とある村で 前編
時系列的には美鈴がダンジョンに潜る前あたりです。
自然以外何もないところではあるが平和で静かな村が山奥にあった。
この村で一番活気があるのは行商人が来た時であろう。
しかし今日は行商人が来る時期ではないのに村が騒がしかった。
中年の女が家で男にあわてて話している。
「あっあんた、魔物が出たって。」
「なんだ騒いでると思ったら魔物かよ。
自警団の連中が勝手に狩るだろう。そんなに騒ぐなよ。
今日はせっかくの休日なんだ。ゆっくり休ませてくれよ。」
男は女の話に取り合わず適当に答える。
確かに普段は自警団と自分達のことを呼んでいる村の若いのが魔物を狩るのだ。
だが今日は様子が違った。
「それが魔物を見たっていう村のもんの報告を受けた自警団の連中が
山に見に行ったんだけどそこには大量の魔物がいたんだって。
それで刺激するのもまずいってこっそりと逃げて来たんだよ。
あんた、どうしよう。この村滅んじゃうんじゃないかな。」
「いや、冒険者ギルドに依頼を出せば・・・・」
「そんなの間に会うわけないでしょう!
この村から町までどれだけあると思ってるの。
それにこの村にそんな大量のお金なんかないじゃないか。」
確かに大量の魔物を追い払うためにはそれなりの実力のあるものが必要だろう。
そんなお金はこんな山奥にあるような村にはない。
そもそも行商人が来なければ塩以外は自給自足できるからお金じたい必要のないぐらいの村だ。
到底ギルドには頼むことはできない。
「とりあえずあんた、村長の家で話し合いがあるから行ってきてよ。」
「わかった。最悪この村を捨てて逃げないといけないかもしれんからある程度荷物をまとめておけ。」
「そんなっ、この村を捨てるなんて!」
「可能性の話だよ。
それに村にこだわるよりか命の方が大事だ。準備しとけよ。」
そう言って男は村長の家に行ってしまった。
「そんな、村を捨てるなんて・・・・・・」
女は一人残されてつぶやく
男が村長の家に行くともうあらかた集まり終わっていた。
「うむ、だいたい集まったようじゃな。
さっそくじゃがこうやって集めた理由を話そうかの。まあ、もう聞いておるじゃろうが。」
ひげをたくわえた村長が皆に向けて話す。
「われらの手におえん魔物が出おった。それも最悪の形で。
うんと強くても罠さえ張ればそれなりのものは倒せる。じゃが今回のはそうもいかん。
ブラッドウルフの群れが村の近くにいよる。」
村長がブラックウルフの群れといった瞬間にざわざわと緊張がはしる。
「そっ村長、それは本当なのか?
本当だったらやべえ。すぐに逃げないと。」
集まっていた一人の男がおびえだす。
そのあわててる人物を村長が落ち着ける。
「逃げるといってもどこにじゃ?」
「そりゃあ・・・・・・」
男は黙り込む。
「それも含めての話し合いじゃよ。
もちろん逃げないでいいという方法があるのであればそれが一番じゃ。
だから方法が思いついたものは遠慮なんかせずにいいなさい。
それがどんなに低い確率だとしてもみんなで考えれば確率が高い方法につながるかもしれん。」
そうやって集まっている人に呼び掛けるも誰も答えられない。
「おぬしら、よーく考えろ。
もし逃げるというのなら子供と老人は置いていかないと逃げ切れんじゃろ。
いやそれでも逃げ切れるかはわからんが。
わしら年寄りはもともと老い先が短いから良い。じゃが子供はまだまだ未来がある。
それを見殺しにしなければいけないんじゃ。
じゃから、無い知恵を振り絞ってよーく考えろ。」
ブラッドウルフは狼が元の魔物であるがゆえに速い。
しかも嗅覚もいいから一度獲物と認識されたら一般人が逃げ切るのは不可能に近い。
気づかれる前に離脱するには速度重視でいかなければいけない。
体力のない老人と子供は当然連れていけない。
それを認識し、しかしいい案が思いつかないため集会の雰囲気はお通夜のようになっていた。
誰もしゃべらない。
身じろぎするのすらためらわれる。
完全に停止していた。
まるでそうしていれば誰かが何とかしてくれると思っているかのように。




