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【想い】の虚像 《__漫画化しました__》  作者: 影浦ねこぼ
第二章

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第十四話 ペルーア王国 ~前編~

 スラウブとクララは、ついに父親の故郷であるペルーア王国の中に足を踏み入れることに成功した。両手を後ろに組まされ、縛られた状態で――。前方の筋骨隆々の狼男と、後ろの筋骨隆々のトカゲ女と弓を構えた筋肉質な男女に挟まれ、どこかへ連れていかれている。

 行き交うペルーア王国の人々は、男は上半身裸で剣闘士のような格好をしている者ばかりで、女も露出度の高い衣装に身を包んだ剣闘士のような格好をしている者ばかりだ。男女ともいかにも強靭そうな見た目をした荒くれ者ばかりといった印象で、チェルビュイとは正反対な印象であった。特に異質だったのは、ところどころで子供たちが腕立て伏せや腹筋や背筋といった筋トレを行っていたり、決闘ごっこのようなことをしている光景だった。

 そんなペルーア王国の人々に、スラウブとクララは怪訝な顔を浮かべる。

 しかしながら太陽の光によって照らされ、黄金の輝きを放つペルーア王国の街中の砂岩でできた建物はどれも凝った装飾が施されていて、極彩色の花で彩られており、芸術性が高く、見ていて飽きなかった。砂岩の外壁によって囲まれたペルーア王国の中央、丘の上では、砂岩城といった感じの豪華絢爛で圧倒的な建築物がそびえ立っている。


「ここも、すごくきれいな所ね」

「お前なぁ……」


 クララの自分たちが置かれている状況に似つかわしくない発言に、スラウブが呆れた声を出す。

 広大な路地、街中に張り巡らされた水路の途中にある大きな水汲み場、一際存在感を放ち見る者を圧倒する巨大な闘技場などを通って、やがてスラウブとクララは遠方に見えていた砂岩城にたどり着いた。


「お前たちをペルーア王国の王、ブルート様のもとで調べさせてもらう」


 屈強な見た目の警備兵二人に挟まれた、見るからに重厚そうな入口の扉を片手で開けた筋骨隆々の狼男が、中へと入っていく。


 ――ペルーア王国の王、ブルート……。


 スラウブが砂岩城の中を見渡す。

 この中で(いくさ)でもするのかと言いたくなるほど縦横に広い空間、根性と気合で作り上げたような天井や壁に柱や窓枠といったところの細かすぎる彫刻――外観だけでなく、内観にも圧倒されながら、スラウブとクララたちは進んでいった。

 奥には、砂岩城に入る全ての者を待ち構えるかのようにそびえ立つ、金で作られた巨大な炎の獅子王ファルートの像がある。その下に、どっしりと玉座に居座る巨漢の姿が――。

 おそらく、あの巨漢が現ペルーア王国の王、ブルートなのであろう。


「ブルート様、我らのペルーア王国に住まわせてほしいと申し上げる者たちを連れてまいりました」


 筋骨隆々の狼男がブルートの前で片膝をついた。


「ひざまずけ!」


 筋骨隆々のトカゲ女が両手の曲剣の刃を横にしてスラウブとクララの肩を押し下げ、二人をひざまずかせると、自身もひざまずき、筋肉質な男女も弓を下ろしてひざまずいた。

 そして――。


「顔を上げよ」


 体の芯まで響いてくるような低音の声に、スラウブとクララが顔を上げる。

 堂々とした姿で横に寝そべる立派なたてがみの獅子を模した黄金の玉座に居座る、褐色肌のスキンヘッドででっぷりとした体つきの男――ネックレスや腕輪、足首につけたアクセサリーはまぶしいほどに輝く金でできており、腰布につけたアクセサリーも金や宝石で彩られている。


「お主ら、一体何者だ? ここへ何をしに来た?」 


 スラウブや筋骨隆々の狼男よりも一回り大きいブルートは、すさまじい威圧感を放っていた。


「嘘偽りなく、正直に述べろ。さもなければ、二人ともここで首を落とす」


 筋骨隆々の狼男に斧の刃を首に向けられたところで、スラウブがゆっくりと口を開き、ここまでのいきさつを話し始めた。




【幕間 自尊心を捨てて】




 城塞国家で宗教国家ベルテクスの教皇ジョナは、会合の真っ最中であった。


「失礼いたします、ジョナ様。至急ジョナ様にお会いしたいと申し上げる客人がお見えになっているのですが……」


 突然のベルテクス騎士団の騎士による乱入に、ジョナは声を荒らげる。


「何を考えておるのだ!? 今、重要な会合の最中であるぞ!」

「それが……客人というのが……」

「……なんだ?」


 騎士の様子がなんだかおかしい。


「私だよ、ジョナ」


 と、そこに現れたのは、トルオス王国の独裁者プラウルであった――。しかも自身の専属エリート騎士である<セレッサ>が複数そばにいる。


「プ……プラウル……なぜここに……?」


 ジョナとそこにいた者たちが慄いた。


「安心しろ、(いくさ)に来たのではない。話をしに来たのだ」

「話だと……?」

「そうだ、話だ」


 宗教国家ベルテクスとトルオス王国は、互いにたびたび(いくさ)を繰り広げていた。

 トルオス王国の北西にある宗教国家ベルテクスには、この地で発見された古の魔物――ドラゴンの白亜色の亡骸が保管されている。ドラゴンを全ての生の頂点に立つ神として崇めており、その神が宿るこの地こそが世界を統べるにふさわしく、その資格があるという教えがここ宗教国家ベルテクスには広まっている。

