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【想い】の虚像 《__漫画化しました__》  作者: 影浦ねこぼ
第二章

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第十五話 ペルーア王国 ~後編~

「スラウブよ、我がペルーア王国の試験官を――己の肉体のみで倒してみせよ!」


 ブルートの声で、闘技場の大観衆の熱気は最高潮に達した。


「始め!」


 動揺するスラウブをよそに、ブルートがペルーア王国の居住試験開始の合図を出す。


「行くぞ!」


 ペルーア王国の試験官ターナーがスラウブに一気に近づき、巨体にそぐわぬ素早い動きで拳や蹴りを繰り出した。スラウブが反射的にそれらを防ぐ。


「元<スキーモ>って、あんた一体何者なんだ!?」


 ターナーの打撃攻撃は重みがあり、防いでも腕や脚に響いた。


「お前と同じだよ! トルオス王国から逃げてきたのさ! 富裕層地区『ベネステ』で生まれた俺は、三人兄弟の末っ子で、弱く、虐げられていた」


 過去を語り始めたターナーが、より強く拳や脚をスラウブに振るう。


「俺は体を鍛えに鍛え抜き、陰湿な嫌がらせを続ける兄弟どもをぶちのめしてやったんだ! 当たり所が悪く、兄弟どもは息絶えた。殺人の罪で幼くして<スキーモ>となった俺は、無事に刑期を終えたが、家族も、トルオス王国も――俺を受け入れなかった!」


 スラウブは守勢から攻勢に転じ、ターナーに攻撃を繰り出す。顔面を狙うが、やわらかな動きでターナーにかわされる。それならばと体の方に打撃攻撃を見舞うが、ターナーの体は硬く、効き目を感じられなかった。


「俺はトルオス王国を抜け出し、さまよいにさまよい続け、ここペルーア王国にたどり着いた。傷だらけ、あざだらけになりながらも当時の試験官をぶちのめした俺は、ペルーア王国に認められ、安泰を得た!」


 スラウブとターナーの激しい打撃攻撃の応酬が繰り広げられる。闘技場に大観衆の熱狂が吹き荒れ、ブルートも食い入るようにして二人の戦いを見つめている。


「俺は気付いたのだ。生まれつき安泰というものは存在しない。富裕層地区『ベネステ』で生まれたとしても、だ。安泰とは――己を極限まで厳しく鍛え上げ、磨き上げ、そびえる強大な壁を打ち破り、己で勝ち取った時、現れるのだと!」


