18 アイラ街へ潜入調査任務
花祭りの一週間前。
今日は学園の休日。
そして今日はミレッタとのおでかけの日である。
私は本邸から馬車に乗り、別邸のミレッタを迎えに行く。
別邸に到着すると、ミレッタとアーロンの姿見えた。
馬車から降りて、二人に挨拶する。
「アイラ、わざわざお迎えありがとう」
「こっちこそ。
お待たせしたみたいでごめんなさい」
「いいって。
ミレッタのやつが待ちきれなかっただけだから」
そういうアーロンに頬を少し染めながら
「もうっ」
とミレッタが言っている。
「今日はさすがに女子の買い物に俺が入るのは野暮だからな。
留守番しておくよ。
でも二人とも気をつけろよ。
アイラ。ミレッタを頼む」
ミレッタの頭をポンポンとアーロンがしていた。
ミレッタを見ると耳を真っ赤にして
「やめてよぉ」
と手を振りほどいていた。
ミレッタと二人で場所に乗って、アーロンに見送られながら別邸を後にした。
馬車の中で今日のプランを確認する。
「今日は先にカフェで昼食を。
そのあと洋服と帽子を中心に買い物の予定だね」
「もお~。アイラぁ。
今日は任務じゃないんだから。
昼食と洋服と帽子は絶対だけど、夕方まで街を散策するわよぉ。
もっと気を抜いて!
いつも話さないような話もしましょう」
ミレッタが微笑みながら言う。
私は意を決してミレッタにずっと聞きたかったことを聞くことにした。
「実はミレッタに聞きたいことがあって……」
そう言い出そうとすると、ちょうど馬車が馬車留めに到着した。
「続きはカフェで話しましょう」
そういってミレッタは御者に
「また夕方にここで」
と伝えて歩き出す。
私は急いでミレッタについていった。
カラスの知識として街の地図は頭に入っているがこうやって歩くのは、ほとんどはじめてなので少し緊張していた。
「大丈夫よ」
とミレッタが手をつないでくれてカフェに向かった。
カフェに到着して、それぞれサンドイッチと紅茶を注文した。
到着するまでミレッタから今日行くお店のレクチャーを受けていた。
食事が到着してから、しばらくして再度ミレッタに気になってたことを話題にだす。
「ねぇ。ミレッタ聞きたいことの話なんだけど……」
「あぁそうね。
アイラが珍しいなぁと思ったのよねぇ。何?」
私はずっと思っていたことを聞き始めた。
「前に公爵邸でアーロンと三人でお茶をした時もそうだけど……。
今日もなぜミレッタは顔とか耳が赤くなる時があるの?」
私の発言にミレッタの顔が赤くなり固まった。
「えっ? 私……赤い?」
「うん。今も。
なぜそうなるの?」
「はぁ……」
とため息をついてミレッタが言いにくそうに話始めた。
「私が赤くなったのは今のは除いて、アーロンと三人の時にアイラは気づいたのよね?」
「うん。
アーロンがミレッタに話しかけたり、触ったりしたときに赤くなってたよ」
「なぜそれをアイラが聞くのは後にするわね。
今から離すことは誰にも内緒よ?
アーロンにももちろん」
ミレッタの秘密を聞くということで、少し緊張する。
神妙に頷く私を見て微笑みながらミレッタが言った。
「私、昔からアーロンが好きなのよ」
私には予想外すぎてびっくりした。
仲のいい幼馴染でカラス仲間だと思っていたから。
「私とアーロンは公爵邸に引き取られたのがほぼ同時期で、そこからずっと一緒なのはアイラも知ってるでしょ?
