3 アイラの業務報告(2)
朝食後、私は明日の学園の準備も終え、昼食まで本を見ながらぼうっと夢の続きを考えていた。
公爵家で社交教育といわれるものを受けて、ちょうど2年経った8歳のころ。
王宮のお茶会に呼ばれ伯爵家の人間として、兄さまと姉さまと王宮に向かった。
お茶会の席は伯爵家ということで、中心ほどだった。
今日は王子二人が出席することになっている。
そしてお茶会の様相は側近選びと婚約者選びとなっていた。
王子二人が各席を回って令嬢、令息と軽く話すようだ。
周りの話に耳を傾けていると、どうやら既に第一王子のサイラス様の婚約者は内定されており、今回の令嬢の狙いは第二王子のジョエル様らしい。
私は公爵家の社交教育により、その辺の事はすでに把握済みではある。
しかし想像以上の、令嬢たちの本気度に内心慄いてしまう。
そんなことを考えつつ、周りの令嬢令息の話を聞く。
ただ微笑みをたずさえていれば隣のテーブルに第二王子が到着したようだ。
会話の内容に耳をかたむけつつ、周辺に軽く目をむけていると
隣のテーブルから令嬢の「きゃっ」という声を皮切りに騒ぎが起こりだした。
「蜂よー!!!」
一気に周囲は大騒ぎになり、テーブル付きのメイドも慌ただしくなりはじめる。
私も一応、その騒ぎに紛れ逃げるふりをする。
そして周りを警戒する。
第二王子と見知らぬ令嬢が腰を抜かしたのか、固まって地面に尻もちをついてしまっていた。
「ちっ」
と軽く舌打ちをする。
騒ぎに紛れてテーブルクロスを引き抜きながら、メイドが落とした銀のお盆を蹴り上げる。
テーブルクロスを第二王子と見知らぬ令嬢にかけ、そのまま数匹の蜂めがけて蹴り上げたお盆を手に取り投げる。
小さな
「パンパンパン」
というお盆に蜂があたり落ちた音を確認する。
私は怖くなり動けなくなった風を装う。
その姿を誰にも目にされていないと確認し、別のメイドに誘導され安全な場所に移動した。
そんな事があり、なし崩しに終わったお茶会。
その次の日、王宮に再度呼び出された。
伯爵の父に連れられて、再度赴いた王宮。
今度は応接室に通された。
その場には国王と側妃、第二王子がおり、父とともに緊張し慄きながら挨拶をした。
私はいつもの微笑みを纏いながら国王の言った言葉に固まった。
「アイラ嬢。君をわが第二王子のジョエルの婚約者に据える」
理由も説明されず用件だけ伝えられた。
そしてすぐ解散となった。
未だに婚約者となった理由はわかっていない。
公爵家に呆然としながら帰宅して、公爵に報告をする。
ただ公爵も
「承知した」
とだけ頷いた。
その後、月に一度の婚約者とのお茶会が行われた。
ただ時間が流れる。
ジョエル様とのお茶会は月に一回行われる。
毎度、差しさわりのない会話しかなされなかった。
ジョエル様への印象は『無難』の一言に尽きる。
お茶会での会話も天気の話や読んだ本の話。
学園に進学してからは勉強会にかわっていた。
舞踏会や夜会でのエスコートもとても無難である。
ファーストダンスを共に踊り、その後は挨拶回りを行い、終われば各々別行動となる。
私はもっぱら情報収集にいそしみ、公爵へ報告する内容を精査していた。
怪しまれない程度に会場に戻り、視線を感じながら壁の花と化す。
時々、第二王子に視線を遣るも、目が合うということもない。
彼はいつも令息や令嬢に囲まれている。
ジョエル様に媚びるように腕を回す令嬢がいても、ジョエル様は窘めることもなく笑顔を見せていた。
そんなジョエル様の様子から、私はずっとなぜ自分が婚約者に選ばれたのか不思議でたまらなかった。
もちろん、令息令嬢からも私が第二王子の婚約者と認識されなかった。
だから敬われることもなく媚びられることもなかった。
いつの間にか貴族間では、私は側妃がふさわしい令嬢を見つけるまでの中継ぎ婚約者と言われていた。
確かに王子妃教育が始まってから国王は朗らかに会話をしてくれるが、側妃はいつも私の存在がないものかというような態度をされる。
そんなことがあったため、囮婚約者の話が私の中では真実味があった。
「ふぅ」
軽くため息をついて全くすすまない本を閉じ、昼食までの時間を確認しクローゼットにむかった。




