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【番外編】昔々王子様は……(4)



アイラ嬢がカラスだと知ったその後から僕は王子教育に次期公爵としての勉強、カラスの次期主の勉強をあわただしくも真面目に取り組んでいた。


12歳のあの日から剣の鍛錬にもかなり力をいれるようになり、今ではアーロンと互角に打ち合うこともできるようになった。


次期カラスの教育は多岐に渡りかなり僕を困らせた。

僕が失敗するたびに公爵から嬉しそうに面会要求がくるのだが、最近はそれもほぼなくなり公爵の面会も無くなったに等しい。



数週間後に学園入学を控え、僕はかなり浮足立っていた。

学園でのあれこれを妄想しながら毎日シミュレーションをノートに書きこむ。


「またやっているのですか?」


「当たり前だこれからは……ほっほぼ毎日……アイラ嬢と顔を会わせることになる!」


「へぇ……でもこの『いっしょにランチ』のくだりにジョエル様が誘うくだりが入っていないのはどういうことですか?」


「そっ……それはこれからだ!!」



アーロンが僕のノートの一冊をぺらぺらとめくりながら言う言葉になんとか反論していたとき扉が「コンコン」とノックされた。


扉を開けるとそこには母上のメイドが立っていた。

僕はうんざりした気持ちを押し隠し

「なんだ?」と用件を尋ねる。



「側妃様がお呼びです」


「分かった」

とだけ伝えアーロンの方を見る。


「アーロンどうする? 帰るか?」


「いえ、お待ちしております」


その返事に、頬が少し緩み小さく

「ありがとう」とつぶやいて部屋を出た。



メイドの後ろをぼんやりと歩きながら考えるのは最近の側妃である母上の事だった。

ヒステリックなとことは相変わらずだ。


しかし僕の体が大きくなり、剣の腕が立つようになってから母上は手を出してくることは無くなった。


ただ週に何度か、自分の傘下の令嬢を勝手に呼び、人目に付くような王宮の庭園で散策するように命令される。


アイラ嬢のことが気に食わないが、国王が認めた婚約者のため大っぴらには反対せずにこのように他の令嬢をあてがおうとするようになった。


母上のヒステリーがアイラ嬢に向くことを恐れ、令嬢と会うことは内心うんざりしながらも反論せずに言われるとおりにしていた。




学園に入学を控え、アイラ嬢も今日で王子妃教育がいったん終了するので今日はお祝いにアイラ嬢の好みのケーキも準備している。


夕刻に会うことを楽しみにこの時間を乗り切ろうと気持ちを入れ替え母上の部屋に向かった。


「失礼します。ジョエルです」


丁寧に入室し、促されるままティーテーブルにつく。


「最近、あなたの王子教育の結果がとてもよろしいとお話を聞きましたわ。

剣の腕もかなりあがったそうね」


「ありがとうございます」


「サイラスよりもあなたが王太子にふさわしいと賛同してくれる貴族も増えましたのよ」


「そうですか」


話半分に丁寧に聞こえる返事をしながらふと部屋の隅に会ったゴミ箱に目が入った。

そこから見える布が急に気になりだす。


変に思われないように席を立ち、興味のある本を見つけたかのようにごみ箱の隣にある本棚に近寄る。


「母上はおもしろそうな本をお持ちですね」


なぜか機嫌のいい母上が、嬉しそうに本棚に入った本を説明し始める。

やれ誰それの贈り物だ、この本は高価だとか。

本の内容の話がないところが母上らしい。


母上が機嫌よく話している隙にゴミ箱の中を確認する。

どうやら何枚かのハンカチらしい。


また気に入らないと捨てたものかと思っていると、目に入ったものはエーデルワイスの刺繍だった。

この刺繍の柄を刺していい人物は限られている。

王族に連なる女性のみだ。


母上は刺繍が苦手で自分で刺すことはない。

これは……と思い、思わず捨てられたハンカチの数々を手に取り


「母上……。これはなんですか?」


「あなたゴミなんて持たないで頂戴」


僕がゴミ箱に入っているハンカチを拾い上げ母上に問う。

嫌悪がにじんだ表情で言う母上に僕は怒りをなんとか抑えながら更に問い詰める。


「今日、アイラ嬢の王子妃教育の最終日ですよね?