 ベルテクス騎士団の騎士団長は、ドラゴンの亡骸から四年に一度滴り落ちるというドラゴンの血を飲み、その体にドラゴンの力を宿した驚異的な身体能力を誇る【選ばれし者】として戦いを率いる。トルオス王国はその【選ばれし者】を徹底的に打ち倒すことを戦略の重点としていた。

 国を栄えさせる力を民に宿し、世界を支配していくという考え方を抱く近隣のトルオス王国――独裁者プラウルによる政権になり、それから間もなく始まった両者の戦いの中で敗れた宗教国家ベルテクスは、今のトルオス王国と同じく兵力を大きく減らし、国力が衰退していた。

 今では宗教国家ベルテクスは、自国を守る力しか残されていなかったのである。


「私には……世界を統べる資格がなかった」


 突然出てきた独裁者プラウルの意外な言葉に、教皇ジョナが驚きの顔を見せる。


「と言うと……?」

「トルオス王国を――宗教国家ベルテクスの一部としていきたいのだ」

「――!」


 その場にいた全員が固まった。独裁者プラウルのそばにいる<セレッサ>たちさえも。


「何を言っているのだ……?」


 愕然とする教皇ジョナに、独裁者プラウルがゆっくりと口を開く。


「つい先日、失敗したのだ。魔法国家チェルビュイの侵略に――」


 独裁者プラウルが疑心暗鬼な様子の教皇ジョナの目を真っすぐに見据える。


「確実な兵力で、特別なる力で、私の亡き父上の願望を叶えるべく挑んだにもかかわらず、だ。きっとそれは――神のお告げだったのだ。私という存在のありかたが間違っていたことを。全ての生の頂点に立つ神であるドラゴンが眠るこの偉大なる地、宗教国家ベルテクスの偉大なる指導者である教皇ジョナよ。私は――そなたのもとで、そなたとともに、世界をあるべき形にしていくために存在するのだ。そしてトルオス王国は、そなたとともにあるべきであったのだ」


 その場にいた全員が、不思議な魔法にでもかけられていたかのようであった。


「教皇ジョナよ、案内していただけないだろうか? 神のもとへ。全ての生の頂点に立つ、ドラゴンが眠る場所へ――」




        ◇◇◇


「はっはっはっはっはっ! たいしたタマだ!」


 現在のペルーア王国の王、ブルートが高らかに笑い声を上げた。


「妹の病を治すために、あのプラウルの【指輪】を盗んで換金し、その《エリクサー》とやらを買って妹を治したと! その後、追ってきたプラウルの部下どもを皆殺しにして、逃亡生活が始まったと!」


 面白おかしそうに笑うブルートに、スラウブがやや不機嫌そうな顔を浮かべる。


「妹は兄に借りを返すために、チェルビュイで魔法を覚えたと!」


 クララも、スラウブと同じような顔を浮かべた。


「はっはっはっはっはっ! 面白い! なんとも興味深い奴らだ!」


 スラウブとクララに付いている四人も、面白おかしそうに笑っている。

 まぁ、改めて口に出してみれば、なんともすさまじい話ではあるなとスラウブは思った。


「作り話じゃないんだ。信じてくれ」


 そこでスラウブが真剣そうに言う。まだ、自分たちの父親のことは話していない。


「もちろん、信じるとも! 見せてみろ! その【指輪】とやらを!」


 ブルートが手招きの仕草でスラウブに【指輪】を見せるように促す。


「【指輪】はどこだ?」

「荷袋の中に……」


 筋骨隆々の狼男が首に向けた斧の刃の圧力が強まり、スラウブは【指輪】の居場所を教えた。筋骨隆々のトカゲ女がスラウブとクララの前で荷袋を逆さにして中身を全部出す。すると、その中に一際輝きを放つものが――。

 

「これでは……ないでしょうか?」


 筋骨隆々のトカゲ女が、震える手で【指輪】をブルートに手渡した。


「おおおおお!」


 ブルートが感嘆の声を上げる。指で掴みながら、様々な角度から【指輪】を食い入るように眺める。鼻息荒く、不気味な満面の笑みを浮かべている。その様子に、スラウブとクララはなんだか恐ろしさすら感じていた。


