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第十六話 ワル、その泣きっ面に…

 さて、ここまで俺の悪の生活をご覧頂いた方々は、『一体この話はどこに向かうんだよ』という最もな疑問をここまでで抱いたのではないだろうか。

 突然チャリで来るわ、ボコボコにされるわ、旅行に行くわ、殴りまくりタワーだわ。

 まあ、実を言うと一番この展開に困っているのは俺なのだが、それを言うと話が始まらんので、それは置いておいて。

 とにかく行き当たりばったりに行動している俺だが、そこに何か目的があるのかと言われれば、答えは一つ。


 全く無いッ!


 そもそも今のところ『最も尊い悪になること』なんていう、何すりゃ目標達成なんだよっていう目標しかわかっていないわけで。

 ただ、どんな物語だって結へと向かうための指針というものは必要なわけで。俺はそれをそろそろ開示しないといけないんじゃないかもしれなくもないかなみたいな愛しさと切なさと心強さを感じていたりいなかったり。

 いや、でも待って欲しい。これがまんが●イム●ららの日常系漫画だとしたら、こういうダラダラと悪と正義の戦いを描くのも許されるのではないか?

 なるほど、これは盲点だった。これから、この俺様の私生活を赤裸々に描いた悪童君脳内小説は、正義と悪の日常系異能ラブコメバトルというジャンルでお許しを得ていくことにしよう。

 そうすればあら不思議、日常系よりもアップダウンが激しくてバトルも出来るいぶし銀な日常で、にゃん●すーと言って市民権を獲得することも可能な柔軟性の高い物語が――閑話休題。


 しかし、俺の成せねばならないことなんて言うのは、やはりただ一つ。

 悪のビガクを知らしめ、美しく正義を叩き潰すこと。それだけだ。

 窓際の席に許された、他クラスの体育見学を行いながら俺はぼーっとしながらそう考える。

 ゴールが何かと言うのなら、そうした後に正義が更に強くなり俺が殺されて世界が平和になることだろう。

 この世界の悪と正義と言う概念は複雑だ。

 最近まで全く興味が無くて知らなかった俺が言えたものではないが、決して二元論で語れるものではないような気がする。

 別に世界征服が成されることもなく。人が死ぬこともなく。悪は悪なりに街に溶け込み。正義は正義なりに悪と切磋琢磨する。


 そういう異質な馴れ合いが成り立っているのは、良い事か悪い事か……。


 ってシリアスな話で言い出すとどっちがいいかわからんみたいな切り方するけど、この俺悪童君はギャグ時空の人間なので、言わせて頂くと、そりゃ良い事に決まってるだろということ。

 いやだって怪人がさも当然に殺人とか行う街とか恐くて歩けねーよ?

 特撮ヒーローの世界とか物騒ってレベルじゃないよね。絶対。

 だから、これでいいのだ。これでーいいのだー。


 ……クックックッ、お前らはまだわかっていない。この語り部・悪童太郎という人間を。

 俺はトリックスター。捻くれたことを言わせれば右に出るものはいない最低で信じてはならない語り部だ。嘘だけどって言わないだけマシだと思え。言うけど。


 まあ、しかし、もしかするとメルー様の目的と言うのは、そういった関係性や何もかもを含めて、更に変えていこうというものなのかもしれない。

 まあ、あの適当幼女が何を考えているかなど欠片もさっぱりわからんけどね。

 イカルガさんという変態についてもよくわからない。ただ彼女はゲームを与えておけば無害なので、特筆することはないだろう。


 よくわからないと言えば、この必殺技チケットとやらもさっぱりだ。

 制服のポケットから取り出した、何の変哲もない紙切れを眺めてみる。

 必殺技チケットと印字され桜吹雪が描かれている本体、使用済みと印字された半券。映画のチケットじゃねーんだぞという感想が頭をもたげる。

 本当にこんな紙切れが俺に力を与えてくれると言うのか?

