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39 アイラ囮任務の結末を知る(ジョエル視点)(2)


アイラを公爵邸に送り届け、僕は王宮に急いで向かった。

最後に見たアイラの不安げな表情に後ろ髪を引かれながらもなんとか馬を走らせた。



王宮に到着し、王宮の奥にある王族の生活エリアに近い応接室に向かう。

扉をあけると、国王、王妃、第一王子サイラス兄上、宰相、公爵が僕を待っていた。



「遅くなりもうしわけありません」

それだけ発言し僕も席についた。


「アイラ嬢は無事か?」

国王の問いに首肯して答える。



別れ際の不安そうなアイラの顔が再びよぎる。

早くすべて終わらせて彼女のもとに向かわなければと思い背筋を伸ばし、皆に向き合う。



「それではこの度の第二王子ジョエル様の婚約者、サリム伯爵家アイラ嬢誘拐事件の詳細をお話させていただきます」


公爵が、アイラが誘拐された流れを話しだす。


「犯人はゴルダン伯爵令息マレック、ギード子爵令息ミランとガルーダ子爵令息マリオの3人。

しかし三人とも廃嫡されているために元令息になります。


3人は街の破落戸に依頼しアイラ嬢を誘拐、犯行現場の屋敷にて暴行するつもりだったと証言しております。

ただ、彼らは一同に『さるお方に頼まれた』と証言しております」


王妃の顔が陰ったのが見えた。

公爵はそれに気づきながらも平然と続きを報告する。



「彼らの言う『さるお方』の関係者が屋敷の外で発見されております。

同様に尋問する予定でしたが、側妃専属護衛を表す紋章を隠し持っておりました。


調べにより最近、側妃に雇われた側妃専属の護衛でした。

王宮での彼らの目撃証言もございます。」




国王は「はぁ」と大きなため息をつく。

王妃とサイラス兄上が心配そうに僕に視線をよこすのに気づいた。

僕は「大丈夫だ」と二人に微笑みを返す。



「ではこの事件の黒幕は側妃でまちがいないか?」

僕は公爵に確信を言うように促す。


「この事件の黒幕……ですか……。

そうなると『この事件の黒幕も』が正しいかと思います」



サイラス兄上が驚いたのか普段の飄々とした雰囲気と変わり語気を強めて

「どういうことだ!!!!」

と公爵に詰め寄る。


公爵はサイラス様に落ち着くように一瞥をし話を続ける。



「それでは説明させていただきます。

王宮舞踏会の件の再度調査を行った結果、マリア嬢にあの事件を行うように促したのも側妃です。

かなり細かくアドバイスをされたみたいです。


これはマリア嬢から証言を取っております。

本人には自分で行ったように思いこませるよう巧みに会話で誘導していたようです。

そして……」



言いにくそうに公爵が国王に視線を送る。

国王は「申せ」といい王妃の手を握る。




「複数回に渡る、王妃暗殺未遂。

それに使われた毒物がすべてマリア嬢の実家であるハイネス家からみつかりました。


ハイネス家は側妃と共謀し、隣国との貿易を優遇する代わりに様々な毒薬や違法薬物を側妃に融通していました。

既にハイネス家は家宅捜索の末、全員とらえております」


僕は驚きのあまり思わず無意識に立ち上がった。


「ジョエル座りなさい」国王に言われ自分が立ち上がってしまったことに気づき座る。

王妃を見ると困ったように微笑んでいた。



「王妃はご存知だったのですか?

