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【想い】の虚像 《__漫画化しました__》  作者: 影浦ねこぼ
第一章

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第十一話 あなたのために ~前編~

 気が付くと、スラウブの体は切り傷だらけになっていた。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 ナバロとの激しい剣の応酬で息が切れ、体中に刻まれた切り傷の痛みが身にしみていく。


「さすがに私の教え子なだけのことはある。<スキーモ>は使い捨ての駒だが、そこらの兵士どもとは剣さばきが違うし、根性もある」


 両手の炎の大剣で身構えるスラウブの周りをナバロが歩きながら言う。


「貴様が軟弱者ではなかったことだけが、子供たちにとって唯一の救いだったようだ」


 ナバロが黒いオーラをまとった剣を構える。


 ――またあの翼で突っ込んでくる気だ。流れを変えないと……このままじゃまずい……。


 ずっと、ナバロの攻めをスラウブが受けて戦う形になっていたが、ナバロの実力もあり、このままでは自身がなぶり殺しになるだけであった。戦いの流れを変え、ナバロの形を乱す必要がありそうであった。

 

「うおおお!」


 今度は風をまとったスラウブが高速で突っ込み、攻撃を仕掛ける。

 斬撃のぶつかり合いの中で、急に横に間合いを取ったり、剣の振り上げと見せかけての突き攻撃を繰り出したりと、スラウブは変化をつけてナバロを惑わす。

 だが、スラウブに(いくさ)を教え、トルオス王国の独裁者プラウル専属のエリート騎士<セレッサ>の長であるナバロには、そのような小技も通用しなかった。


「無駄だ」

 

 今度はナバロの剣の振り上げと見せかけての突き攻撃に、スラウブの頬に傷が入った。


「っつ……!」


 あわててスラウブが間合いを取る。


「さぁ、あとどのくらい持つかな?」


 余裕たっぷりのナバロが凍てついた表情で微笑んだ。

 

 ――クソ……!


 実力の差は明らかであった。しかも、ナバロにも謎の魔法の効果が付与されているせいで、今のスラウブには、クララとフィオナが与えてくれた補助魔法の効果がない状態に等しかった。


「お前……どこで魔法を?」

「これか? いいだろう、教えてやる。これはだな、偉大なるプラウル様の愛娘であるナタリア様が、私に授けてくださった力だ」

「プラウルの娘……? 奴に……娘がいたのか……?」

「そうだ。ナタリア様はトルオス王国の繁栄のため、より明るい未来のために、トルオス城に籠り、魔法を習得されていたのだ。チェルビュイの奴らが使う魔法とは違う、黒魔法をな。貴様のその腕に刻まれている<スキーモ>の印も、ナタリア様が黒魔法によって刻まれたものだ」

「何……!?」


 スラウブが戦慄する。プラウルに娘がいたことも、黒魔法のことも知らなかった。


「その無駄にデカい体のおかげで、貴様は丈夫みたいだな。その分、私は貴様の身に愛する子供たちの無念を刻むことができてうれしいよ」


 ナバロの言葉に、ある考えがスラウブの頭に浮かび上がった。


 ――こうなったら、なりふり構わずだ……! 力なら、俺の方が上のはず……!


 スラウブは急にうつろな表情でふらついたような足取りになり、ゆっくりとナバロに近づく。


「だが、いよいよ限界が来たようだな。いいだろう。偉大なるプラウル様の【指輪】を盗んだこと、そして私の愛する三人の子供たちを殺めた罪により――貴様を処刑する!」


 ナバロがとどめを刺すべく剣を構えた、その時であった。

 スラウブがまたも急な動きで、炎の大剣をブーメランのように投げつける。


「うぉっ……!?」


 スラウブの予想外の動きに、ナバロがあわてて炎の大剣を剣ではじいた。

 とそこへ、スラウブが急接近し、腕の籠手でナバロの剣を強引に外側に押しやる。そしてスラウブは、無理やりナバロの顔に頭突きを叩き込んだ。


「ぐぉっ!」


 ナバロがひるんだところで、スラウブはさらに顔面に張り手を叩き込んだ。後方にナバロが吹っ飛ぶ。

 

「ぐふっ……! 貴様……!」


 ナバロが翼を羽ばたかせ、スラウブからなんとか間合いを取り、態勢を立て直す。ナバロの鼻は骨が折れ、血が出ていた。


「愛する者のためなら、どんな手を使ってでも……!」


 スラウブがはじかれた炎の大剣を拾い、ナバロに突っ込む。

 片手で炎の大剣をやみくもに振り回したり、剣の応酬の途中で拳を突き出したり蹴りを入れたりと、スラウブの戦い方は、賊のようになっていた。


「何が愛する者のためにだ、この外道の極みがぁぁぁ!」


 ナバロが叫んだところで、スラウブは再び炎の大剣を投げつけた。ナバロが炎の大剣をはじいたところで、スラウブがまたしても急接近する。

 だが、今度はナバロが翼を前に羽ばたかせ、風の黒魔法でスラウブの動きを止めた。


「くっ……!」


 スラウブが、後ろによろめいた。


 そして――。


「ぐはっ……!」


 ナバロが、スラウブに黒いオーラをまとった剣を突き刺す――。


「――ここまでだ」


 スラウブはナバロの剣が自身の体を突き抜けているのを感じた。


 ――クララ……。


 激痛と遠のいていく意識の中で頭に浮かんだのは、トルオス王国の貧困地区『バッソナ』で生まれ育ち、家族のために盗みをして捕まり、労働者兼兵士としての奴隷<スキーモ>として長い刑期を過ごすという同じ境遇の中で共に生きてきた、愛するクララの姿であった。


