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38 アイラ囮任務の結末を知る


入れ替えてもらった温かいお茶を一口飲めば少し心に余裕が生まれた気がした。

そんな私を見て夫人が微笑みながら話を始めた。




「私はこの公爵家のものすごく遠縁で本来カラス選びにもお誘いを受けるような縁もない男爵家の一人娘だったの。

ある日両親が馬車の事故で亡くなって、爵位も勝手に返上されたりして……。


親戚をたらいまわしにされるようになってしまったの。

もう、扱いもどんどんひどくなってね……がりがりでぼろぼろの姿だったのよ。

そんな時に引き取られたとある男爵家のお茶会に先代の公爵夫人と子供の頃の旦那様が来られたの」



当時を思い出したかのように少し頬を染め両手で頬を押さえつつ話す夫人。


今まで聞いたことのなかった夫人の過去の話に衝撃を受ける。



「その時、私は見つからないように地下に閉じ込められていたんだけど、旦那様が私の気配を察知して助け出してくれたの。

そこから公爵家に引き取られて、色々あってカラスとして過ごすようになったの」


そんなつらい過去が夫人にあったとは思わず、私は辛くなってしまい泣きそうになってしまう。

夫人はそんな私を見て少し笑いながら話を続ける。



「アイラそんな顔をしないで? 私は幸せよ。

そしてね、私は本当は花カラスとして花街に行くつもりだったのよ?

でも旦那様が理由も言わずに「絶対だめだ」というの。


私はたぶん子供の頃に旦那様に助けていただいたころから旦那様に恋していたの。

でも身分が違いすぎるわ。


私は当時、旦那様に「絶対だめだ」といわれて混乱したわ。

抱いちゃいけない期待をいだいてしまうし、恋心はどんどん大きくなってしまうし」


夫人は当時を思い出しているのか楽しそうに微笑みながら話してくれた。



「そこから先、私と旦那様がどうやって結ばれたかはまだ内緒ね」


かわいらしく人差し指を唇にあててウインクをする夫人に私も微笑み返す。


「ここからが本題なんだけどね」とお茶を一口飲んで続ける。





「旦那様と結婚して幸せだったんだけど何年たっても子供ができなくて……。

私は公爵夫人として失格だとかなり落ち込んでね……。

離縁まで考えていた時にあなたがやってきたのよ。


最初の数年は別邸で過ごしていたと思うけれど、あなたが八歳の頃だったわ。

第二王子の婚約者にあなたが選ばれて安全のためにこの屋敷に引き取ったの。

最初あなたは環境が変わって戸惑っていたことに私は気づいて、熊のぬいぐるみをプレゼントしたの。覚えてる?」


夫人の話に今も大事にベッドのサイドテーブルに置いてある少し色あせた熊のぬいぐるみを思いだす。

公爵本邸に来てすぐに夫人にいただいたものだ。

今は熊のぬいぐるみの隣に黒兎の『チビエル』のぬいぐるみを並べている。


ずっと大事にしてきた私の宝物を思い浮かべ、私は夫人に微笑みながらうなずく。



「あのぬいぐるみをあなたにプレゼントしたときあなたは普段表情が変わらないのに、頬を染めて『ありがとうございます。母様』って言ったのよ。


その時あなたは間違えたと下を向いたのだけれど……。

私はあの時、嬉しくてあなたを抱きしめながら、少し泣いたの。

あれからいろいろな事情があって言えなかったのだけれど……。


私はあの時のようにあなたに母様と呼ばれたいとずっと思ってたのよ。


私の気持ちを知っておいてほしくて……。

長くなってごめんなさい。返事は急いでないわ。

ゆっくりでいいからしっかり考えてみてもらえると嬉しいわ。

今日は疲れたでしょうゆっくり休みなさい」



夫人も公爵様のように座る私の頭を軽く撫でてくれる。

そして夫人は笑顔を私に向けて部屋を出て行った。






部屋に戻りぼーっとしているうちに夕食をぼんやり食べいつの間にか入浴もすまし、就寝の準備も終わっていた。


このまま考えていても仕方がないと、寝ようと決意しベッドに向かおうとした。


その時、焦ったようなノックの音とメイドの「アイラ様!!」という声が聞こえたので扉を開けた。




「アイラ様!! 第二王子がお越しです!! お話がされたいと……」


私の服装を見て後半困ったように声を萎めながらメイドが言う。

すでに就寝着に着替えているのが目に入ったのだろう。


私もまさか今日中にお話ができると思わず驚きながら、メイドを部屋に入れて急ぎ着替えを手伝ってもらった。


突然の訪問だけれど失礼がない程度に身支度を整え急いで応接室にメイドに先導されながら向かった。






急いで公爵邸の応接室に入室するとジョエル様が私を立ち上がって笑顔で迎えてくれる。


私をエスコートしてソファに座るように促し、隣に座る。


いつも昼食の時に隣同士に座っているが、場所が変われば少し緊張してしまう。


メイドがお茶を準備してくれている間、少しジョエル様を観察してみる。

髪や服は少し乱れ疲れているように見える。


そんな中、私と話すためにわざわざ公爵邸に来てくれたことに嬉しさがにじむ。

しかしこれから話すことが良い事か悪い事か分からず私の心はまた大きく波打ってしまう。


ジョエル様はこれからどう話すかを考えているようで、膝の上に肘を置き、顎に手を置いて考え込んでいた。




メイドがお茶を準備し退出した音で、我に返ったジョエル様がぼそりと

「よかった……無事で……」

と私の手を取り握りしめる。


不意の事で私はビクリと反応してしまう。




「アイラ……いろいろ私に聞きたいことはあるだろうがまずは、私の話を聞いてほしい」


私がうなずいたことを確認して少しずつジョエル様は話し出した。


「何から話せばいいのか……まずは、さきほど王宮で行われた事件の犯人の断罪の話を聞いてくれ」



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