「……素晴らしい! ほら、返してやれ」


 ブルートが筋骨隆々のトカゲ女に【指輪】を手渡し、それがスラウブとクララのもとに戻る。


「いいだろう! ペルーア王国に住まわせてやる!」


 ブルートの言葉に、スラウブとクララは呆気にとられたような顔になった。


「ただし、ペルーア王国に居住するための試験を受け、それに合格したらだ。二人ともな!」

「試験――?」

「試験――?」


 スラウブとクララが顔を見合わせる。


「戦ってもらうぞ、我がペルーア王国の試験官たちとな。『強き者こそが正しき秩序を生み出す』。証明してみせろ、お主らが、我がペルーア王国に住まうにふさわしいことを」


 亡きフィオナが言っていたことは本当のようだ。豊かではあるが、厳しい環境――強さを見せなければ、ここペルーア王国に住むことは許されないらしい。


「闘技場へ連れていけ。楽しみにしておるぞ、二人とも」


        ◆

 

 スラウブとクララは砂岩城への途中で目にしていた、闘技場に連れてこられていた。そこで肉料理を中心とした食事と冷たい水が振る舞われた。


「これは助かるな」

「まぁ……そうね」


 ペルーア王国への道が過酷だっただけに、このおもてなしには二人とも素直にありがたい気持ちになった。だが、この後に控えているペルーア王国の居住試験とかいう戦いには不安しかない。しかも、その居住試験を乗り越えなければペルーア王国に住めず、仕切り直しとなってしまう。

 

「おい、そろそろ始まるぞ。お前はこっちに来い」

「あんたはこっちだよ」


 気持ちを落ち着かせていた二人のところに、筋骨隆々の狼男と筋骨隆々のトカゲ女がやってきた。

 筋骨隆々の狼男がスラウブを、筋骨隆々のトカゲ女はクララを手招きする。


「身につけているものを全部脱げ。これに着替えてもらう」


 控室のような場所でスラウブが筋骨隆々の狼男に見せられたものは、ぼろ布であった。


「それは?」

「いいから全部脱ぐんだ!」


 筋骨隆々の狼男に急かされ、スラウブは渋々ベルトを巻いた腰布、籠手にすね当て、下着といった身につけているものを全て外した。すると、筋骨隆々の狼男がぼろ布をスラウブの局部や尻、腰回りに巻き付ける。

 スラウブは、ほぼ全裸に近い締め込み姿になった。


「よし、ついてこい」


 控室からの長い廊下をスラウブは筋骨隆々の狼男と共に歩く。

 やがて、大観衆が待ち受ける闘技場の広大なフィールド前にやってきた。


「武器はなしで、ペルーア王国の試験官を倒してこい。行け!」


 筋骨隆々の狼男に促され、スラウブは重い足取りで闘技場のフィールドの真ん中に立った。

 まだ、ペルーア王国の試験官とやらはいない。


 ――クララは? 俺と一緒に戦うんじゃないのか?


 どうやら、クララはクララで、別にペルーア王国の試験官と戦わなければならないらしい。スラウブは、自身は戦いに自信があったが、クララのことが急に心配になってしまった。武器はなしで戦えと言われた。ということは、クララも魔法を使うなということになれば――。

 すると、スラウブの向かい側から、一人の男が現れた。

 坊主頭で、腹から胸にかけて雄々しい体毛を生やしたスラウブと同じくらいの体格の大男だ。スラウブと同じほぼ全裸に近い締め込み姿で、どうやらこの大男がペルーア王国の試験官のようである。

 ふと、スラウブの目に大男の右上腕が映る。獅子の顔をした、焼印のようなもの。次に目に映ったのは、大男の左上腕。

 そこには、蛇が巻き付いているような黒い刺青が――。


「ようこそペルーア王国へ。俺はペルーア王国の試験官、ターナーだ」

「あんた……」


 スラウブが一歩二歩と後ろに下がる。


「皆の者よ! これより、ペルーア王国の居住試験を行う! 紹介しよう! トルオス王国から逃げてきたと言う元労働者兼兵士としての奴隷<スキーモ>、スラウブだ!」


 闘技場には、ブルートが来ているようだ。大観衆への声が闘技場に響き渡る。


「妹の病を治すために、あのプラウルの【指輪】を盗んで換金し、《エリクサー》という超高級薬を買って妹を治した! その後、追ってきたプラウルの部下どもを皆殺しにして、ここまで逃げてきたという超大物だぞ!」


 大観衆が大歓声を上げる。


「歓迎するぜ、スラウブ!」

「お前の力見せてみろよ、スラウブ!」

「あたしにもその【指輪】見せてちょうだい!」


 ブルートによる紹介で、スラウブはすっかり大観衆の心を掴んだようだ。

 スラウブが、試験官でターナーと名乗る大男の左上腕にくぎ付けになる。


「その腕……あんたまさか……」

「そう、俺は――元<スキーモ>だ」




【続く……】

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