16 アイラお誘いを受ける任務
数日後の昼食中。
アーロンが唐突に花祭りの話題を持ちかけてきた。
「もうすぐ花祭りですが、俺は4クラスのミレッタ嬢と行くんですが、お二人はどうするのですか?」
私とジョエル様の空気が凍った。
ジョエル様は下を向き
「……大丈夫だ。平常心……」
とぶつぶつと言っているが、何を言っているかはっきり聞こえない。
アーロンを見ると人差し指を唇にあてて
「しーっ大丈夫」
と口パクで言ってきた。
お誘いしなければ!
とジョエル様に話しかけようとしたとき、ジョエル様が勢いよく顔をあげる。
「アイラ嬢!!
僕と花祭りにお忍びででかけてくれないかっ!!」
ジョエル様が叫んだ。
思わぬ勢いにびっくりしながらも微笑んで答える。
「もちろんです」
ジョエル様の顔をみると真っ赤になっている。
よくわからないが私の胸の中がホワっとしたので思わずにこにこと口角が上がった。
それを見てジョエル様はまた下をむいてしまった。
あれ?
なんか変な顔してた?
と思いおそるおそるアーロンを見た。
するとびっくりしたのか目を大きく開けていたが、指で丸を作って大丈夫だと教えてくれた。
「ジョエル様、当日を楽しみにしております」
もう一度にっこり笑って伝えた。
その後3人で花祭りの事で終始盛り上がった。
花祭りに参加したことのない私に2人は花祭りの事をいろいろと教えてくれた。
それを聞いてますます楽しみになる。
たくさんの露店が通りに並ぶ姿を一度も見たことも無い。
私は想像できなくて2人にたくさん質問もした。
アーロンがジョエル様に明日の天気を聞くように気軽に聞く。
「ジョエル様はアイラ嬢に花輪を準備するのですか?
お二人は婚約者同士ですからね。
ジョエル様の花輪をアイラ嬢がつけていてもおかしくないですもんね」
その言葉にジョエル様がカチンと硬直するのが分かった。
私はその姿を見て少し不安になってしまう。
街では私たちは変装する予定なので二人が婚約者ということは分からない。
だから私がジョエル様から花輪を頂けなかったからと言ってさほど問題にはならない。
しかし、花輪をいただけないとなると……
ジョエル様は私を婚約者と認めてくれていないように感じてしまう。
その考えがどういうこと気持ちに繋がることなのかは分からなかったが、落ち込んでしまった。
ジョエル様はそんな私の様子に気づいたのか焦ったように口を開く。
「ア……アイラ嬢!!
僕に君の花輪を準備させてほしい!!」
顔を真っ赤にしながら言ってくれる。
ジョエル様の申し出に先ほどのよくわからない落ち込んだ気持ちが一気に浮上し笑顔になった。
「嬉しいです。楽しみにしていますね!」
答えるとジョエル様はまた顔を真っ赤にして、嬉しそうに微笑んでいた。
「じゃぁ花祭りの前に準備の買い物を、約束通りミレッタと行かないと……」
私はそれもすごく楽しみにしていたので思わず声に出てしまった。
「二人で買い物に行くのか?」
少し眉を寄せてジョエル様が言うので、声に出ていたことに気づいた。
そしてジョエル様の表情で良くない反応だと気づいた私は少し不安になって声が小さくなる。
「はい……。
私は街に出かけるような服をあまり持っていないので……。
ミレッタに一緒に選んでもらおうかと……」
するとジョエル様は顔の前で手を振りながら焦って言う。
「違うんだ!
行ってはいけないと言うつもりではなく……。
その……女性二人で街に行くというのに心配が……」
「大丈夫です。
一応、東広場にしか行かない予定になっています」
「確かに。
今、西広場は花祭りの影響で浮足立っている連中が多いので行かないでくださいね。
2人は東広場にしか行かないそうですし、あそこなら巡回騎士も多いですから安全ですよ」
私の言葉にアーロンが的確なフォローを入れてくれたので、ジョエル様も少し安心した表情になった。
「危ないことがあるようであれば、必ず大きな声を出して周囲に助けを求めてくれ。
楽しむのはいいがくれぐれも気を付けてほしい」
父親のようなジョエル様からの注意喚起に笑いそうになりながらも、神妙にうなずいた。