34 アイラ囮任務
ジョエル様に想いを伝えたことを夫人とミレッタに帰宅後すぐ報告した。
二人とも自分のことのように喜んでくれた。
私は胸がポカポカとあたかかくなり夫人にそれを伝えると、「それが幸せよ」
と教えてくれた。
あれからジョエル様とも変わりなく過ごし、月とエーデルワイスを模したチーフをプレゼントした。
ジョエル様はとても喜んでくれ、また幸せを感じていた。
そんなある日の夜、公爵夫妻に呼び出され私は歓談室に向かった。
すでに公爵夫妻はソファに座ってお茶を飲んでいた。
「さぁアイラ、すわってくれ」
静かにソファに座りお茶をいただいた私を確認して公爵が切りだした。
「実は今までずっと目をつけていた問題があってね。
犯人のめぼしはついているのだが……。
今までなかなか確証を得られなかったんだよ。
しかし、その者の身の回りで最近大きな問題が起きたようでね。
なりふり構ってられなくなったらしく、わかりやすく動き始めたんだよ。
このまま、これ以上泳がせておきたくないということで、囮を使って決定的な証拠を挙げようとなってね。
その囮をアイラに任せたい」
私の目を見て真剣に言う公爵様に私はしっかりとうなずく。
公爵様は少し心配の色を残した目を私に向けながら話を続ける。
「アイラであればこの国の騎士団の小隊ぐらいであれば闇討ちできる腕もあるからな。
それよりもアイラが相手側にとって、とても良い餌になりえる可能性が高くなってね。
念のため、囮計画実行の日はカラスを二人つけるよ。
伝令に特化したカラスだが、もちろん戦いでもこの国の騎士ぐらいであれば問題なく戦えるレベルだ」
問題とやらはまだ詳しく話せることが少ないのだろう。
ちょうど最近ジョエル様関連の事も夫人から『任務終了』を無事、言い渡されたところなので二つ返事で了承した。
任務を言い渡された数日後、怪しまれないようにとミレッタも任務に同行することを言い渡された。
そして二人で学園終了後、西広場に赴いていた。
「任務の事もあるけどぉ、釣れるまではのんびり散策しましょう。
前回見れなかったお店も行ったりゆっくりしましょう」
ミレッタは任務に臆することなく、のんびりと言う。
私もうなずいてミレッタの隣を歩いた。
いかにも好奇心旺盛な学園の下級貴族の令嬢のように二人とも制服のまま、髪色も変えずに歩く。
学園の上級貴族はめったに来ないが、下級貴族の令嬢令息は西広場で遊んでいる者もいるので、特に目立つこともない。
二人でふらふらと街を散策し、お店が減って人通りも減ってきた場所に差し掛かる。
私はミレッタに目に入った雑貨屋に誘った。
商品を見ているふりをしながら、小声でミレッタに言う。
「ミレッタ。三人ついて来てる。
私このまま一人でお店出るから、ミレッタは公爵様たちに連絡をお願い」
「わかったわ。大丈夫だと思うけどくれぐれも気を付けてね。ケガしないでね」
心配そうに私の手をギュっと握り、言うミレッタに大丈夫の代わりに私もギュっと手を握り返して微笑んだ。
いつもより少し大きめの声で大げさにミレッタに話しかける。
「ミレッタ! ごめーん。やっぱり私さっきのお店で見てたハンカチ買ってくるからここで待ってて!」
「わかったわ。待ってるわね」
入口付近で会話をし私はそのまま外へ、ミレッタは店の裏口へむかった。
いつもよりゆっくり歩いていると、小道から腕がのびてきて、私の腕を力任せに引っ張り連れ込まれる。
そのまま腕をつかんで男がナイフをちらつかせてくる。
「おい、嬢ちゃんおとなしくしとけよ」
背後から人の気配を感じるとハンカチで口を覆われ何か薬をかがされた。
眠りに落ちる前に小道の入口に馬車が到着し「早くしろっ!」という男の声が聞こえた。
これで三人。ミレッタは見つからなかったようだと確認し瞼を下した