 ――俺はもういい……だがせめて……刺し違えてでも……こいつをなんとかしないと……。


 スラウブはナバロの剣を抜こうとする。だが、力が入らなかった。


「あきらめろ。黒魔法は、いかなるものであろうと元には戻せない。つまり、貴様の傷、そして貴様の死は――もう変えられないのだ」


 最後の力を振り絞るスラウブを突き放すようにしてナバロが言う。


「……俺のことはいいんだ。だが……貴様を……道連れにしてやるまでは……死ねない……」

「無駄だ、あきらめろ。安心しろ、ちゃんと見届けてやる。貴様が死にゆくところをな」


 スラウブは剣が突き刺さったまま、前にも後ろにも動けなかった。ナバロが剣をスラウブが動けないように固定しているためだ。このままではナバロが言う通り、ただ自身が死にゆくまで待つしかない状態であった。しかしもう、スラウブにはどうすることもできなかった。

 

 ――クララ……すまない……生き延びてくれ……。


 スラウブがあきらめかけた、その時であった――。

 ナバロは何かが急速で自身に向かってくるのを感じ、スラウブに突き刺していた剣を抜き、後方へ羽ばたく。

 ナバロの目の前を、氷の塊が通り過ぎる。


「なんだ!?」


 ナバロの視線の先に、こちらへ向かってくるブロンドの髪の美しい女がいた。


「スラウブー!」


 叫びながら、仰向けに倒れているスラウブにクララが駆け寄る。

 スラウブは体中切り傷だらけで、腹部からは血があふれ出ていた。


「今治すから、待ってて」


 冷静な声で、クララがスラウブの体に手を当てる。スラウブの体が、紺碧に光った。


「俺はいいから……早く逃げろ……こいつは……かなりヤバい……」


 スラウブが血を吐きながら、クララに逃げるように促す。


「そんなこと、するわけないでしょ!」


 クララは集中し、【想い】を込める。


「凶悪犯の連れの女か」


 必死にスラウブに回復魔法をかけるクララを見つめながら、ナバロがつぶやいた。


「まさか、ナタリア様が……」


 ナバロとナタリアは、黒いオーラをまとった翼で上空から指名手配犯であるスラウブとクララを探していた。スラウブとクララが二手に分かれてトルオス王国軍兵士を排除していたのを機に、それぞれの対象の所に下り立っていたのだ。


「無駄だ。この剣にまとわれている黒魔法というものは、いかなるものであろうと元には戻せないのだ。つまりその男が受けた傷は、元には戻らないのだ」


 クララがナタリアに言われた言葉を思い出す。


「そんな……まさか……」


 フィオナの時と、同じであった。いくら回復魔法にありったけの【想い】を込めても、スラウブの傷だらけの姿は、何も変わることはなかった――。


「いや……いやよ……フィオナやジュディーだけじゃなくて、あなたまで……」

「フィオナが……?」


 スラウブが自身の体に置かれたクララの手をどけようとする。


「クララ……逃げるんだ……早く」

「いや……絶対に、いや……」

 

 クララの顔は、涙でぐしゃぐしゃになっていた。


「頼む……クララは……何も関係ないんだ……彼女は……見逃してやってくれ……」


 スラウブは声を絞り、ナバロに懇願した。


「それは無理な相談だな。その女も、貴様と共に逃亡し、ナタリア様を(あや)めた。貴様と同様、この場で処刑されるべきなのだ」


 ナバロが突き放すように言う。


「貴様は私に、子供たちに別れを言う時間もくれなかった。だが――私は、その女に別れを言う時間をやろう。女にも、その男に別れを言う時間をくれてやる。それが、せめてもの情けだ。<スキーモ>ども」


 言ってナバロは、スラウブとクララの周りをぐるぐると歩き始めた。


「スラウブ、あなたがやったことは……確かに許されることじゃない。でも……感謝してる。本当に感謝しているわ。これまでのこと、全てに。あなたと出会えたから、<スキーモ>の苦しみも乗り越えられた。あなたと出会えたから、あの景色も美しく感じられた。あなたと出会えたから、おいしいスープが食べられた。あなたと出会えたから、病気も乗り越えられた。あなたと出会えたから、心から楽しかった。あなたと出会えたから、ここまで来れた」


 スラウブはもう、虫の息であった。


「あなたを……愛してる。心から――」


 スラウブが、動かなくなった――。


「お願い……母さん、父さん。力を貸して――!」


 クララが叫び、スラウブの体に両手をいっぱいに広げる。


 すると――。


 スラウブの体が、猛火の如く強烈な赤色――紅蓮(ぐれん)の炎によって包まれていく。


「なんだ……!?」


 辺りをすさまじい衝撃波が襲う。ナバロは目の前を両手で防いだ。


「うおっ……!」


 やがて衝撃波がおさまり、ナバロが目の前の両手をどけると、そこには――。


「こ……こいつは……!?」


 まるで血管のように体中に炎を張り巡らせ、筋骨隆々とした分厚い肉体に、燃え盛る立派なたてがみを生やした獅子の獣人の姿が、ナバロの目に映った。

 クララがゆっくりと立ち上がり、獅子の獣人に向かって力強く叫ぶ。


「炎の獅子王ファルートよ、我が愛する者にその魂を与え、あの者を打ち倒す力を与えたまえ!」




【続く……】

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