表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/50

断罪の危機!?

―夢の中―


黒雲が垂れこめ、空気は重く湿っていた。

冷たい石の床に正座させられた茗渓の肩が小刻みに震える。

目の前には、玉座に座す若き皇帝。そして、その左右には重臣たちと――高妃の姿。


「お主が――麗妃に堕胎薬を盛ったという証拠が上がっておる」


静かながらも、底知れぬ威圧を孕んだ声が玉座から響いた。


「い、いえ……私は、そんなこと……!」


茗渓の声は掠れ、喉が焼けつくようだった。

叫びたくても、声にならない。


「言い逃れはできぬ。薬を渡した下女の証言もある。

お主が密かに怜張と密通していたという記録も残っておる」


「……っ……!」


目の前が暗転していく。

思い出される、あの薄暗い回廊。怜張に呼び出され、わけも分からず渡された小包。

一度きりの、それだけの出来事――それが、罠だったのか。


「何よりの証拠は、堕胎薬が“お主の部屋”から出てきたということだ」


皇帝の言葉は冷たく響き、誰一人、茗渓を庇おうとしない。

高妃は何かを勝ち誇ったように微笑み、他の者たちは目を伏せている。


「皇子を殺した罪――これは、重い。

民に知られれば、宮廷の威信に関わる。ゆえに……」


皇帝が一度、目を閉じた。


「……死を以て償え」


バン、と玉座の隣で太鼓が鳴る。

刑の宣告が下された合図。


「違う……! 私はやっていないのに……っ!」


茗渓の声は涙混じりに空気を裂いた。

だが誰の耳にも届かない。

玉座の間には、既に処刑台の刃音が迫っていた。


「――やめて!!」


悲鳴が響いた瞬間――視界が眩しいほどの白に塗り潰される。


「っ……!」


はっとして跳ね起きた茗渓は、肩で息をしていた。

寝台の天蓋が揺れている。外はまだ夜の帳の中。


「夢……だったの……?」


額にはびっしょりと冷や汗。

だが、心臓の鼓動はまだ収まらない。


「どうして、今……あの場面を……」


(あれは、絵巻の終盤……。麗妃に堕胎剤を盛ったとして蘭妃が処刑される流れ――)


ぞくりと背を走る悪寒。


「これは……私の“処刑”が近いということなの? 運命が、絵巻通りに動き出してる?……」


「何か……何か、断罪を免れる鍵が、あるはず……!

怜綾の呪いも、まだ……解けてないのに!」


声が震えながらも、茗渓の瞳には確かな光が宿っていた。

たとえ未来が定められていても、運命に抗ってみせる。

――そんな強い意志が、そこにはあった。


寝間着のまま、裸足で廊下を駆ける茗渓。蝋燭も持たず、ただ月明かりだけを頼りに、柱の影、床下、戸棚の奥をしらみ潰しに探している。


(断罪の原因は――堕胎剤。あれが見つかれば、冤罪を証明できる!)


思考はただ一点に集中していた。


「……何してるんだ?」


背後から、静かな声が降ってきた。

振り返ると、そこには――怜綾がいた。


「……私の生死に関わる“証拠”を探してるのよ」


「証拠? 証拠って、何のことだ?」


怜綾の声が、低く鋭くなる。彼の目が真っ直ぐ茗渓を射抜く。


「……っ、それは……」


(だめ、言えない。この場所が絵巻の中の世界で、私は転生してきたなんて――)


言葉が喉でつかえる。だが、怜綾の視線は逃がしてくれない。


「……夢を見たの」


「……夢?」


「そう。麗妃に堕胎剤を盛った罪で、私が処刑される夢。冷たい石の床で正座させられて、誰も私を庇ってくれなくて……皇帝から“死を以て償え”って宣告されたの。あんなの、ただの夢で済ませられない。もし、あれが現実になったら、私……」


そこまで言うと、茗渓は思わず口元を手で覆う。震える指先。嘘は言っていない――でも、真実のすべては隠している。


怜綾は、しばし黙ったまま彼女を見つめていた。


「夢が……現実になる、か」


「……で? その堕胎剤とやらは、この怜花宮の中にあるって思ってるのか」


「ええ。処刑されたときも、“私の部屋からそれが出てきた”って……。だから、もしまだどこかに隠されているなら、それを見つければ……未来を変えられるかもしれない」


その声には、必死な願いが込められていた。

怜綾はひとつ、小さく息を吐いて、黙って踵を返す。


「……手伝ってやるよ。こんな深夜に物探しをしてたら、それこそ、怜花宮の幽霊と言われるぞ。それに君一人じゃ間に合わないかもしれないだろ」


二人は無言のまま、月明かりを頼りに怜花宮の裏へと足を踏み入れていた。生活維持のため野菜を育てた畑だ。


「……ちょっと、待って」


 茗渓がふと足を止め、地面に目を凝らす。


「……ここだけ、土の色が違う。誰かが……掘り返した?」


 指で土をすくい、鼻先に近づけると――ほんのかすかに、漢方のような匂いが混ざっている気がした。


「怜綾、そこ、掘るのを手伝って」


「わかった」


二人はその場に膝をつき、手早く土をかき分ける。しばらく掘り進めると――


「……あった!」


茗渓が土の中から引き抜いたのは、油紙で丁寧に包まれた茶色い包み。かすかに中身がこすれる音がする。封を解くと、中には乾いた草根のようなものが――


「……これ、見覚えがある。薬の調合台にあった……堕胎薬」


息が止まりそうになる。


「まさか……本当に、あったなんて……」


手が震える。夢で見た“処刑”が、急に現実のものとして迫ってくるような錯覚。


「誰が……誰が、こんなところに……?」


怜綾も黙ってそれを見つめていたが、やがて茗渓の表情が変わる。


「――そういえば……」


「ん?」


「数日前、怜張が……この怜花宮を訪ねてきたでしょ。"幽燈殿のことが気になる”って言ってたけど……もしかして、あれは口実だったのかも。」


思い返すと、不自然だったあの時の態度。そしてすぐに立ち去ったあの様子。


「……あの時、彼がこれをここに埋めたんじゃ……?」


自分が処刑される未来を誘導するために。まるで“誰か”が絵巻の筋書きを、意図的になぞらせようとしているかのように。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