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【想い】の虚像 《__漫画化しました__》  作者: 影浦ねこぼ
第一章

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第九話 名誉のために

「先生! 風で奴らを浮かせます!」

「いいぞー、やれー!」


 クララの声とともに地面から吹き出してきたかのような突風が、トルオス王国軍兵士たちを宙に舞い上がらせる。舞い上がったトルオス王国軍兵士たちを、フィオナが結晶の針で射抜く。

 

「先生! 雨を降らせるので雷を!」

「任せろー!」


 クララが上空に発生させた雲から大量の雨をトルオス王国軍兵士たちに浴びせ、フィオナがその雲から即座に雷を放って感電させる。

 クララとフィオナは互いにあうんの呼吸で魔法を連係させながら、トルオス王国軍兵士たちをなぎ倒していった。

 

「いいぞクララー! とにかく【想い】だー! チェルビュイを守る【想い】とー、スラウブを守る【想い】だー!」

「言われなくてもわかってます!」


 クララの視線の先に、トルオス王国軍兵士たちがいる。


「いたぞ! 奴の連れの女だ!」


 トルオス王国軍兵士たちが向かってきた。


「させるかー!」


 フィオナが右手の人差し指でトルオス王国軍兵士たちの周りを囲むように円を描く。丸い発光体から飛び出た鎖が、トルオス王国軍兵士たちを拘束する。


「クララー!」

「炎よ、平穏なる美しきチェルビュイとその純粋なる民たちに襲い掛かる魔の使者を滅ぼしたまえ」


 クララが詠唱し、魔法の威力を高める。鎖に拘束され、手足が動かせずにもがくトルオス王国軍兵士たちに、クララが火球を放った。


「うわー!」


 火球をもろに受けたトルオス王国軍兵士たちは、その場でろうそくのように溶けていった。

 

「うおー……久しぶりに残酷な光景を見たー……」


 クララが放った魔法はフィオナの想定外のものだったのか、思わずフィオナは目の前を手で隠した。

 フィオナがクララの方をちらっと見る。いつもおだやかな顔のクララからは想像もできないような、険しい顔であった。


「大丈夫か―……? クララー……?」

「奴らを、全滅させないと!」


 クララが先へ進んでいく。


「待てー! クララ―、焦るなー!」


 フィオナが制止するも、クララは足を止めない。それどころか、今度は様々な魔法でフィオナの手を借りずにトルオス王国軍兵士たちを蹴散らし始めていった。その魔法の力に、フィオナすらも驚く。


 ――マージでこの子の魔法すごいわー。どんだけ【想い】の力が強いのー……。


 いつの間にか、クララが仕留め損ねたトルオス王国軍兵士をフィオナが残飯処理のように片付けていく構図となっていた。


 ――クララー……まさかこの子ー……本当にー……。


 やがて、獅子の獣人の像が設置されている噴水の広場まで戻ってきた。

 十人近くのチェルビュイの人々が、トルオス王国軍兵士たちと戦っている。

 その中に、『フォースク』で共に魔法を学んだジュディーの姿が――。


「ジュディー!」


 クララが叫ぶと、ジュディーはクララの方を振り向いた。


「クララー!」

「今助ける!」


 ジュディーは、全方位を囲った魔法の壁でトルオス王国軍兵士たちの攻撃に耐えていた。


「そのまま壁を作っていなさい!」


 ジュディーに指示したクララは、右手を高く上げる。


「炎雷よ、幼き者の未来を奪おうとする魔の使者に、裁きの鉄槌を下したまえ!」


 火山の噴火でも起きたかのような赤い雲が、ジュディーを囲むトルオス王国軍兵士たちの頭上を覆う。赤い雲から雷鳴が轟き、赤い雷が落ちる。

 ジュディーを囲んでいたトルオス王国軍兵士たちが、跡形もなく焼失した。


「風氷よ、混沌をもたらし、安穏を破壊せし魔の悪しき心を射抜きたまえ!」


 多数の氷の塊が、クララの周りに浮かび上がったかと思うと、急に突風が吹き、チェルビュイの人々を襲っていたトルオス王国軍兵士たちの甲冑を氷の塊が貫いた。その場に倒れこむ、トルオス王国軍兵士たち。