エーデルワイスを刺繍できるのは、王妃、母上、ロレッタ嬢、アイラ嬢のみです。

あなたは刺繍をしないのにここにこれがあるということは……。

このハンカチ達はアイラ嬢が刺したものですか?」


「ええそうよ。刺繍の課題はいつも私に回されるの。

そんなゴミ渡されるのも困ったものだわ。

エーデルワイスの柄なんてさせる立場ではないのに生意気だわ。

どうせあの子もこのハンカチのように使われることなく捨てられるだけなのにね」




愉快そうに扇で口元を隠すことなく笑いながら言う母上を感情を押し隠しながら見る。


その言葉にあまりにも頭に血が上り冷静になり

「そうですか」とだけ答えハンカチを持って部屋を出る。


唇をかみしめすぎていたせいか口の中に血の味が広がる。

どうにかハンカチを持ったまま部屋に戻る。




「ジョエル様!! どうされたんですか!? その口!!」


「すまないアーロン。王妃と兄上に取次を頼む」


アーロンがあわただしく部屋をでて、僕はこぼれそうになる涙をぐっとこらえた。


僕は母上をもう母上と呼べないかもしれない……。

喪失感を覚えながら握りしめたハンカチに目を落とした。


「エル!!どうしたんだい?」 

「エル入るわね」


そう言って兄上と王妃が僕の部屋に入って来てくれた。

アーロンが兄上と王妃に僕の様子を説明したのだろう。


僕を心配して急いできてくれた二人はいつも完璧に整えた髪を少し乱しながら来てくれた。

そんな王妃と兄上のやさしさに、先ほど感じた喪失感は消え去っていた。


ふたりにさきほど側妃の部屋であったことを話した。

王妃は僕の隣に移動し僕を優しく抱きしめてくれた。兄上も隣に座り僕の手を握ってくれる。



「ごめんなさい。もっと早く気付くべきだったわ」


「僕もだ。君の事だからアイラ嬢の作品を使わず隠しているものだと思っていたよ」


「私はロレッタの物は、男性物はサイラスに女性ものは私が持つようにしているの。

これは前王妃もそうしてくださっていたから私も真似ていたのだけれど……。


側妃もそれをご存知なはずだったんだけれど……。

まさかここまでされるとは思わず……。

ごめんなさい。あなたの宝物を守れなくて……」



王妃が涙をこぼしながら伝えてくれる。

兄上も唇を引き結び悔しそうな顔をしている。


「僕は……もう側妃を母上だと呼べそうにありません……」



ぼくの発言に二人が沈黙する。


「あなたから母親を奪うようなことになるまで放置した私の責任でもあるわ。

アイラ嬢は今日で王子妃教育がいったん終わるから、私が代わりになにかできるわけではないけれど、

これからあなたの宝物を私も大切にする権利を私にもくれないかしら?」


「僕にも……僕にもその権利をくれ!!」



王妃は涙を流しながら微笑んで、兄上は力強く手を握りながら言ってくれる。



「ありがとうございます……」

言いながら我慢していた涙が一筋流れた。



その後、父上からも呼び出された。

「すまなかった……。

これだけは私の元にとどいたものだからエルが持つべきだ」


綺麗に刺繍されたエーデルワイスの刺繍されたハンカチを渡された。

僕は喜んでそれを受け取った。

そんな僕を見て父上は申し訳なさそうな顔をしながらも微笑んで、子供の時以来、父上から頭を優しくなでられた。



その日アイラ嬢とのお茶会は、父上からはマカロンが、王妃からは一口サイズのフルーツタルトが、兄上からはかわいい瓶に詰まった飴が差し入れられた。

家族のやさしい心遣いに嬉しくなった。




♢♢♢


僕が学園に入学するまでのアイラとの婚約は全てが順調というわけでは無かった。

そしてこの後もすんなりと行くわけではではなかったが、それはまた別のお話だ。

僕がずっとアイラを想っていた事ををみんなに知っておいてほしくてこの話を文章に残す。

これを僕の子供や子孫たち読んで笑うのかなと思うと思わず笑みがこぼれた。




End


皆さま約一か月という長い時間を共にしてくださりありがとうございます。

皆様の評価やいいね。ブックマークに励まされ最後まで書ききることができました。


読んでくださった皆様。本当にありがとうございます!!



今後この『カラス令嬢とヘタレ王子』の物語をシリーズ化し、別の登場人物を主軸にお話をかいております。

またお会いできることを楽しみにしております。

ここまでお付き合いいただき本当にありがとうございました!


もしよろしければ評価お願いいたします。

今後の頑張る糧にしたいです!

                Macchiato


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