20 アイラの花祭り潜入捜査(2)
ワイワイとおしゃべりをしながら私達の食事は進んでいく。
テーブルマナーを気にしない食事に私も楽しくなってくる。
テーブルには二人が買ってきてくれたいろんな料理が乗っていて、私はいろんなフルーツの入った一口クレープが気に入った。
「アイラじょ……アイラはそれが気に入ったのかい?」
ジョエル様に聞かれ
「はい。美味しいです。エルも食べる?」
聞きながらお皿を差し出す。
「ああ。ありがとう」
私からお皿を受け取り、ジョエル様はブルーベリーのクレープを選んでいた。
向かいの席では、アーロンとミレッタが通常サイズのクレープを各々食べていた。
ん? さっきアーロンがちらっとこっちをみたような……?
「ミレッタのクレープのフルーツは何が入ってるんだ?」
気のせいだったみたいだ。
アーロンは普通にミレッタに話しかけていた。
「私のクレープは柑橘系のフルーツがいろいろ入ってわるぁ。
今はちょうど甘いオレンジの部分みたいよぉ」
オレンジもおいしそう。
自分の一口クレープの中にもオレンジのものが一つだけあった。
「おっうまそう。
俺のはミレッタの好きなベリーだぞ。食うか?」
「うん! じゃアーロンにも私の一口あげるぅ」
ミレッタが自分のクレープをアーロンに差し出した。アーロンはそれを一口食べる。
「うん! うまい!
このオレンジうまいな!
ほらっミレッタも」
今度はミレッタに自分のクレープをアーロンが差し出している。
それをミレッタは戸惑い無く一口食べる。
「んー! 美味しい!
私こっちも好き!」
満足そうにミレッタがクレープを食べていると口の端にクリームがついていた。
私はミレッタにハンカチを差し出そうとポケットの中を探っていた。
するとすぐにアーロンが
「ついてるぞ」
と言いながら自分の指でミレッタの口をぬぐい、その指を自分で舐めた。
ミレッタが焦りながら
「もー! やめてよ! 恥ずかしい」
と耳を赤くしながらアーロンに怒っている。
ジョエル様もそれを見ていたのか、アーロンに話しかける。
「アーロンとミレッタは幼馴染だったか? 仲良いな」
「エルとアイラが出会った時期とかわんねぇから、幼馴染歴で言えばそんなかわんねぇんじゃねぇの?」
いたずらな笑顔を浮かべながらアーロンが言う。
ふむ。なるほど。
街のカップルはあれが普通なのか。
と手に取ったオレンジのクレープを一目見遣る。
「エル。オレンジのクレープは一つだけしかないから半分こしよう。
先に一口食べて?」
手に一口サイズの小さなクレープを摘んで差し出した。
ジョエル様は顔を真っ赤にして私を見る。
あれ?
間違った?
幼馴染なら食べさせ合いするの普通なんだよね?
混乱に陥りかけた私は少しクレープを引いた。
その時、ジョエル様に手首を引っ張られる。
ジョエル様はそのまま目をつぶってガブっとクレープにか噛みついた。
私の持っていたクレープはアーロンたちの物と違ってかなり小さい。
ジョエル様の勢いがよすぎたのかクレープを持っていた私の指にジョエル様の唇が少し指にあたる。
そしてクリームが指についてしまった。
ジョエル様は焦ったのか
「すまない」
と言って、クリームのついた私の指にチュッと口づけのようにクリームを舐めとった。
その瞬間、心臓がドクンと跳ねた気がした。
手首を持ったままのジョエル様が下から覗き込むかのように、私の顔を見てバっと手首を離し距離をとった。
小さく「すまない……」と声が聞こえ、「いいえ」と答えて手の中にあるオレンジのクレープを口に入れた。
ミレッタは甘いって言ってたけどオレンジはちょっと酸っぱく感じた。
食事も終わり、みんなでごみを片付ける。
この後どうするかの話し合いを、邪魔にならないところで立ち話することにした。
この街には広場が5つある。
今いるのは中央広場で最初に待ち合わせをしたのは南広場。
南広場は今日待ち合わせをした場所で、噴水広場とも呼ばれている。
中央広場を中心に、南広場、北広場、西広場、東広場に放射線状に道がつながっていて、それぞれを大通りと呼ばれる円状の道でつながっている。
西広場は平民の集まる下町で、東広場は貴族街に近い貴族御用達のお店がたくさんある広場だ。
前回ミレッタと行ったカフェも東広場にある。
北広場は貴族と平民が行き交う場所で、この花祭りのメイン広場である。
切ないかな。
いつからか花輪を受け取ってもらえなかった男性の花輪が積み上げられる場所ができているそうだ。
そしてそこには、花輪をもらえなかった女性が、最後のチャンスとばかりに花輪を持ってくる男性にさりげなく声をかけ、話を聞くふりをしながら、花輪を受け取りあわよくばカップリングを狙う肉食系のお姉さまもいるそうだ。
貴族は政略結婚や婚約や学園で相手を見つけることが主だが、平民はこの花祭りが出会いの場となっているそうだ。
「じゃぁこの後、どうするかというと……。
人も多いし4人で歩くと邪魔になるから二手に分かれよう」
アーロンの声で我にかえった。
「そうねぇ。
私とアーロン。エルとアイラの二手にわかれましょう」
手をパンっとたたいて提案するミレッタ。
まぁ無難だなと思う。
アーロンとミレッタは何かあってもアーロンが対処できる。
ジョエル様には今日、目に見える護衛はいない。
しかし先ほどからカラスの視線を時折感じるのでカラスが極秘でついているのだろう。
まぁ何かあっても私がいるので対処可能だろう。
私が頷くとジョエル様も「わかった」と肯定していた。
「じゃぁ俺たちは西広場から回って、エルたちは東広場から回ってくれ。
北広場で集合して時間があれば俺たちも東広場を回るからエルたちも西広場を回ってくれ」
「そうね、北広場のコロンカフェで待ち合わせしましょう。
テラスであればすぐに見つけられるでしょうし」
「そうだな。
コロンカフェで集合して、それぞれ見て回ったおすすめの場所教え合おうぜ」
アーロンとミレッタがどんどん決めてくれた。
二人に東広場の見どころを教えるためにたくさん見て回ろう。と楽しみになって意気込んだ。
「じゃ解散。と言いたいんだが……」
言いながらアーロンがミレッタの手を繋いだ。
急なことだったようでミレッタの耳が少し赤くなる。
「今日は人が多いからはぐれないように手をつなごうな?
ミレッタ。
エルたちもはぐれないようにしろよ」
手をひらひらと振りながら西広場にむかった。
取り残された私たちはアーロンの素早さに呆然とした。
「街では!!」
急にジョエル様が大きな声で言うので私は一瞬ビクッとした。
一度「スゥーハァー」と軽く深呼吸をしてジョエル様は再度話し出した。
「すまない……。
街では……男女はエスコートではなく、あの2人のように手を繋ぐそうだ。
どうだろう……?
アイラは私と手を繋いで……歩いてくれるだろうか……」
おずおずと手を差し出してくれた。
「はいっ」
返事とともにジョエル様の手をとり東広場にむかった。




