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【番外編】昔々王子様は……

真っ白のテーブルクロスの隙間から見た君は、キラキラと光るきれいな銀色の髪をなびかせてシルバーのお盆で華麗に蜂を叩き落した。

髪の隙間から見えた君の顔はふっくらとした頬を桃色に染めて、満足そうに水色の瞳を揺らしながら笑っていた


ぼーっとしている間に事態は終わり、お茶会は急遽お開きとなった。



今日のお茶会は第一王子である兄上と第二王子である僕ジョエルの側近候補と婚約者候補を探すためのお茶会だった。

兄上には既に婚約者候補がおり、今日は主に僕の婚約者を探すために開かれていることに気づいていた。


しかしお茶会中に蜂が現れて混乱した令嬢や令息が多かったことでその会は混乱のままお開きとなった。


7歳から12歳の子供を集めたお茶会だったから無理もないだろうと結論付けられ、僕の婚約者候補が見つかるまで改めて開催されることになった。




しかし僕は今、王宮の廊下を走っている。

僕は大急ぎで兄上の部屋に向かった。


「兄上!!話を聞いてください!!」


兄上の部屋の扉をたたきながら言う僕に、すぐに扉を兄上は開けてくれた。


「どうしたんだい、エル。そんなに焦って」

僕を部屋の中に入れながら兄上は聞いてくれる。


しかし目に入ったのはソファに座る兄上の婚約者候補とされているロレッタ嬢だった。

取り乱した自分を恥じながら、僕もソファにお邪魔する。



「ジョエル様、私は席を外しましょうか?」

優しく問いかけてくれるロレッタ嬢に、兄上は焦りながらロレッタ嬢に言う。


「先に来てくれたのは君なんだ!! ジョエルは大丈夫だからまだ居てくれ」


懇願するようにお願いする兄上に苦笑しながら「大丈夫です」とだけ答える。

兄上がロレッタ嬢の隣にすわりながら僕の方に向き直る。


「それで? 前触れもなく突然どうした? 取り乱すなんてエルにしては珍しい」

そういわれて顔が真っ赤になるのがわかる。




僕は自分がすぐに顔が赤くなることを自分で良くわかっていた。

だから普段は赤くなったりしないようにかなり気を付けている。

けれど父や王妃、兄上の前では取り繕うこともしないのですぐに赤面する。



兄上も気にした様子がない。

ロレッタ嬢も慣れたのか気にすることも無くなった。


「今日参加していた令嬢で、銀色の髪の水色の瞳の令嬢に心当たりはありますか?

おそらく座っていた座席から中流の伯爵家の令嬢だと思うのですが……」


「んーぼくは心当たり無いなぁ……」


兄上の返答に分かりやすく肩が落ちる。



「ジョエル様もしかしてその令嬢はピンクのリボンに青色のドレスをきていませんでしたか?」


ロレッタ嬢の言葉に彼女の姿を思い出す。

印象に残ったのは髪の色と瞳とあのかわいらしい満面の笑顔だが、そういえばそのような色合いの装いだった。



「そうです!! そうでした!! ロレッタ嬢はその令嬢をご存知なのですか!?」


勢い余ってテーブルに手をついてロレッタ嬢に詰め寄る。



「席につけ!! ロレッタに近い!! お前でもそんなに近づくことは許さん!!」

語気を強めて言う兄上に冷静になり、「すみません」と席に腰を落ち着けた。


ロレッタ嬢がクスクスと笑いながら教えてくれる。


「お話の令嬢はサリム伯爵家の3番目で次女のアイラ様ですわ。

今日のお茶会に参加していた令嬢で銀の髪に水色の瞳はアイラ様だけですし、おそらく間違いはないでしょう」


「アイラ……アイラ・サリム……アイラ嬢……」


初めて知った彼女の名前を何度もつぶやく僕。



「一目惚れでもしたか?」

「はい! 一目惚れです!」


笑いながら冗談交じりで聞く兄上に僕は顔を真っ赤にしながら、でも真剣に即答した。

そんな僕みて真剣にロレッタ嬢と話し始める兄上。



「サリム伯爵家か……」


「そうですわね。

サリム伯爵家は王宮舞踏会にもほとんどお越しになられないのであまり情報はありませんが……」


「そうだな私もあまり話を聞かない。

ちょっと調べてもらおう。ジェイクいるかい?」

兄上の従者候補のジェイクが顔を出す。



「サリム伯爵家の情報をまとめてくれ」

「承知いたしました」


そういってジェイクが部屋を出てしばらくしてジェイクが戻ってきた。

手には小さな紙を持っており兄上に手渡しまた部屋を出る。

兄上が手渡された紙を見て「ほぉ……」と感心したように息を吐いた。




「あの……兄上?」

緊張しながら兄上に声をかける。



「アイラ嬢のサリム伯爵家はマグネ公爵の縁戚らしいよ。

五人兄弟の三番目で次女というのはロレッタ嬢の情報通りだね。

サリム伯爵は、かなり善良な領主のようで税はここ50年据え置き。


問題が起こったときは領主が自ら私材を投げ打って領民を助けているらしい。

領民からはかなり慕われているが、その反面、平民と変わらない生活水準のようだ。

そのせいか、貴族の中では貧乏伯爵家と口さがないことをいわれているみたいだね。


そんなことをいうやつらにサリム伯爵の爪の垢でも送り付けないと」



僕はその話を聞いて一気にサリム伯爵に好感をもった。



「エルは彼女と婚約を求むかね? 