「魔法を合成して使っただとー……」


 フィオナが驚き、つぶやく。

 クララが赤い雲を消し去ると、広場は再び晴天となった。ジュディーは壁の魔法を消し、クララに駆け寄る。


「クララ……いつの間にそんな魔法扱えるようになったんだ。すごいね!」

「【想い】の力ってやつだよ。ジュディーやみんなを助けたいっていう【想い】のね」

「ありがとう」

「ジュディーのお父さんやお母さんは? 無事なの?」


 すると、ジュディーが顔をくしゃくしゃにして涙を流し始めた。


「一緒にお買い物してたら……急に変な奴らが現れて……色んな人たちを襲い始めて……パパとママも……私……パパとママが逃げなさいって言うから……ここまで逃げてきて……」

「ジュディー……」


 泣き顔のジュディーを、クララがぎゅっと抱きしめる。


「ここで待っててもらえる? 悪い奴らを――一人残らずやっつけてくるから。それから、ゆっくり話そう。ね?」

「うん……」


 クララがジュディーの涙を拭き、その場を離れようとした時であった。

 晴天となったはずの広場が突然、赤黒い雲に包まれていく。

 赤黒い雲から、雷鳴が轟いた。


「え……?」

「クララ……?」

「私じゃないよ」


 クララがジュディーにそう言った、その直後であった。

 突然の轟音とともに、赤黒い雷が落ちる。

 ジュディーが、ひもが切れた人形のようにその場に倒れた――。


「ジュディー……?」


 トルオス王国軍兵士たちと戦っていたチェルビュイの人々も、ジュディー同様に倒れている。

 フィオナは、咄嗟に自分の頭を魔法で守っていたようだ。


「ジュディー……? ジュディー!」


 クララが倒れたジュディーを抱え、揺らすも、ジュディーは何も言わず、目を見開いたまま、全く動かない。


「見ーつけたー」


 声がした上の方をクララが見上げる。

 赤黒い雲から、黒いオーラをまとった翼を背中の左右に生やし、黒いドレスを身にまとったブロンドの髪の女が現れた。それと同時に、骨と皮だけになったような痛々しい姿のティアラを頭につけた老婆が椅子に座った状態で現れる。

 ゆっくりと、黒いドレスの女と椅子に座った老婆が、噴水の前に下りてきた。


「あんたが、凶悪犯の連れの女ねー」


        ◆


「何者だ?」


 スラウブが上空から現れた、黒いオーラをまとった翼を背中の左右に生やした男に言う。


 ――あの翼、一体なんなんだ?


 軽鎧から伸びる白い天使のような翼――美しくもあり、黒いオーラで、まがまがしくもあった。


「我が名はナバロ。貴様に――三人の愛する子供たちを殺された者だ」

「……!」


 三人の愛する子供たちという言葉で、スラウブはこのナバロという青髪の中年男が何者か即座に把握した。


 ――あの青髪の<セレッサ>と、その部下たちの父親……?


 愕然とするスラウブをよそに、チェルビュイ魔法兵士たちがナバロに攻撃を仕掛ける。


「消え去れー!」


 チェルビュイ魔法兵士たちが火球を放ち、雷を飛ばし、結晶の針を撃つ。


「貴様らに用はない」


 言ってナバロは黒いオーラをまとった剣を振るい、魔法をかき消していく。


「な……!」


 あまりにも速い剣さばきに、チェルビュイ魔法兵士たちが慄いた。


「用があるのは――その男だけだ」


 ナバロは翼を羽ばたかせ、スラウブの左側にいたチェルビュイ魔法兵士たちに瞬間移動のような動きで突っ込む。先頭にいたチェルビュイ魔法兵士が、ナバロの剣に斬りつけられた。

 スラウブがあわててナバロに炎の大剣を振るう。だが瞬時にかわされ、次々とチェルビュイ魔法兵士たちが斬りつけられていった。


 ――速い……! こいつ、風の魔法を……?


