45 アイラ最後の任務(4)
ミレッタと再び席につき、メイドが入れ直したお茶を飲み始める。
すると慌ただしくアーロンが駆け寄ってきた。
「ごめん! アイラ! 遅くなった」
「大丈夫よ。今ちょうどミレッタの専属が決まったところ」
私がそう言うとアーロンは嬉しそうにミレッタの方を向いて微笑みながら声をかける。
「よかったな。ミレッタ。
これで俺も安心してアイラに話ができる……」
そう言って私の方に向き直り着席する。
メイドが入れてくれたお茶を一口飲み少し考えた後話始めた。
「この話はジョエル様に俺からアイラに話したいとお願いしたことなんた……」
いつになく真剣な様子のアーロンに私はしっかりと頷く。
そんな私を見て困ったような笑顔を向けて話し出す。
「ずっとアイラに言えなかった事がある……。
…………俺はジョエル様の専属なんだ」
アーロンの言葉に驚きはしたが納得もした。
本来王族の専属となるには主が国王になるしかない。
しかし、ジョエル様とアーロンの間にははっきりとは分からなかったが何か絆の様なものがあるように感じていた。
私は今まで分からなかった事が分かり少しスッキリしてアーロンに向き直る。
「…………あれ?もう少し何か反応があると思ったんだけど……」
予想外とでも言いたげなアーロンの言葉に私はクスリと笑いながら話す。
「専属とまでは分からなかったけれど、何かあるんだろうなとは感じてたよ。
それに異例とはいえ、エルの専属がアーロンなら私も安心だもの」
私の言葉に呆気に取られたのか軽くため息をつきながらアーロンは話し出した。
「俺……内緒にしていた事だから……
かなり緊張して打ち明けたんだけどな……。
とりあえず、どうして俺がカラスとして例外的ににジョエル様の専属になったか説明してもいいか?」
アーロンは緊張が抜けたのか力を抜いて言うので私も笑顔で頷いた。
「ジョエル様からアイラをカラスだと知った話は聞いただろ? 実はその時に俺は専属になったんだ。
本来であれば王子に疑われたとしても確信的な事は言わないように決められている。
しかし、俺は公爵様の許可を得て専属になった」
そんな前からだとは思わなくてさすがに驚いた。
驚く私を見てアーロンが嬉しそうに話を続ける。
「やっと驚いてくれた。
公爵邸にジョエル様が向かった時、俺も同行していたんだ。
そして公爵様と話し終えたジョエル様に『君もカラスなんだね』と言われた。
そして公爵様にその事を報告すると、専属になりたいなら許可を出すと急に言われて俺は一も二もなく頷いた。
俺は本能で俺の主はジョエル様だと感じたからだ。
ただそれだけで専属になる事を決めた」
周囲にいつも気を配って、色々な事を想定して判断するアーロンにしては珍しいと思った。
でもカラスの本能に従って主を決めたアーロンもなんとなくアーロンらしいなと思っていた。
「だから今回のアイラの囮任務の事をジョエル様に言ったのも俺だ。
だからジョエル様はアイラを迎えに行った。
結果としては良かったがアイラに不安を抱かせることになったのは俺が原因だ……。すまなかった……」
そう言って私の方を向き頭を下げるアーロンの肩にそっと手を添える。
「アーロン……頭を上げて。
あの時確かに色々考えたけれど、あの時ジョエル様が来てくれて嬉しかったのも本当よ。
それに専属となったからには主の希望を叶えるのは当たり前。私だってカラスなんだからそれくらい分かってる。
だから気に病まないで」
私の言葉にアーロンはゆっくりと顔を上げ、真剣な面持ちで私の手を持ち、自らと共に立つように促す。
「我が主の伴侶様。私はあなたを主の伴侶として守り抜く事を誓いたい。どうか許可を」
「もちろん許可します。私はあなたの主の伴侶としてあなたが主を守る限り、私もあなたを守り抜きましょう」
アーロンは立ったまま私の手の甲にキスをする。
跪いて宣言をし手の甲にキスをするのが専属の忠誠の誓い。
そして主の伴侶にする誓いは、跪かず立った状態でする。
私はその忠誠の誓いをアーロンから受け取った。
キスをした手を握り嬉しそうに私と目を合わせて微笑んだアーロンに言う。
「これからもよろしくね私達夫婦をあなた達夫婦で支えてね」
私の言葉にアーロンがジョエル様の様に真っ赤になる。
「ミレッタに聞いたのか?」
「うん。さっき。
報告を聞いてすごく嬉しかった。
おめでとう」
そう言ってミレッタを見ると涙ぐんでいた。
「ミレッタどうして泣くの!?」
私が焦ったように聞くとミレッタの涙腺は崩壊し涙をポロポロとこぼし始める。
アーロンは私から離れミレッタの側により肩を優しく抱いてミレッタの涙を拭ってあげていた。
そして私の方を向いてミレッタの代わりに教えてくれる。
「昨日の夜、ミレッタにこの話をアイラにする事を言ったんだ。
そしたらミレッタはアイラなら気にせず伴侶の忠誠を受けてくれると言いながらも不安だったみたいなんだ。
自分も専属の忠誠の誓いをするつもりだったから、いっぱいいっぱいだったんだろう」
「だって……だって……。
せっかく仲良くなったのに……。
もしどちらかが上手くいかなかったら……
2人とも上手くいかなかったらって不安だったんだもの……」
そう言って泣くミレッタをアーロンと2人で慰めた。
ミレッタが泣き止み、誰かが声を出してクスクスと笑い出す。
最後には3人とも声を出して笑い合った。
今日はたくさんの忠誠の誓いを受ける事になり、私が守らないといけないものがどんどん増えていく事に『幸せ』を感じた。