側妃が……私の母が……あなたに危害を加えようとしていたことを……」


「そうですね。確信はありませんでした。

かなり巧妙に行われていたので……。

ですが、ジョエル。あなたが私に罪悪感を抱く必要は無くってよ。


私はあなたをサイラス同様に愛しております。私が生んだ子ではありませんが……。

サイラスと育ったあなたに私は自分の子と変わらない愛情があります。

このことで側妃に罪はあれど、あなたには何もありません」



僕の目を見てしっかりと告げてくれる王妃の目を見て、涙が出そうになった。

国王も同意するように頷いている。

サイラス兄上が僕の肩をたたき「君は僕のかわいい弟だ」といってくれた。



僕にとって側妃は側妃で母という感じはしない。

「サイラスを超えなさい」「サイラスよりも優秀になりなさい」としか声をかけてもらった記憶はない。


そしてサイラス兄上と遊んだことがばれれば虐待ともとれるような躾をしながらヒステリックに怒られた。


しかし王妃は、サイラス兄上と遊ぶ僕にサイラス兄上と変わらず接してくれた。


王子教育で良い点数を取れば頭をなでてほめてくれ、剣術で騎士団長に褒められたことを伝えると自分の事のように喜んでくれた。

僕は自然と王妃に懐き、実母のように接した。

そして王妃もそれを許してくれた。


対して側妃には、王子の仮面をかぶり続け問題が起こらないように人形のように接していた。

それを国王もご存知だった。



「ジョエル。君にはつらい思いをさせた。

いらぬ悩みも不安も抱かせた。

それは父であり国王である私の責任であり、君が罪悪感を抱く必要はない」


思わず涙が一筋こぼれた。


実母から愛情は受けられなかったが、それを上回る愛情を与えてくれる家族がいたことに感謝した。



僕は袖で涙をグイっとぬぐい国王に向き直る。


「父上、私の母は王妃です。

側妃は私にとって毒でしかありません。

どうぞ罪に適したご判断をお願いいたします。

私は決定に対して減刑の嘆願は行いません」



きっぱりと言う僕を見て王妃は涙を流した。

サイラス兄上は僕の肩に置いた手で強く肩をつかんだ。


一度グッと何かを堪えるように目をつぶり、次に目を開いた父上は国王の表情をして決定を下した。



「本来であれば極刑である斬首刑が相応だ。

王妃の暗殺未遂。アイラ嬢の誘拐と暴行未遂の示唆と首謀。


そしてこの国に不利益をもたらす毒薬、違法薬物の輸入に関する件の教唆、首謀。

しかし、私も側妃を娶ることで利益が産まれると、愛することもできないのに娶った責任がある。


よって側妃を北の塔への一生涯の幽閉でこの件は終わらそうと思っている。

対外的には側妃は精神的な病のため療養に出たということにし、北の塔の事は公にしないでおこう。


これでどうだ? 宰相、公爵」



声をかけられた宰相は「御心のまま」と恭しく礼を取る。

公爵は「まぁ妥当かと」と国王に笑って見せた。



北の塔はこの国の北の海のそばにある塔で周辺には小さな村しかなく、一年のほとんどが雪に閉ざされた場所にある。

その周辺の者たちはこの国の民ではあるが昔から独特な文化を確立しており生活している。


しかし王都しか知らない側妃は寒さも環境もかなり厳しいだろう。

幽閉なので塔から出ることもないのでただ命の炎が尽きるのを待つだけの人生になるだろう。



「それでは今日中に側妃には北の塔へ旅立ってもらいます。監視、護衛はお任せください」


公爵が冷たく言った。

それに全員が一息つきながら首肯して同意をした。


国王とサイラス兄上が王妃に寄り添い退室したのを見届け僕は公爵に声をかけようとした。

すると先に公爵に僕の方に向き直り声をかける。


「ジョエル様、我が公爵邸は本日に限り何時でもジョエル様をお迎えする用意をしております。

それでは私は急ぎ一度公爵邸に戻り、アイラにも話したいことがありますし側妃の件の指示をいたしますので失礼いたします」


それだけ言って礼をして、僕の前から去っていく公爵の背を見送った。




部屋に戻るとアーロンが待っていた。


「ジョエル様大丈夫ですか?」


心配そうに伺うアーロンの心遣いに感謝しながら、

「その件は大丈夫だ。この後、シャワーだけ浴びて着替えて公爵邸に向かう」


浴室に向かいながらアーロンに声をかけた。


扉を閉めるときに小さく「ありがとう」と言った僕の声はアーロンに聞こえただろうか……。





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