 ターナーのストレートがスラウブの左目に入った。ひるみながらもスラウブもアッパーをターナーの顎に入れる。

 二人は互いに間合いを離した。


「さすがのガッツだな! 俺と同じ元<スキーモ>なだけのことはある!」

「あんたも、『ベネステ』生まれとは思えないほどタフでいかつい野郎だな!」


 ターナーが蹴りをスラウブの股間に入れる。こらえながら、スラウブも負けじと蹴りをターナーの股間に入れる。

 再び二人が互いに間合いを離す。


「すげぇファイトだぜ!」

「二人とも最高!」

「こんなに苦戦するターナー初めてじゃない?」


 スラウブとターナーの戦いは、大観衆にとって最高の娯楽のようだ。

 息が切れ、左目が腫れ、体中打ち身だらけになってもスラウブは戦い続けた。ターナーもそれに応えるかのように、ぼろぼろになりながら戦い続ける。

 気が付けば、二人の戦いは長時間に及んでいた。もはやタフな二人のうちのどちらかが息絶えなければ、終わりそうにないほどの戦いになっていた。


「そこまで!」


 突如、ブルートの声が響き渡る。

 大観衆が騒然とし、スラウブとターナーがブルートの方を見上げた。


「もうよい。二人とも、見事であった。スラウブよ――お主をペルーア王国に受け入れよう」


 ブルートの言葉に大観衆が一斉に立ち上がり、スラウブに拍手を送る。

 呆気にとられるスラウブに、ターナーが近寄ってきた。


「こんなに戦いがいのある相手は、本当に久しぶりだった。歓迎しよう。今日からお前は――ペルーア王国の一員だ」


 ターナーが右手を伸ばす。スラウブもゆっくりと右手を伸ばし、二人はがっちりと手を組んだ後、ぼろぼろの体で抱き合った。


「どうやら俺たちは――厳しい運命の星に生まれたようだな」


 スラウブがターナーにぼそっとつぶやく。


「……そうだな。おそらくお前は――<ルーク>の一員になるだろう」

「<ルーク>……?」

「定期的に行われる高い賞金を懸けた戦い『コベラム』に参加する闘技場の戦士でもあり、ペルーア王国を守る兵士でもある者だ」

「戦士でもあり、兵士でもある者……」

「ブルート様に気に入られたのさ」

「……」


 ターナーがそう言い残して、その場を去っていく。

 <ルーク>――スラウブはターナーの背中を見続けながら、トルオス王国の労働者兼兵士としての奴隷<スキーモ>であった時のことを思い出す。


「おい、こっちに戻ってこい!」


 筋骨隆々の狼男に手招きされ、スラウブも大観衆の大歓声を浴びながら、その場から離れていった。


「よくやったな。お前はターナー相手に合格した、初めての奴だ。ここ最近はターナーが強すぎて、移民が全く入ってこられなかったんだ」


 スラウブは筋骨隆々の狼男に肩を叩かれる。


「クララは!?」


 そんな筋骨隆々の狼男の肩を掴んで揺らしながら、スラウブは訊ねた。


「あ? ああ、彼女の試験はこれからだ」

「……」


 スラウブは不安そうな顔で闘技場のフィールドを見つめる。


「クララはそんなに体が強くないんだ。なんだったらもう一度、俺がクララのために試験を受けてもいい」

「ダメだ。どんな理由があろうとも、ペルーア王国に住まわりたいのなら、本人が試験官を打ち倒すか、お前のようにブルート様に認められなければならない。それがペルーア王国の規則だ」

「そんな……」


 大観衆の歓声が沸き起こり、スラウブが後ろを振り返ると、フィールドの真ん中に向かうクララの姿が目に映った――。


「クララ!」


 クララもスラウブと同様、胸と下半身をぼろ布で覆っただけの露出度の高い格好をしている。クララの《想応石》のネックレスを見て、スラウブは魔法を使うことが許されることを願った。

 クララがスラウブの方に目をやる。すると、スラウブに向けて親指を立て、うなずいてみせた。


「クララ……」


 心配するスラウブとは対照的に、クララはやる気満々といった様子だ。

 やがて、クララの試験官が現れる。

 短めの薄紫色の艶やかな髪で右目が隠れている、クララと同じ格好をした筋肉質な美女――。


「ようこそペルーア王国へ。あたしはペルーア王国の試験官、ダニーよ」


 ダニーと名乗る試験官の女の首元を見て、クララの表情が固まった。


 そこには、美しい紺碧の石のネックレスが――。


「あなた、それ……」


 クララが一歩二歩と後ろに下がる。


「皆の者よ! これより、次のペルーア王国の居住試験を行う! 紹介しよう! たった今、見事な戦いを繰り広げてみせたスラウブの妹、同じくトルオス王国で元労働者兼兵士としての奴隷<スキーモ>であった、クララだ!」


 再び、ブルートの声が闘技場に響き渡った。


「スラウブと共に我がペルーア王国まで逃げ込み、途中チェルビュイで自身を強くするために魔法を覚えたという、見かけによらずタフな女であるぞ!」


 大観衆の大歓声が沸き起こる。


「歓迎するわ、クララ!」

「魔法の力、見せてくれよ!」

「兄貴みたいに楽しませてくれよ、魔法使い!」


 スラウブの兄妹で魔法使いというクララにも、大観衆は多大な期待を寄せているようだ。

 

「そのネックレス……《想応石》……?」

「そう。あたしは――昔、チェルビュイの住人だったの」


 動揺するクララとは対照的に、ダニーは堂々としている。


「今回の試験のルールを説明する。魔法の使用は許可する。ただし、魔法による直接の攻撃はなしで、戦闘中の回復魔法も禁止だ。使用していい魔法は、己の肉体を強化するものに限定する。クララよ、我がペルーア王国の試験官ダニーを――己の肉体のみで倒してみせよ! 始め!」


