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【番外編】マリアのその後(3)


目を覚ますと夕日で部屋が赤く染まっていた。


ずっと手を握ってくれていたのか、クラリッサの体温が優しく私の手を温めてくれていた。

起き上がると私はソファに移動していたようで上には毛布が掛けられていた。



「ごめんなさい……。寝てしまったのね……」

声をかけると私が起きたことに気づいたクラリッサが私の背中に手を添えて起き上がらせてくれる。

「まずは水分を取りなさい」

言いながらレモン水を差し出してくれる。


私はゆっくりとレモン水を飲み干すと空になったグラスに再度、レモン水をそそぎテーブルに置く。

「そろそろ、夕食の時間なのだけれど食べれそう?」

優しい声音で心配そうに聞いてくれるクラリッサにコクンとうなずき返事をした。


「それじゃぁ、女将さんに伝えてくるわね。

もう少しゆっくりして、できるなら顔だけでも洗ってきなさい?」

扉を出るクラリッサを見送り、浴室に向かう。


鏡に映る私の顔は泣いたせいか目もとが赤く腫れていた。

しかしそんな顔でもすっきりとした表情をしていた。

冷たい水で顔を洗い、部屋に戻るとクラリッサが戻ってきており私の顔を見て困ったように笑いながら言う。

「寝ている間に冷やしたんだけど、やっぱり赤くなっちゃったわね。もう少し冷やしましょう。」

ソファに私を呼び、冷たいタオルを差し出してくれる。

わざわざ女将さんに頼んで冷やしたタオルをもらってきてくれたようだ。


ありがたく受け取り、ソファに座って目もとにタオルを置く。

「ごめんなさい。話を聞いてもらっている最中に寝てしまったりして」

「しょうがないわ。ここ数日よく眠れなかったのでしょう?

寝られるときに寝て食べられるときにしっかり食べて。

まずは弱ってしまった体をもとに戻さないと」

冷やしたタオルでクラリッサの顔は見えないが声はやさしさにあふれていた。



しばらく目もとを冷やしていると、扉がノックされる。

私はタオルを置いて扉に目を向ける。

女将さんが夕食をわざわざ持ってきてくれたようだ。

私はテーブルに食事を並べてくれる女将さんのそばまで近寄る。


「心配をかけてしまってごめんなさい。私用の食事もわざわざ準備させてしまってごめんなさい」

思わず小さな声になってしまったが、女将さんには聞こえたようだった。


「お嬢さん、私はありがとうと言ってもらえる方が、嬉しいね。

心配も食事も私が勝手にお嬢さんのことを思ってしたことだよ。

迷惑でもなんでもないからできればお嬢さんの可愛い声でありがとうと言ってくれるほうが、私も嬉しいんだけどねぇ」


そんなことを言われたことが無かった私は驚いて目を見開き、恥ずかしくなりすぐにうつむいて

「ありがとう……」

とつぶやいた。


女将さんは私の頭をなでながら

「よかったねぇ。元気になって。何かあったらいつでも言ってくれていいんだよ」

そう言って夕食もしっかり食べるように釘を刺し部屋を後にした。


夕食も私が食べやすいように小さく切ったキノコが入ったリゾットだった。

アツアツのリゾットをゆっくりと冷ましながら食べる。

今まで私に優しくしてくれた人は常に私が何かすることを求めてきた。

『優しくしたんだから何かしてくれるんだろう』という思いが透けて見えていた。

家を追い出され、クラリッサや女将さんのように何も見返りを求めないやさしさを受けるのは初めてだった。

私は戸惑いながらも今まで埋まることのなかった心の隙間がゆっくりと暖かいもので埋められていくのがわかった。



食事が終わり今日も入浴の手伝いを申し出てくれたクラリッサに甘え入浴をし、ベッドに入る。

今日もクラリッサはそばにいてくれるようで、自身も入浴をして身支度を整え、私の隣に寝転んだ。


私は重くなった瞼になんとか耐えながら

「おやすみなさい……」

とつぶやく。

クラリッサの返事はもう夢の中に落ちた私には聞こえなかった。


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