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ep.B 魅了の悪魔

 柳瀬(やなせ)凛々亜(りりあ)はパパ活女子である。

 十一歳の小学五年生でありながら、今は父親と同い年ぐらいの中年男性と共にラブホテルに居た。

「パパぁ〜〜〜ん。凛々亜っ!欲しいものあるのぉ〜〜〜ん」

 甘ったるい声を上げて、ベッドの上で中年男性の腕に抱き着く凛々亜。

「リリアたん、僕っ、僕はもうっ―――!」

 鼻息が荒くなるパパ活男。

「あんっ!もぉ、シャワーぐらい浴びよぉ?」

 年齢も体重も倍以上有るパパが凛々亜を押し倒す。

「すぅぅっ!はぁっ!くんくんくんっ!ああっ!リリアたんの匂いっ!」

 パパ活男は興奮した様子で凛々亜の体を嗅ぎまくる。

「あははっ!パパっ、くすぐったいよぉ〜」

 凛々亜は笑いながら男を受け入れる。

「はぁっ!はぁっ!いいっ!?いいよねっ!リリアたんっ!」

 パパ活男は小学生女児の衣服を脱がし始める。

 シャツを捲り上げ、ホットパンツをずり下ろす。

 パンティはずらして靴下はそのままだ。

 平らな胸にブラジャーはまだしていない。

 ツインテールの茶髪がベッドに広がる。

「もぉ〜しかたないなぁ〜。ほら、いいよ?好きにして」

 凛々亜がクスクス笑いながら目を細める。

「リリアたんっ!」

 パパ活男は凛々亜の足を押し広げ、自らの欲望を解放する。

「ああっ!?ああんっ!」

 喘ぎ声を上げる小学生女児を組み敷き、腰を振る中年男。

「おおおっ!おっ!おおおおっ!」

 ⋯そうやって雄叫びを上げながら腰を振るパパ活男を、冷めた目で見やる凛々亜。

「ちっ、しけてんなぁ〜」

 ⋯誰も居ないベッドに向かって腰を振る男を放置し、備え付けの椅子にだらしなく腰掛けながら凛々亜が男の財布を漁る。

「嫁の悪口多めだし?こづかい少ねーのかなぁ」

 柳瀬凛々亜。

 魅了の悪魔憑き。

 能力は、魅了。

 魅了した相手を虜にして意のままに操る事が出来る。

「⋯あん?」

 逆さまにした財布からはパパ活男の家族写真が落ちて来た。

「⋯ちっ、ガキいるくせにJS買ってんじゃねーよ」

 仲睦まじく見えるそのファミリーを見て凛々亜が吐き捨てる。

「あっ!あっ!あっ!リリアたんっ!」

「あ、こら⋯あーしの側で出すなよバカ」

 パパ活男がベッドに向かって一人で果てていた。

「ちっ、臭ぇな」

 顔を顰める凛々亜だったが、その顔が赤らむ。

「くっ⋯⋯⋯なんだよ、くそっ⋯」

 濃厚なオスの匂いにくらくらする。

 悪魔憑きとして覚醒して今まで、ロリコン男共を手玉に取って荒稼ぎしてきた凛々亜。

 その手法は完全に違法な売春ではあったが、体は一切許していない。

 目を見つめて語りかければ、どんな男でも魅了に掛けられる。

 なのでキスすらもしていない、清らかな体のままである。

 それはロリコンおじ相手はキモいと云うものもあったが、彼女自身が実は純情な面があったからだ。

 パパ活を繰り返して金を奪う処女ロリビッチ小学五年生、それが柳瀬凛々亜だった。

 この時までは⋯

「ごくりっ⋯」

 凛々亜が生唾を飲み込む。

 パパ活男は恍惚な表情でベッドに仰向けに倒れている。

 その脳内では凛々亜の体を思う様味わっているのだろう。

 未だに太くなったままの股間の物が、ビクンビクンと痙攣している。

 それに目が釘付けになる凛々亜。

 今までは嫌悪感しか抱かなかった物なのに。

(だっ!だめだめっ!あーしはからなずイケメンハーレムつくるんだもんっ!こんなオヤジたちはふみだいなのっ!ふみだいっ!)