私、子供のころはなんでもある程度できる子供だと自分で思っていたのよ。
でもカラスの訓練が始まってからね……。
体を動かす分野で求められることが、ある程度では許されなかったのよ」
確かにカラスの体術、武術、剣術などの戦闘の分野はかなり厳しい。
私は運動神経がよかったため、とくに困ることもなかったが、ここで挫折するカラスはたくさんいる。
この分野で最高成績を収めることができた一握りの者だけがカラスの中の本当のカラスと言われる素性を隠して活動する部署に選ばれる。
ちなみに私は早々にジョエル様の婚約者に選ばれたため、チャレンジすることもできなかった。
「それでね……。
子供のころは訓練が終わった後、毎日泣いてたのよ。
それを慰めるわけでもなく、叱責するわけでもなく……。
じっと傍でハンカチを差し出してくれてたのがアーロンなの。
ある日、同じように泣いてる私が『もうやめようかな』っていうとね
アーロンが『お前は体を使う任務はできなくていい。
代わりに俺がする。
お前は将来、絶対美人になるから貴族の中で任務をこなせ。
貴族の情報はカラスにとって大事な情報だ。
それをうまく使いこなせるカラスになれ』って言ってくれたの」
私はミレッタの話を聞きつつ、あぁアーロンらしいなと思った。
面倒見が良くて、人に優しいアーロンは私にとって同い年だけれど兄さまのような存在だ。
「いつも何も言わないアーロンが、私に初めて励ましの言葉を言ってくれたの。
私はそれがうれしくて……。
だから夫人に直接お願いしたの。
『夫人の仕事の仕方を教えて下さい』って。
その時に私はアーロンが好きになったのよ。
だからアーロンに対して恥ずかしくなったり嬉しくなったり、かっこいいなって思ったときに、思わず赤くなってるんだわ。
あぁアーロンの事好きだなって言う私の気持ちが顔に出ちゃってるの」
少し恥ずかしそうにミレッタがアーロンへの気持ちを語るのがとてもかわいらしく感じた。
ミレッタの話を聞いて考える。
「アイラ大丈夫?」
そう聞かれて顔を上げる。
「私、自分の感情が希薄なことは自覚があるの。
だってみんないろんな表情だったり感情だったりあるけど……。
私には無いの……」
「それは違うわ!
アイラはその感情の名前がわからないだけよ。
ここ最近アイラと居るようになってアイラの表情にも違いがあるの事が私にはわかるわ。
だからアイラはその気持ちの名前を知らないだけ。
これからその気持ちの名前をどんどん付ければいいだけだからそんなに悲しい顔をしないで?」
「ありがとう。ミレッタ。
やってみる……。
それでね、奥様から聞いているかもしれないけれど……。
今、私がほかの任務から外されているのは……。
奥様からジョエル様がどういう感情を持っているのかを見抜くように言われてるの」
「聞いているわ。
それでジョエル様は赤くなったりするの?」
少し気合いを入れてミレッタに本題を話すことにした。
「うん。でも今までそんなことは無かったの。
お茶会も夜会のエスコートの時も。
なのに最近よく耳が赤くなったり、顔が赤くなったりするのを見るから……。
ジョエル様に聞いても毎回話をはぐらかされてしまうし……」
「なるほどね。
だから最近、同じように赤くなったりする私に聞いたのね」
「うん……。
聞くのはズルかもしれないけど……」
どんどん悪いことをしている気になって、声がどんどん小さくなる。
「ズルじゃないわよ。大丈夫。
アイラはいろいろ考えて私に聞いてくれたんだし。
私も秘密をアイラに話せてよかったわ」
「ありがとう」
「じゃぁジョエル様が赤くなった時に上目遣いでこう聞くのよ。
『なぜ殿下は耳が赤くなっているんですか? 教えてください』って。
それでもはぐらかされるようなら『ジョエル様の思ってること教えてください』って上目遣いでいってごらんなさい」
「うん! やってみる!!」
少し悩みがすっきりした。
私は先ほどより元気になった。
それに気づいたミレッタに
「じゃあ切り替えてお買い物楽しみましょう」
と言われ私達はまた手を繋いで街に再びでた。