 ブルートの声で、再び闘技場の大観衆の熱気が最高潮に達した。


「己の肉体を強化するもの?」

「つまり、こういうものよ」


 言ってダニーは自身に風をまとい、いきなりクララに急接近して拳を頬に浴びせた――。


「ぶっ……!」


 突然来たダニーの洗礼に、クララが吹っ飛ぶ。


「クララ!」

「おっと、勝負に水を差す行為はダメだぞ!」


 叫びながらクララのもとへ向かおうとしたスラウブを筋骨隆々の狼男が止める。ぼろぼろのスラウブは、筋骨隆々の狼男の力になすすべもなく押さえつけられた。


「ここペルーア王国では、女も強くなければならない。打ち倒してみせなさい、あたしのことを! 認められなさい、ブルート様に! ここに住みたければね!」


 ダニーが地面に倒れ込んだクララを見下ろしながら言う。

 クララが殴られた頬を押さえながら、それに応えるかのようにゆっくりと体を起こした。


「……わかったわ」


 そう言ってクララもダニーと同じように自身に風をまとった。


「もう――弱い自分には戻らない!」


 ダニーに向かって矢の如く突っ込んだクララが、右の拳を放つ。だが、風になびく布のように軽やかな動きでダニーにかわされ、前方に転ぶ。

 再び立ち上がり、風をまとい、クララはダニーに拳を繰り出し続けた。しかしことごとくダニーにかわされ続ける。<スキーモ>であった時、クララもスラウブと同様に戦いの指導は受けていたが、クロスボウや弓矢を使った狙撃手として戦闘に参加していた。ゆえにクララは、スラウブよりも戦い方が大味であった。

 ダニーが、クララの腹部にジャブを放つ。


「うっ……!」


 続けざまにダニーがクララの顔面に拳を放つと、再びクララが吹っ飛んだ。

 ダニーの拳が鼻に入ったようで、クララの鼻から血が流れ落ちた。


「クララ! よせ! やめろ!」


 筋骨隆々の狼男に押さえつけれたスラウブが悲痛の声を上げる。


「そんなもんかい? 兄貴と一緒に、ここに住みたいんじゃないのかい? あたしが最初の登竜門代わりに生み出したゴーレムを簡単に倒したのだろう? ならば、その力を見せてみな!」


 冷たく突き放すようにダニーが言う。ペルーア王国の門の前にいた砂岩の魔物ゴーレム――どうやら、このペルーア王国の試験官ダニーが生み出したものらしい。

 殴られた痛みが、クララの身に響く。


 ――どうしよう……このままじゃ……。


 血が流れ落ちる鼻を押さえながら、クララは焦りを感じる。

 ダニーは戦い慣れている感じで、とても肉弾戦でクララが敵う相手ではなさそうだ。


 ――やはり……私は弱いままなのかしら……。


 己の肉体のみで戦うというのは、クララにとってやはり厳しいようであった。


 ――兄さん……ごめん……私は……ここに住めそうもない……。


 クララはうなだれているスラウブの方に目をやる。


 ――助けてよ……誰か……。


 クララが絶望に打ちのめされていた、その時であった。


〝大丈夫だよ。真っ向からいってダメなら、工夫してみな。クララなら、できるよ〟


 誰かの声が、クララの頭の中に響いた。


 ――え……?


