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23 アイラの花祭り潜入捜査(5)


私とジョエル様は2人と待ち合わせしていたコロンカフェに到着する。

すでにアーロンとミレッタはお茶を飲んでいた。


「遅くなってごめんね」


「いや俺たちもさっき着いたんだ。

そんで今お茶が来たところ。二人も座って少し休憩しよう」


急いで二人に駆け寄って声をかけると、片手を軽く振りながらアーロンが言ってくれた。



確かにいろいろあったから少し疲れた……。

そう思いながら席についた。



「アイラ。私はケーキも頼んだのよ。

ここのケーキは美味しいから、もしおなかに余裕があるならアイラとエルもどう?」


ミレッタがケーキのメニューを差し出してくれる。



ほどなくして店員が注文を聞きに来てくれた。

私はお茶とフルーツケーキ、ジョエル様はコーヒーとアプリコットのチーズケーキを注文した。


注文したものは、わりとすぐ到着して飲み物をそれぞれ一口飲んで落ち着いた。


「思ったより時間かかったよな。

俺たちも人が多くて思ったように勧めなくてさ。

二人は楽しめたか?」



アーロンの言葉にうなずきつつも、最後のマリア嬢の突撃以外は楽しかったので「うん」と答えた。



「この後なんだけどねぇ、二人を待ってる間にアーロンと話し合ったんだけどぉ。

また分かれて散策するより、もうすぐはじまる花祭りのダンスに参加しない?」



花祭りのダンスは貴族の夜会や舞踏会と違う。

男女で踊るだけでなく、同性の友人とも踊る平民の気軽なダンスである。

同じ人と何度踊ってもいいし、決まったステップは無い。


皆が好きなように踊れると東広場で散策しているときに買い物をしたお店のおばさんに教えてもらっていた。

おばさんの話を聞いてから参加してみたいなと思っていた。



ジョエル様は少し難しい顔で考えていたが、アーロンがすかさずジョエル様に声をかける。


「さすがにエルもアイラも誰とでも踊っていいぜ。

とは言えないからこの4人で交代しながら踊ろう。

4人で固まっていたらほかのやつらは声もかけて来ないだろうしな」



「それならいいだろ?」とジョエル様に聞いている。


ジョエル様も「それなら」と納得したので、この後は4人で花祭りのダンスに参加することにした。




アーロンとミレッタが西街の話をしているのを聞きながら、ケーキをもぐもぐと食べていた。

ふとジョエル様がこちらを見ているのに気づく。


まだ口の中にケーキが入っていたので『どうしましたか?』 の意味を込めて小首をかしげてジョエル様を見る。


「いや……昔からアイラはフルーツが好きだなと思って……」


そういえば、私はクッキーやマカロンや焼き菓子も好きだ。

でもそれよりもフルーツの入ったものをいつも好んで食べていた。



「そうですね。そう言われればそうだなと今気づきました」


「今気づいたのか……。

私のチーズケーキも食べてみるかい?

