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第十四話 ワル、かくも危ない旅行へと⑥ ―バトル!!―

「空しい勝利だった……」


 遠い目を空へと向けながら、俺は悲しい呟きを漏らす。

 まさか、こんな決着になるとは……戦いとは空しいものだ。俺のせいじゃないよ?


「ブラック、シャム、だいじょう……ぶみたいですね。一体、どうやって」


 一方、やっと二人がかりで一体倒したらしいブルーとスパロウがこちらに駆けてきた。

 いや、こう言うとあれかもしれないが五人で力を合わせれば、わりとワンパンで終わったかもしれない。

 

「……必殺技を使った」

「シャムちゃん!? まだレースで言うなら中盤なのに、何故そんな無理を……」

「……仕方なかったです。……乙女の怒りは重いのです」


 いや、どう考えても仕方なくなかったよ? もっと手加減出来たよ?


「なんか必殺技使っちゃいけんことでもあるのか?」

「えっと……一応、あります。これでシャムちゃんは戦力外になりました」

「……いえーい」


 なんだと。


「……ブラックメイルには言わなかったけど……私の必殺技は……24Hアピリティだから……一日待たないと再使用出来ません」

「無茶苦茶どこかのネトゲみたいなこと言うなあオイ?!」

「……私の持つ魔剣シャムシールの魔力を消費して必殺技を出すから……使えないのも、その魔力で強化される私が弱くなるのも本当……なのです」

「ここぞというフィニッシュで使う技としては凄く強くて、ヒーローの中でも上位の必殺技なんですけど……」

「必殺技を持ってない僕が言うのもなんだけど、使うタイミングが難しいピーキーな技だって言われてますね」


 いや、そりゃピーキーだろ。せめて6Hくらいにしないと使い物にならんぞ。


「ま、まあ? そう言ったって中盤戦だしぃ? シャムが役立たず化したくらいでぇ? 俺のル●バ取得が妨げられるなんてことありえないしぃ?」

「……声震えてるけど」

「ふ、震えてねーし」


「あ、今連絡入りましたけど、最初の方の出発組があらぶり過ぎて、あらかたの地底人もう片付けちゃったみたいですね。もう後残っているのはボスくらいかもしれません」

「……」

「そ、そんな恐い形相で僕に掴みかかられても、どうにも出来ませんよ?!」


 その報告に、俺がスパロウマンの胸倉を掴んで無言の『どうしてこのタイミングで希望をドブに捨てさせるか』という抗議を行っている最中の事だった。

 

「……?」

「シャムちゃん、どうかした?」

「……いえ、先ほどのギリメ●ラを追い返した穴から、何か音が……」

「おうギリメ●ラ言うなや」


 シャムがネコミミパーカーのネコミミをピコピコ動かす。

 やだ可愛いけど……ただのパーカーの飾りじゃなかったのかそれ……。


「……?! なにか!」


 シャムの一言が合図だったかのように、突如大きく大地が揺れた。二度ほど強い縦揺れが起きた後、穴が爆発する。

 噴煙とともに現れたのは、ドロドロに溶けた溶岩だった。

 いや、溶岩はその場に滞留し、徐々に何かの形を作っていく。


「こ、これは……!」


 ま、まさか!


「ようがん●人……ッ!  ゴールデン●ーレムの材料のようがん●人さんじゃあ……ッ?!」

『違ぁぁぁあうッ!! リメイクが発売したが、違ぁぁぁあうッ!!』


 何だよ、違うのかよ……ついに俺達の世界にも配合要素が追加されたのかと思ったのに……。

 滞留したマグマは人型を形作り、俺達と向き合った。

 なるほど、さっきのギリメ●ラがボスを呼び寄せたと言ったところか? やはりこういうちょっとしたフラグ管理が大切と言ったところか。俺様大勝利。


「まあ、そんな戯言は置いといて……貴様が今回のボスと言ったところか」

『いかにも……。我こそが、マグマダイバーの首領。マグマカイザーである……』


 韻でも踏んでんの?

