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【想い】の虚像 《__漫画化しました__》  作者: 影浦ねこぼ
第一章

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第六話 居住審査

「いい天気だねー。何かいいことが起こりそうな感じー」


 能天気な声の通り、雲一つない青空であった。翌日の朝、フィオナと共にスラウブとクララはチェルビュイの評議会で行われるという居住審査に向かうため、街中を歩いていた。

 昨日は肩をすくめ、下の方を向きながら歩いていたような二人であったが、今日は街中を横目で見てみる。すると、フィオナのように魔法を使っている人々が多くいることに驚いた。

 氷の塊を宙に浮かべ、庭の花に溶けた水を与えている女。はちみつ色のレンガを宙に浮かせ、それを積み上げていく男たち。ベンチに腰掛け、本を読んでいる女が人差し指を振るとページがめくれていく本。酒場と思われる建物の窓から中をのぞくと、男が指先から火を出し、調理している光景。


「チェルビュイの人は、皆魔法が使えるのですか?」


 そんな街中の人々を見て、クララはフィオナに聞くと同時に、人々が皆フィオナと同じように美しい紺碧の石のネックレスを身につけていることに気付き、それが何か関係しているのかと思った。


「そうだねー、基本的にチェルビュイの人はみんな魔法が使えるよー。小さい頃から魔法の授業を受けるしー」

「そうなんですかー」

「俺も小さい頃に魔法が使えるようになりたかったな。大量にお金を生み出す魔法」

「そんな魔法はないよー」

「冗談だよ、冗談」

「スラウブって冗談下手なのよ」

「そんなことないだろ」

「二人とも、仲がいいんだねー」


 三人はそんなやりとりをしているうちに、大きな噴水がある広場にたどり着いた。

 噴水の真ん中の台座には、筋骨隆々とした分厚い肉体に、立派なたてがみを生やした獅子の獣人の像がそびえ立っていた。


「この獣人は、どなたですか?」


 クララが噴水に近づき、獅子の獣人の像をじっと眺める。


「ああー、あれはロドリックだよー」

「ロドリック……?」

「チェルビュイの北東にあるトルオス王国とは反対側の南西にあるー、ペルーア王国の王にして騎士団長だった方だよー」

「ペルーア王国の王にして騎士団長?」


 フィオナの言葉を聞いて、クララは獅子の獣人の像にくぎ付けになった。


「ロドリックはー、ペルーア王国の守護神であるー、炎の獅子王ファルートの力をその身に宿していたんだってー。要するにー、ファルートに変身する力を持っていたのー」

「炎の獅子王ファルート……?」


 スラウブも、獅子の獣人の像にくぎ付けになる。


「はるか昔ー、この世界は邪悪な魔物であるドラゴンのものだったのー。ドラゴンは強大な力を持つだけでなくー、人々や様々な生き物たちを魔物に変え―、支配していたのー。そのドラゴンに立ち向かいー、打ち負かしたのがー、炎の獅子王ファルートだったそうよー」

「ドラゴン……魔物……」


 クララはフィオナの話に真剣に耳を傾けた。


「ドラゴンを打ち負かした炎の獅子王ファルートに変身する王にして騎士団長――なんかかっこいいな!」


 それに対してスラウブはおとぎ話を聞く子供のような反応をしている。


「そう遠くない昔ー、チェルビュイがトルオス王国の侵略を受けていた時にー、ペルーア王国が親睦の深かったチェルビュイを守るためにー、ロドリック率いる一団をチェルビュイに送り出したのだそうよー。その時にー、ロドリックとチェルビュイの女王ハイネが共に戦ったんだけどー、残念なことにー、ロドリックは戦いの中で命を落としてしまったのー。子供を守ろうとしたところを集中的に狙われたそうよー。なんとも胸糞悪い話だねー」


 だが一転して、トルオス王国の悪事の話になるとスラウブは表情を曇らせた。


「あれはー、チェルビュイを守った誇り高きロドリックと、その象徴であるファルートを忘れないために作られた像なんだってー。ロドリックと長く交際関係にあったハイネはー、ロドリックを失って自責の念に苦しめられてー、チェルビュイを飛び出していってしまったんだそうよー」

「そいつは気の毒に……」


 獅子の獣人の像を見つめるスラウブとクララが、哀れみの目になる。


「それじゃー、行こっかー。もうすぐ評議会のある議事堂に着くよー」


 フィオナに手招きされ、スラウブとクララはペルーア王国の王にして騎士団長ロドリックであり、炎の獅子王ファルートでもある像が設置されている噴水の広場を後にするのであった。


        ◆


「名は、男の方はスラウブ、女の方はクララ。二人ともトルオス王国の者で、幼き頃に貧しさゆえに盗みを働かせていたところを捕まり、労働者兼兵士としての奴隷<スキーモ>として今日(こんにち)までいたっていた。トルオス王国から逃げ出し、ウェアウルフに襲われていたところを救ったこの二人を、チェルビュイに受け入れてほしい、こういうことで間違いないか?」