 聞き覚えのある声であった。

 クララが横を見る。そこにいたのは――。


「ジュディー……?」


 ブロンドの髪のきれいな顔をした少女――クララが、魔法を学んだチェルビュイの学校『フォースク』で出会った、友人である少女。


「どうして……ここに……?」


 ジュディーは、霊体の姿をしていた。


〝もうすぐ、私は天国に行くの。その前に、クララが心配で見に来たのよ〟


 ジュディーの霊体が天使のような笑顔を見せる。その笑顔は、『フォースク』で出会った時と同じであった。


「ジュディー……ごめん……ごめん……私のせいで……」


 クララが震える声でジュディーの霊体に手を伸ばす。


「情けないねぇ、もうあきらめるのかい?」


 涙を流し、不思議な動きをしているクララを見て、ダニーが再び冷たく突き放すように言った。


〝頑張って。クララならできるよ。この素敵な場所で落ち着いたら、またチェルビュイに来てね〟


 ジュディーの霊体が、徐々に薄くなっていく。


「ジュディー……?」


〝じゃあね、クララ。バイバイ!〟


「ジュディー……ジュディー……!」


 そうして、ジュディーの霊体が完全に去っていった。


「おいおい、さっきの勝負みたいに楽しませてくれよ!」

「そんなんじゃ、ここには住めないぜ!」

「頑張ってよ、クララ!」


 心の中で亡き親友に別れを告げ、大観衆のヤジに応えるかのようにクララが立ち上がる。


「……ありがとう、ジュディー……私は……あきらめない!」


 クララは流れ出る鼻血を氷で固め、それを取り払った。


「そうこなくっちゃ!」


 そんなクララを見て、ダニーが構える。ところが、クララは背中を向け、ダニーとは反対側に蹴りを放つように右脚を前に出した。


「……何やってんの?」


 ダニーが怪訝そうな顔をする。


「工夫――するのよ」


 すると、背中を向けているクララがダニーに急接近したかと思うと、目にもとまらぬ速さで急回転し、前に出した右脚がダニーの左頬に直撃する。


「ぐふっ……!」


 ダニーが、右方向に派手に吹っ飛んだ――。

 大観衆が大歓声を上げる。ブルートも、クララの思わぬ戦い方に驚きの表情を見せた。

 ダニーが左頬を押さえながら立ち上がる。


「……やるじゃない。完全に意表を突かれたわ」


 クララとダニーが向かい合い、戦闘の構えを見せる。

 そして、互いに自身の身に再び風をまとった。


「だけど――今度はそうはいかないわよ!」


 ダニーがクララに突っ込む。すると今度は、急にクララが宙で体を水平にしてうつ伏せ姿勢になったかと思うと、いきなりダニーの腹部目がけ、高速で頭で突っ込んできた。


 ――何それ……! ウソでしょ……!


 あわてて腹部をかばおうとするが間に合わず、砲弾のようなクララの頭突きがダニーの腹部を直撃する。


「うっ……!」


 クララが体勢をもとに戻し、大振りの拳を繰り出す。ダニーはなんとかそれをかわしていく。ところが急にクララが間合いを離して背中を向けたかと思うと、目にもとまらぬ速さで背中向きにダニーに突っ込み、後ろ方向の肘打ちを放つ。それが、ダニーの右目に当たる。


「っつ……!」


 ダニーがクララの変則な動きに翻弄されていく。


 ――何この女、急に……動きが読めない……!


 極太の腕と脚、分厚い体でパワフルな肉弾戦を行っていたスラウブとターナーとは対照的な、なびく風のような動きで軽やかに戦うクララとダニーの肉弾戦に、大観衆が再び酔いしれる。


「いいぞ、二人とも!」

「すげぇ動きだぜ、クララ!」

「魔法使いサイコー!」


 焦るダニーが果敢にクララに攻めていった。だが、今度はクララが華麗にダニーの攻撃をかわしていく。それならばとクララの真似をしてダニーが変則的な動きで攻めるが、クララに読まれてかわされていく。

 突然クララが、宙で体を垂直に反転させ、右脚を前に突き出す。


「え……?」


 またしても予想だにしない動きをしたクララが、ダニーに高速で突っ込んでくる。そしてクララの突き出した右脚がダニーの顔面にもろに入った。


「ぶはっ……!」


 ダニーが後頭部を地面に強打する。そこに――。


「我が骨よ、岩石の如く硬化し、我にこの地に住まう資格を与えたまえ」


 拳を握り、詠唱しながら追い打ちをかけようとするクララが。


 ――骨……? 岩石……?


 倒れるダニーの顔面に、クララの拳が迫ったその時。


「待った! 降参だ!」


 ダニーが手を前に広げて叫ぶ。クララは動きを止めた。

 その瞬間、大観衆の大歓声が一斉に沸き上がる。

 ブルートも立ち上がり、クララに拍手を送った。


「勝負ありだ! 見事だ、クララよ! そなたを――ペルーア王国に受け入れよう!」 


 クララはブルートの方を見上げ、しばらく呆然と立ち尽くした後、右目が腫れ、鼻血を出すダニーの方に手を差し伸べた。

 

