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5 アイラの学園任務


昨日部屋に帰ってから新たな任務に関して整理した。



先入観抜きでまずはジョエル様を観察すること。

マリア嬢との関係は頭に入れない。

ジョエル様の表情動きを事細かに観察し、そこから読み取れる感情を想像する。

わからない場合はそれとなく聞く。


この5つを頭に入れて今日から学園生活を過ごすことに決めた。



ただジョエル様とはクラスが違うので顔を合わす機会ははっきり言ってない。

これは仕方ない……。

ではなく、今日から積極的にまずはランチのお誘いからしてみようと思う。



いつもジョエル様は同級の側近候補の令息たちと、昼食をとられている。

朝礼までにジョエル様をお誘いできるように、まず頑張ろう。

そう決めて馬車から降りて学園の門をくぐった。



ジョエル様の教室は1クラス、私は2クラス。

隣のクラスだが私から一度も伺ったことは無い。

確か1クラスのジョエル様の側近候補の中にカラスがいる。

彼に伝えてもらう……。



いやだめだ。観察、観察。



ジョエル様は登校されているはずだ。

一旦、1クラスを覗きに行ってみることにした。


後ろからそっと教室を覗くと人だかりが見えた。

おそらくジョエル様とその仲間たちだろうとじっと見た。

視線の先の壁になっていた人が少し横にずれたことで、ジョエル様の後頭部が見えたその時……。



「アイラ嬢どうされましたか?」



そう声をかけてきたのは、ジョエル様の側近候補兼護りのカラスであるアーロンだった。

教育期間がほぼ一緒だったため顔見知りである。



「アーロン様お久しぶりです。

少しジョエル様にお話しがあったのですが……。

取込み中みたいですのでまたにしようかと」



言いながらジョエル様に目を移す。

ジョエル様は紺碧の瞳を大きく開いてこちらを見ていた。

仕方なく会釈をする。

アーロンのほうを向くとアーロンもジョエル様のほうを見ていた。


「ジョエル様にお伝えしてきますね」


私が引き留める間もなく、ジョエル様のもとへ戻っていき耳打ちをしていた。


それを見て入口では迷惑だろうと廊下に移動し、窓際に立つ。

すぐに少し焦ったように慌てたジョエル様が顔を出した。



ん? なぜそんなに焦っているんだ?

アーロンが緊急とでも言ったのか?

私はジョエル様の行動を疑問に思いながらも淑女の礼をした。



「頭をあげてくれ。

アーロンからアイラ嬢が話があると取次があったのだ。

なんだろうか?」



早急に本題に触れられる。

あぁ学園で話すのは不都合なのか?

と思い早急に用件を伝えることにした。



「ジョエル様のご都合がよろしければ、昼食をご一緒にできないでしょうかとお伺いしたかったのですが……。

もしご都合がよろしい日がございましたら、いつかご一緒してくださいませ。

それだけお伝えしたかっただけなので失礼いたしますね」



そういって立ち去ろうと後ろを向いた。

その瞬間、ジョエル様が私の手を捕まえて焦りながら口を開く。



「待ってくれ。

ぜひ…いやっ。

婚約者同士なのだから今日からでも一緒にとろう。

ふたりっき…いや。

生徒会の仕事があるので生徒会室でどうだろうか?」


言っているジョエル様を観察しながら返答する。


「もしお邪魔にならないのであれば、生徒会室にお邪魔してもよろしいでしょうか?」


「もちろんだ」

と返答があった。



教室に戻り、授業の準備をしながら先ほど観察したジョエル様の状態を振り返った。


少し耳の先か赤かったのはなんだろうか? 風邪か?


まぁわからないから昼にでも聞こう。

そう心に決めて授業に集中することにした。




私はランチボックスをもって生徒会室に向かう。

朝起こったことを思い出しつつ、ジョエル様に確認することを脳内でまとめていた。


まずはアーロンと話していた時になぜこちらをみていたのか。そして私と話しているときになぜ耳が赤くなっていたのか。


もし私が学園で話しかけることに不都合がある場合、今後の任務に関しての取り組み方が変わってくる。


そして耳が赤かった件に関しては、もし風邪などであれば休むことを進言しなければならない。



よしっ!