アプリコットがたっぷり入っているよ」


ジョエル様が微笑みながら言ってくれるのでジョエル様のケーキを見る。

見てみればたっぷりとアプリコットが混ぜられたチーズケーキがおいしそうに見えてくる。



「食べてみたいです」


自分のフォークをちらっと見るとケーキのクリームがフォークに少しついていた。

このままこのフォークでジョエル様のケーキを食べていいか悩んでいた。



「アイラ」


ジョエル様に呼ばれ顔をあげる。

するとフォークにチーズケーキが一口分乗せられて差し出されていた。


昼食の時も同じような事があったので、ためらいなくフォークにのったケーキをパクリと食べた。


「おいしいです」


ケーキを味わいながら微笑んでジョエル様を見る。

嬉しそうに耳を赤くして「そうか」と言ってくれた。




その様子をアーロンとミレッタは口を開けそうになりながら驚いた様子で見ていたことに気づく。


「アイラ……」「エル……」


2人は呆然と私たちの名前を口にした。



ミレッタは私のケーキが食べたかったのかなと思いジョエル様のようにフォークにケーキをのせて差し出した。


「はい。ミレッタ。あーん」


ミレッタは目をぱちくりと瞬かせ一瞬ジョエル様のほうを見た気がする。

しかしすぐ私の方に向き直る。


「ありがとうアイラ。あーん」


口を開けて私のケーキを食べてくれた。


「おいしいわぁ」というミレッタに私は「うんうん」と満足して続けてケーキを食べた。



しばらくゆっくりとおしゃべりをして会計をすませた私たちは北広場の中心に向かい歩き始めた。

今はミレッタと手を繋いでいろいろな場所に飾られている花を見ながらはしゃいでいた。


ジョエル様とアーロンは私たちの後ろをついてきてくれている。



2人とも背が高いので私たちを見失うこともないので安心して、ミレッタと2人できょろきょろした。


ほどなくして北広場のいろんな場所で楽器を持った人たちが数人ずつ集まって音楽を奏でだした。

街の人たちが音楽を奏でている人たちのところに集まって踊り出す。


私たちも他の人に見習って広場の中心から少し離れた場所で軽快な音楽を奏でる4人組のところに向かう。

私たちは4人で手を繋ぎ、演奏家の方たちに向かって礼をした。


演奏家の人たちもこちらに笑顔で会釈をしてくれたのを見て踊りだす。



まずは私とジョエル様、アーロンとミレッタに分かれて踊る。


他の場所で踊る若い男女に見習って、普段しないような片手でスカートをつまんで少し引き上げる。

逆の手はジョエル様と繋ぎスキップのようなステップを踏む。


私は自他共に認める運動神経を発揮して一度見た近くで踊っている娘さんのステップに少しアレンジを加えて踊っている。


ジョエル様も運動神経がいいみたいで私に合わせてステップを踏んでくれる。

時々場所を入れ替えるようにリードしながら踊ってくれるので、初めてダンスを楽しいと思い気分が高揚していく。



「エル!たのしいですねっ」


思わず満面の笑顔になってジョエル様に伝える。

一瞬、驚いた様子を見せすぐにジョエル様も顔を赤くしながら笑顔を見せてくれる。


「あぁたのしい!」


ジョエル様の返事にさらに気分をよくした私はジョエル様をからかう言葉が出てくる。


「エル! 顔が真っ赤です」


思わず「あはは」と声を漏らしつつ笑ってしまう。


するとジョエル様が私の腰に置いている手をグッと引いて耳元で


「あぁアイラの笑顔があまりにもかわいいからな」


周りの人に聞こえないよう小声でささやかれてしまう。耳元でささやかれたせいで少し耳がこそばゆかった。


「アイラも耳が真っ赤だよ」


楽しそうにジョエル様が笑った。






それからしばらくして私はミレッタと交代してアーロンと踊る。


アーロンはジョエル様と違って終始、私をくるくると回して力強くリードするダンスだった。



「アーロンはダンス上手だったのね」


「一応、俺も伯爵家の次男だし、訓練の中にダンスの練習があるからな。

もっぱらミレッタとばかり踊ってたからアイラと踊るのは新鮮だ」


だから二人はさきほどのダンスも息ぴったりだったのか。


「アーロンはミレッタをかわいいと思うことある?」


「……いつもかわいいと思っている。

今日は俺の色を纏ってなおさらかわいく思ったよ。

でもミレッタには内緒な」


私の質問に少しびっくりしながらも、いたずらな笑顔で耳の端を赤くしながらアーロンが言う。


胸の中がまたあたたかく感じた。


「アイラは今日楽しかったか?」


再び問うアーロンに「うん!」と笑顔で答えておいた。


それに満足そうに笑顔を返してくれたアーロンとまたステップを元気に踏んだ。




最後は4人で輪になって踊った。


周りにいる人たちも数人で輪になって踊ったり、手拍子をたたいて盛り上げてくれてとても楽しいダンスになった。



ダンスをひとしきり楽しんだ私たちは時間も時間だからと噴水広場に戻った。


ジョエル様とアーロン、私とミレッタに分かれて馬車に乗り帰宅の途についた。







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