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33 アイラ、街を散策


王宮舞踏会での事件の後、事件を起こした4人はそれぞれ廃嫡され家を追い出だされ平民になったと聞いた。



その後、学園では4人が退学になったことで、いろいろな憶測が噂として出回った。


しかし王宮舞踏会の事件は緘口令が引かれていたので真実を知るものはいなかった。

これは襲われたアイラが第二王子の婚約者であるため余計な詮索や反対を生まないためだそうだ。



噂も落ち着きだし王宮舞踏会から数週間後、私たちはいつも通り生徒会室で昼食をとっていた。


王宮舞踏会の事件が終わってしばらくして、ミレッタから昼食を一緒にしたいとの申し出があった。

ジョエル様に確認したところ快く了承していただけた。


今ではジョエル様と私、アーロンとミレッタの4人で昼食をとっている。





「アイラ……その……次の学園の休日は……何か……

その……予定などはあるだろうか?」


「いえ特にないですよ?」


急な質問に特に何も考えずに返答した。


私は休日、いつもカラスの訓練に自主的に参加したり、勉強したりすることが多い。

時々、抜き打ちで夫人の抜き打ち訓練が入ることはある。

しかし先週やったばかりなので今回の休みには抜き打ち訓練はないだろう。



「アーロンとミレッタ嬢はどうだ?」


「私も特にありません」「私もですわ」


二人が答えるとジョエル様が少し緊張気味に話し出す。


「では休日にお忍びで街に出るのはどうだろうか?

もちろんこの4人で。

花祭りの時に私たちは西広場を見学できなかったし、アーロンとミレッタ嬢は東広場を見学していないだろう?

その……午前中に東広場を見学して昼食を東広場でとって、午後に西広場を散策しないか?」


「私はもちろん賛成です! アーロンもアイラもいいわよね?