 まあ正直、必殺技を貰ったところで……己の信念に従い過ぎて敵の女ひとり殴れなかったり、強化モードを全く使いこなせなかったりする俺には無用の長物だろう。

 ああ、●ンバ、欲しかったなあ……今日も、メルー様がこぼし散らかした菓子の掃除しないと。

 あ、でも幼女の食べかすってご褒美じゃない? ゲヘゲヘッ。

 我ながら頭がかわいそうな妄想を考えながら、無用の長物を懐にしまうと、また視線を窓へと戻した。


 流れる雲。見慣れた街の景色。とても穏やかな時間が流れていった。

 ああ、こんな時間が永遠に続けばいいのに。


「よし、次はここを……悪童、答えてみろ」


 そんな俺のささやかな願いを破砕する、教師の声。

 俺は怒りと失望……ないまぜになった様々な複雑極まる感情を顔に貼りつけた。

 睨み付けるような……極めて真剣な表情のまま、俺は答える。




「わかりません」




 数学と言う名の悪魔との戦いは、俺の敗北によってゴング(チャイム)が鳴った。

 今日は久しく真面目に登校しています。


 ***


「で、だからと言って次の時間をサボッて私のところに来るのは困るんだけど? 悪童君」


 養護教諭の先生(建前)のところに俺は来ています。

 だってほら、こういう時、はまってしまった思考の迷路からの脱出を助けて、次の長編に繋がる物語を提示してくれるお助けキャラのところに行くのが通のやり方ってヤツだろ? 通は通でも落ちものパズルのことじゃないよ?


「どうやって抜け出して来たのかしら……って聞くまでも無いわよね」


 イカルガさんが言わずもがなということを聞いてくる。


「そりゃアンタが作った代返装置を使ったんですよ」

「ハッハッハッ! どうだね悪童君、私の作った代返装置『自動で悪童君』の調子は。我々の都合で君の大切な出席日数が削られてしまうのは可哀想ということで、誠心誠意込めて作り上げた超兵器。泣いて喜んでくれてると思うが?」

「マッドモードか養護教諭モードかどっちかはっきりしてくれ。」

「どちらも私だからどちらでもいいのだよッ! 大体だね、今私はイス●ワールの二週目速攻クリアに挑戦中だったのだよ! 一分一秒無駄に出来ない戦いをしていたというのに」

「そうっすか。ところでネフェ●エルはクリアしました?」

「なんだそれは。していないが」

「必殺お仕置き電源パンチッ!」

「私の調停剣アダマンティスと大結晶石がァ―――――ッ?!」


 フン、バカめ。そういう遊びはまずネフェ●エルをクリアしてからやりなさい。

 

「うう……悪童君、あなた血も涙も無いの?」

「イカルガさんが相手だとわりと」


 だって血と涙を用意しちゃうとこの人延々関係ない時空に引き込んでくるからなあ……。


「ぐすぐす……で、何の話なの?」

「丸一年特訓した後、こうして活動を始めたものの大したことをしてない気がして、主人公としてこんな状態で良いのだろうかという危機感を覚えまして」

「良い事ね。悪童君が主人公かどうかは知らないけど、確かにこの何の方向性も無い活動をするのは私もどうかと思っていたの」


 おっと、話が進展しそうだぞ? これはあれだよ……このイカルガさんとの会話から、ウルトラシリアスな血で血を洗う展開に入っていき、最終的に俺が未来まで封印されるとか色々な展開が待ち受けてるんじゃないの?


「そうね。手始めにまずアメリカを取りに行きましょう。大統領がレジスタンスだわ」

「うーん、思いもよらない方向に話が走り始めたぞォ?」

「それがダメならブリタニアの内部から世界を変えていくという方法もあるけど」

「世界観が違うよイカルガさん」


 テメーはどこの時空から話をしているんだ。


「冗談よ。それで期待させて申し訳ないんだけど、それでもまだ能動的に動くのは無理ね。メルーもあれで一応やりたいことはちゃんと持っているんだけど、それを成すのはずっと難しいことだから」

