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32 アイラ王宮で事の顛末を報告される


夕方近くに王宮から呼び出し状が届き、夫人とともに王宮の裏口に馬車でむかった。



今回の事件は全員が学生であるということで、結論が出るまで緘口令がでているらしい。

そして夫人の話だとこのまま内密にこの事件は終わっていくだろうとの事だった。



裏口に到着するとジョエル様が待っていてくれ、馬車を降りるといきなり抱きしめられた。



昨日夫人と話し、今日ミレッタと話したことでいろいろと自覚をした私は思わずビクリとしてしまう。


「私はジョエル様が好きなんだ。特別なんだ」

と思うと思わず固まってしまった。



不思議に思ったのかジョエル様に

「どうした?」と顔を覗き込まれる。

私は一気に顔が熱くなるのを感じた。

どうにか冷静になろうと必死になんとか言葉を口に出す。


「ジョエル様こそ!! お疲れに見えます!!」


必死さが声の大きさに出てしまって自分でも思わず驚いてしまった。



「今のアイラ嬢の表情を見て少し元気になったよ。

でも笑ってくれればもっと元気になるな」


しかしジョエル様はそんな私を気に留めることなく優しい声で言ってくれる。

その声で少し落ち着いた私は

「昨日も今日もありがとうございます」

となんとかささやいた。


すると私の顔を覗き込むために少し緩んでいたジョエル様の腕に再び「ぎゅっ」と力が入った。



「こほん」と夫人のせき込んだ音に二人ともビクリとしてしまい慌てて離れる。

そしてジョエル様はすかさず夫人にきれいな王子然とした礼で夫人に向き合う。



「今日はアイラ嬢の付き添いありがとうございます」


「まぁすっかり私の事なんて目に入らない様子でしたが……。

今日はこちらこそよろしくおねがいいたしますわ」


夫人のいたずらを含んだ笑みと優雅なお礼に私も追随してジョエル様に礼をする。




「さぁ行こう。

しかし、レディーには少々刺激が強い話かもしれませんので、ご気分が優れなくなった場合はすぐにおっしゃってください」


「まぁ私にも気を使ってくれるのねぇ。ありがとうございます」


「もちろんです」



会話する二人の話を耳にしながらジョエル様の背中を見つつ王宮の廊下を歩く。

王宮の中にある1つの応接室に通される。



ここは王族のプライベートエリアに近い部屋で、よほど王族に近しい人間でなければ通されない部屋である。

公爵夫妻の存在と第二王子の婚約者の私に配慮した結果なのかなと思いながら、ジョエル様と夫人に続き入室した。


部屋には国王、王妃、サイラス様がそれぞれソファに座って私達を待っていたようだった。

そして宰相と公爵様それにアーロンがその背後に立っていた。



宰相と公爵様が立たれているのに自分が着席することに恐縮しながら夫人とジョエル様に挟まれる形で座る。

メイドが私たちにお茶をいれてくれ、壁側に立ったことを確認して国王が話を始める。



「それでは、今回の王宮舞踏会に水を差したこの事件の詳細を説明してもらうことにする」


国王の一言により、昨日の事件の詳細が公爵様の口から語られる。


それを聞きながら私に心配そうな視線を向けてくれる王妃様に「大丈夫ですよ」の意味を込めて微笑みを返す。

公爵様が淡々と昨日の事を話していく。



公爵様の話が終わると国王の視線がこちらに向いたので背筋を伸ばす。


「以上で相違ないか、アイラ嬢の確認を求める」


「相違ございません」


「ここからは少し刺激が強いかもしれない……。

アイラ嬢は無理せずに、不調があれば退室することも許可する」


国王がしたり顔で私を見つつも表情とは反対に優しいお言葉をくださる。

あれは確実に昨日、令息たちを狩ったのが私だと全部知っている顔だ。それに気づかないふりをして国王に言葉を返す。



「ご配慮痛み入ります。私は大丈夫ですので続けてくださいませ。」


私の返答に抑揚に国王がうなずき続きが公爵様の口から語られる。



「それでは昨日のアイラ嬢を襲おうとした令息の3人だが……。

3人とも『危害を加える気はなかった』『すべてはハイネス伯爵令嬢の指示に従った』と供述している。