 中央の大時計が付いた高い尖塔と、左右に二つずつの中央より低い尖塔で成り立っているチェルビュイの議事堂の一室で、フィオナ立会いのもと、スラウブとクララのチェルビュイ居住審査が行われていた。スラウブとクララ、少し離れてフィオナが横に並び、その正面の中央に紺碧の瞳の評議会議長、左右に三人ずつ評議員が横一列に並んでいる。

 

「はーい。おおむね合ってまーす」


 ここでもフィオナは品性を感じさせる低音の声に伸ばし棒口調であった。


「二人はチェルビュイと深い因縁のあるトルオス王国から来た者ですがー、みなさんご存じの非人道的な扱いを受けている<スキーモ>でしたー。それもー、幼い頃からだったそうでーす。二人は廃棄された歯車同然に人が扱われる貧困地区『バッソナ』で生まれ育ちー、生活費をまかなうために盗みを働かせていたところを捕まってしまったそうでーす」


 ばつが悪そうに肩をすくめるスラウブとクララをよそに、フィオナが続ける。


「トルオス王国とは違うー、この貧富の差や格差のないー、かつ人々を皆平等に扱うチェルビュイでやり直しー、チェルビュイの美しき女王であったハイネの教えの通りー、『弱き者を救い、誰もが皆平等で平和に暮らしていける世界』を目指す一員としてー、この二人を受け入れていただきたいと思いまーす」


 勝利を確信したかのような顔で、フィオナが答弁を終えた。

 評議会議長と評議員たちが小声で何やら話し込む。

 しばらくして、


「盗んだものは、どんなものだったのかね?」


 評議会議長がスラウブとクララに訊ねた。二人が目を合わせる。


「……アクセサリーとか、懐中時計とか、骨董品だったかな」


 答えたのはスラウブであった。


「どのような方法で?」

「それは……街中を歩く人からスったり……誰もいない家に忍び込んだり……」


 評議会議長が顔をしかめる。

 スラウブとしては【指輪】を盗み、人殺しをしたことだけは伏せておきたかった。


「人を(あや)めたりしたことは?」


 最も聞かれたくない質問が来る。


「それはない」


 きっぱりとした口調でスラウブが言うと、評議会議長がじっとのぞき込むようにしてスラウブの目を見つめた。

 しばらくして、


「嘘だな」


 評議会議長が突き放すように言う。


「私は魔法の力で、嘘を見抜くことができるんだ」


 スラウブとクララの顔が蒼白した。


「このスラウブという男は何かとてつもないものを盗み、多くの人々を(あや)めている」


 評議会議長の言葉に、フィオナが愕然とした顔になる。

 スラウブの額から、冷や汗が流れた。


「私の前で嘘はつけないぞ。本当のことを、全て、正直に話すんだ」


 再び突き放すような口調で評議会議長が言うと、スラウブはクララとフィオナの方に視線を向けた。

 そして――。


「……わかった。全てを――正直に話す」


 スラウブは観念したかのように、ゆっくりとここまでのいきさつを話し始めるのであった。



「なるほど……」

 

 評議会議長が微動だにせずつぶやいた。


「仕方なかったんだ……クララを救うためだった」


 スラウブの力ない言葉に、クララが後ろめたい表情になる。


「その【指輪】とやらは、まだ持っているのかね?」

「……ああ」


 トルオス王国の独裁者プラウルの【指輪】が手元にまだあることをスラウブが明かす。

 これで、スラウブとクララのチェルビュイ移住は一段と厳しい状況になってしまった。


「議長―、彼が【指輪】を盗んだことはクララを救うためであってー、元はと言えばトルオス王国の体制の不備が原因ですー。人を(あや)めたとは言ってもー、正当防衛に等しくー、全て仕方ない状況での行為に思えます―。彼らにー、チェルビュイでやり直す機会を与えるべきですー」


 フィオナが強く訴えかけると、評議会議長と評議員たちが一斉に立ち上がった。


「これより、今回の件に関する結論の審議に移る。しばらくその場で待っていたまえ」

 

 評議会議長と評議員たちがその場を去り、三人が取り残される。


「大丈夫だよー。あんたたちはチェルビュイでやり直せるからー」


 

 そう言って――フィオナがスラウブとクララを安心させ、評議会議長と評議員たちが戻ってくるまで、それほど時間はかからなかった。


「残念ながら――君たちをチェルビュイに居住させることはできない」


 評議会議長の口から言い渡された言葉は、スラウブとクララにとってあまりにも残酷なものであった。


「どうしてー!? その理由はー!?」


 スラウブとクララの顔が青ざめ、フィオナが絶叫する。

 評議会議長が、下された結論について理由を述べた。


「その男が持つ【指輪】の存在が、あまりにも危険すぎる」


 険しい顔をした評議会議長が続ける。


「きっと、トルオス王国は【指輪】とこの二人を探している。そう遠くない昔に、チェルビュイがトルオス王国の侵略を受けたことを君が知らないはずはないであろう? あのような悲劇が再び起こらないとも限らない」

