44 アイラ最後の任務(3)
今日は学園が休みの日。
最近色々あったので今日はゆっくりと過ごす予定になっている。
ミレッタともお茶の約束をしているので私は庭でミレッタを待つ間過ごそうと本を片手に外に出た。
「「姉さま」」
庭のテーブルで本を読んでいるとカラスになった妹と弟のクリスティーナとクリストファーがやってきた。
クリスティーナは公爵邸の侍女服に身を包み、クリストファーは侍従服に身を包んでいた。
私はそんな2人の格好を不思議に思いながらも声をかけた。
「久しぶりね。と言っても1カ月くらいかな?
元気にしていた?」
「「はいっ」」
2人が声を合わせて元気に返事をするので思わずクスリと微笑む。
私は不思議に思った事を聞いてみることにする。
「2人はなぜ公爵邸の使用人の制服を着ているの?
新しい任務?」
私がそう問えば2人は目を輝かせながら話し始めた。
「姉さまが公爵家のお嬢様に正式になられたとお館様から伺いました」
「それでお館様が提案してくださったのです」
「「私達をお姉さまの専属にと」」
目をキラキラと輝かせながら説明してくれた。
どうやらお父様が私を公爵家の娘にする事で、2人から姉を奪うことになってしまうと。
2人が姉に憧れを抱いている事を知っていたが、接触を禁止していた上に姉を奪うことになってしまい申し訳ないと謝罪されたのだとか。
そして公爵様は今まで一緒に過ごせなかった分、2人に私の専属侍女と専属執事にならないかとお誘いくださったそうだ。
公爵家の専属と付く名前は専属カラスになることも含まれる。
専属には主からの命令と同等の命令ができるようになる。
なので2人が私の専属侍女、専属執事になると言うことは私の専属カラスになると言うことだ。
私は驚愕の余り、本を取り落とした。
それを拾い恭しく私に差し出しながらクリストファーが跪く。
隣でクリスティーナも同じように跪いた。
「「我ら如何なる時もアイラ様のお側に。
専属になる許可をいただきたい」」
2人の正式な専属カラスの忠誠の誓いに胸がいっぱいになり思わず涙ぐんでしまう。
2人は同時にそっくりの不安そうな顔で頭をあげ、私が涙ぐんでいる事に気づく。
「姉さま……僕たちは姉さまをお側でお支えしたいです」
「今までお側にいられなかった分、一緒に居る時間をください」
そう言って再び首を垂れる。
「「どうかご許可を」」
私は両手をそれぞれ2人に差し出し主の誓いの言葉を口に出す。
「2人に許可を与えます。2人が私の側にいる限り、私はあなた達を全力で守る事を誓います。だから私の側から決して離れないように」
私の言葉にクリストファーを涙を滲ませながら、クリスティーナは涙を溢しながらそれぞれ私の甲にキスをする。
「「御意に」」
2人の返事を聞き私は2人に手を平を向けて差し出し手を取るように促す。
私の手をしっかりと握り立ち上がる2人に私は思わず抱きついた。
「嬉しい。ずっと会えなかったのに姉と慕ってくれて、専属になる覚悟を決めてくれて……。本当にありがとう」
「「姉さま!!」」
2人も私に抱きついてギュッと抱きしめてくれる。
しばらくそのまま時を過ごし、クリストファーが照れ臭そうに私から離れる。
少し名残り惜しそうにしながらもクリスティーナも私から離れる。
「まだ私たちはこれから専属となるべく、使用人研修を受けなければなりません」
「私達頑張ってお姉さまの結婚式までには使用人の研修を終わらせて見せます!」
「嬉しいわ。待っているわね。
これからも許された人の前だけでも姉さまと呼んで欲しいわ」
「「はいっ! 姉さま!」」
私の言葉に2人は満面の笑顔をこぼしながら元気いっぱいに返事をしてくれた。
お父様と双子からの嬉しいサプライズをいただき私は胸がいっぱいになる。
「よかったわね。アイラ。
あらっ? お嬢様と言った方がいいかしら?」
私が感慨深く双子とのやり取りを思い出していると入れ違いでミレッタがやってきた。
「さっき双子に会って話を聞いたわ。
2人が専属になるそうね。よかったわ」