「えー……あの『尊い悪』とかいうヤツですか? そもそもアレに意味なんてあるんですか?」

「牙を抜かれてしまった今の悪には必要なものよ」


 うん、よくわからん。この人達だけ何もかも知ってる神視点みたいな感じでイヤッ。


「ま、悪童君は悪童君らしくヒーローと戦って戦って戦いまくればいいの。そうしてあなたが示すビガクというものを完遂してくれれば、それはそれで私達もオッケーみたいな感じよ」

「良いんですか? 俺のビガクは必ずしも二元論的な意味での『悪』という枠には当てはまりませんよ」

「構わんよ。君を改造する時に、その言い分を聞いているし、それで了承したんだから」


 マッドモードで眼鏡を悪く光らせながら、ドクターはそう答えてくれる。

 ちょっと一年前の事を思いだしてしまうなあ……。

 さようなら一般人の俺。今日も元気で、悪の雑魚戦闘員の俺。雑魚とか言いつつ分不相応な戦闘力を与えられてる気がするが。


「じゃあまあ仕方ないからそういう物語の進行上必要そうなことは諦めます」

「悪童君、大丈夫? なんかやたらメタフィクションみたいなことを言っているけど」

「大丈夫じゃないです」


 我ながら、そういう言い回しや自身を物語として捉えるような考え方はやめた方がいいのもしれない。


「で、そんなことより次はこいつですよ。こいつ。このチケット」

「ああ、それね。必殺技チケット……スロスもあんな慰安旅行の景品によく出したものだわ」

「凄い物なのはわかりましたけど、まあそういうのは興味無いしいいです」

「悪童君ってたまに心配になるくらい無関心なものに冷たいわよね……」

「性分なんですよ。っつーか今の普通の学生の時だと、ブラックメイルの時の反動で、わりと感情の動きが鈍くて」

「ごめーんね☆ 君に埋め込んだ力の源がわりと制御が難しいブツだからそのせいね」


 しばきたい、この笑顔。


「ま、でもそうね。じゃあ放課後にでもさっさと使っちゃいましょうか」

「うん? ここじゃダメなんですか?」

「折角そんな面白いものがあるのに、こんなところで消化イベント扱いで終わらせるのはダメでしょう」

「ダメじゃねーよもう消化イベントでいいからやらせろよ、俺のチケットを肴に遊び倒す気満々だろーが」

「ごめーんね☆」


 襲ったろうかこの教師。


 ***


 放課後。

 秘密基地にて俺とイカルガさん、メルー様、なぜかブルーシェリフの四人が円卓という名のちゃぶ台を囲んで座っていた。

 うん、よく見なくてもナチュラルに居るね、正義の味方。


「なんでいんの?」

「え、えへへ、チケット使ってないならーってイカルガ先生にお呼ばれしちゃいまして」

「アンタ正義の味方に何平然と近づいてんの?! つーかその言い回しだとコイツここの生徒でアンタ正体知ってんの?!」

「悪童君ッ! 世の中には知らなくていいこともあるのだよ」

「そうじゃな。知らない方が幸せなことばかりじゃよ。世の中なんて」

「知らないといけないこともあるんだよバカッ!」


 いや、マジでこれは知らなきゃいけねーことだから。ふざけんな。


「そんな小さいことを気にしていたら禿るぞ。さあ始めよう」


 俺の怒りを全く意に介さず、イカルガさんは基地の奥からよくわからんディスプレイつきの機械を運んできた。


「これは私が開発したスーパーな機械。『ドラクエステータス』君だ」

「そのド直球なネーミングをやめろッ!」

「安心したまえ。著作権に考慮してレベルアップ画面やステータス画面の再現だけでやめてある」


 欠片も安心できねーよ。


「各々のステータスを数値化して見てしまうのは色々プライバシーとかに問題があるので、今回は必殺技チケットがどう作用するかというところだけ映すつもりだ」

「そんなこと出来るんですね。イカルガ先生って一体どうやってそんなものを作ってるんですか?」

「機密事項だ」

「えっへん。他のヤツらでは欠片も敵わないだろう天才科学者じゃよ」


 ブルーが純朴な瞳でマッドサイエンティストに問いかけると、嬉しそうにマッドは秘密だと言った。