 頭の中で己の欲望を否定する。

 それでも再びごくりっと生唾を飲み込む凛々亜。

「⋯⋯でも」

 凛々亜は手に入れたお札をパラリと落とす。

 今はお金よりも、男の股間の方にしか集中出来ない。

「ちょっとだけ、味見だけ、なら⋯」

 凛々亜が舌を伸ばす。

「あーーーん⋯⋯⋯」

 少しだけの味見のつもりだ。

 しかし、もしも精液の味を覚えてしまえば歯止めが効かなくなるだろう。

 一舐めしたら最後、発情して男の上に跨り、精根尽き果てるまで貪り喰らうだろう。

 もしかしたらそれは男にとっても幸福な死なのかも知れない。

 サキュバスと云う魔物は空想の存在である。

 しかし、こうして悪魔憑きの誰かが過去に成った存在なのであろう。

 凛々亜に適合した魔王の欠片は、彼女に中途半端な欲望を許さない。

 いつまでもパパ活ごっこ遊び等許さない。

 そう、全ては時間の問題であった。

 男を見下し、男を操る素質のあった凛々亜。

 彼女が悪魔憑きとして完全に覚醒したならば、その蠱惑的な肢体を使って、数多の男を虜にし、精を吸い尽くして命を奪っていただろう。

 そう、そのまま覚醒していれば、だが―――

「そこまでだ」

 薄暗い室内を一瞬、赤い光が照らす。

 部屋の扉の鍵が焼き切られたのだ。

「⋯ふぇ?」

 トロンとした目付きで舌を伸ばしていた凛々亜がのろのろと扉の方を見やる。

「人を陥れ、喰らい、殺す、悪魔め」

 強引に扉を開き、二つの人影が現れる。

 熱線の魔法天使ユキト。

 癒しの魔法天使ユウノ。

「え?だ、誰?」

 魅了の悪魔付きとして覚醒はしつつも、やっている事はロリコンオジに夢を見させて金を奪うだけの小悪党。

 そこは所詮子供でしかなかった。

 柳瀬凛々亜は解らせられる。

 悪魔憑きの運命と、魔法天使の脅威を。

 悪は裁かれるのだ⋯絶対的正義の名の下に。

「薄汚い悪魔が」

 久世(くぜ)雪斗(ゆきと)が部屋に踏み込み指を突き付ける。

 そこに在るのは純粋な怒り。

 幼馴染を苦しめた、悪魔憑き達全てへ向けた激しい怒り。

「な、なんだよお前―――」

 凛々亜は慌てて雪斗を睨む。

 どんな男でも誘惑出来た悪魔の魅了。

 お堅い担任教師や、補導しようとしてきた警察官すら魅了してピンチを切り抜けて来た。

 だから今回もイケると思った。

 しかし⋯

「死ね」

 雪斗の指先から放たれた熱線が凛々亜のお腹を貫く。

 腹を狙ったのは甘さではなく用心深さであった。

 悪魔憑きによっては能力を防御に全振りしてる者も居る。

 例えば致命傷を与えた相手にそっくり同じダメージを返す等だ。

 頭を狙わなかったのは、より確実に仕留める為だ。

 その予測は間違ってはいたが、外れでもなかった。

 凛々亜が魅了の魔法で男達の魂を握ってしまっていたら、凛々亜が受けた攻撃はそのままベッドで寝ているパパ活男に移っていただろう。

「ぎゃぁあああああっ!」

 未だ小者の凛々亜にはそんな能力、閃く事すら無かったが。

「痛い痛い痛いっ!?あああああああっ!」

 普通に腹に大孔を開けられ、床に転がり泣き叫ぶ凛々亜。

(痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いっ!)

 凛々亜は悪魔憑きとして覚醒している為、人間的にはかなり頑丈ではあった。

 それでも常識外れの破壊力を持つ魔法天使の攻撃は防げない。

(死んじゃう死んじゃう死んじゃうっ!)