 マグマカイザーは俺達が黙ったままでいるのを良い事に、重々しく響く声を継ぐ。


『さあ、虫ケラどもよ。我が覇道に抗ってみるがいい。今なら、我を倒すことによって炎を噴射して氷のギミックを壊すことが出来る特殊武器を授けよう……』


 いらねーよ射程短そうだし。バスター持ってないし。


『クックックッ、恐怖で声も出んか……。それも然り。我が野望、【いつでも温泉で女の子をはべらせながらイチャイチャできるハーレム作って温泉街で一生を過ごしたい】は何時の世も理解されぬもの……これを成した暁には、次は世界でも奪るしか……』

「いや、理解は出来るけどそういうのは企画モノAVだけにしてくれ」

『き、貴様! なんと卑猥な……。そういう直接的なエッチしか考えられないのか? これが若さか……』

「ピンク色の野望を包み隠さず言ったお前にだけは言われたくねーよッ?!」

『何を言う。我が野望は純粋に女の子とイチャイチャしたいだけだ……』


 しばきてぇ。いや、しばけばいいんだよ。


「はんっ、テメェとはエロのベクトルに関しては気が合いそうだ……がッ! 温泉を独り占めにするなど許せぬ所業なので大いに邪魔するッ! 存分に邪魔するッ! 俺のビガクがそんな美しくない野望は粉砕してやるわッ!」

『ぐ、ぬ……ならば、どんな野望なら美しいというのだ……!』

「お風呂に入ったなら流しっこも加えんかァァァァッ!!」

『盲点ッ!』


 気合の一声(最低)とともに、必殺の拳を振るうため俺は跳ぶ。

 象頭達に認識させることも許さなかった、気合を爆発させた渾身の一撃目。


「なっ」

『フフ、軽い軽い……ッ!』


 しかし、その振り抜かれた拳が相手の肉体を穿つことは無かった。

 軽々とマグマが溶け落ちる右手で受け止められ、俺の拳が熱ぅぅぅぅううううういッ!?


「緊急離脱キックッ!」

『むうッ?!』


 捉えられた拳を軸に身体を持ち上げる。続けて、ヤツのまさに溶岩そのものな手、その人差し指をぶち抜くように一点集中の膝蹴りを放つ。

 流石に破壊することは当然無理だったが、押し上げられた指の隙間から右拳を緊急脱出させた。ついでとばかりにもう一撃蹴りを拳に放ってから距離を取る。

 いかん、俺の装甲がオーバーヒートしとる。俺と相性最悪なんですが……、どうしよう。


「流石敵方のボスですね。ブラックの一撃すら容易にいなしてしまうとは」

「俺は本気を出していないだけ……俺は本気を出していないだけ……」

「そんな傷つかなくていいんですよ?! 相手も一応相当の実力者みたいですからね?!」

『クックックッ、ちなみに言うと、この姿は分身に過ぎぬ……。我が本体は地底だ。超フェロモン放ちまくりの超絶イケメン、それが我が本体』


 おれたちは どうでもよくないけどどうでもいいじょうほうを てにいれた!


「く、ブラックメイルさん並に自己主張の強い相手だ」

「スパロウマンなんか今回俺に厳しくない?」

「そ、そんなことありませんよ。それより、どうしますか」

「三人がかりしか無いだろうよ。準備はいいか、二人とも」

「はいッ! 任せて下さいブラックッ!」「僕の全力を尽くしますッ!」


「……私は」

「マスコットは離れた安全なところで応援しててッ!」

「……(ジワッ)」


 シャムを泣かせた! 俺のやる気がゲージを限界突破するくらい上がったッ!

 ヒュー! ついサドの血が騒いじまったぜ!

 やる気が上がったところでいっちょ行くかッ!


「よし、散開ッ!」


 俺の言葉を皮切りに、三人がそれぞれ別方向へと駆ける。


『ふん、小手先の攻撃では我は倒せんぞッ!』

「知るかバカッ! 全力攻撃だッ!」


 蹴りを掠らせてからの、回転力を乗せた渾身のナックルを叩き込む。

 それに合わせたように、ブルーがリボンを放つ。


「『リボンホー……』 ああッ!? やっぱりリボンがッ!」


 そりゃそうだよね。マジモンかどうかは別にしてもマグマっぽいものにリボン如きが耐えられるわけがないよね。

 ブルーの悲鳴とともに燃えて半ばから焦げ落ちるリボン。


「くっ、『ワンショット』ッ!」


 仕方なく銃撃に切り替えたものの、やはり弾丸程度ではその溶岩の壁を破ることは出来ない。

 俺の蹴りが掠る。回転。続く一撃で少しでも決めなければ、相手に優位な反撃を許すことになる。

 狙うなら……ここだッ!


