――――ッ!!!!」


 俺は強い言葉とともに飛び上がった。

 前方への回転から勢いを乗せた踵を一息に振り下ろす。神速一閃。

 いつも通りの捻りも何もないスタートダッシュからの一撃は、敵がその手に持っていたチャクラムによって間一髪防がれていた。

 

「ぐうっ!?」


 一撃の威力には自信がある。このまま振り切るんだ!

 しかし、相手も流石腕が立つヒーローだった。体重の乗った重い蹴りを、このまま受け止めきることは出来ないと一瞬で判断し、素早くチャクラムで捌きながら前へと逃れる。

 うまく打点を移動させられ、俺は体勢を崩しながらも着地する。


「へ、やるじゃねえか」


 それは相手も同じであった。前へと跳んだことでたたらを踏むようにして何とか止まったという様子である。


「テメエもな。俺の不意打ち気味の蹴りを止められるヤツはそう居ないぜ―――多分」


 あまり戦闘経験が無いからね。仕方ないね。


「そりゃそうだ。俺はヒーローの中でも中堅どころで売ってるからな。ポッと出の悪に潰されるほどヤワな体はしちゃいないぜ」

「そうかよ。じゃあコイツを喰らって寝てな先輩ッ!!」

「ほざけ―――ッ!!」


 互いが拳を振るい、それがぶつかり合う。

 リッパーは意外にも拳の方をメインに使うアタッカーだった。

 先手を打って飛ばされるチャクラム。何か能力を使って飛ばしているのか、全く落下することなく飛び回るチャクラムが俺の動きを制限してくる。制限した場所へと、どこに隠し持っていたのか何時の間にか装着したナックルダスターを用いた、リッパーの強力な一撃が放たれる。

 言葉の悪さから小手先を使うようなタイプでは無いような先入観を持っていたが、なかなかどうしてテクニックを用いて確実にダメージを与えていく堅実なタイプのようだった。

 やり難いという程ではないが、予期せぬところから飛んでくるチャクラムを回避しながら戦うというのは初めてで、慣れない細かい動きを強いられる。ある程度の打撃力を乗せた得意のラッシュは、いちいち細かく動いて放てるようなものでもない。制限されたも同然だ。


「おらららッ!」

「うらららッ!」


 両者ともに軽いラッシュを放ちながら、手数の勝負に入る。

 ラッシュの数自体は俺が競り勝ち、相手にダメージを与えている。

 しかし、節々でチャクラムの妨害を受けて、一撃一撃、力の入った攻撃を通せているのは向こうの方だ。チャクラム自体に強い貫通力は無くダメージは少ないが、当たれば意外に良い衝撃を貰い、それだけで体勢が微妙に崩れる。

 壊すために掴み取ろうとすれば、その隙を突かれかねず、取ることもままならない。


 打開しないといけない――が、離れようとすれば徹底的に張り付いてくる敵になかなか攻撃の糸口を見つけられないでいた。

 経験の差はいかんともし難いか。


「ハッ! 攻撃が自慢のタイプなのに手も足も出ないか? こりゃ、あの幼女を倒したキバと合流して一発で終わりか?」

「クッ」


 攻めあぐねているのは事実だし反論出来ねーよ。


「へ、余裕があるなら見てみろよ。お前らの幼女様とやらが倒れゆく様を!」

「おう?」


 俺達が視線を向けた先では、今まさにぶつかり合いが始まろうとしていた。

 刀を振り被り、精神を集中しているレッドトゥースと手足をぶらぶらさせて余裕で準備運動を済ませているメルー様。

 ううん、幼女の活造りは勘弁だぜメルー様?

