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【番外編】昔々王子様は……(3)



アイラ嬢が……いない……。


いつもお茶会などの人が多いときは目が合ってしまわないように慎重にではあるがアイラ嬢から極力、目を離さないようにしていた。


アイラ嬢を見ていたかったというのもあるが……。



僕との婚約を快く思わない人間に嫌な思いをさせられたりしないように気を配っていた。

しかしいつも子供が参加できる夜会や舞踏会、そして今日みたいなお茶会の日には一時間にも満たない時間であるがふとアイラ嬢が居なくなる。


今日もアイラ嬢を探すべく、こっそりと会場を抜け出し探し回っていた。



今日は使っていないはずのよく二人でお茶会をする庭園まで足を伸ばしてみる。

するとアイラ嬢が見えた。


今すぐ声をかけることもできるが走ったことも相まって僕は頬が赤い自覚があった。

しかたないので近くにあった茂みで一旦、自分を落ち着けることにした。


アイラ嬢は庭園の隅で花でも見ているのか、しゃがみこんだ後姿が本当に愛らしい。




もう少し見ていたいなと思っていると、アイラ嬢の背後から今日のお茶会の担当をしているウェイターの制服を着た男が寄って行った。

確かに会場ではない場所で明らかに参加者と思われる令嬢が居れば声をかけることもおかしいことではない。


アイラ嬢にあと二歩というところで、僕は赤かった顔を真っ青に変えることになる。



男の手には先ほどまでなかったナイフが握られていた。


振り返ったアイラ嬢が、その瞬間に花壇の砂を男に投げかけた。

うめき声をあげる間もなく飛び上がったアイラ嬢に顎を蹴りあげられて男は昏倒した。




アイラ嬢はいつか見た満面の笑みで、満足そうに笑いすぐにいつもの無表情に変わり会場に向けて走り去っていった。

一瞬、状況がわからず固まっていたが、すぐに我を取り戻し僕も会場にむかった。




お茶会の会場に何事も無かったように戻る。

再び令息や令嬢に囲まれながらも僕は少し冷静になった頭で先ほどの状況を分析していた。


たどり着く答えは一つなのだが、それでもアイラ嬢への心配は尽きなかったので僕は決意した。

今日のアイラ嬢の帰宅は僕が見守ろう。




お茶会が終わり、僕は急いで部屋に戻り着替える。

あわただしくしている中アーロンがやってきて慌てて

「どうした?」と聞いてくる。


押し問答している時間は無いので決定事項として今からアイラ嬢を追うことだけ伝える。

何か言いたそうにしていたアーロンだったが、何も言わず僕についてくることにしたようだ。



見失うかと思われたアイラ嬢の馬車を見つけ、つかず離れず後をつける。

何もないことに越したことはないが、アイラ嬢の馬車が曲がった場所に僕は違和感を覚えた。


ほぼ領地で過ごすサリム伯爵も王都にこじんまりとしたものだがタウンハウスを持っている。

僕の知識だとサリム伯爵邸は逆の道に入る。


僕は自分が立てた仮定が正しくなっていくことに胸が締め付けられていった。

無言でついてくるアーロンは何も僕に言わない。


ただ表情は自分が傷つけられたような辛そうな顔をしていた。




やはりというべきか……

アイラ嬢が馬車を降りたのはマグネ公爵邸の玄関だった。

それが目に入る場所まで到達すると、木の陰からマグネ公爵が現れた。



「ジョエル様、ようこそ我が公爵邸へお越しいただきました。

少しお時間をいただけますか?」


そう言って馬を公爵邸の使用人に預けるように促さる。


おとなしく従うと公爵は満足そうに

「どうぞこちらへ」と屋敷内に入っていく。




公爵邸へ招かれ公爵の執務室に通される。

僕の顔色が良くなかったのだろう、ミルクたっぷりのお茶を準備してくれソファに座る。

ちらりと見たアーロンは無表情で、感情が読めなかった。


「さぁではジョエル様のお話をお伺いしましょうか?」


「アイラ嬢は!! カラスなのか!!」


余裕たっぷりの公爵の態度に苛立って思わず語気を強めてしまう。

いつもであればそんな風に感情を表に出した物言いはしないが、今は制御することができない。


「そうですよ。アイラは私たちの可愛いカラスです。

ですがジョエル様のお考えとは違います。

アイラはジョエル様にお会いする前からカラスです。

さぁ事実は申しました。


それでジョエル様はカラスのアイラとは婚約の継続はできませんか?

