第一話 ワル、愛車に跨って
いいか、良い子の諸君。
世間に出る前に言っておきたいことが一つある。ちりんちりん。
あ、危ないですよご老人。飛び出したらほら轢かれちゃいますから。
で、続きだが、なんというか世の中漫画やアニメのような摩訶不思議でアドベンチャーな面白いことがあるとは思うなと言うことを俺は精一杯お前らに知って頂きたい。
仮にあったとしても、それはとてもロクなものではないことをここに固く宣言する。ちりんちりん。
クソッ、野良犬め。俺の前に飛び出しやがって。動物病院に連れて行く手間が増えるだろうがちりんちりん。
で、なんだっけ。そうだ、世の中ロクでもないことばかりだという話だったな。
そう、かくいう俺も二、三年ほど前はそういうものを夢見て走り続ける夢追い人な少年だった。
だが、長く苦しい紆余曲折の折々を経て、俺と言う夢追い人は変わってしまったのだ。おっと、交差点は一時停止だ。
悲しいことだった。漫画やアニメのような現実がふってわいた時、人は絶望することを知った。
いや、違うな。俺は物語の主人公になれると思ったのに、なれなかったことに絶望したのだ。
そう所詮俺は脇役。足の先から髪の毛の一本に至るまで、脇役という要素で構成された空しい生き物ちりんちりん。
今度はガキかよォ?! ホント飛び出しが多いぞ。どうなってんだ。教育しろ、教育。小学校ォォッ。
ああ、もう、つまり、何が言いたいかというと。
「今日こそ俺は、お前を倒して主役になるッ!」
ブラックカラーの全身装甲を煌めかせ。
赤い長マフラーも靡かせて。
ずばんと一指し相手の顔。
「それはいいのですが、聞いていた時刻から二十分も遅れてますけど……よろしいのですか? それに、その……バイクとかに乗れば……もっと速いのでは?」
ロボ風味漂う黒の全身装甲姿の俺とは対照的に、ところどころ生身の肌色がいやらし……いや、非常に艶めかしい部分部分を装甲で覆った少女が、そう俺に問いかける。頭を覆うのは青色のバイザーを備えた簡素な白色のヘルメット。その姿は上から下まで白基調で、なんか天使みたいで、こう、イイネッ!
彼女はなんかもうその風体だけで言わんとすることがわかると言ってしまって問題が無い……ええい、めんどくさい、つまり、正義の味方だ。多分。
多分とは便利な言葉だ。こうつけておくだけで、後々違った時に、「あっ☆ 違った☆ ごめーんネ☆」で済まされる。閑話休題。
だが俺は、そんな少女に告げなければならないことがある。
愛車のハーレーダビッドソン号(ママチャリ)のハンドルを片手で支え、俺はこういうしかなかった。
「バイクの免許が無いんだよォッ!」
どうも、この物語はこの俺、ただの戦闘員一号がお送り致します。
え? この後? 勿論負けたよ!