気合を入れて生徒会室の扉をノックした。



コンコンという音に少しかぶり気味に

「入れ」

という声が聞こえる。


「失礼します」

声をかけ扉を開ける。



ジョエル様は、先ほどまで生徒会の書類を確認されていたようだった。

テーブルに書類が残っていた。


「すまない。

確認しなければいけないものがあって……。

まぁ座ってくれ」


そういって書類を慌てて片付け始めた。


「ほかの生徒会の方はおられないのですか?」


他の生徒会の人もいると思っていたところに、ジョエル様しかいないことに少々驚いた。



「あぁ皆は食堂で昼食をとっている。

私は食堂からテイクアウトしたものを今日は準備した」



あっ……また耳が赤い。

でも表情はいつも通りの社交用の笑顔だ。



「そうですか。

ではお茶の準備をさせていただいてもよろしいですか?」



「ガンっ……」

と音とともにジョエル様がうめき声をあげる。



「すまない……アイラ嬢がお茶を入れてくれるのか?」


どこかに足ぶつけたのか……痛そう。

顔赤いですよ?


「はい。ご迷惑でしたか?」


「いやっ……そこの扉に給湯室がある。好きに使ってくれ」


まだ少し赤い顔で、目線を合わせずに書類を握りしめているジョエル様。


「少々お待ちください」

と言って、お茶を入れにいった。



今まで、お茶会やエスコート時には感じたことのない雰囲気をジョエル様に感じる。


あれはなんだろうか?

これも聞き出し要項に追加だな。

と思いながら、お茶を準備してジョエル様のもとにいった。



席に戻ると、ジョエル様は片付けを終わらせてソファに腰掛けるところだった。


「あっ……すすすまない。

アイラ嬢も座ってくれ」


その言葉に私は座る場所を考える。

ジョエル様が座っているのは二人掛けのソファ。


あと向かい側にも二人掛けのものがあり、あとは一人掛けのものが二つテーブルを囲むように置いてある。

向かいに座ったとして、特に問題はない。

しかし今はジョエル様の耳が私は気になってしょうがない。



よっし。

隣に座ろう。




常識的にも婚約者であるから問題は無い。

適度な距離があれば。

ジョエル様の前にお茶を置いてそのまま隣にお茶を置く。



小さく

「えっ!?」

という声が聞こえたのでジョエル様のほうに顔を向ける。


「何か?」

の意味で小首をかしげた。


「えっ……あっ……いやっ座ってくれ」



今度は首元までもが赤くないか?

やっぱり体調が悪いのか?

聞かなければ!


そう思いながらも、とりあえず座ってランチボックスに手を伸ばす。



「アイラ嬢……は……いつもランチボックスをもって来てるのかい?」


「はい。食堂もおいしいので時々はいただきますが、持ち込みのほうが自分の好みに作れますし」


「えっ!?

それ……は……アイラ嬢の手……手作り……」


「はいそうです。

淑女が厨房に立つのはよくないですが……。

我が家は……そこまで厨房に負担をかけられないので」


「そうか……」



実家である貧乏伯爵家から通っていることになっている。

そうは言っているが、学園がある日は基本手作りしている。

料理は好きであるし、自分の体調管理のためにやっている。



ジョエル様が食堂のテイクアウトを広げ始めたので、私も自分のランチボックスを広げる。

お互い話すことなく、もくもくと食事を進める。


ふむ。これは。うん。

いつもならジョエル様が何かしら会話を促してくれるのだが……。

無言だ……。



よし今聞こう。



「ジョエル様……」 「アイラ嬢……」



「あっすみません。どうぞジョエル様」



話かけるタイミング……間違えた。

とりあえずジョエル様の話を聞いてからにしよう。




「すまない。アイラ嬢。

では……先に……。

ああ明日もともに昼食をとってくれないだろうか」



おお!

こちらとしてもありがたい。



「もちろんです!

明日からもご一緒させてください」



少し勢いがついてしまった。

まぁいいか。

そっとジョエル様を見ると、今度は耳全体が赤くなっている。


今しかない。さりげなく聞こう。


「ジョエル様。

今日一日、耳や首が時々赤くなっておられますが……。

体調は大丈夫ですか?」


ジョエル様の顔を覗き込みながら聞いた。



「なっ…!! なんともないっ」


顔をそらされてしまった。



「ではなぜ赤いのですか?

今日は寒くもないですし。」


「いやっ……これは……あぁ。

少し……体調がよくないかもしれない。」


「なるほど。

いろいろお忙しいでしょうが、ご無理なさらないでくださいね」



そういってお茶を飲み終えたその時タイミングよく扉がノックされる。

扉を開けたのはアーロンだった。



「すみませんジョエル様。

少しお時間よろしいでしょうか?」


「あぁ。もちろんだ!」


勢いよくジョエル様は席を立った。




「ではジョエル様、また明日お邪魔させていただきます」


声をかけて生徒会室を後にした。


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