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9 金色カラスの楽しい任務(ミレッタ視点)


子供のころの私は常に退屈していた。



そこそこの領地がある。

そこそこの税収がある。

そこそこの裕福な子爵家で生まれた私は生まれた。



そして私は子供のころから何かとうまく物事が運べた。



見目もそこそこ恵まれた私は、自分の表情と発言方法である程度のことは、なんでもうまく進ませることができたからだ。




しかしなんでも、そこそこで過ごせていた私は、公爵様の縁戚ということで5歳の時に公爵夫妻に見込まれてカラスになることにしたのだ。



そこそこも良いがもう退屈していたのだろう。

それからはカラスとなるべく体術なども学んだがやはりそれもそこそこで、12歳の時カラスであることに限界を感じていた。




ある日、夫人に呼び出され、その日から夫人直々にご指導されることに決まった。


私が今まで、そこそこうまく物事を運んでいた表情と会話技術の頂点を見た。



そこからは夫人からすべてを吸収するべく、ある時はメイドだったり、知り合いの子供だったりいろいろな役をこなしながら夫人に付き添っていた。




そんなある日、学園で新たな任務を任されることになった。

マリア伯爵令嬢の素行調査である。

最初は本当に退屈だった。


幼馴染のアーロンとも情報共有をしながらの任務。


ジョエル様に付きまとい、周囲に実は自分がジョエル様の想い人であるように吹聴する勘違い令嬢だと思っていた。




そこから状況が変わったのはジョエル様が、取り巻きとは別に昼食をとるようになった時だった。


周囲は婚約者同士で昼食をとるようになったと噂をはじめた。



それまでは

「アイラ様は令嬢の鑑だが王子妃としてはいささか」

「ジョエル様もご興味はない様子」

そういう噂があった。


そのためマリア嬢を含め、他の令嬢もまだチャンスはあるとばかりにジョエル様にアプローチしていた。

しかし、お二人で昼食をとられていることが明らかになってからは状況が変わってきた。




今までアプローチしていた令嬢の中には、やはり令嬢の鑑にはかなわないと手をひく者もいた。

しかし中にはまだ執念深く、様子見をしている令嬢もいる。



そこから常軌を逸して行動に出るものがいた。

それがマリア嬢だった。


さりげなく後をつけ様子を見ていると、最初はアイラ様の私物を隠したり、虫を入れたりと小さなものだった。

もちろん隠されたものは私が回収しもとに戻していた。


虫だけは私も無理だったのだが、アイラ様は無反応に毎回窓からぽいっと虫をなげていた……。



そんな小手先の嫌がらせが通用しないことがわかると、どんどん過激になってきた。

最初はマリア嬢の取り巻きの令嬢が、転んだふりをしてアイラ嬢に体当たりしていた。


そのたびにアイラ様は自身の身体能力を活かして令嬢たちがけがをしないように抱き留める。


そして

「大丈夫ですか? お嬢様」

とあのクールな視線で令嬢を射貫く……。



結果、令嬢たちはことごとくアイラ様に落とされる。

今では王子様相手のようにキラキラした視線で頬を染めて見つめる始末である。


こんなことが続けばマリア嬢が過激になることも必然だった。

私は夫人に相談してアイラ様に接触する許可を得た。




アーロンとの情報共有と観察の結果、私はアイラ様にものすごく興味を覚えており、友人になることに決めた。


初対面を無難に過ごし、夕刻に約束していた『世間に友人となる違和感のない出会い』をするべくタイミングを見て学園の門にむかった。


躓いたふりをして、あわや噴水に落ちようか。

と思って、男子生徒たちを追い抜かそうとした。

しかしまさか、男子生徒の一人が私にぶつかってくるとは思わなかった。



「大丈夫ですか? お嬢様」


予想外のことだったため、うまく回避できなかった。

これは噴水直行だと思ったところアイラ様に助けられた。



今日、一度出会って会話をしたこともあり、今までであれば無表情で声をかけるアイラ様が、私には少し微笑んでくれていた。


これは落ちる……。



思わぬところで……。

今までの令嬢たちの気持ちを理解してしまった。

それからアイラ様、もといアイラとの友人関係が始まった。




アイラとの初日以降ちょくちょく積極的にアイラとともにするようになって気づいた。


アイラとともにいると、よく上から物が降ってきたり、人がぶつかりそうになるのだ。

それも私ではなくアイラにだ。



アイラは無自覚にそれをすべて回避いているので、ケガも何もないのだが……。

やはり偶然ではありえない。



私は直接アイラに尋ねることにした。

アイラを呼び出し、庭園に向かう途中。

またもや懲りずにマリア嬢が猛スピードダッシュでこちらに向かってきた。


大理石の上でスライディングをかますのか!?

と予備動作に入ったマリア嬢をいつも通り受け止め、ダンスのように向かい合う。


「大丈夫ですか? お嬢様」


いつも通りと言う風に、そう声をかけるアイラにマリア嬢は真っ赤になって走り去っていった。

もうもはやこれをしてもらうために、アイラに突進しているのではないかと思うほどである。




「客観的にこうも間近で見るとものすごい迫力ですわね」


という私に、どういうこと?

と小首をかしげるアイラの姿にギャップのあるかわいらしさを感じた。


庭園のベンチに座り本題を切り出した私にアイラは


「歩いてたら上から鉢植えが落ちてきそうになったのでキャッチしたり、なぜか百科事典が落ちてきたのでこちらもキャッチしたかなあ」



なんともない風に答える。私は頭を抱えた。

この無意識回避能力…



とりあえず奥様にも


『アイラちゃんはぁ、運動神経良すぎて無意識に回避しちゃって受けているはずの嫌がらせに気づかないからね。

絶対に。

ミレッタちゃんが嫌がらせを認識してあげてねぇ。


このまま回避しすぎると相手側はどんどん犯罪がまいなことをしてくると思うからぁ。

そうなってもアイラちゃんは大丈夫だと思うけど。

そんな思いは、する必要がなければしないほうがいいものねぇ』


と言われていた。



とりあえずアイラには嫌がらせを受けている認識がないので、違和感を書き出してもらうことにした。


それを確認して今後のことも夫人のアドバイスを含めて考えることにしようと決めた。









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