それとも一時の感情かい?

もし婚約を求めるならそれなりの覚悟が必要になるけれど……」


そう言う兄上に一も二もなくうなずいた。 


「じゃぁ父上に直接お話をしようか」



そう言って父上に面会の要望を出し、三人で僕の初恋と一目惚れで終始盛り上がって時間を過ごした。


しばらくしてロレッタ嬢が帰宅の挨拶をして二人で見送った後、父上の侍従が僕と兄上を呼びに来た。

僕は少し緊張して思わずぶるりと震えたが兄上が肩に手を置いて

「いこうか」

といって一緒に歩いてくれた。




父上の執務室に到着する。

二人で入室し、ソファに腰掛ける。


「さぁ、二人は何の話があるのかな?」

人払いを済ませて、父親の顔になった父上に緊張しながらも口を開く。


「じつは……今日のお茶会で……サリム伯爵家のアイラ嬢に一目惚れをしたのです……」


僕は恥ずかしくなり顔を真っ赤にしながら父上に伝える。




「なるほど……」

「父上こちらが、私の得ているサリム伯爵家の情報です」

そう言って兄上が、紙を父上に差し出した。


僕は判決を受ける前のような気持ちで、じっと父上の反応を待った。


「なるほどマグネ公爵の縁戚か……。

おそらくまだマグネ公爵は王宮にいるだろう。

誰かに呼んできてもらおう」



呼び鈴を鳴らし侍従に言づける父上をぼんやりとみている。

すると父上は面白そうに僕を見ながら話し出す。


「エルはアイラ嬢との婚約を望んだからここに来たんだろう?」

「はい……」

と素直にうなづく僕を見て笑いながら父上が話し始める。




「もうこれは血なんだよ。

エル。サイラスも。私も私の父上も。おじい様も一目惚れでね。

王族のちで毎回ひとめ惚れなんだよ。


けれどその相手はいつも間違っていなくてね。

王族にとってとてもいい伴侶になってくれる。

だから息子の伴侶はいつも反対されることなくすぐに婚約することが決まっている」




すこし悲しそうに言う父上に僕は思い当たる。

僕の母上の側妃は、自分から無理やり父上の元にやってきた。

父上は王妃を愛していたのでかなり嫌がったと、口さがない貴族たちがいつも噂していた。



父上の顔を見てなんといっていいか悩んでいるとマグネ公爵の来訪が告げられる。

マグネ公爵が入室し、父上の隣に気やすく座る。

人払いがされ父上がマグネ公爵に友人に話すように話し出す。



「私的な話だからいつも通りでいいぞ。ルイ」


「……なんなんだ? 家族会議に俺が呼び出される意味が分からない。

ちゃんと説明してくれよ。アレク」



父上がマグネ公爵を名前で呼んだことも驚いた。

しかしマグネ公爵も父上を愛称で呼んだことに僕はさらに驚いた。



「二人は親友なんだって」

兄上が耳元でこっそりささやいて教えてくれたことで納得した。

普段見せない気安い二人の態度にうらやましさも覚えた。



「さぁルイ。ついに私の二番目の息子も一目惚れをしたよ。

嬉しいかぎりだねぇ」

僕をちらっと二人とも見ながら話を続ける。



「おぉなるほど。ではその相手を調べるのかい?」

父上はいたずらっ子みたいにニヤっと笑いながらマグネ公爵に続けた。



「まぁ調べなくても大丈夫だ。相手は問題ない。

君には『分かった』と言ってもらうだけでいいからな」


笑いながら言う父上に怪訝な表情をしながら父上を問い詰めるマグネ公爵の顔をじっと見る。


「うちの縁戚かい?」


「おぉさすが察しがいいね。ルイ。」


「アレク……どこの家の子だい?

うちの縁戚であれば大きな問題は無いはずだが……」


「……君の秘蔵っ子、アイラ嬢だよ」




マグネ公爵は驚きのあまりしばし固まった。

いつも冷淡で表情の変化も少ない印象のあったマグネ公爵がこんなに表情を変えたところを見たのは初めてだった。

思わず僕も驚いて目を瞠りながら公爵を見た。


公爵は僕の顔を見て

「なるほど……」

といって考え込んだ。



縁戚の裕福ではない伯爵家の令嬢を選んだことでマグネ公爵は悩んでいるのだろうと僕は思った。



「なんとも王家の血はあなどれない……」


「そうだろう?」

嬉しそうに笑う父上。


「分かりました。許可しましょう。

ただ王子教育の結果次第では……」


そういわれ僕はびくりとした。

今後さらに王子教育に力を入れようと決意する。


「もちろんだとも。

だが私の王子は二人とも自慢の王子だからな!

問題ない」


「分かりました。伯爵には私から王宮に呼び出しの旨を伝えましょう。

ジョエル様。くれぐれもアイラを泣かせることなどなきよう……」




そう言って席を立ち公爵が部屋を出たところで僕は安心のあまり「ふぅ」と息を吐いた。


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