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魂の調整

姫巫女の二人が階段を上り切って神社の中に入るとそこには、

狐の耳と九本の尻尾をはやしたゆうきが正座で座っていた。

その尻尾は大きく、ゆうきの背中側に扇状に広がっている。

そのゆうきの顔はいつもの無表情ではあるが眼が赤く染まり、

その目は強い執念のようなものをを感じさせる。


「ふたりともやっと来た。」

その言葉は平たんではあったがそれを責めてると感じた人間の姫巫女の少女は言い訳をする。


「ごっごめんなさい。

 早く来ようとしたんだけど走ったらダメって言われて。」

だけどゆうきは少女の言い訳など興味がないようだ。


「それはいい、責めてるわけでもない。だから早く始めて。」

ゆうきは余裕がないのかいつもよりか饒舌に早く始めるようにと急かす。

それにあわててふたりの姫巫女は祈り始める。


「神よ、われらは卑小なり

 されどわれらはさらなる躍進を求みます

 今このたびわれらの助けとなり

 今ひとたび其の力をお貸しくださいませ」

人間の姫巫女が祝詞を唱え、


「神よ、われらは屈強なり

 神よ、われらは不屈なり

 神よ、われらの祈りを聞き届けよ

 神よ、力を貸せ」

魔族の姫巫女も祝詞を唱える。


ふたりの周りに種類の違った光が舞い降りそれぞれの中に入って行く。

そしてその光をふたりとも少しも余さずにゆうきに渡していく。


戦争中の二種族の姫巫女、

本来ありえないはずの二種の姫巫女の協力。

それによってそれぞれの光、つまり神からの加護は相乗的に力をまして、ゆうきにの全身に行き渡る。


ただそれでも足りない。

ゆうきは不満げに、それこそ獣のように唸った。

びくっ、と二人の姫巫女はおびえるもゆうきに加護を注ぐのをやめない。


「たりない。」

ゆうきがつぶやいた。

ふたりに聞こえるか聞こえないかどうかという声量で。


「全然足りない。」

今度ははっきりと二人の姫巫女にも聞こえた。

人間の姫巫女は己の力不足を恥じるように、

魔族の姫巫女は力が足りないことに悔しそうに身を震わせる。

ふたりの姫巫女が注げるだけ力を注ぎこれ以上はもう無理状態になった。

それでもゆうき曰く足りないらしい。


と、ゆうきがすくっと立ち上がった。

そして神棚のようなところに行きそこに備えられていた土瓶の入れ物を持ってきた。

だいたい二百ミリリットル入るぐらいか、茶色いそれを持ってくるとふたりに差し出した。


「ふたりで分けて飲んで。」

ゆうきがなにをしたいのかふたりにはわからないが、とりあえず従おうとする。

そしてまず魔族の姫巫女が瓶を開けてそこから漏れ出してきた匂いに驚く。


「これっ、お酒!?」

驚いて飲もうとしない魔族の少女に、

ゆうきは瓶を奪い取り無理やり飲ませる。

「ちょっと、まっ・・・・・・・んぐんぐ・・・・・・げほっ、げほっ」


魔族の少女の唇の端から少量こぼれたり咳き込んでいたりするが、ゆうきは気にしない。

そして今度は人間の姫巫女に飲ませるべく体をそちらに向ける。


人間の少女はゆうきに無理やり飲ませられるのは避けようとする。

「ゆうき、私は自分で飲むから。」


その態度にゆうきはおとなしく瓶を渡す。

人間の姫巫女の少女はお酒だと分かってるため少し躊躇するが、ゆうきに無理やり飲まされるよりかましだとゆうきのほうをちらっと見てから覚悟を決めて残りを飲み干す。

「・・・んぐんぐ・・・・・・・けほ、けほ。」

お酒の度数が高いのか飲みなれてないからかやはり咳き込む。



先に飲んだので比較的早くに立ち直った魔族の少女が少し恨めしそうにしながらゆうきに聞く。

「それでゆうき、何をしようっていうの?

 他人に与えられる加護の分はすべてもうゆうきに渡したわよ。」


「良いからやって。」


少し説明する必要があるだろう。

まず、姫巫女が他人に与えられる加護の量は決まってるのだ。

それは個人の資質によって量が決まる。

例えば今代の人間の姫巫女と魔族の姫巫女は加護を与える中級神のお気に入りなので、

その量もほかの代の姫巫女よりかなり多い。

もしその量が無制限だったら他人に加護を与えまくって人間と魔族の戦争はもっと激化していただろう。

そしてその加護を他人に与えられる量は鍛錬で少しづつ増やすことができる。

だが劇的に増えることはない。

だから言い方は悪いが、今日はもう姫巫女は役立たずなのだ。


それを分かってるはずなのにゆうきはまた祈ることを強要する。

ふたりの姫巫女はゆうきに言われたので一応やる。

失敗すると分かっていながら。



「神よ、われらは卑小なり

 されどわれらはさらなる躍進を求みます

 今このたびわれらの助けとなり

 今ひとたび其の力をお貸しくださいませ」


「神よ、われらは屈強なり

 神よ、われらは不屈なり

 神よ、われらの祈りを聞き届けよ

 神よ、力を貸せ」


ふたりの姫巫女が祝詞を唱え終る。

そして何も起こらないはずだった。

他人に与えられる加護の量を限界まで渡すともう一度祈っても光は舞い降りてこない。

舞い降りてきた光の量が与えられる加護の量なのだから。


だが光は舞い降りてきた。

しかもむしろ一回目より多い量が。


ふたりの姫巫女はあり得ないことに驚くも、

落ち着いてその光を一度体内に取り入れそれをゆうきに渡していく。


そして注ぎ終るとふたりの姫巫女の少女は崩れ落ちる。

崩れ落ち、指の先さえ動かせないようなふたりの少女に近づきゆうきは言った。


「私は今死ぬわけにはいかないの。

 今私が死ねば美鈴が自分のせいだって思うから。」

そういってゆうきはふたりの少女の頭を撫でる。


「ごめんね、悪いとは思ってるんだよ。

 私にとっては美鈴のことが優先なだけで。

 けど大丈夫。今は二人とも副作用でぼろぼろだけど私が本調子に戻ったら直せるものだから。

 だからそれまでは二人とも眠っててね。」

罪悪感からか?ゆうきはふたりに長々としゃべった。


そして二人に懐から眠り薬の入った紙を取り出しふたりに吸わせ眠らす。


ふたりが眠ったのを確認するとゆうきは神棚の飾ってある所まで行き瞑想を始める。

これは魂の調子を直す作業だ。

そうしてゆうきは加護の力をフルに使い、魂を調整していく。




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