とある村で 後編
どれぐらいお通夜状態が続いただろうか?
村長がいい加減一回家に帰って家族と相談するようにと言おうと思っていたときにそれは現れた。
「すみません、村長さんはどちらの方でしょうか?」
キツネ面を腰に下げた女が現れた。
「わしじゃが・・・・・」
村長は急に現れた女に驚いて思わず答えた。
そもそも今は集会の最中なので部外者は入れないようにと娘に言ったはずなのだが。
「集会の最中すみません。ですが力を貸してほしくてですね。」
そこまで女が言ったところで娘がやっと現れた。
集会の最中に部外者が入ってきたというのに、
女を引き留めるでもなくなぜか女の後ろでにこにこしている。
「悪いがそんな余裕はないのだ、旅のお方よ。
あなたはすぐにこの村を去ったほうがいい。ブラッドウルフの群れがここら辺で見つかってるのだ。」
「なあ、村長、見たとここの人は強そうだし助けてもらえばどうだ。」
「何を言っておる、このお方にブラッドウルフの群れにつっこめとでも言うのか、馬鹿者が」
村長は静かに怒気をみなぎらせる。
それに慌てながら村人は訂正する。
「いっいや違うって、この人に護衛してもらいながら逃げれば子供や老人も連れていけるかなって。」
皆の瞳に希望の光が宿る。
「はあ、無理じゃよ。
護衛してもらうのは賛成者が一人ではブラッドウルフの群れを御しきれまい。
子供たちを連れて行っても死ぬのがおちじゃよ。」
その言葉に希望の光が消えた。
また集会はお通夜状態に戻った。
「あの、私の話を聞いてもらってもいいですかね?」
「・・・・・・なんじゃ?」
投げやりになった村長が効く。
「では、あなた達に頼みたいのはブラッドウルフの解体と村までの運送、
それからお肉もできるだけ干し肉にしてほしいのです。」
「はっ?今なんと?」
「ですからブラックウルフの解体と・・・・」
ともう一度言おうとしたところを他の村人が遮る。
「あの、解体っていうともしかしてブラッドウルフ倒しちゃいました?」
そこにいる皆が唾をのみ女の答えを待つ。
「ええ、倒しちゃいました。」
女はあっさりとそう言った。
あっさりとしているがゆえにそれが本当だと分かった。
皆は一度静まり・・・・・・・・・
「ワァーーーーーッ」
っと快哉の声を上げた。
「おい、あんた本当かね、本当に倒しちまったのか。」
「ええ、そうで・・・」
「いやー、あんたすごいよ、一人で倒しちまうなんて。
さぞ高名な冒険者なんだろうね。」
「いえ、それほどで・・・・」
「あほだな、一人で倒した訳ないだろ。他にお仲間がいらっしゃるんだよ。」
「いえ、私ひと・・・・・・・」
「まあ、なんにせよ、助かったには違いない。
今日は宴会だ。村長の秘蔵の酒を引っ張り出せ。」
「なに!?止めるんじゃ。あれは何か大切な時に飲もうと取っておいた・・・・・」
もはやその場は収拾がつかなくなっていた。
誰もが喜び、叫び、むせび泣いた。
子供と老人を見殺しにしなければいけないと思っていたのだから、
それからの回避は喜びなのだ。
だが、そのバカ騒ぎはそう長く続かなかった。
「あんた達っ!そちらの冒険者の方が何か言おうとしてるだろ!
一回黙って聞きなさいっ!。」
村長の娘だった。
その怒声と気迫に思わず皆がだまった。
「じゃあ、冒険者様、どうぞ。」
「えっええ、では改めて以来の説明を。
私が頼みたいのはブラッドウルフの解体と村までの運送、
お肉はできるだけ干し肉にするというものです。いくらぐらいでして頂けますか?」
「いやいや、冒険者様、そんなことぐらいただでしますとも。
村を救ってもらったんです。それぐらいはしないと罰が当たりますわ。」
「いえ、報酬は支払います。」
「いや、いや、いりませんとも。」
「払います」
「いやいや。」
「ですから・・・・」
と押し問答が続く。
「お父さん、もらっておけば。」
その押し問答に終止符を打ったのは村長の娘だった。
「なっ、お前、村を救ってもらったのに恩返しをしないとはなにごとか!」
「いや、多分その人絶対ひかないし。
それにブラックウルフは生ものだよ。早くしないと品質が落ちちゃう。
報酬については後でっていうことにしときなよ。」
「そうですね、では力のある人を集めてもらえますか?
解体は村でしましょう。
内臓は・・・・お鍋にいれたら美味しいですし栄養があるのですがどうします?」
「どうしますとは?」
村長は理解できないようで聞いた。
「いえ、内臓すぐに腐るので持って帰るのは無理です。
食べないなら、森で捨ててしまおうと思ってるのですが。その分軽くなりますし。」
「あー、そういうことでしたか。
では持って帰りましょうか。うちのもんたちが苦労するだけですし。」
「ふー、やっと解体が終わりましたね。」
「そうですなあ、まさかこんなにいたとは。これだけいたら村はひとたまりもなかったでしょうなあ。」
そこには大量の毛皮と牙、干し肉、そして内臓がおいてあった。
内臓のほかにも普通のお肉が少しおいてあるのは村で食べる分だろうか?
「それじゃあ、報酬の話ですけど
毛皮の一部とお肉それから内臓にしようと思うんですけどいいですか。」
「ええ、もらえるだけありがたいですわ。」
「そうですか、毛皮は自分たちで使うもよし行商人に売るも良しですね。
では、明日ぐらいに荷車を持った人たちが来ると思うんで渡してください。」
「ええ、わかりました。」
「それでは。」
「はい、本当にありがとうございました。」
村人たち総出で見送る。
彼女はそれだけのことをしたのだ。
「ねえ、おじいちゃん。」
「ん、なんじゃ?」
「ぼくしょうらい、ぼうけんしゃになる!」
「おお、そうかそうか、村を出て行ってしまうのはさびしいがあの人にあこがれるのもわかる。
まあ、そのためには大きくならんとな。」
「うんっ。」
「大きくなるためにはピーマンも食べんとな。」
「・・・・・・・・・・・・・うん。」
後には元の平和な村が残った。
この干し肉は奴隷にされてた魔族の人たちの食糧になります。
ブラッドウルフの皮と牙は一部ゆうきが作った村に貯蔵
他は全部売って食料や生活用具などに変わります。