 スラウブがナバロを斬りつけようとするも、ナバロはその斬撃をかわしながら、スラウブだけ残すようにチェルビュイ魔法兵士たちを排除していく。

 気付いた時には、スラウブの周りにいたチェルビュイ魔法兵士たち全員が倒れていた。

 ナバロが、上空から下りてきた位置に戻る。


「その死体も邪魔だ」


 そう言ってナバロが右手を広げ、翼も広げると、スラウブの左側と右側に黒い突風が吹き、チェルビュイ魔法兵士たちの死体が後方に吹っ飛んでいった。

 これで、スラウブとナバロが互いに初期位置で向かい合う形となった。


「貴様、なんてことを……!」


 スラウブが怒りに満ちた表情になる。


「その言葉、そっくりお前に返してやろう。偉大なるプラウル様の【指輪】を盗み、我が愛する三人の天使たちを(あや)めた、極悪非道の凶悪犯め!」


 今度はナバロが怒りに満ちた表情になる。


「……仕方なかった。愛する者を救うため、守るためだった」


 スラウブが炎の大剣を構えた。


「仕方なかった……!?」


 ナバロが翼を広げ、ものすごい速さでスラウブに突っ込んできた。ナバロの黒いオーラをまとった剣とスラウブの炎の大剣がぶつかる。

 そして目にもとまらぬ速さの斬撃のぶつかり合いが始まり、火花が飛び散る。

 スラウブの、一瞬の隙を突いた、一瞬の力を込めた斬撃で、ナバロの体に斜めの火傷の線が入った。

 ナバロが後退し、間合いを取る。


「……やるではないか。私としたことが、少々感情が乱れてしまったようだ」


 スラウブとナバロが、剣を構え直す。


「だが、次はそうはいかない」


 再びナバロが翼を広げ、ものすごい速さでスラウブに突っ込んできた。またしても繰り広げられる、スラウブとナバロの斬撃のぶつかり合い。しかし今度は、ナバロの速さに僅かに遅れ、スラウブが押されていく。

 やがてスラウブは一瞬の隙を突かれて体を斬られ、革のベルトが切れて背中から鞘が落ちた。


「……っ!」


 スラウブの身にしみる、切り傷の痛み。

 ナバロがなぜか、そのまま攻撃を続けずに再び間合いを取る。


「安心しろ。すぐには殺さない、貴様のその身に――子供たちの無念の数だけ、傷を刻んでやる。光栄に思うんだな、偉大なるプラウル様専属の騎士<セレッサ>の長、このナバロによって刻まれる傷だ」


 ナバロが剣先をスラウブに向けながら、口角を上げた。


 ――<セレッサ>の長……? こいつが……?


 スラウブは<スキーモ>だった時、<セレッサ>の長だと言う、重厚な鎧と兜にマントで身を包んだ男によって戦いの指導を受けていたことを思い出した。


「そう、貴様ら<スキーモ>どもに(いくさ)を教えていたのは、この私なのだ!」


 幼き者にも容赦なく罵声を浴びせ、暴行を加え、徹底的に体を鍛え上げ、(いくさ)の仕方を叩きこんでいた<セレッサ>の長――スラウブにとっては、悪魔の騎士のような存在であった。


「貴様に最後に教えることは、ただ一つだけ。『己の罪を悔いて散れ』!」


 そう言ってナバロは翼を広げ、ものすごい速さでスラウブに突っ込むのであった――。

 

        ◆


「あんた、何者?」


 クララがジュディーを抱えたまま、上空から現れた黒いドレスを身にまとったブロンドの髪の女に言う。


「初めまして、あたしはナタリア。偉大なるトルオス王国の王プラウル様の娘にして、玉座を引き継ぐ者よ」

「プラウルの……娘……?」


 プラウルに娘がいたという事実を、クララは今初めて知った。


「あなた、<スキーモ>なのね。その腕の印、あたしが刻んだものなのよ」

「え……?」


 クララは愕然とする。


 ――この女が……<スキーモ>の、呪いだと思っていた魔法の刺青を刻んだ張本人……?


