17 赤色カラスの苦難(アーロン視点)
アイラとミレッタとのお茶会のすぐ後、足早に向かった先は王宮だった。
そうジョエル様の部屋に呼ばれていたのだ。
いつも通り部屋に入ると、今日はまさかの第一王子サイラス様がソファに座っておられた。
「サイラス様お久しぶりでございます」
あいさつをすればさわやかな笑顔で
「久しぶりだね。僕のことは気にせず」
とおっしゃられる。
一応、気を使いながらジョエル様の隣に座った。
サイラス様は我々の2歳年上で、すでに王族の執務や公務を公に携われている。
金髪碧眼で王族の色ではないが、王やジョエル様とは別種のオーラを纏っており、文武両道の文句ない王子である。
サイラス様とジョエル様は王妃と側妃の腹違いの子供だ。
そして母同士は側妃の嫉妬により、仲は良くないのは周知の事実だ。
しかし二人の王子はそれを気にすることなく、仲良く育ったようだ。
ジョエルの話によると、アイラとの婚約も一目惚れしたジョエル様がサイラス様に相談し国王に直談判したからこそ成り立ったそうだ。
「ところでサイラス様はどうしてジョエル様のところへ?」
「いやなに。
特に理由は無いのだがね。
最近アイラ嬢との仲が睦まじいという話を耳にして、近況報告でもと聞きに来たんだよ」
この王子すごい……。
毎日一時間以上に及ぶ『アイラかわいい講演会』を自ら拝聴しに来るとは……。
などと考えてしまう。
「アーロンは何か用事でもあったのかい?
それともいつもの講演会を聞きに来たのかい?」
もうサイラス王子がカラスぐらいに情報通なのは今に始まったことではない。
なのであえて気にしないことにする。
おそらくこの王子、カラスの存在も、俺やアイラがカラスであることも分かっている。
しかしそれに気づかないふりも、もう慣れた。
「あぁそうでした。
ジョエル様お伺いしたいことがあるのですが、サイラス様もおられるのでちょうどよかったです。
毎年ジョエル様は悩んでいる間に花祭りが終わっていますが、今年はどうされますか?
というのも私は今年ご一緒に執務できなくなりそうなので」
さりげなくジョエル様にプレッシャーを与えてみる。
ジョエル様もほぼ毎日サイラス様の手伝いとして執務に取り組まれている。
しかし花祭りの日は毎年、サイラス様も婚約者のロレッタ様とお忍びで花祭りに参加される。
例年であれば俺はジョエル様と2人で執務室に居残っていた。
もしジョエル様が今年アイラを誘わなければ1人で執務室に籠ることになる。
「いや……今年こそはと思っている……。
アーロンは今年は誰かと約束したのか?」
「はい。今年はジョエル様がかなりアイラ嬢に耐性ができたようなので大丈夫かと思いまして。
申し訳ありませんが、今年は約束を優先させていただきたく、お話に参りました」
「アーロンも今年は花祭りデートだって。
毎年毎年、うまくデートのシミュレーションができず過ぎていくが……。
ジョエル。
今年は何があってもアイラ嬢と花祭りに行くんだ。
僕は毎年婚約者のロレッタとお忍びデートだよ。
花祭り中の婚約者はかわいいよ。
僕が送った花だけを帽子につけるんだ。
いつも可愛いんだけど、町娘の格好のロレッタもとても魅力的なんだよ。
普段の髪の色も魅力的だけれども平民に紛れる茶色のロレッタもこの日だけ限定でね……」
長々と続きそうな『ロレッタかわいい講演会』をいったんストップさせる。
「サイラス様、お言葉ですが『ロレッタ様かわいい講演会』になりかけております」
この王子二人は変なところでそっくりなのだ。
もうとにかく自分の婚約者にべた惚れだ。
「ですが……兄上。
うまく誘えたとしてきちんとエスコトートできるか……。
自信がありません……」
「あぁ!!
ジョエル!!
君は本当に馬鹿だ!!
わかっているかい!?
お忍びということは、いつもの腕に手を置くエスコートではないんだよ!!
柔らかな小さいロレッタの手と、平民のカップルのように手をつなぐチャンスなんだよ!!
普段絶対できない食べさせ合いもできるんだよ!!」
「手!!!! 食べさせ合い!!」
あーやっぱこの二人そっくりだわ。
婚約者馬鹿なところが……。
「兄上!!! それは本当ですか!?」
「あぁ本当だとも。
普段と違う彼女に普段と違う空気……。
ここだけの秘密を教えよう……。
僕とロレッタのファーストキスは花祭りだよ」
「ななななななんと!!!!!!」
なんと!! じゃねぇーよ。
まずジョエル様はアイラを誘ってもいないだろうが!!
心の声で静かにつっこむ。
「ジョエル!!
でもまだ残念ながら君には無理だ……。
焦らずまずは手つなぎの任務を全うしたまえ」
「はい!! 兄上!!」
ほんと仲良しでなによりです。
「ではジョエル様。
明日の昼食時にそれとなく花祭りの話題を僕が出します。
頑張ってアイラをお誘いください」
それだけ伝え、あとは兄弟で盛り上がってもらおうと部屋を出た。
まぁあれだけサイラス様が盛り上げてくれれば誘うことはできるだろう。