【おまけ】 とあるカラスのひな探し任務
漆黒のカラスとして俺は全ての任務に誇りを持って挑んでいる。
ある時は他国のスパイをけん制したり。ある時は詐欺を働く貴族を暗殺したり。
しかし、周囲に覚えられない、存在も知られない、俺の存在が世間では無いものとされている。
そのことに何も思うことが無いとは言い切れない……。
漆黒のカラスは、主に命じられて人を殺めることも少なくない。
そのため自身のそのままの姿を仲間にも見せることもない。
隠密任務の際、漆黒のカラスの正装をしてしまえば性別も年齢も何もかも隠れてしまう。
姿を現す任務も基本的に変装をするので自分の本当の姿を知る者はいない。
ある日複数人の漆黒のカラスのメンバーが主に呼ばれた。
数年おきに行われる表向きは公爵家のハウスパーティー。真実はカラスのひな探しが行われることが発表された。
カラスのひな探しは、公爵の縁戚からカラスの素質のあるものを見出す場だ。
今回集められた漆黒のカラスのメンバーはそれぞれ子供につけられる。
昼夜問わず、子供を観察し最終日までにカラスの適性があるかないかを主に報告する事が任務だ。
主にそれぞれ用紙を配られ、自分が担当する子供の情報を確認する。
俺の担当する子供はサリム伯爵家の次女だった。
「女か……」と思いながら用紙を主に返却する。
「それではみんな頼んだよ」
主の一言でメンバーは散った。
ハウスパーティーが始まり、俺は令嬢の担当だったので屋敷の使用人に変装し、アイラ伯爵令嬢を確認した。
情報によれば五人兄弟の3番目、次女。
伯爵の人柄がそのまま出た領地経営のため、領民を一番としたかなり良い領主である。
ただそのため贅沢を望まないため、伯爵家としては質素な生活をしている。
アイラ嬢は輝く銀髪にかわいらしい見目をしており、仕草も態度も楚々としている。
まさに令嬢としてお手本のような様相である。
「これは普通の令嬢だな……」
と気を緩めたその時の自分に今は叱責を覚える。
ある日、アイラ嬢を目で追っていれば午前の学習が終わり、いつも通りみんなと昼食をとっていた。
そして何やらアイラ嬢は自身の姉君に話しかけられ、大人のお茶会に姉君と向かうようだった。
俺は急いで先回りしてお茶会の中に使用人として紛れ込みアイラ嬢のテーブルの隣に控えた。
アイラ嬢はニコニコと大人の話を聞いており、特に自分から発言することもなかった。
年若い令嬢として大人の会話を邪魔しない見本のような過ごし方だ。
俺はどこかの夫人にお替りのお茶を注ぐため一瞬だけアイラ嬢から意識を外した。
お茶を注ぎ、慇懃無礼に礼をして再びアイラ嬢に意識を戻そうとしたその時……。
「いない!? だと!!」
心の中で焦りのあまり叫んだ。
アイラ嬢が綺麗に消え去ったかのようにその場に居ないことに気づいた。
俺は焦って周囲を見渡す。
今日アイラ嬢が着ていた青いリボンのドレスの裾が生垣の中に吸い込まれていったのが見えた。
急いでアイラ嬢を周囲にばれないように追いかければアイラ嬢は隣接する森の中に入っていった。
俺は急ぎ使用人の制服を脱ぎ捨て茂みに隠し漆黒のカラスの正装姿になる。
アイラ嬢は人目がないことをキョロキョロしながら確認する。
そして何のためらいもなくドレスを脱ぎ、シュミーズ一枚で木に登ったり森の中を危うげなく歩いて散策をはじめた。
どうやらドレスが汚れてしまうのを気にしたようだった。
俺はそれを驚きながらも気配を殺してついて行った。そんな日が数日続いた。
「またかよ……」
と心の中でため息をつきながら森で一人生き生きと遊びまわるアイラ嬢を追いかけることにも慣れてきた。
この日も同じように森の中で、シュミーズ一枚で走り回るアイラ嬢を観察していた。
今日は何を思ったのか、石に自分の髪を結っていた紐を巻き付けそのまま木に登って何かを待っていた。
「何をするつもりなんだ……」
心の中でそう言いながら息を飲み観察を続ける。
シュッという音と共にアイラ嬢の手から離れた石は野兎に命中していた……。
思わず「マジかよ……」と小さく声が漏れてしまう。
子供の力でそして野兎という小さな的に見事命中させる投降の腕前。
そしてあるもので獲物を狩る発想力。
数日に渡る観察でも見せてくれた運動神経の良さ。
俺は顎が外れるのではないかというほどあの小さな少女に日々、驚かされてしまう。
アイラ嬢は嬉しそうに野兎に近づきそれからすぐに顔を青ざめた。
「どうしたんだ? 死骸にショックを受けたのか?」
しかし間違えて野兎に石を当てたとは思えない。
確実に狙って石を投げていたからアイラ嬢が蒼白になる意味が分からなかった。
そこで予想外なアイラ嬢のかわいらしい声の独り言が聞こえた。
「あ……そうだった……ここはご飯がいっぱい食べれるんだった。
でも無意味な殺生はよくないし……でも今日は捌く道具持ってない……」
泣きそうになりながら周辺をウロチョロしはじめた。
「あぁなるほど。伯爵領ではアイラ嬢は狩りを定期的にしているのか」
納得をしつつも齢5歳の取れる行動とは思えず、俺は驚きと好奇心から普段なら絶対にしない行動に出てしまった。
アイラ嬢が気づく場所にそっと彼女が扱えるサイズのナイフを置いた。
ナイフを見つけたアイラ嬢は満面の笑みでウサギとナイフをそれぞれの手に持ち川に向かう。
アイラ嬢は見事な手さばきでウサギをきれいに捌いた。
そしてそれを木の葉で包みナイフと共に石の上に置く。
「ナイフありがとうございました。良ければ皆さんで召し上がってください」
綺麗な礼と共にそう言った。
そのアイラ嬢の行動に俺は「やはりか……」と肩を落とす。
今まで任務対象に気配も存在もばれたことが無いと思っていた。
しかしまさかこんな子供に見破られるとは……俺の存在を見つけられるとは思わなかった。
俺は無意識に緩む頬をなんとか抑え、木の葉に包まれたウサギ肉とナイフを回収し主に報告に向かった。
夜になり屋敷の与えられている部屋に戻ったアイラ嬢を屋根の上から確認する。
すると部屋についている小さなバルコニーに何かを持ってアイラ嬢が現れた。
アイラ嬢は独り言のように
「これで私も家族の役に立つことができます。あなたのおかげですよね。
ありがとうございます。夜はまだ冷えますので……」
そういってマグカップをバルコニーの手すりに置き部屋に戻っていった。
そっとマグカップを確認するとあたたかなカフェオレだった。
屋根に上って飲んだカフェオレは今までで一番甘かった……。
アイラ嬢がカラスとなり、いつか任務に携わることになったとき俺が一番近くでサポートしたいな……。
そう思いながら彼女が立派なカラスになることを期待しながら俺のひな探し任務は終わった。




