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8 アイラの神回避


私がジョエル様と昼食をともにするようになって、数か月が経った。

最近はジョエル様の昼食も私が作っている。



きっかけは公爵夫人との会話。


『アイラちゃん、ジョエル様にも作ってあげれば? 

自分だけ手作りだとジョエル様にも悪いし、同じボックスから食べるのなら毒見も不要よ?』



それもそうだなと思い後日、聞いてみることにした。


「明日は私がジョエル様の分もご準備してもいいでしょうか?」


「そっそれは……。

アイラ嬢の手作りなのだろうか?」



毒見の件かな?

また耳が赤いんだけどまだ体調悪いのかな?

と思いながらも昼食について説明する。



「毒見は必要ないように同じボックスに詰めてくる予定ですが、もし不安なようなら……」


「ぜひ!!

っ……ぜひお願いしたい」




それから今では私が準備している。

ジョエル様が未だに耳が赤くなったり、謎に勢いよく発言されることがある。

まぁ変わりなく過ごしている。




今日はジョエル様と昼食をとった帰りに、小さな東屋に来た。

最近、私の身の回りで何かと変なことが起こるので少々疲れている。



この学園には色々な場所に東屋がある。

私が見つけたこの東屋は長い間、人知れず放置された場所だった。


……にもかかわらず、今日は先客が居るのが見えた。

仕方ないと踵を返そうとした時。



「今日もカラスが飛んでいますね」



仕方ないなと東屋に顔を出す。

すると見事なブロンドウェーブのスタイル抜群の美女がいた。


「初めましてアイラ様。

私、同学年のミレッタと申します」


「初めまして、ミレッタ様」


素直に挨拶を返すと東屋の席に座るように促された。



「唐突で申し訳ないのですが……。

公爵夫人から接触を許されました。

こうしてお目にかかることをお許しくださいませ。

……私とお友達になっていただきませんか?」



突然のことに一瞬戸惑った。

……そう……私は友人がいないのである。

クラスの人や顔見知りとは、ごく普通に挨拶や会話をする。

しかし親しくしている友人はいない。



「あのどういう意味でしょう?」


「疑問に思われるのは当然ですわね。

ご存知のように私もカラスの末端でございます。

お目にかかることはなかったのですが……。

アーロンと同期でございます。


いきなりこのような申し出をいたしましたのは、夫人からアイラ様のお話をお伺いして、是非お友達になりたいと思ったのは前提にあるのです。

そしてアイラ様の近辺で変なことが最近多発しているみたいなので護衛でもございます。


私が護衛するほどではないのは重々承知しているのです。

護衛というより現状把握、犯人特定などのためでございます」


「なるほど」


頷きながら考える。



「お友達というのはどのような関係で、どのようなふるまいをするのでしょう?」


私はそもそも『友人』というものが理解できない。

率直に質問した。



「任務でご友人になりたいわけではないのです。

自然にそのようになれればと思いますわ」


うふふと艶っぽい笑みを浮かべるミレッタ。



「私がお傍に侍ることをお許しいただければ嬉しいですわ。

ひとまず私のことはミレッタとお呼びください。

そして、できれば話方も砕けていただければ」


「うん。わかったわミレッタ。

ミレッタもアイラと呼んで?

話し方も普段通りで」


「ありがとぉ。

アイラ。私この貴族喋り苦手なのよねぇ」


なんとも夫人を彷彿させる喋り方だ。



「あっ今、夫人と似てるって思ったぁ?

それはねぇ、私は夫人に教育を受けたからなのよぉ。

私はまぁ人並みくらいには体術とかできるんだけど。

でも好きではなかったのよねぇ。

結果、夫人に見出していただいて、こちら方面を磨いたの」



こちら方面とは?