 リッパーの攻撃を捌くことだけに集中しながら事の顛末を見守る。



「では、子どもに剣を振るうのは忍びないが……これも自分の定めた道だと呪うがいい」


 走り出したトゥース。振り下ろされる刀。




「――――頭が高いわ。ひれ伏せ」

 


 

 それらが届くことはなく、衝撃音とともに地にめり込み平伏するトゥース。




「……は?」


 リッパーの攻撃の手が、あまりの驚きで止まった。

 呆然と何が起こったのか信じられないと言った様子で、向こうの様子を見つめる。


「ワシを下に見ようなどと取り敢えず百年は早いわ。しかし、『鉄腕マニピュ君』すら破れんのじゃあ、万年経ってもワシに勝つのは無理じゃぞォ?」


 先ほどまでの意趣返しなのか、幼女様は底意地の悪い笑みをにんまりと浮かべた。


 少女の背中には、その身の丈ほどもあるだろう大きさの一対の腕が生えている。

 それが刀の一撃を軽々受け弾き、トゥースを頭から掴むと一瞬で地に叩き込んでいたのだ。

 『鉄腕マニピュ君』はイカルガさんの渾身の発明らしいが、ただの殴れるマニピュレーターです、はい。

 合成金属を使用した超頑丈なマニピュレーターで、装備した人間が思考するだけで動かせる優れものだ。普段は彼女のマントの内側に収納されており、必要となった際にああして展開することが出来る。どういう理屈で収納されているかはイカルガさんしか知らん。


「ぐ、ぐぬぬ、うおおおおッ!」


 しかし、相手もこの程度の一撃で昏倒する程ヤワではなかった。

 気力を振り絞ってマニピュ君を引き剥がすと、再び刀を構えて振るう。今度は一切の躊躇もないだろう。


「ざぁーんねん」


 躊躇いの無い刃は、それでも少女には届かなかった。

 メルー様は、それこそ渡された紙でも受け取るかのように、容易く刃先を二本の指で捉えて受け止めた。

 幼女様の小さい指で止められてる刀を、悪い夢でも見ているかのように凝視するトゥース。


「ほい、頭が高いぞ」


 そして、マニピュ君の平手打ちを受けて、再びトゥースは地面へと倒れ伏した。


「……」

「……」


 沈黙したトゥース。何とも言えない雰囲気が漂う戦場。

 うーん、うちの幼女様ってば凄いッ!


「あ、チャンス」

「えっ」


 何が何だかわからないと言う様子でトゥースの敗北を見守るしかなかったリッパー。

 その隙だらけになっているボディに向けて、俺は拳を握り締め定める。


「『卑怯な悪童ナックル』ッ!!」

「ぐぼおッ!?」


 内蔵まで破壊するだろう強力な拳を受けて、リッパーは沈黙した。


 ……。


「メルー様、どうしましょうこの状況」

「うーん……」


 幼女様はマニピュ君をしまって、そうだなあと頭を抱えた後、よし、と頷いた。


「取り敢えずビル爆破しとくのじゃ」

「それだ」


 ポチッとな。



 ***



「ビルの爆破事故から二日経ちました。被害者はゼロ、周辺建物への被害もない事など不可解さが残りますが……」


 爆破から二日。

 連日ニュースを騒がせる事故として扱われてますが、僕らは元気です。


「それにしてもイカルガさん、戦闘前から逃げてるとか驚異の逃げ足の早さですね」

「そう褒めてくれるなよ悪童君。『空中浮遊座布団』が無ければ私もあそこで観戦していたさ」

「わざわざ用意しといてそのセリフが出るのはすげーよ、尊敬するよ」


 元々戦力としてアテにはしてなかったけど、即座に逃げててビルを爆破した時も一切脱出を手伝わなかった姿勢には感心するね。うん。良くも悪くも。


「そんなことより、メルー様ってやっぱり結構凄かったんですね」

「うむ。君も一年一緒だったとはいえ、私とメルーのことはまだまだ知らないことばかりだろう。追々知っていってくれ」


 イカルガさんとお茶を啜りながら、携帯電話を操作してどこかと会話しているメルー様を微笑ましく見守る。

 いや、実力があることは知ってたけど、ああして実際に自分との組手以外で見るとまたズバ抜けてすごいとわかるもんだね、うんうん。

 恐ろしい幼女様が世にはいるもんだぜ。





「あ、みきちゃん? ワシじゃ。えっ、日が当たるようになった? そりゃ良かったのう。うん、うん……いやいや、いいんじゃよあんなビル。日照権侵害しまくりじゃし。どうせ正義の味方どもがどうにかするじゃろうしぃ?

 うん? うんうん……ふむ……あ、じゃあ今度遊びに行くのじゃ。そうじゃな、どれくらい日当たり良好になったか見に行くかのう、のほほ」

 



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