お気持ちは変わられましたか?」



ごまかすことなく冷静に言う公爵の目は、僕を試すように細められる。

苛立っていた心がすっと冷静になった。


「いや。気持ちは変わらない。アイラ嬢以外今後も考えることは無い」


「それでは、数点ジョエル様にお話ししておくことがございます」


僕の返答に満足そうに一度微笑みすぐに表情を変える公爵。

真剣なマグネ公爵に思わず唾液を飲み込んだ僕ののどがゴクリと鳴る。



「まず、アイラにはまだ伝えていませんが、時を見て伝えるつもりです。

我々、夫婦には子がおりません。

ですので、アイラを我々の養子にするつもりです。


将来、公爵家はアイラの婿に継がせる予定です。

ジョエル様は王族席から抜け、我々公爵家に臣籍降下する覚悟はございますか?」



「……僕は……私は王太子になるべきではないと思っている。

王太子にふさわしいのは兄上だとも。


だから国王が許せば兄上を支えるのに公爵家への婿入りはこちらもありがたい話だ」




ずっと考えてはいた。僕は国王にはむいていない。

国王に向いているのは兄上である。

もちろん母上のこともあるが、本質的にぼくではなく兄上が国王になるべきだとずっと考えていた。



「なるほど。それでは国王は了承されるでしょうね。

アイラをあなたの婚約者と国王が認めたのは私たち夫妻がアイラに一目置いていたのをご存知だったのです。

いずれ次期公爵夫人になるアイラとの婚約を国王が認めたのはそういうことでしょう」



父上がすぐに僕の婚約を認めたのは、王族の血の件以外の理由もあったのか……。

確かに一目ぼれする相手は不思議と国に益のある相手だとも言っていた。



「それでは、少々予定より早いですが……。

ジョエル様にも次期公爵、そして次期カラスの主の教育をさせていただきたいと考えるのですがいかがでしょう。


もし承知いただけるのでしたら契約を結んでいただきたいので少々お待ちください。

あぁこれはもし主にならなかった時の場合のことが書かれている書類ですので、主の私と個人的に結ぶものです。

それでは少しお待ちください」



周囲にはばれないようにそれらの教育を開始するとのことで僕はもちろん首肯した。

公爵はそう言って執務室の隣にある部屋に向かった。

扉が閉まり僕はアーロンに目をやる。

無表情で僕に視線を送るアーロンに冷静に尋ねた。


「アーロン君もカラスなんだね」


「私の口からは言えません。許可を得てきますので少々お待ちください」



僕が何を言うかを予想していたかのようにアーロンは表情一つ変えずに僕の目を見て言った。

静かに公爵の向かった部屋に入っていったアーロンを見送る。


僕は一人になった部屋で緊張してこわばっていた体の力を少し抜いた。

しばらくして戻ってきたアーロンが僕のそばで片足をついて膝まずいて頭を垂れる。



「私は護りのカラスとしてジョエル様についておりました。

あなたを主としてこれからもあなたの護りのカラスとなりお傍に居ることを許可していただきたく思います」


僕がアーロンの主となる……。自分の専属カラスを持つのは国王だけだと思っていた。

国王の専属カラスはマグネ公爵である。



「アーロンは僕の専属カラスになるということかい?」



「はい。主にも許可をいただきました。

もちろん今後、公爵からの指令を受けることもあります。

しかしジョエル様の許可が得られればあなたの護りを優先任務としてあなたを主としてお支えしたいと思っております」


「分かった。僕を主とすることを許可する。頭を上げよ」


「アーロンありがとう」


真摯に告げるアーロンに僕はすぐに許可を出す。

笑顔で右手を差し出せばアーロンは僕の手を額に当てる。


「我が主。あなたを護り抜きます」


そう言ってアーロンは自身の手で僕の手を握り立ち上がりそのまま二人で笑いあって握手をした。



「さぁ二人の話も終わったようだし、ジョエル様サインをおねがいできるかな?」



嬉しそうに微笑みながら書類を手渡す公爵に微笑みを返した。

書類にサインをして公爵と握手をして僕は公爵邸を後にした。


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