しかしハイネス伯爵令嬢マリア嬢は『自分はアイラ嬢のドレスを汚してしまったので汚れをぬぐう手伝いを申し出ただけで、席を外した間に起こったことだ』と言い張っている。


よってここでマリア嬢に再度尋問を行うことになっている。皆さまよろしいですか?」



全員が首肯したことを確認して

「連れてこい」と公爵様が合図をだす。

すぐに扉の前は騒がしくなった。



「やめてよ! 私は伯爵令嬢よ! ジョエル様!!」


叫ぶマリア嬢に「控えよ」と低く通る威圧のこもった声で公爵様が言う。



静かになったマリア嬢を見て少し驚いた。

先ほどの公爵様の話だと縄で拘束されるほどではないはずだが、おそらく公爵様の指示なのだろう。

だれもそれに意義を唱えない。



「聞かれたことにだけ答えよ。君は今回の事件に関わっていないのだな?」


「そうよ! あいつたちのせいで私はこんなことに……」



マリア嬢が涙目でジョエル様を見ていたので私もこっそりとジョエル様を見る。

私と目が合ったジョエル様が目で私を安心させるように微笑む。


私は少し恥ずかしくなってしまい、誤魔化すように再びマリア嬢を見る。

するとものすごい形相で睨まれていた。



「ではなぜ、あの部屋へアイラ嬢を連れこんだ?」


「それは、私がドレスに飲み物をこぼしたから! だから私の優しさでどうにかしようとしてあげたのよ!!」


「では君はなぜ赤ワインを持っていた?

当日は染みが残るような色の飲み物は提供していないにも関わらず、君はわざわざウェイターに赤ワインを持ってこさせたそうだな?


そのウェイターが、一度拒否したにも関わらず、身分を盾にして無理やり持ってこさせたと証言しているぞ。

もちろんその指示をしたのは君であることも証言されている」



公爵様が鋭い視線でマリア嬢を射貫くも、マリア嬢は肝が据わっているのか悔しそうに歯噛みしているだけだった。



「それに君が連れ込んだ部屋は休憩室には使われていないことを、当日参加している貴族全員が把握している。

これも無理やりあの部屋の提供を求められた使用人がウェイター同様の証言をしている。これはなぜだ?」



威圧を含んだ公爵様の尋問に、一瞬うろたえた様子を見せたマリア嬢。

しかし、頭に血が上ったのか急に私に突進してこようとした。

縄で拘束されているのでそれが叶わないとわかり大声で叫びだした。



「この女が悪いのよ! ジョエル様の本当の婚約者は私なのに!!!

ジョエル様の色を纏ったり、3回もダンスを踊ったり!!

その女に自分の立場をわからせたかったのよ!!」



もう既に自分が犯人だと自供しているようなものだった。

それでも本人は頭に血が上っているのかそれに気づかずジョエル様に媚びるように視線をむける。



「ジョエル様その女に言ってください……。

本当の婚約者はマリアだと。

愛しているのはマリアだと……。

いつも私をお傍に置いてくださっていたではありませんか……」


マリア嬢の必死の懇願にジョエル様は静かに立ち上がりマリア嬢のほうに向かっていく。


マリア嬢は喜びからか先ほどとは打って変わって頬を染め

「ジョエル様……」とつぶやく。



私はその様子を目にして胸がグッと苦しくなり思わず膝にのせていた手をぎゅっと握り俯きかけてしまう。

すると隣から夫人が私の手を包み込み

「きちんと見ていなさい」とささやく。


私は手をそのまま強く握って顔を上げジョエル様とマリア嬢を見た。



「マリア嬢……君がそばに寄ることに苦言を呈しなかったのは私の責任だ。申し訳ない」


「えっ……?」というマリア嬢の困惑の声が聞こえた。



「私が愛しているのはアイラ嬢だけだ。

君を好きになったことは一度もないしこれからも無い。

あきらめてくれ。

私は愛する人を傷つけた君を許すことはない」



淡々としかし意志のこもった目をして告げるジョエル様の言葉に私はゆっくりと手に入った力を抜いた。



マリア嬢は呆然として動かなくなってしまった。

そしてそのままその場から連れ出されていった。





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