「ミレッタはクリスティーナとクリストファーを知っているの?」
「えぇ。時々クリスティーナの面倒を見ていたからね。
でもあなたには口止めされていたから……。
教えられなくてごめんなさい……」
ミレッタと双子が面識があったことに驚きつつ、ミレッタに席にすすめ2人でお茶を口にする。
「色々慌ただしくてミレッタに直接報告できなくてごめんなさい……」
私が謝ると私の手をギュッと握ってミレッタが微笑みかけてくれる。
「大丈夫よ。本当にアイラは色々大変だったんだから。
それに話はアーロンや夫人から聞いてるわ。
今日は誘ってくれてありがとう」
ミレッタの言葉に私も微笑みを返す。
そして先ほど報告があった事を付け加える。
「そういえば、さっきアーロンから少しだけ話したい事があるって連絡が来たわ」
「あーあのことね。
私も昨日アーロンから打ち明けられたの。
アイラもアーロンから直接話を聞いた方がいいわ」
ミレッタの言葉に素直に頷く。
何の話か全く検討はつかないけれどアーロンの事だから大丈夫だろうと考える。
「…………あのね……アイラに話したい事があるの」
ミレッタが頬を染めて恥ずかしそうに言うので、私は少し考えた後、まさかと思い当たり思わず口を開けそうになったので手で隠す。
けれど私の見開いたままの目に気づいたのかミレッタは苦笑しながらも教えてくれた。
「あら? 気づいた?
あのね。正式にアーロンと婚約することに決まったの。
結婚はアイラ達の後のサイラス様達の結婚式が終わり次第予定を立てようって」
ミレッタからの嬉しい報告に飛び上がりそうになるほど私も嬉しくなる。
「嬉しい! 2人が私とエルの支えになってくれるってこと?」
「そうなの。それでね、昨日この事を夫人に報告したら
ある提案をされたの……」
「お母様から?」
「ええ。アイラは戦闘に関しては文句が言えないほどの腕だけれど、今後、公爵夫人になるならば夜会やお茶会は必須でしょう?」
私はミレッタの言葉に思わず顔を顰めてしまう。
言われた通り、公爵夫人となるからには夜会やお茶会と言った事には参加せざる得ない。
今まではジョエル様の添え物くらいの感覚だったので特に何も考えなかったが、カラスの主の夫人となるからにはお茶会や夜会などで情報を得たり、情報をコントロールする必要が出てくる。
もちろんカラスとは関係なく、公爵夫人という立場ならば逃げたくても逃げれないのが社交だ。
その事を考えるといつも顔が歪んでしまう。
「アイラ。そんな顔しないで。
そしてここからが肝心な話。
夫人からの提案を受けるか受けないかはアイラに任せるわ。だからちゃんと聞いてね。」
ミレッタは椅子から立ち上がり、私の隣で先ほどの双子の様に跪く。
「私は如何なる時もアイラ様のお側に。
アイラ様の専属付き添い人になるご許可を」
ミレッタの言葉に私は目を瞠る。
付き添い人とは上位貴族の夫人に付き添う爵位が下の夫人の事である。
一緒にお茶会に出向いたり、一緒の夜会に参加し、夫人が1人にならないようにしたり、会話を補助したりする役割の事を言う。
ミレッタが私の専属付き添い人になると言うことは、私はミレッタを伴い社交界に出る事になる。
思わず「すごく心強い……」と呟くと、ミレッタは笑いながら顔を上げる。
「ねぇ? 許可はくれるのかしら?」
ミレッタが跪いたまま聞くので思わず焦り返事をする。
「もちろんよ! あっ違う!
ミレッタに許可を出します。あなたが私の側にいてくれるならば私はとても心強い。私もあなたを必ず守る事を誓います」
双子の時と違い少し情けない誓いになったがミレッタは私の手を取り甲にゆっくりとキスをしてくれる。
そして顔を上げて嬉しそうな満面の笑みを見せてくれる。
私はミレッタに手を貸し立ち上がるのを手伝う。
2人で再度顔を見合わせて微笑み合う。
「アイラの専属になれるのがものすごく嬉しい」
「私もミレッタが側に居てくれるなら社交界も怖くないわ」
そう言ってお互い顔を見合わせてクスクスと笑った。




