42 アイラ最後の任務
ジョエル様を見送って、私は自室に戻りホッと一息ついた。
着替え終わり、メイドが入れてくれたリラックス効果のあるお茶をゆっくりと飲みながら先ほどの事を思い浮かべ思わず頬がまた熱くなる。
そして窓にふと顔を向ける。
頬が緩んで赤くなっている自分が写った。
そんなことすら嬉しく感じてしまい、夫人の言葉を思い出す。
『それが幸せよ』
次の日、朝食の席で公爵夫妻にこの後少し時間をいただけないかと問うと快く了承してもらえた。
3人で歓談室に向かい、メイドの入れてくれたお茶を飲む。
「アイラ。心は決まったのかな?
よければ聞かせてほしい」
私は公爵様に言われ、思わず息を飲み緊張してしまう。
「アイラ、緊張しなくていいわよ。
私達はアイラちゃんがどんな結論を出そうとアイラちゃんを愛してる事には変わりはないの」
夫人の言葉に思わず涙が溢れそうになってしまう。
それをグッと堪えて、私は夫妻に向き合った。
「私をお2人の養女にしていただく件。お受けしたいと思います」
私の言葉に目を見開き驚きの表情をして目を潤ませる夫人。
夫人の肩を抱いて慰めるようにさする公爵様の優しい目が私を見ていた。
「嬉しい……。嬉しいわ……アイラちゃん。
あなたを娘と出来ることが本当に……」
「そうだね。今までも娘のように接してきてはいたが……。本当の娘になるんだな……」
お2人が感極まった様子で言ってくれる言葉に胸があたたかくなる。
私も思わず目が潤んでしまう。
「おいで」
公爵様が私を手招きし、向かい合って座っていたソファの公爵夫妻が座られている方に呼ばれる。
言われる通りに公爵様に近寄ると2人は立ち上がり私を抱きしめてくれる。
「私の可愛い娘。これからもよろしくね」
「愛してるわ……。アイラちゃん」
抱きしめられながら言われた言葉に私の目から涙が溢れ落ちる。
私はそれを拭うことなく、顔を上げて2人を見つめた。
「お父様。お母様。これからもよろしくお願いします」
私の言葉に公爵様…いえ、お父様は目を瞠って驚きすぐに優しい笑顔になり、私の溢れた涙を優しく拭ってくれた。
お母様は「やっと……本当の母様になれたわ」と更に強く抱きしめてくれた。
「さぁそろそろ話を続けないとね」
しばらく3人で抱き合っていると公爵様がクスリと笑いながら言うので、またソファにそれぞれ3人とも座り話し始めた。
「それじゃ、アイラが僕達の養女になると決めてくれたと言う事は……。
ジョエル様との話も上手く行ったと捉えて構わないかな?」
お父様の言葉に昨日の事を思い出し、頬が赤くなる事を感じながらコクリと頷く。
「まぁ! では王妃様とも話さなくちゃ!」
お母様の言葉に顔がどんどん熱くなっていく。
そんな私を見てお父様が笑いながら、話を続ける。
「それは後で2人で話してもらっていいかな?