「大丈夫?」


 ダニーがクララの手を掴み、立ち上がる。


「……やるね、あんた。そんなに魔法を意のままに操れる奴、初めて見たよ」

「あなたは、どうしてチェルビュイからここに?」

「……退屈だったのさ、チェルビュイが」

「退屈だった……?」

「ああ、そうだ……よかったな。ここに住めるようになって」


 そう言い残し、ダニーはフィールドから去っていった。クララがその背中を見つめ続ける。


「クララ!」


 声の主はスラウブだ。クララはスラウブの方を振り向き、一目散に駆けていった。


「兄さん!」


 タックルするかのような勢いで来たクララと、それをがっしりと受け止めたスラウブが抱き合う。


「よかった! よかった!」


 涙声のスラウブがクララの頭をなでた。


「兄さん、ケガ大丈夫?」

「ああ、全然平気だよ」

「治してあげるよ」


 言ってクララがスラウブの体に手を当てて回復魔法を行う。


「俺はいいから、お前が自分を」

「いいから、動かないで」


 すると、スラウブの体中のあざが消え、左目の腫れも引いていった。


「魔法ってすげぇな……」


 そばにいた筋骨隆々の狼男が感嘆の声を上げる。


「そうだろ? 俺の自慢の妹にして、凄腕の魔法使いだ」

「もう、なんなのよ」

「俺は試験官を倒せなかったが、こいつは試験官をぶちのめしてみせたんだぜ?」

「たまたまだって」 


 自慢気に言うスラウブに、クララが照れくさそうに言った。


「いずれにせよ、おめでとう。お前らは今日から――ペルーア王国の住民だ」


        ◆


 その日の夜。ペルーア王国の居住試験が終わり、再び食事が提供された後で、スラウブとクララはずっと付きまとわれていた筋骨隆々の狼男とトカゲ女に案内され、ペルーア王国のとある一画に建った家にやってきた。

 素朴な作りの砂岩の家だが二階建てで風通しが良く、厨房や屋外の水浴び場もあり、やわらかいベッドも二人分ある。生活に必要な水は、水汲み場から家にある貯水槽に必要な分だけ貯めて使う制度らしい。


「いい家じゃない!」

「そうだな」


 チェルビュイからペルーア王国までやってくる間の五日間、野宿であった二人にとっては豪邸に等しかった。


「今日はゆっくり休め」

「お前たちの処遇については明日の昼頃に伝達する」


 筋骨隆々の狼男とトカゲ女はそれだけ言い残し、ようやくスラウブとクララのもとを去っていった。

 

「完全に落ち着くまでは、もう少しかかりそうだな」

「そうね」


 これからここで生活していかなければならない。今日から我が家となるこの場所を整えていく必要があるし、筋骨隆々の狼男とトカゲ女に言われた処遇とやらもどういうものになるのか気になる。


「どうしようか?」

「せっかく水浴び場があるから、湯を沸かしてつかりたいぜ」


 二人とも居住試験での傷はクララの回復魔法によって癒したが、体も汚れているし、精神的な疲労という意味ではもうくたくたであった。


「一緒に入ろうよ」

「あ? ああ……」


 そう言ってクララはスラウブの手を引っ張り、共に屋外の水浴び場へと向かった。

 


「父さんのこと、言わなくていいのかな?」

「言う必要……ないんじゃないか……?」

「そうね……」

「それにしても、今のペルーア王国の王とか言ってるあいつ――まともな奴にはあまり見えないんだが……」

「確かにね……」


 浴槽に共に入ったスラウブとクララはそんな話をしていた。湯はクララの火の魔法であっという間に沸き上がった。魔法は戦う時だけでなく、こういった時にも非常に便利である。

 ペルーア王国は暑い昼間とは違って夜は涼しく、湯の外に出している体の部分に当たる風は心地がいい。

 スラウブはふと、ターナーに言われたことを思い出した。


〝おそらくお前は――<ルーク>の一員になるだろう〟


 定期的に行われる高い賞金を懸けた戦い『コベラム』に参加する闘技場の戦士でもあり、ペルーア王国を守る兵士でもあるという<ルーク>――。

 だがスラウブは、もう戦うことはしたくなかった。


「でもこれでやっと――安泰を得られるんだよな?」

「当たり前じゃない。ここまでずっと――苦労してきたんだもの」

「そう……だよな」

「お風呂気持ちいいね、ホント」

「ああ。ここは天国だな」


 スラウブの言う〝天国〟にいながらも、二人はどこか心の奥底にあるもやもやが拭い切れなかった。

 そうして湯につかり、疲れを癒した二人は、二階にある久しぶりのベッドで互いに身を寄せ合い、眠りにつくのであった。

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