下等ものファンタジー
小さいことは素晴らしいことだと思う。
例えば、細かいことに気がつく。
足元にある微妙な段差に気づいたり、犬の糞を見つけたりして回避することが出来る。
例えば、狭い肩幅を生かして細い路地を駆け抜けることが出来る。
もちろん勘違いしないで欲しいが、壁にぶつからないようにものすごく注意しているのだから、追いかけられでもしない限りは歩いて通っている。
例えば、喜びのあまり力いっぱい飛び跳ねてしまっても、低い天井に頭をぶつける心配がない。
飛び跳ねるほど喜ぶことがあまりないが、無駄にでかい体を持っている奴は屋外以外はどこもかしこもせまっ苦しく感じるだろう。
因みに私は閉所恐怖症の気がある。
例えば、少ないダンボール紙ででも十分に体の冷えを防ぎ、夜を凌ぐ事が出来る。
私はビルの隙間で一晩休めていた体を起こした。
私の名前は『フェトル・ベイン・トーン』
気軽に『ベイン』と呼んでくれて構わない。
私のことを知っている者は誰でもそう呼ぶ。
名前の意味は『調子・調子・調子』だ。
自分でも今だに意味がよくわからないが『単調』という意味だろうか?
巡り廻って『マイペース』という意味になるかもしれない。
どちらにせよ、どちらも私に当てはまるのだから嫌いな名前ではないが。
私の日課は早朝の散歩から始まる。
出て行く家はない。
帰り行く家もない。
ふらっと歩き、止まり、また歩き出す。
そんな散歩だ。
高いところは好きだが、狭いところは嫌いだ。
つまり、歩くところは必ず外だ。
だが道の端のほうだ。
ど真ん中を歩くのはあまり好きじゃない。
わざわざ人を避けなければならないこともあるし、何より小さいせいかよく絡まれる。
隅を歩いていれば、そういうことは少ない。
さらに、じりじりと日差しが強い日に限っては日陰で涼む事も兼ねているので私は隅は嫌いではない。
これもまた一応言っておくが、私は狭いところが嫌いだと確かに言った。
だが、だからといって生まれてこのかた一度も屋内に入らなかったのかと言われれば、そんなことはないと言い返せる。
時には私だって、工事現場から廃棄されたような土管の中に入ることはある。
私の名前は『フェトル・ベイン・トーン』
『調子屋』だからな。
気分で生きているのさ。
食事には困らない。
食べ物を拾うことは多々あるし、時には金さえも拾う。
私に食べ物をよこす変わり者もいる。
あれを善人というのだろうか?
いや、偽善者というのだろう。
別に食うことに困って腹をすかせているわけでもないのに、私を文字通り見下して食べ物を渡しているのだろう。
ん?
もしそうだとしたら、そいつはもう悪人じゃないか?
善人でも偽善者でもないな。
ならば彼らの一部は私を見下しているのではないな、哀れんでいるのだろう。
ご苦労なことだ。
私の現状など露知らず、自らの食料をくれてやるなど。
まぁ、何も言わずにいただいているがな。
そんなことで朝食と昼には困らない。
適当に食べてまた散歩を始める。
最近カルシウムを取っていない、魚の骨でもいいから食べたほうがいいな。
体が小さいのはそのせいだろうか?
きっとそのせいだな。
まぁ、実際食べたいのは肉だがな。
午後はそこらにあるベンチや芝生などで横になり、ゆっくりとくつろぐ。
体は多少汚れているが、実に優雅な一時だと思う。
太陽が最も高い位置から徐々に下がってくる様子を体で感じ、影で見て取ることが出来る。
まどろんできた。
午後のこの時間帯はいつも眠くなる。
まぁいつでも寝られるのは俺の長所はいつでも寝られるところだがな。
夢を見た。
何年前の記憶だろうか?
私にも家族が居た。
温かい食事と暖かい寝床とあたたかい家があった。
私を拾って、育ててくれた家族が居た。
目を覚ました。
日が傾き、空が紅く染まっている。
実に綺麗な景色だ。
私は毎回この景色を見るために長い昼寝を行うのだろう。
現実のような夢を見た後、夢のような現実を感じる。
この暖かさは嫌いではない。
目を瞑ると心地よい風を感じた。
さて帰るか。
景色をたっぷりと堪能した後、そうすることにした。
また適当に食事を取って眠りに就こう。
歩きながら今夜の寝場所を何処にしようかと考えていた。
昨日と同じ場所でいいか?
日が沈むまでこのまま歩きとおして、くつろげる場所を探すのも悪くない。
気がつくと私は家の前に立っていた。
私の家ではなく、私の家族の家に。
私は窓の隙間からそっと家に入って行った。
家族はリビングに全員集まり、食事をしていた。
父、母、娘の三人家族だ。
私が、
夕食はないか?
と尋ねながらその場に行くと。
娘は、
おかえり。
と返しながら私の食事を出した。
「久しぶりだね。ベイン。今まで何処に行っていたのかな?私は会えなくて寂しかったよ」
「たったの四日しか出て行ってなかったでしょ。いつものことじゃない」
「おかえり、ベイン。汚れているようだから、お風呂に入ったほうがいいんじゃないか?」
風呂は嫌いだ。ついでに雨も嫌いだ。
「ほら、嫌だって。でも遠出したんだからお風呂には入ったほうがいいよ。体が冷えないように温かくしておくから」
仕方がない、入ってやるか。
「お、珍しいな。自分から入ろうとするなんて。気が変わらないうちに晩飯食べて、早く入ったほうがいいぞ」
そんなことはわかっている。私は『調子』。気分屋だからな。
「はいはい。でも急がなくていいわよ。お湯入れないと」
そう言って母は湯を入れに風呂場に向かった。
改めて言っておくが、私は自らを下等な物などとは思ってない。
確かに、周りに居るもの達よりは多少体が小さいかもしれない。
だがその程度のことで、私は他のものより劣っている。
などと考えるわけがないだろう。
小さめの人間よりもさらに体が小さいということに、いちいちコンプレックスや劣等感など持ち合わせてはいない。
「じゃあ今日は私が洗ってあげる」
私はこの言葉に一言返事を返した。
「ミャー」
私は幸せだと。
途中から一体何人の方に落ちがばれていたのでしょうか?
やはり、私にこのような物語は合わないのでしょうか?
表現の方法が少なく、下手なのかもしれませんが、これからもお楽しみいただけるよう精進していきたいと思います。
それでは。