「とどめだっ!」

 雪斗が凛々亜を蹴り転がし、薄い胸を踏み付ける。

 そして至近距離から頭に照準する。

 雪斗の指先が高温で赤熱化する。

「ひぃぃぃっ!」

 凛々亜が恐怖で震える。

(こ、殺されるっ!)

 この男は不味い。

 小学生だからと云って油断してくれない。

 性欲にギラついてる訳ではないから魅了も効かない。

 雪斗の瞳に燃えるのは正義の心。

 悪は一片たりとも許さない真の正義。

「だっ!だめぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 そんな雪斗に、相棒の魔法天使が抱き着く。

 ドンッ!と云う音と共に床を貫通する熱線。

 夕乃のお陰で狙いは外れ、熱線は凛々亜の耳を掠めていた。

「なにをっ!?」

 バランスを崩した雪斗の足の下から凛々亜が抜け出す。

「だ、だめだよっ!」

 彼を止めたのは仁科(にしな)夕乃(ゆうの)

 雪斗の幼馴染である。

「止めるなっ!⋯あっ!」

 夕乃が雪斗を止めてるうちに、凛々亜は何も言わずに逃走してしまう。

 自殺防止様の嵌め殺し窓を突き破り、外へ飛び出す。

 戦闘タイプでない悪魔憑きでも、コンクリートやガラスを素手で粉砕したり、高所から難無く飛び降り高速で走り去るくらいは出来る。

 凛々亜は穴の開いた腹を押さえながらも全速力で逃げ出していた。

 捨て台詞も無い、見事な逃げっぷりである。

「ちっ⋯」

 あっという間に視界から、気配察知の範囲から逃亡した凛々亜に雪斗が舌打ちする。

 弱らせたのが仇となった。

 ダメージを負い弱っている彼女の気配を追う事は出来ないだろう。

 そもそも感知能力は夕乃のが優れている。

 見つけ次第殺すつもりの雪斗には、決して教えてはくれまい。

「だっ!駄目だよっ!女の子なんだよっ!?」

 夕乃は怒った様に雪斗を責める。

 だが雪斗も黙ってはいない。

「あいつは悪人だっ!成長しても碌な大人にならないっ!」

 天使と名乗るあの小鳥から、凛々亜の所業は聞いていた。

 小学生ながらも売春まがいの行為と、金品の窃盗を繰り返す女。

 今はお金だけで済んでいるが、いずれは命を奪う様になるだろうと。

 雪斗からすれば断罪すべき悪である。

「お前も魔法天使なら解るだろっ!いずれあいつは人を喰い殺すっ!」

 この件においては雪斗の見解が正しい。

「で、でもだからって―――」

 それでも幼い女の子を殺す事を躊躇う夕乃。

 治癒や支援を行える夕乃。

 万が一の為に彼女を連れて来たのが雪斗の失敗だった。

「逃げたね」

 いつの間にか、真っ白い小鳥が外れた窓枠に留まっていた。

「⋯⋯⋯天使」

「小鳥さん⋯」

 雪斗は憎々しげに、夕乃は怯えた視線を小鳥に向ける。

「まぁ良いよ。あれだけ弱らせればしばらくは悪さも出来ないさ」

 ピコピコと動きながら小鳥が首を傾げる。

「本当は討伐して欲しかったけどね」

「次は仕留めるさ」

 吐き捨てる様に即答する雪斗。

「ゆ、雪斗⋯」

 正義感と呼ぶには高過ぎる殺意を抱く幼馴染に怯える夕乃。

 小鳥は考える。

 考えようによっては有りだ。

 魔王の欠片の適合者が負けて死ぬと、その欠片がまた新たな依代を求める

 更に強い宿主を探して。

 ならば雑魚に宿らせた状態のまま放置でも良いかも知れない。

 あの少女が生きている限り、強力な魅了の悪魔憑きは生まれない。

「次に行こう、次に」  

 小鳥は高い声で囀る様に歌う。

「魔法天使が裁くべき、悪魔憑きを求めて、さぁ行こう」

 真っ白い小鳥が二人を導く。

 地獄へと進む道行きを⋯⋯⋯

お読み頂き有り難う御座います。


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