楽しそう! 行きましょうよ!」


ミレッタが楽しそうに言うので「私も行きたいです」と賛同する。

「私ももちろん同行しましょう」とアーロンも答えた。



それから次の休日まで3日あるということで明日から散策ルートを4人で相談することにした。

毎日みんなで出し合ういろいろなお店の情報にわくわくしながら休日を待った。






休日になり私たちは前回同様に噴水広場で待ち合わせをしていた。


私は今回、黒のワンピースに編み上げブーツ紺色の帽子を昨日ミレッタに選んでもらっていた。

今日も髪は朝のうちに薄い茶色に染めてもらいドキドキしながら馬車に乗った。



噴水前まで行くとすでに全員集まっていた。


「ごめんなさいお待たせしました」


「アイラ待ってないよ。今日もかわいいね」


「私とアーロンもさっき来たところよ」


「さぁ行こうか」


私とジョエル様の前をミレッタとアーロンが歩く。



「アイラは東広場の刺繍の店を見たかったんだよな。

ミレッタは髪飾りを探したいって言ってたよな」


アーロンが後ろを振り向きつつ言うので私はコクリとうなずく。


「じゃあ東口についたら昼食まで一時間くらいあるから、エルはアイラに付き合って刺繍糸の店に行けばいい。

俺はミレッタと髪飾りを見に行くか」


全員でお店を回ると思っていたら二手に分かれるのかと不思議に思っていた。

するとジョエル様がおしえてくれる。


「『昼食や休憩は四人でとって広場の散策は二手に別れよう』

とアイラを待っている間に話し合ったんだ。

ミレッタと離れることになるが私と二人でもいいだろうか?」


しゅんとした様子で教えてくれるジョエル様に少しおかしくなる。

私は「大丈夫ですよ」と思わず微笑みながら伝える。

思わず笑い声が小さく漏れてしまった。

そんな私を見ながらジョエル様は嬉しそうに「よかった」と返事をくれる。




東広場に向かっている途中にふと、前のアーロンとミレッタを見れば二人は自然と手を繋いでいた。

二人からジョエル様の手に目を移しふと考えた。


花祭りの時アーロンが

「はぐれないように手を繋ぐように」

と言っていたのを思い出す。

私はジョエル様の手をつかんで握る。


ジョエル様が一瞬ビクッとしたので違ったと思い焦って手を引き抜こうとする。

するとジョエル様にすぐにギュッと手を握り返される。



「そうだな。すまない。手を繋がなければ」


繋いだ手を私に見せるように言うジョエル様の顔はほんのり赤かった。



東広場に到着し昼食まで解散となり、私とジョエル様は刺繍の店に向かった。

店内に入り私は刺繍糸を見ることにした。


「どんなものを探しているんだい?」


ジョエル様が私のすぐ隣までやってきて同じように刺繍糸に目をやりながら聞く。


「遅くなりましたが、前回お約束したチーフを作ろうと思って。

どうせだから、エルにチーフの布を選んできてもらおうかな?」


私の提案にジョエル様は嬉しそうにうなずきながら「見てくるよ」と言い、ハンカチやチーフの売り場にジョエル様は向かった。


じっくりと糸を見ているとふと目に入ったものがあった。


そこに近づき、じーっと見つめ自分の髪をつかんでその糸と比べてみる。

残念ながら今は髪を染めていることを思い出す。

でもこれは確実に私の髪の色に似ていると思い、購入するか悩んだ。



通常、月をモチーフに刺繍をするときは黄色や金色、白を使うことが多い。

しかし銀色でもおかしくないかもしれないと思い、刺してみておかしかったら別のものを使おうと買うことにした。

その他、気に入った糸を一握り分ほど選び、ジョエル様のもとに行くと、真剣にチーフを見つめて悩んでいた。



「エル。まだ悩んでいるの?」


「そうなんだ。

アイラにお願いしたモチーフだとこの濃い紺色や黒色が合うのだが……。

自分のチーフに自分の色を飾るはちょっとな……。

だから白にしようかと悩んでいるんだ」


「じゃあこれにしましょう」


少し光沢のある黒のチーフをさっと抜き取り会計に向かう。



「アイラに贈ってもらえるならなんでもいいが……自分の髪の色……うーん」

まだ悩んでいるジョエル様に

「エル大丈夫です」とだけ告げる。


私が会計をすまそうとするとジョエル様が

「自分のものだから自分で払う」と言い出す。

私は私で

「私からのプレゼントなので私が払います」と反論する。


私たちが揉めていると、店員さんが微笑ましそうに声をかけてくれた。


「とても仲がよろしいですね。

しかし私はお嬢様の意見に賛成ですので、お嬢様からお代をいただきますね」

店員さんがするりと私の手からお金を受け取ってくれた。


ジョエル様は少し残念そうに、でも嬉しそうにしていたので私は「よかった」と胸をなでおろした。


お店を出るとまだ少し時間があったので昼食をとる予定のレストランの近くのお店を二人で見まわった。




昼食を4人でとり、またアーロンとミレッタを前に北広場を抜けて西広場にむかった。


「お茶の時間までは4人で見て回っていいのよね?」

ミレッタが言うのを「そうだな」と肯定するアーロン。


「じゃぁ西広場は私とアイラでお店見て回るわぁ。