僕は急ぎ王宮に向かってアイラが私達の養女になるための手続きをしてこなきゃいけないからね」
「まぁ! そうね! それが先だわ」
はしゃぎながら言うお母様にお父様が額にキスをしながら言う。
「じゃぁ2人ともまずはアイラの養子手続きを早速済ませてくるよ。
2人はせっかく親子になったんだからゆっくり過ごすといいい。
私も今日は早く戻ってくるから3人で夕食をとろう」
そう言って部屋を出る前に私の頬にも優しくキスを落としてくれる。
「可愛い私の娘いってくるね」
「お父様いってらっしゃいませ」
そう返事をすると優しく微笑んでお父様は部屋を出て行った。
今日は天気が良いからとお父様の言葉通りゆっくりとお母様と過ごすために外でお茶をする事にした。
2人で庭に出ると、庭のテーブルには既にお茶の準備がしてある。
テーブルには私の好きなフルーツをたくさん使ったお菓子が並べてあった。
「まぁ! みんなもアイラが私達の娘になる事を喜んでくれているのね」
そう言って席につくお母様に倣って私も席についた。
「お嬢様。こちら使用人一同からです」
と言って綺麗な花束を渡される。
「こちらのお菓子類も使用人達で考えてお祝いとさせていただきました」
そう言われて先ほどおさまったはずの涙がまた溢れそうになり、もらった花束で顔を隠しながら「ありがとう」と伝える。
メイド達は嬉しそうに微笑み静かに下がった。
「多分みんな今か今かとアイラちゃんがこの公爵家の人間になるのを待っていたのね」
そう言って笑いながらお茶を一口お母様が飲んで話す。
「さぁ。まずは昨日のお話を聞かなきゃね」
その言葉にビクリと思わず体を揺らす。
「まぁまぁ。全部話さなくてもいいわよ。話せることだけで。後は私が脳内で補完しておくから」
お母様のその言葉に恐れをなして結局私は昨日ジョエル様と会った事を事細かく話す羽目になった。
「まぁ! 素敵だわ……。
これで王妃様も安心されるわ」
昨日ジョエル様から聞いた話だと、ジョエル様の実の母のようにジョエル様を大切にしてらした王妃様が喜ばれるのも分かる。
それが嬉しくて私も微笑む。
「あら? アイラちゃん。
もちろん王妃様はジョエル様の長年の片思いが実った事を喜ばれるというのもあるけれど、王妃様はあなたの事もものすごく好きでいらっしゃるのよ?」
私はその言葉を不思議に思い思わずコテリと首を傾げる。
私は王妃様とさほど接点が無い。
というのも、王子妃教育の監督は側妃だったのでご挨拶にも伺った事がない。
そんな不思議そうな私を見てお母様がおかしそうに笑う。
「まぁあなたの王子妃教育は側妃が担当されていたものね。不思議に思うのも仕方ないわ。
けれどね……あなたを側妃から守れなかった事を悔やんでいられるのもあるの」
私が知らなかった王妃様のお心遣いに私は思わず目を瞬いた。
「ジョエル様から聞いたみたいだけれど、ジョエル様が大切にしている人を大切にできなかった事を後悔なされて一度あなたのことをこっそり見ていらしたそうなの。
ジョエル様とのお茶会を。それでね……」
お茶を一口飲み、思い出したのか楽しそうに笑いながら私を見て続きを話すお母様をジッと見る。
「その日に私は王妃様に急に呼ばれて王宮に伺ったのよ。
そしたら王妃様ったら、表情をコロコロ変えながら言うのよ。
『あんな綺麗な子を見た事がないわ。今までちらりとしか見た事がなかったからあんなに綺麗で可愛いなんて気づかなかったわ。早く笑った顔が見たい。さぞ可愛いんでしょうね。あっでも守れなかったから嫌われてるかしら』ってね」
王妃様とお母様は歳は少し違うが友人らしく、今までも王宮に個人的にお茶に呼ばれていた。
しかし王妃様とお母様がそんな会話をしている事も知らなかった。
「王妃様は可愛いものや綺麗なものが大好きで、それは人に対してもそうなの。だからサイラス様の婚約者のロレッタ様のこともそれはそれは大切にされているわ。
だからあなたの事も同じように大切にしたいけれど嫌われているのではないかしらと不安なのよ」
「そんなことっ! …………そんな事ありません。
王宮舞踏会の時もドレスをいただきましたし、その後も心配そうに視線を送ってくださっていましたから」
自分が思っていたよりも勢いよく否定してしまいそうになったので一度落ち着いてお母様に伝える。
それを見てお母様はまたおかしそうに笑う。
「じゃぁ、多分すぐに王妃様とのお茶会に呼ばれると思うからその時にきちんとお話しできる?」
「もちろんです!」
私の返答に嬉しそうにお母様が微笑んでくれた時、使用人が走りながらこちらに駆け寄ってくるのが見える。
「ほらね」
お母様の言葉の後使用人が嬉しそうに手紙を差し出す。
「王宮から……。王妃様からお2人にお手紙です」
使用人から手紙を受け取り、お母様と目を合わせて笑った。