 魔法の刺青は、フィオナでも取り除くことができなかった。ということは――。


「こちらのおば様がくれた、この《支配石》のネックレスのおかげで、私は黒魔法使いになったのよ。黒魔法って言うと聞こえが悪いかもしれないけど、トルオス王国を導いていく偉大な力なの。今の雷の黒魔法、すごかったでしょう!?」


 ナタリアと名乗る女が、美しい紺碧の石のネックレスをクララに見せびらかす。

 

 ――あれは……《想応石》?


 クララはナタリアの隣にいる、ネックレスをくれたという椅子に座った老婆に視線を移した。


 ――あの老婆は、一体何者なの……?


 すると、頭に針を刺されたかのような感覚が、再びクララを襲った。クララが頭を押さえてうつむく。


「痛っ……!」


〝……げ……て……〟


 ――え……?


〝に……げ……て……〟


 ――何……?


〝あなたの……姉はもう……〟


 クララが頭を押さえながら顔を上げ、再び老婆の方を見る。


 ――あの老婆が……私に……?


「ハイネ……」


 突然フィオナが、震える声を出した。

 クララがフィオナの方を見る。フィオナの視線は、老婆の方を向いていた。


 ――え……? ハイネ……?


 クララは覚えていた。フィオナが獅子の獣人の像について説明していた時に出てきた言葉、「チェルビュイの女王ハイネ」のことを――。


「もーう! このババアじゃなくてあたしを見なさーい!」


 ナタリアが急に狂ったような声を上げる。そして右手で剣を横に振り払うような動作をすると、赤黒い曲剣の刃のようなオーラが風とともにクララとフィオナに向かって飛んできた。

 咄嗟にそれを魔法の壁で防ぐクララとフィオナ。

 今のは、ナタリアの黒魔法の一つなのだろう。風の黒魔法といったところであろうか。


「覚えておきなさい。その<スキーモ>の印は、やがてあたしに服従していくための印になるの。あたしに従わない奴は、あんたが今抱えているそいつみたいにくたばっていくのよ。全世界の奴が、そうなっていくのよ、わかった!?」


 ナタリアが次々と風の黒魔法をクララとフィオナに放ちながら言う。

 クララは魔法の壁で風の黒魔法を防ぎながら、ジュディーの顔を見た。

 生気を失った、ジュディーのあどけない顔――。


「貴様あああああ!」


 クララが魔法の壁を殴るように拳を突きだす。すると、魔法の壁が強風で吹っ飛んだかのようにナタリア目がけて飛んでいった。


「うお!?」


 ナタリアがあわてて赤黒い壁を黒魔法で作り、クララの魔法の壁とぶつかって双方ガラスの窓のように砕け散る。


「お前を……許さない……!」


 クララが怒りの表情でジュディーの体をそっと地面に置き、火球をナタリアに飛ばした。


「うふふふ。面白くなってきたじゃない!」


 ナタリアがクララの火球を曲剣の刃のような風の黒魔法で切り裂く。


(いかずち)よ!」


 上空の赤黒い雲を利用するようにして、クララは紺碧の雷を放った。ナタリアが、黒魔法の壁で頭上を守る。


「ふふふ。たいしたことない雷ね」


 と言った次の瞬間――地面から、カエルが飛び跳ねてくるかのように結晶の針がナタリアの顔目がけて飛んできた。


「――!」


 咄嗟にナタリアが首を傾けて結晶の針をかわすも、頬に直線状の傷が入る。


「許さない、お前だけは――!」


 クララが、次々と結晶の針を四方八方から飛ばす。


「ぐっ……!」


 クララは結晶の針を風の魔法と組み合わせて高速で飛ばしたり、鎖の魔法の発光体から飛ばしたりと、変幻自在に操り、ナタリアを追い詰めていった。


 ――やはりこの子は、ハイネの……!