なんだろうか……。

まぁ今はいいか。



「でも急に今まで親しくしていた人がいないのに、ミレッタと一緒にいるのは不自然じゃないの?」


「それは任せて。

今日の夕刻にでもきっかけをおこすわぁ。

アイラはそのまま普段のアイラ通りに私に接してね。

いきなり騙したみたいに友人を名乗りたくなかったの。

アイラとは本当に友人になりたかったからぁ」


少しうれしくなり、口角が少し上がってニマニマしてしまう。



「あらあらあら。アイラ可愛い。

うれしいわぁ。仲良くして頂戴」


「こちらこそおねがいします」



ミレッタとの初対面が終わる。

ミレッタの発言どおり、世間的に私達の初対面がその日の夕刻行われた。

もうなんともいえないミレッタの迫真の演技だった。





その内容とは、多数の観客の前で行われた大舞台だった。



帰宅の途に就く多くの学生の中、ミレッタの後ろ姿を見つけた。

特に何も考えず、ミレッタの少し後ろを歩いていた。


すると学園の入り口にある大きな噴水にさしかかったところで、ミレッタがさりげなく前にいる男子学生を追い抜こうとした。


男子学生は友人同士ではしゃいでいた。

ミレッタが男子学生にぶつかってしまい、噴水に落ちそうになってしまう。



反射的に動いてしまった私は、ミレッタの腰を支え窮地を救ったのだ。


そこでお礼を言うミレッタが

「ぜひお友達になってくださいませ」

と言う。



私とミレッタの友人関係は世間的にはここからはじまった。

それからたびたび廊下などで出会った時に話しかけられた。



周囲も友人同士だと認識し始めたころミレッタから

「中庭でお話ししましょう」

と誘われ二人で中庭に向かった。


その途中の道すがら。

最近、見慣れたマリア嬢がものすごい勢いで走ってきた。

まず淑女が猛スピード全力ダッシュというのもどうかと思うのだが……。



そして私のすぐ横で猛然とスライディングをかまそうとする。

さすがにこの大理石の上だと顔面やられるなと考えた。

腕を取り、おなかに手を回し体を支えた。

くるりと反転しダンスのように、腰に手を回し向き合う形になる。



「大丈夫ですか?お嬢様」



声をかけたのにマリア嬢は顔を真っ赤にし

「アワアワ」

と言葉にならない声を発しながら、走り去っていった。




なんだったんだろう……。

と思いながら、頬に手を当て

「あらまた走って。

ケガされないといいのですが」

と独り言を言う。


なんとも言えない顔でミレッタが私を見ていた。



「客観的にこうも間近で見るとものすごい迫力ですわね」


私はわからなかったので小首をかしげていると

「これもまたギャップ…」

と言いながら口を押えうつむいていた。



「ミレッタ体調でも悪い?」


私の言葉に、軽く咳払いしたミレッタが

「大丈夫ですわ。行きましょう」

と促すのでそれに従った。



学園にある庭園のベンチに二人で座った。


「アイラ最近よくマリア嬢を見かけるとかなぁい?」



そういわれてふと気づいた。

この間は階段で。

その前は花壇の前で。

そしてその前は噴水の前で。



「マリア嬢はドジっ子というやつなのかしら?」


ミレッタが急に吹き出したのでびっくりした。


「どうしたのミレッタ?大丈夫?」


「えぇえぇ。大丈夫よ。

少し、ええ少しむせてしまっただけ。

アイラはマリアによく出会うのね。

ほかには変なことは起こらない?」



そう聞かれて

「うーん」

と唸りながら最近の自分の周りで起こることを考える。



「歩いてたら上から鉢植えが落ちてきそうになったのでキャッチしたり、なぜか百科事典が落ちてきたのでこちらもキャッチしたかなあ」


「なるほどね。

できればいつどこでどんなことがあったか紙にでも書き出しておいてほしいんだけど」


「でもケガもないし単なる偶然よ?」


「うん。分かった。

アイラに起こる偶然の出来事を書き出しておいてほしいわぁ」