「だからー! チェルビュイを魔法陣で守るようにしたんでしょー!? それに【指輪】なんてー、破壊して捨ててしまえばいいじゃなーい!」


 評議会議長にフィオナが食い下がった。


「この二人を、チェルビュイでかくまい続けるのは難しい」

「それならあたしがー……」

「結論に変更はない。二人は一週間以内に【指輪】と共にチェルビュイから退去すること。違反した場合は即座に捕らえられ、処刑となる。以上で、評議を終了する」


 フィオナの言葉をさえぎるようにして、評議会議長が締めくくる。

 評議会議長と評議員たちがその場を去っていくなか、スラウブ、クララ、フィオナの三人は、しばらくその場に立ち尽くすのであった――。


        ◆


「ごめんねー……」


 フィオナが申し訳なさそうに声を漏らす。


「いえ……あなたは十分すぎるほど私たちに尽くしてくれました」

「ああ、そうだな……ウェアウルフからも助けてくれたしな」


 スラウブとクララは、再びフィオナの家に来ていた。

 重苦しい空気の中、三人はフィオナが淹れたハーブティーで気持ちを落ち着かせる。


「一週間はー、ここにいていいんだからねー」

「本当に助かります」

「何か、手伝えることがあったら言ってくれ」


 フィオナが微笑んだ。


「ありがとー。でも大丈夫だよー。あたしには夫がいたんだけどー、だいぶ前に亡くなってしまったからー、久しぶりに家に人が来てくれて楽しかったー」

「そうだったんですか……私も、スラウブ以外の人とまともにお話したの、本当に久しぶりだったから楽しかったです」


 クララの言う「スラウブ以外の人」というのは、クララの亡き家族のことである。


「あんたたちー、チェルビュイを出たらどこへ行くのー?」


 フィオナに言われてスラウブとクララが目を合わせた。


「トルオス王国にはもう戻れないから、また別の場所を探すよ。クララのことは――ちゃんと守る」


 スラウブの言葉に「そっかー、大変だねー」という顔をフィオナが浮かべた。


「勇ましいのねー。あんたたちー、本当はいい人たちなのにねー。チェルビュイでやり直せるのにねー。あー! あのガンコジジイどもー! マジでー!」

「あの……獅子の像の所でお話していた、チェルビュイの南西にあるペルーア王国って、どんな所ですか?」


 ガンコジジイどもとは、評議会議長と評議員たちのことだろう。声を荒らげ、頭をかきむしるフィオナに、クララがペルーア王国のことを尋ねた。


「あー、あそこはねー、男も女も勇敢で強い人たちが集まっているような国だねー。『強き者こそが正しき秩序を生み出す』という考えのもとー、国を挙げて人々を強くしているような所だよー。闘技場で高い賞金を懸けた戦いがよく行われていたりしてー、厳しい環境ではあるねー」


 フィオナの話を聞いて、クララがうつむいた。


「でもあそこは豊かでいい国だよー。とりあえずー、あそこに向かってみるのもいいかもねー。もしペルーア王国に住めることになって落ち着いたらー、またここに遊びにおいでー」


 クララには少し厳しい環境なのかもしれない、だがスラウブがなんとかしてくれるのであろう、そう思ったフィオナはやさしく励ますように微笑んだ。


「ペルーア王国か……クララ、次はそこへ向かおう!」

「ええ……」


 声を上げるスラウブに、うつむいたままクララが賛同する。


「あそこら辺はー、ちょっと暑くて大変な気候だからー、休み休み行くといいよー。食料とか水とかー、ここで十分準備してから行きなー」

「ああ、わかった!」


        ◆

 

 その日の夜中、スラウブはベッドの上で【指輪】を手にし、じっと眺めていた。

 いつ見ても、心を奪われる美しさである。


「こいつのおかげで――救われたのは事実だ」


 スラウブに背を向け、横向きに寝ているクララに目をやった後、スラウブはここまでのことを振り返った。


 生まれつき貧しかったこと――。

 貧しさゆえに盗みに手を染めてしまったこと――。

 盗みで捕まり、<スキーモ>となってしまったこと――。

 <スキーモ>となり、クララに出会ったこと――。

 過酷な肉体労働、命を削る戦いをさせられてきた<スキーモ>としての日々――。

 <スキーモ>としての長い刑期を終え、家族を失うもようやくクララとの安息の日々を得られると思った矢先、クララの容体が悪化するという不幸――。

 その不幸から抜け出すために再び盗みをし、人を殺し、逃亡にいたった今日(こんにち)――。


「……やっぱり、こいつは手放せない――安泰を得るまでは」


 スラウブは荷袋にそっと大事そうに【指輪】をしまう。そして、もやもやとした気持ちを振り払うかのように、体を大の字にして眠りにつくのであった。


 一階では、フィオナがいつものように本棚近くのソファで読書にふけっていた。

 まぶたが重くなり、視界が縦に狭くなっていく。


「そろそろ寝るかー……」


 分厚い本を枕にし、横になろうとしたその時、上の階から誰かが下りてくるのを感じた。


「誰ー?」


 現れたのは、クララであった。


「どうしたのー? 眠れないのー?」


 フィオナが気遣う。だが、クララの口から出てきた言葉は、あまりにも思いがけない言葉であった。


「あの、私に――魔法を教えてくれませんか?」

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