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37 アイラ囮任務(4)


「「あっ! 時間みたいです。

姉さま、またお会いしましょう」」


双子が声を揃えて言って走り去ったのとほぼ同時に、私が馬車で連れてこられた道から馬の足音が聞こえた。




やってきたのは公爵様と、公に顔を出している片付けカラスを兼任している公爵家の騎士が10名ほどだった。


公爵様が馬から華麗に降り立ち

「アイラ無事で安心した」

と言って駆け寄って軽く抱きしめてくれる。


なんだかんだと心配してくれる公爵様。


優しくしかし、しっかりと抱きしめられながら公爵様の胸の中で思わず照れつつも苦笑する。





「アイラ!!!!!」


公爵家の騎士の中から一人、私の元に焦りながら転がるように走り寄ってくるその姿に私は驚きのあまり目を瞬いた。


「後で説明しよう」


小声でささやく公爵様が私の背中を押してくれる。


私は公爵様の腕の中から飛び出し、ジョエル様に駆け寄る。



ジョエル様が私を強く抱きしめながら

「よかった……無事でよかった……」とつぶやく。


その背中をなだめるように回した手でジョエル様の背をなでた。





公爵様と数人の騎士を問題の屋敷に残し、私はジョエル様の馬の上で揺られていた。

ジョエル様は私に何も話しかけることは無かった。


けれど私を支えるために、私のお腹に回ったジョエル様の手が時折ギュっと強くなる。

私はその腕に「大丈夫」の意味を込めて手を添えて軽くさすっていた。




公爵邸に到着し玄関前で馬から降りる。


「あの……ジョエル様……」


自分の両手をスカートの前でギュっと握りながら覚悟を決めて声をかける。

ジョエル様はそんな私の両手をそっと包み込みながら申し訳なさそうに言い出す。


「すまない。今は王宮に戻らなければならない……。

私もアイラに話したいことがある。

必ず時間を取るからその時まで待っていてくれ」


それだけ私に告げ、ジョエル様はサッとまた馬にまたがり、私に真剣な眼差しで言う。


「必ず会いに来るから待っていてくれ」


ジョエル様は馬の腹を足で軽きたたき王宮に向けて馬を走らせて言った。




公爵邸に入ると夫人とミレッタが、待ってくれていた。

私の様子に何かを察したのか2人はまずは着替えてくるように部屋へ促してくれる。


自室に入り、のろのろとした動きで着替えを始める。


頭の中をぐるぐるするのはあの現場にジョエル様が来た事、そして最後に言っていた話があるということ……。


なぜか今になって、仮の婚約者と噂されたことを思い出してしまう……。

思考はどんどん良くない方に流されてしまう……。


これではだめだと「ふぅ……」とため息をついた時、コンコンと扉のノックの音が聞こえた。



許可を出せばミレッタがひょっこりと窺うように扉から顔を出す。

私はそんなミレッタに小さく微笑みかける。

ミレッタにソファを進め私は鏡台の前に座り、まとめていた髪をほどいた。


いつの間にか私の背後に寄っていたミレッタが心配そうに鏡の中の私を見る。


「任務は無事におわったのよね? けがはない?」


「ないわ……大丈夫……」


「じゃぁそんな表情をしているのはジョエル様のせいね?」


「……せいというか……ミレッタは現場にジョエル様が来たことは知ってたの?」


私の言葉を聞きながら私の手から櫛をとり、私の髪を優しく梳いてくれる。


「私が公爵邸に戻って公爵様に報告をし終わったころにジョエル様が公爵様に面会されに来たの。

そのまま公爵様に無理やりついて行かれたのを見たから……」


「そう……」


それしか返事ができなかった私にミレッタは何も言うことなく手を握ってくれる。

ミレッタは私をソファに連れていきお茶を入れ手を繋いだままで寄り添ってくれた。


扉がノックされメイドから「公爵様がお呼びです」と言われる。


ミレッタが「待っていましょうか?」と未だ心配そうに聞いてくれた。

私はミレッタに「大丈夫」と一言だけ告げて部屋を出た。





公爵夫妻と向き合う形でソファに座る。


「それでは報告を」


「はい。まず私を誘拐した3人は街の破落戸でしょう。


依頼主はゴルダン伯爵令息マレック、ギード子爵令息ミランとガルーダ子爵令息マリオの3名。

依頼料と思われる金銭を手渡しているところも確認済み。

そして目的は私の誘拐。そして暴行、強姦が目的だと言っておりました。


しかし3人に指示したものが存在します。


3人はその人物を『さるお方』と言っており、間者を通してしか接触しておらずその人物の正体は知りませんでした。

あの屋敷を準備し実家を追放後の3人の生活の面倒もその人物が見ていたようです。


更に屋敷の外部に3人の気配を確認し捕縛いたしました。

気配の消し方や、接触時の感覚でおそらく同業の部類だと思います」


「伝令カラスの報告と同じだな。承知した。ご苦労だった」



公爵様は満足そうにうなずきお茶を一口飲んだ。




「ここからはこの件ではなく、アイラが疑問に思っていることを話してあげたいのだが……。

ジョエル様から口止めされているので今回の事とは別件でアイラに任務とは関係のない話が私達からある」


「……はい」


ジョエル様があの場に来たことの説明はしてもらえないようだ。


私の反応に苦笑しつつ公爵様が続ける。



「ずっと我々で考えていたことなのだが、アイラが学園を卒業後、アイラを養女に迎えようと思っている」


予想外の公爵様の話に俯いていた顔が勢いよく上がってしまう。

公爵様と夫人の顔を驚きのまま交互に見てしまう。



「まぁそんなにびっくりすることでは無くってよ。

私たちは子供に恵まれていなくていずれ縁戚から養子を取るつもりだったのよ」


「今までずっとアイラを本邸に住まわせていたのは第二王子の婚約者だから安全のためではあったんだが。

さすがに君に愛情が生まれてしまっていてね。

ずっと考えていたことなんだよ。


もちろんアイラのご両親の伯爵夫妻には話は通してある。アイラが了承すれば養女にしても良いといわれている」


公爵様も夫人も私を優しく見つめながら、そして優しい口調で話してくれる。




しかし私は第二王子の婚約者で……。

でも今日私がカラスだとばれてしまったし……。


私は頭の中がぐるぐると混乱に陥り、何か言わなければと思ってもすべてが「もしも」になってしまう。

どうしようと考えながらなんとか言葉を口にしようと口を開く。


「あの……しかし私は……」



公爵様は苦笑しながら私がうまく言えないことを分かっているかのように言う。


「まぁその件は追々だな。

そろそろ私は王宮に戻らなければ。

すまない続きはまたにしよう。

アイラ、養子の件は考えておいてくれ」


そういって公爵様は私の安心させるように頭を軽く撫でて部屋を出た。


私は緊張が緩んで一口、冷めたお茶を一口飲んだ。



「アイラ? 少しだけ私の話をきいてくれる?

まずは温かいお茶にかえてもらいましょう」


夫人はメイドを呼びお茶を入れ替えるよう頼んだ。





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