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【番外編】昔々王子様は……(2)



次の日、父上からアイラ嬢に婚約の旨が通達されたことを教えられた。

僕は嬉しさのあまり、思わずクッションに抱きついて叫んだ。




一週間後に王宮の庭園で婚約者の2人での顔みせのことが伝えられ僕は嬉しさの反面、焦ることになる。

落ち着きなく書き物机の前で、一心不乱に紙に書き留め始める。

これが今後、僕の悪癖になることもしらずに……。



「ジョエル何をそんなに一生懸命に書いているんだ?」


ノックの音にも気づかなく集中しているところに兄上が僕の手元を覗き込んだ。


「アイラ嬢との初対面になるお茶会でのシミュレーションです」


手を止め至極真面目に答える僕を、目を丸くして見る兄上。




「えーっと……。なぜと聞いてもいいんだろうか?」


「もちろんです。僕は兄上もご存知のように赤面しやすい。

先日、公爵も王子教育をしっかり受けるようにと言ったように、僕は王子としてアイラ嬢と接しなければならないのです」


「ん-っと……。理屈はわかったけれど、台本ありきで婚約者となる人と会話するのは……」



納得してくれない兄上に僕は続けて言う。


「いつかはシミュレーションなく接することができるようにしたいとは思います。

でも今はまだ……好いてもらえる自信がないのです……」


しゅんとしながら本音を言う僕の頭をなでながら

兄上は「分かったよ」と苦笑交じりで返事をしてくれた。




なんとか赤面することなく一度目のお茶会を終えて、僕は母上である側妃に呼び出されていた。


「ジョエル!! あなたはなんてことを!!

なぜ相談もなく勝手に婚約者など決めたのですか!!」


ヒステリックに扉を開けてすぐ叫ぶようにいう母上にうんざりしながら向き合う。


こうなった母上には何を言っても通じない。

人形のようにただそこに在るだけの存在となった方がよほどいい。


「あんな貧乏伯爵家の娘なんかと婚約してもなんのメリットもないじゃない!!」


思わず眉根に力が入る。そんな僕を見て母上はさらに声を荒げた。


「あなたは王太子にいずれはこの国の王になるのよ!! サイラスに負けない婚約者ではないといけないの!!


サイラスよりも劣った婚約者など母は認めません! しっかり頭を使って考えなさい!!」



言いながら僕の肩を持っていた扇で思いっきりぶつ。


痛みに顔をしかめながらも僕は今回は決して「はい」とは言わなかった。


僕を殴ったことで満足したのか退出を許された。

私室に戻りながら我慢できなかった涙が一筋だけこぼれた。




今まであまり身の入らなかった王子教育に真剣に取り組み始めて二年たった。

分からないことや疑問に思うことは自分なりに調べ、さらに剣の稽古も最近取り組み始めた。



アイラ嬢とのお茶会も月に一度。

アイラ嬢の王子妃教育の日に行い、まだシミュレーションは欠かせないが順調にこなしていた。

そんなある日、マグネ公爵からある伯爵家の次男を紹介された。


その人物は真っ赤な髪を襟足だけ少し結び、力強い緑の瞳を持ったアーロンと言った。



「ジョエル様。

このアーロンはウルム伯爵家の次男でして、家督を継ぐわけでもないのですが大変優秀でして。

ウルム伯爵家は我が公爵家の縁戚になりますので身元も確かです。


歳もジョエル様と同年ですので、国王の許可も得ております。

今後アーロンをジョエル様の友人、側近としてお傍に置いていただきます」

 


マグネ公爵の紹介が終わり背中をすっと押されたアーロンが綺麗な礼をしながら自己紹介を始める。


「ご紹介に預かりました。アーロンと申します。よろしくお願いいたします」


アーロンの瞳には今までの側近候補や学友候補とは違い媚びるような色も、値踏みするような色も無い。

僕は不思議に思って訪ねた。


「君は僕に何を望む?」


公爵の視線がすっと厳しさをはらんだ気がしたが僕はアーロンから視線を離さずに返答を待った。

 