 フィオナが再び老婆の方に視線を向けた。

 椅子に座ったままの老婆の弱々しいまなざしは、怒りに震えて魔法を放ち続けるクララの方へと向けられていた。


「調子に乗るなー! この小娘がー!」


 咆哮とともにナタリアの体から雷が走る。

 結晶の針が全て、一気に消し飛んだ。


「くっ……!」


 クララがその衝撃波にひるむ。


「楽しませてもらったわ。だけど、もうお遊びは終わりよ!」


 ナタリアの右手に、赤黒い炎が燃え盛っていく。


「炎雷よ、偉大なるトルオス王国のために、我の名誉のために、栄光なる玉座のために、この者を消し去りたまえ!」


 赤黒い炎はやがて、ばちばちと音を立てて赤黒い雷をまとっていく。

 その黒魔法は、一目見ただけで危険なものであるとわかるほどのオーラを放っていた。


「させるかー!」


 フィオナが、両手から雷をナタリアに向けて放つ。


「お前に用はない!」


 ナタリアがクララに放つつもりでいた炎雷の黒魔法をフィオナに放った。

 フィオナの両手から放たれた紺碧の雷の魔法と、ナタリアの赤黒い炎雷の黒魔法がぶつかる。

 目を開けていられないほどの閃光と、体をよろめかすほどの衝撃波が、広場を襲う。


「くっ!」


 クララは両手を顔の前に出し、わずかに見える指の隙間からフィオナとナタリアの魔法の応酬を見る。

 ナタリアの炎雷の黒魔法が、徐々にフィオナに迫っていく。


「このあたしこそが、世界を制する魔法使いなのよー!」


 ナタリアが叫び、右腕を限界まで伸ばすと、炎雷の黒魔法がフィオナを貫いた――。


「ぐはぁぁぁぁぁー!」

「フィオナー!」


 クララが炎雷の黒魔法で吹っ飛ばされたフィオナに駆け寄る。


「――!」


 フィオナの体には、砲弾でも受けたのかと思うような穴が開いていた――。


「待ってて、魔法で治すから!」


 クララが【想い】を込め、口から血を吐き、苦しそうに途切れ途切れの息を吐くフィオナに手を当てる。

 すーっとクララが大きく息を吸う。フィオナの体に開いた穴が紺碧に光る。続けてクララがふーっと大きく息を吐く。

 だが――フィオナの様子は何も変わらなかった。


「残念だけど、無駄よ」


 突き放すような声でナタリアがクララに言う。


「え……?」

「あたしの黒魔法にかかったものは、いかなるものであろうと元には戻らないわ。その女はもちろんのこと、あんたの腕にあるその<スキーモ>の印もよ」


 クララはナタリアの言葉を無視して、フィオナに魔法をかけ続ける。

 だが、一向に何も変わらなかった。


「あたしの黒魔法は、従える者を従え、必要のないものは消し去るものなの。あきらめなさい」


 勝ち誇ったように高らかとナタリアが声を上げる。


「そんな……いや、フィオナのことは、必ず助けてみせる!」

「なら、やってみなさい。いいわ、待っててあげる」


 ナタリアは凍てついた笑みで、クララとフィオナを見下ろす。

 

「フィオナ! しっかりして!」


 フィオナはクララが魔法をかけ続けても咳き込み、口から血を吐き続けるだけであった。

 クララはこれまでのことを思い出す。


 ウェアウルフから救ってくれたフィオナ――。

 この美しいチェルビュイに招いてくれたフィオナ――。

 自宅のふかふかのベッドで寝かせてくれたフィオナ――。

 スラウブと共にチェルビュイに移住できるよう尽くしてくれたフィオナ――。

 魔法を教えてくれたフィオナ――。

 一時の別れを最後まで惜しんでくれたフィオナ――。

 

「クソ! どうして……!?」


 ありったけの【想い】を込めているのに……。

 救いたいという【想い】を込めているのに……。

 恩を返したいという【想い】を込めているのに……。

 

「クララ……」

「フィオナ!」


 咳き込みながら、フィオナがかろうじて口を開く。


「あんたに……言っておきたいことがあるの……」


 それは、今までのフィオナからは想像もできないほどのかぼそい声で、すぐそばにいるクララにしか聞こえないほどであった。


「何?」


 クララが自分の耳をフィオナの口の近くによこす。


「クララ……あんたは……そこに座っている……ハイネの娘よ……」

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