よくわからなかったが一応、了承した。



そしてその日は、ジョエル様の分も入った少し多めのランチボックスをもって生徒会室に向かう途中、空から水が降ってきた。


決して雨ではない。

ここは屋根付きの渡り廊下だ。

渡り廊下の角を曲がる時、後ろから水をぶちまけられたのだ。



水がかかる直前、全身ずぶぬれを防ぐよりもランチボックスを死守する方に脳が反応した。

そのため、自分の着地地点を予測し、ランチボックスを投げたまではよかった。


しかし、そのせいで首から右肩までが濡れてしまった。


まぁお昼は無事だしこの程度なら昼休憩中に渇くか。

と思い生徒会室に再び足を進めた。



いつも通りノックし生徒会室に入室した私は、ジョエル様が書類を片付けられている間にお茶の準備をすることにしている。

上着とブラウスが少し濡れてしまったので、給湯室の物干しに上着をかけさせてもらうことにした。


ここに干しとけば昼食後には乾いてるな。

と一人納得し、殿下の隣に座った。



「なっなっ……なぜアイラ嬢は……!

いやっこれを着ていてくれ!!!」



顔を真っ赤にしたジョエル様に、彼の上着を着せられる。

彼のほのかなさわやかな柑橘系の香りが私を包んだ。

この香り好きだなぁ。

と少し胸元を引っ張り香りを確認した。



顔をあげるとジョエル様はさらに顔を真っ赤にして

「なっ……なっ……」

と動揺していた。



少し、はしたなかったかなと反省する。



「ごめんなさい。

はしたなかったです。

ジョエル様の香りが好ましくて思わず」


言うとジョエル様は手で顔を覆い

「……もう無理……」

といっていた。


何を言っていたか、分からなかったので気を取り直してランチボックスを広げた。





二人で食事を始めながら、授業のことなどを話していたが少し無言になった。


「ジョエル様先ほど顔色が真っ赤だったのはなぜですか?」


またしても顔を真っ赤にしたジョエル様は言い出しにくそうにモゴモゴと話し始める。


「その……アイラ嬢は私の香りを好ましく思ってくれていたのだろうか……」



ん?

なぜその質問なんだ?

と思いながらとりあえず答える。


「はい。ジョエル様は柑橘系のコロンをほんの少しだけつけられていますよね。

ジョエル様の香りと柑橘系の香りが混ざって落ち着きます」



するとジョエル様は顔を覆いまたもや顔をふせる。


「わ……私も……

……アイラ嬢のほんのりとした優しい花の香りは好ましいと思う……」



よくわからない会話になっている。


「ありがとうございます?」

とりあえずそう答える。


いつもならここで引き下がるのだが、今日は来る前に水を回避するという軽い動きをしていたので、気づかない間に少し強気になっていた。


「それでどうして顔が赤いのですか?」


身を乗り出し気味に伺うと、聞こえるか聞こえないかの声で、


「その……ブラウスが……水で……透けていた……」

 


ジョエル様に言われて初めて気づいた。 

あーそれは見苦しかったな。申し訳ない。



「それは申し訳ありませんでした。

お見苦しかったですね。

来る途中でなぜか勢いよく水がぶちまけられてきたので。

回避したつもりなのですが……。

お昼は死守できましたが、少しぬれてしまいました」


正直に伝えるとジョエル様が今度は顔を赤や青に変えながら


「いや……見苦しくはっ!

むしろ……いやっ違う!

僕は決して……いや違う!

アイラ嬢!!水だと!?」


「あぁはい。ですがたいしたことでもございませんし」


「いやっしかし!!」


言い募るジョエル様をなんとか制する。


「アイラ嬢もし今後このようなことで困ることがあればかならず私に教えてくれ。

必ず君を守るから」



んー別に困っていないしなぁ。

まぁでも困ったらジョエル様に言うか。

と考えた。






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