男性陣はしっかりと私たちについてきてねぇ」


私はミレッタの言葉に軽くうなずき微笑む。

アーロンの手から離れ私の隣に来て私の手を繋ぐ。

ジョエル様は私と繋いでいた手を離しアーロンの隣へと動く。

2人を見るとジョエル様とアーロンは目を合わせて苦笑していた。




西広場は東広場と違い、貴族向けではないお店が並んでいる。

ぬいぐるみや、雑貨屋、アクセサリーなども普段目にしないものだったがとてもかわいらしく感じる。


私とミレッタは目に入ったぬいぐるみ屋さんに立ち寄ることにした。

ミレッタと二人でいろいろなモチーフのぬいぐるみを見ながらはしゃいでいると一つのぬいぐるみが目についた。

それを手にしてミレッタに見せる。


「まぁ。まるでエルみたいね。

あっこっちを見て」


「それはアーロンだね」

2人で顔を見合わせてクスクスする。


私たちがぬいぐるみを抱えてはしゃいでいると、それぞれジョエル様とアーロンからそのぬいぐるみをプレゼントされてしまった。


私には黒兎のぬいぐるみを、ミレッタには赤茶色の猫のぬいぐるみを。


私たちはそのぬいぐるみを子供のように抱えたままお店を出る。




「なぁ、さすがに馬車に預けようぜ」

しぶい顔をしながら言うアーロンにミレッタが言い返す。


「嫌よ。せっかくアーロンに買ってもらったチビアーロンをまだ持っておきたいもの」


街を歩く人が私たちの手にあるぬいぐるみとジョエル様とアーロンを見比べてクスクスしている。

それが恥ずかしいのかジョエル様の耳も少し赤くなる。

私は少し心配になりジョエル様に尋ねた。



「馬車に……チビエル……を預けた方がいいですか?」


ミレッタが赤茶色の猫を『チビアーロン』というなら、この黒兎は『チビエル』だなと思いそのまま口に出す。


ジョエル様は真っ赤になりながら私の手にある黒兎の耳を触りながら言う。


「アイラはチビエルを気に入ったかい?

ずっとは難しいけれど、少しの間なら持って歩いてもいいよ」


優しく照れながら言ってくれるジョエル様に思わず満面の笑みになって「はいっ!」と答えた。


アーロンもそんな私たちの姿を見て折れたのか、仕方がないといった様子で歩き出した。





休憩がてらにカフェでお茶をする。


「この後はどうする? まだ帰るまで少し時間があるが?」


「すまないアーロン。この後アイラを連れていきたいところがあるんだがいいだろうか?」


「もちろんだ。じゃぁミレッタ。俺と二人で少し散歩しようか」


私はジョエル様の言葉に思わずきょとんとしてしまう。

そして私はジョエル様に買っていただいた『チビエル』頭を少し撫でた。

そんな私を見てジョエル様は私に微笑みかける。



お店を出て、『チビエル』をアーロンが馬車に預けられるようにと街中をこずかい稼ぎに走っている御用聞きの男の子に頼んでくれた。


私たちはアーロンとミレッタと別れ、ジョエル様と再び手を繋ぎジョエル様の目的地に向かう。

着いた場所は各広場にある、巡回騎士の詰め所ともなっている背の高い監視塔だった。


「ジョエル様、人払いは済んでおります」


騎士にそういわれて、そのままジョエル様に手を引かれ塔の一番てっぺんまできた。

初めて登った塔から見る景色は反対側の東広場の塔まで見え、街が一望できた。



「アイラ嬢に街を見せたくて……というのは言い訳で……。

実は話したいことがある……」


話しにくそうに言いよどむジョエル様の顔を見て不安になってしまう。


「あぁ違うんだ。

不安にさせたいわけではなく……少し私の話を聞いてほしい」


神妙にうなずく私にジョエル様は苦笑いを浮かべた後、真剣な顔になって話し出す。



「子供のころ、アイラと婚約を希望したのは私自身なんだ。

その時はアイラがほかの貴族から嫌な噂などで傷つけられる事があるなど知らず、守ることもできずに本当に申し訳ないと思う。


しかし、王宮舞踏会の後に言ったアイラを愛しているという言葉は本当なんだ。

あの時思わず口走ってしまった形になって……。

きちんとアイラに告げていなかったと思い今日伝えると決めていた。


アイラに同じように愛してくれとは言わない……。

ただ……私のことを愛せるかどうか、好きになれるかどうか考えてみてもらえないだろうか……」


俯くジョエル様は泣きそうな顔をしていた。



「……ジョエル様……もうすでに私はエルが好きですよ」


色々考えたけれど、どういえばいいのかわからず、思ったことをそのまま伝えた。



私の言葉にジョエル様は勢いよく顔をあげる。

その顔は真っ赤だった。




「えっ!? 何か聞き間違い……。

いや聞き間違いだとそれはそれで……。

いや!! すまない。もう一度行ってくれないか?」


うろたえながら言うジョエル様が面白くて思わず笑ってしまう。




「私はエルが好きですっ!」


笑顔になっているのを自覚したが気にせず笑顔のままジョエル様の目を見て伝えた。




ジョエル様が私をおもいっきり抱きしめた。

私も初めてジョエル様の背に手を回した。



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