 メルー様も嬉しそうに自慢していた。

 でも確かにこの人の超科学力は気になる。あまり役に立つ方向性で活かされないことも気になる。


「では、まずブルーシェリフの方から見てみようか」

「あ、はい」


 イカルガさんがブルーシェリフにそう告げた。ブルーの頷きを見てから、腕に血圧計のバンドのようなものを取り付ける。


「使い方はわかるか?」

「はい、シャムちゃんとスパロウさんが使っているところを見たので……えいっ」


 彼女が半券をちぎると、チケットは光となって少女の身体へと吸収されていった。

 やべーな。思いの外、未知の力が採用されてるぜ……。どういう理屈なんだよ。つーかチケットの形に固定する必要性が欠片も無い……。

 チケットが完全に取り込まると同時に、機械の方にも変化があった。

 なんかどこかで……という誤魔化しを入れないといけないような効果音が鳴るとともに、ディスプレイが動き出す。


『ぶるーしぇりふは れべるがあがった』


 ドット表示だった


「なんで古臭い表示なんだよ?!」

「味のある演出だと言ってくれたまえ。なあ、メルー」

「ワシのリクエスト」

「クソッ、なんて無駄に意味のないリクエストを……漢字も使い難いだけだろうが」

「これだからファ●コンに馴染みのない世代は困るんじゃよ……。この味のあるドットの温かみがわからない、FFの美麗グラフィックにばかり踊らされ、中身の出来を度外視する最近の若者どもよ。ワシはそういうのよくないと思うんじゃよ?」


 馴染みがあったってわざわざこんな表示をドットにしたいとは思わねーよ。


「まあいい。続きを見るか。Aボタンだ」


 メッセージ送るのにボタンが必要なのかよ……。


『ぶるーしぇりふは みらくるりぼん をおぼえた!』


「うーん……」

「なんか覚えたみたいだけど、どうなん?」

「シャムちゃん達の時もそうだったんですけど、一応どういうものなのかとか効果、使い方を無理やり脳に理解させてくれるみたいで、わたしのも……うん、わかります。けど……」


 頬を染めて困惑の表情を浮かべているが、どういう効果なんだろうか。

 エッチな効果だと嬉しい(俺が)


「わ、わわ、これは……ちょっと……」


「太郎。いけるぞ。あの娘の慌てよう、これは絶対にエロと関係があるのじゃ……ッ! ちょっとそそのかして見せてもらおう。任せろ、ワシはそういうことに関しては百戦錬磨じゃ」

「メルー様。あんたやっぱ最高の首領だぜ」

「聞こえてますからッ!」

「「ちぇーっ」」


 勿体無い。でもどうせ敵同士なら見せる時が来るんだし、いいじゃないの、ねー?


「そ、そんなことより次は悪童君の……ブラックメイルの番ですよ」

「へいへい。つっても、こんなので必殺技覚えてもねえ。つーか、そもそも俺なんて拳と蹴りしか出来ないんだし、何も覚えないんじゃないの?」

「はは、そんなバカな。そのチケットは才能が無ければ作ってから引き出すという無茶なことまでしでかす、まさに究極の必殺技メイカーだ。それで作れない必殺技なんてあるまいよ」

「なんか酷いフラグが立った気がした」


 でももう使っちゃう。えい。

 思いっきりビリーッと引きちぎって、チケットを吸収する。


『ぶらっくめいるの れべるがあがった!』


「よし、Bボタンを押すのじゃイカルガ」

「やめて! 特に意味も無く進化をキャンセルするとかいう非道を行うのはやめて!」

「よしよし、わかったわかった。エーボタン、エーボタン」

「悪童君はどんなの覚えるのかなあ……ドキドキ」









『おきのどくですが ひっさつわざちけっとは きえました』

『ぶらっくめいるは なにもおぼえなかった』


「「「「消えたァ――――ッ?!」」」」


 マジかよ。こんなの絶対おかしいよ。


 神が決めたレールがあるとしたら、俺だけ過酷な道のりなのにその上老朽化とかしてそうだった。


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