「脳天必殺ッ!『唐竹悪童割り』ィッ!!!!」


 顔面に叩き込もうとしていたパンチを若干軌道修正し、大きく振り被ってその頭に打ち降ろす。

 ゴンッという岩を穿ったような音ともに、地まで響くような振動が辺りを一瞬揺るがした。威力だけなら十分なようだが、どうだ?!


『む、ぐぅッ?!』

「あっつううううう?!」


 たまらずよろけるカイザーだが、俺の腕も重傷だ。岩を叩いたせいで装甲に傷がついたうえ熱で以下略。

 最高の追撃タイミングだが、右拳を振るうには流石にインターバルが必要そうだ。

 左……威力に自信が無いが仕方がないか?

 逡巡が迷いとなり決めあぐねた時に、飛び出す影があった。


「ハァァァァッ!」


 俺達のスピードに追い付けず遅れていたスパロウマンだ。

 彼は木刀を振り被り、敵の身体に振り下ろす。堂に入った構えから放たれた一撃は。


「うわあッ!?」


 勿論、木刀如きで岩そのものを貫くことは敵わず、あっさりと弾かれるのだった。

 スパロウマン、お前……。


「くっ、『秘剣ツバメ……』」

『あまぁぁぁいッ!』

「あばあッ?!」


 憐れ、刀を返すところまでは良かったが、その一瞬の隙を突かれた拳の一打ちで、スパロウマンは星となった。

 ってスパロウマァァァァァァァァンッ!

 マジで勢いよく吹っ飛ばされて彼方へと飛んでいっちまったよ?!


「せ、戦力が一撃で減少しちまった……なんてこった」

「ならばこれで! 『ツーショット・フリーズバレット』ッ!」


 ブルーの宣言とともに、氷の弾丸が打ち出され、敵を凍らせる。


「『スリーショット・ツーウェイ・グラシアバレット』ッ!」


 続け様にもう一発放たれる弾丸は、二つに分かれ、氷の海を散らす。

 なるほど、これがブルーの銃の力……。


「ごめんなさい、弾切れです!」

「って弾切れはやああああいッ?!」

「ごめんなさい。特殊弾を作るにはオーラが結構必要で……弾丸の補充がちょっと間に合いそうにないです」

「ああ、一応実弾じゃないのね……」


 しかも、どうやら段階を踏まないと弾丸を強化出来ない難儀な仕様であるらしい。

 いや、逆に言えば段階さえ踏めば様々な弾丸が撃てるのだから、決して普通の銃が性能で勝てる代物ではないのだが。全体的な利便性では普通の銃が勝るんだろうなあ。


『この程度の氷では我を止めることは出来んぞッ!』


 全く怯んだ様子もなく、易々と氷を破壊するようがん●人さんに、俺もげんなりだよ。


「これは……」

「長期戦になりそうですね」



 ***



 ―――二十分後


 なりました。


「おう、ぜえ、もう、ぜえ、いいだろ? そろそろ帰れや」

『クックックッ、断る……。あ、ダメ、ちょっと右腕取れちゃう、アカンアカンっ……』

「……(ちーん)」


 弾丸精製に精神力を使い切ったブルーが無言で横たわり、俺とカイザーは互いに一歩も引かずに対峙する。

 俺の足はキックを絡めた攻撃による度を越えた酷使によって、既に生まれたての子鹿よりプルプルだった。だって痛いし熱いんですもの。それでもなお、相手の岩盤は完全に割ることは出来ない。

 しかし、相手も流石に二十分にも及ぶ攻撃には堪え切れないようで、ところどころ既にガタガタな様子だ。


「だ、だが長期戦なら俺達の勝ちだ。テメェの肉体は既にボロボロだからな……後二、三撃加えりゃ戦闘不能となるだろうよ」

『くっ、……! いや、そうでもないようだぞ。見ろ!』


 ようがん●人が憎たらしいくらいに余裕の笑みを浮かべて、温泉街の大通りのその奥を指差した。

 確かに……なにか来るッ?!


「たああああああすけええええええええてくれえええええええええええ」

「ニゲル! ヒタスラニゲル!」

『助けに来たぞ分身①!』

『来てくれたか分身②!』


 なんか来たあああああああああ?! 巨大な筋肉と骨と溶岩が駆けてきたあああああ?!