「生意気な物言いになることをお許しください。

私が王子に望むのは我が主にふさわしい行いを求めます。

しかしいい友人関係でもありたいので、私の苦言もきちんと精査していただけるようなそんなお心を求めます」



「分かった。必ず努力することを君に誓おう」


公爵が満足そうに笑いアーロンは礼をただした。

アーロンに右手を差し出し、力強く握手した。





「ジョエル様ぁ……またですかぁ?」

「あぁそうだ」


僕は目線を神からそらさずアーロンに返事をした。

アーロンが僕の側近候補となって2年が経った。


側妃のつてで紹介された他の側近候補は執務室への入室は許している。

けれど私室への入室を自由に許したのはアーロンだけである。



「明日は、上位貴族の王宮のお茶会だったか?」

僕のシミュレーションを記入した紙を手に取り見ながら、アーロンが問う。


「あぁそうだ。明日は人数も多いし何とかなるだろう。

それに明日はアイラ嬢の事を見放題だ」

浮かれながら言う僕とは反対にうなだれながらアーロンが言う。


「そんなアイラ嬢限定で視線や気配を悟られない技術を会得するよりも、赤くなっても正面から見つめ合う方がいいとおもうけど……」


「みっ……見つめ合うなど! してみたいが……まだ早い!!」


真っ赤になりながら言う僕に苦笑いを浮かべながら

「そうですか……」とおざなりにアーロンは返事をした。




12歳になり会場で合流するのではなく正式にアイラ嬢をエスコートできるようになった初めての王宮でのお茶会。

何度もシミュレーションしたおかげできちんと王子らしくアイラをエスコートしながらまずは王妃にご挨拶に行った。



「王妃、わが婚約者を紹介させていただきます。

サリム伯爵家次女のアイラ嬢です」


「お初にお目にかかります我が国の花カランコエ。

あなたの山茶花アイラ・サリムがご挨拶いたします。」


綺麗な淑女の礼を王妃に披露しながら頭を垂れ続ける。


「まぁ! 顔を上げて頂戴」


頬を少女のように染めながら王妃が合図を出す。


ゆっくりと顔を上げたアイラに王妃が話しかける。


「今までたくさんの初対面の令嬢や淑女にご挨拶いただいたのだけれど……。

こんなに胸をときめかせてくれるご挨拶は初めてだったわ。

ありがとう」



この国では王妃に初めて挨拶する女性は王妃と自分を花にたとえる。

それはこの国の淑女教育に花言葉が含まれるからだ。



それにしてもカランコエの花言葉は「あなたを守る」だったはず……。

しかし他にも「幸福を告げる」や「人望・人気」などの意味もあったはずだ。

アイラ嬢は淑女教育も完璧だと噂だから「人望」などの意味として使ったのだろうと想像した。


しかし自分を山茶花にたとえたことは少し悩ましかった花言葉は「困難に打ち勝つ」……。

どういう意味なのだろうか……。僕の中で不安が芽生える。

しかし次は側妃への挨拶だ。しっかりとしなければ……。



結果、側妃への挨拶は散々だった……。

そもそも側妃への挨拶は、花を引用することも無く通常通りの挨拶なのだ。

しかし側妃にすり寄る令嬢や、夫人は2回目でも3回目でも王妃に挨拶するように花を使う。

これがどれだけ自分の首を絞めることとも知らずに……。



そう思いながら、側妃への挨拶をアイラ嬢は通常通り行った。花を使わずに。

途端、不機嫌になる側妃を無視してアイラ嬢の手を引いて指定された席に着く。



「ジョエル様。私も花を用いた方がよかったですか?」

念のためという風にアイラ嬢が僕に尋ねる。



このアイラ嬢の質問はシミュレーションになかった。

そんな展開に僕は焦りながらも答える。


「必要ない。あれは王妃に向ける格式ある伝統だ」


少し耳が熱い気もするがなんとか耐えた。


「そうですか」



あくまでも念のため聞いたようでアイラ嬢は引き続き、やってくる客人にそつなく挨拶を共にこなしてくれた。

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