「む、貴様はブラックメイル!」

「ヒサシブリ!」

「ス、スーパーキンニク君!」

「あれ、私の名前の方が先に出るべきじゃないの? このドン・スカルの名前から……?」


 ごめんよ、忘れてたよ、ドン・スカル。スーパーキンニク君の印象が強過ぎるんだよ。


「お前らが来てたのはいいとして何で敵を引き連れてやってくんだよォッ?!」

「仕方なかったんや! 私達ではこいつに歯が立たなかったんや!」

「オレノコブシ! ツラヌケナカッタ!」

「クソッ、厄介ごとを増やしやがって!」


『『さあ、我が二体を相手にして貴様は勝てるかな?』』

「うおおおおお、ステレオうるせええええええ」


 完全に形勢逆転されてしまった……どうしよう。

 うーん、仕方ない。


「一応訊いておくけど、お前ら二体で終わり?」

『『終わりだ。我らは今回二体しかいないから安心して全力を出すがよい』』

「それを訊けて安心したぜ」


 こいつらを倒せば、恐らく上位入賞は確実……ル●バが俺のものとなる確率はグッと高まる。

 ならば、仕方がないが全力を出すしかあるまいよ。


「えー、シーキューシキューっつっても一か所しか届いてないわけだがメルー様聞こえてる? オーバー」

『……ザ、ザザ、……お、おお、太郎か、こぶ茶うまい。オーバー』


 クソが。人が必死こいて基地の為にえんやこーらしてる最中にこぶ茶とは。

 後で俺にも用意しておいて下さい。


「回線使ってる時点でお察しでしょうけど、もうちょい本気出していいですかね? オーバー」

『しゃーないのー。ちょい待ち。オーバー』


 いや、待たせる時にオーバーは言わなくていいんじゃねえかな。オーバー。


 ***


 スロスは奇妙なモノを見ていた。

 突如独り言をはじめたメルーが、いきなり浴衣を脱いで黒色のドレスとマント姿に早変わりしたのだから、さもありなん。


「どうした。メルー様」

「おや、お主も馴染み深いじゃろうが。承認してやるんじゃよ。本気を出すのを」

「ああ……」


 そういえば、とスロスは感慨深そうにしみじみと頷く。あったあったと言いたげだ。


「さあ、首領メルーが承認しよう太郎! もうちょい本気出せ! フェイズツー、シフト承認!」


 マントを一度はためかせると、彼女は懐から小さな鍵を高く掲げ、それを目の前の虚空へと突き刺した。


 ***


『後の事は責任もたんぞオーバー』

「了解ッ!」


 黒い甲冑に異様な赤いラインが走り、煌めいた。装甲の各所と背部から熱が勢いよく排気された。

 しかし、排気を上回るレベルで身体全体が赤熱する。

 いいぜ、燃え上がってきたッ!


「いくぜ、ちょっと本気モードだ。後悔しろ。泣いて悔やめ。俺の目の前にルン●という餌が吊られていたのがテメェらの敗因だ」

『なにィィィィッ!!』

『負けるのはお前だァァァッ!!』


 ドン・スカルとスーパーキンニク君を追いかけるのをやめて、二体のカイザーが俺へと向かう。

 特に彼らに必殺技があるわけでもなく、ただただ突進して腕を振り被ってくるのみ。


 残念。

 パワー勝負なら。

 俄然負けねえぇッ!!!!


「『エクセリオ―――――』」

 

 深く腰を落とし、俺は低い姿勢で駆けた。

 背部の排気を一瞬溜め、封じ込められた風を一気に排出する。スラスターがわりだッ!


 流れる景色。

 時間を置き去りにする―――





「『ナックル』―――――――――――――ッ!!!!」


 この神速の拳で打ち破るッ!!





『『バカな……ッ!?』』


 信じられないと言わんばかりの一言を残して、溶岩の化け物は二体ともあっけなく破砕した。

 穿たれた中心の穴から、めきめきと壊れ朽ちていく。

 やはり冒頭通り勝利とはなんとも空しいものだ。だが……だとしても……。


 ―――取った(ル●バを)


 勝利の余韻に浸りながら右腕を上げる。

 そして、それが合図だったかのように俺の全身から一気に排熱処理が行われた。ブシューという音共に、必死で熱を冷まそうと熱処理が行われるが既にオーバーヒートは避けられない。

 ううん、お約束?


 俺はばたりと倒れた。


「……大丈夫?」

「……えっと、大丈夫ですか?」


 二人の美少女ヒーローが駆け寄って俺を抱き起して……はくれないッ。

 そうだよね、熱いもんね。


「……ああ、やり遂げた男は、この程度で膝を屈しないものさ」

「……屈してますけど」


 シャムちゃんが無駄に指摘してくれた。

 ですよねー。


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