15 三人カラスの密談
私はミレッタと公爵本邸の庭でお茶をしていた。
「アーロン遅いわねぇ」
相槌を打とうとしたところに、慌ただしくアーロンが到着した。
「すまん! 待たせた!
ジョエル様のところに呼び出しされていた!」
バタバタと席につき、メイドからレモン水を受け取る。
それを一気飲みをするアーロンを見ながら聞く。
「なるほど。ジョエル様の用件はもう大丈夫?」
「あぁ。まぁいつものことだ……」
苦笑いで答えるアーロンを小首をかしげながら見る。
いつも?
そんなにジョエル様はお忙しいのか?
まぁでもアーロン来てるしいいか。
納得しながらメイドに全員分のお茶を準備してもらい下がってもらう。
「さっ。まずは最近アイラは違和感はどうかしら?」
手を合わせながら言うミレッタを見て少し考えた。
「違和感……そういえば最近無くなったかも……。
空からも何も落ちてこないし、誰も私にスライディングしてこない」
そしていつから違和感がなくなったのか思い出す。
「んー多分ジョエル様がエスコートをはじめたころかなぁ」
あれからジョエル様はほぼ毎日、登校の時、昼食の時、下校の時とエスコートしてくれるようになった。
ジョエル様が来られない時はアーロンが待っていてくれた。
しかし、ほぼほぼジョエル様本人が来られていた。
「まぁ他の休み時間は、私が一緒にいることが多いものねぇ。
アイラが一人になる時間は無いんじゃない?」
そう言われて頷いた。
あれからほぼ一人になることは無い。
一人になるのは、ほんの数分しかないので何も起こりようがないのだ。
「まぁ……。
かといって相手もあきらめたとは思えないんだよなぁ」
「ジョエル様のクラスでの様子は?」
ミレッタがお茶を飲みながらアーロンに尋ねる。
「それが全く変わらずだ。
マリア嬢も相変わらずジョエル様にべったりだし、ほかの取り巻きもいつも通りだ」
それを聞いて胸の中がもやっとした。
いつもジョエル様の腕に抱きついているマリア嬢を思い出した。
もやっとする……。
クッキーたべすぎたかな?
と考えるアイラをもしジョエルが知ればどう思うのか……。
歓喜するのか、がっかりするのか……。
「どうしたの?
アイラ?眉間に皺が寄ってるわよぉ」
言われて眉間を揉みながらお茶を口にする。
「ううん。大丈夫。
クッキー食べすぎたみたい」
「おいしいものねぇ」
朗らかにいうミレッタとクッキーを手に取るアーロン。
「それじゃ、まだ警戒態勢は継続するの?」
「「そうねぇ(だなぁ)」」
息がぴったりである。
「私が囮になって現行犯で捕まえてもいいよ」
というと、二人はダメダメと手を顔の前で振る。
「現行犯を捕まえてもおそらく真犯人を捕まえないと意味がない。
それに今まで程度の嫌がらせだと言い訳されて終わりだ。
だから窮屈かもしれないがもう少し待ってくれないか?」
心配そうに私を見ながら言うアーロンに微笑みながら
「わかった。大丈夫」
と答える。
胸がポカポカする。
兄さまみたいと言うとアーロンは怒るかな?
そんなことを考えているとミレッタが嬉しそうに話題を変える。
「そうだ!
アイラ今度、一緒におでかけしない?
もうすぐ花祭りでしょ?
二人で花を飾る帽子買いにいきましょう」
「そういえば私、街の花祭り行ったことない……」
私の言葉に愕然とする二人。
「実家にいるときは領地に住んでいたし、公爵邸に来てからはすぐにジョエル様の婚約者になったから街に遊びに行けなかった……」
しょんぼりとした私に、二人は勢いよく口にする。
「花祭りの日は祝日だし、ジョエル様とお忍びで行けばいいぞ。
俺がそれとなくジョエル様にアイラを誘うように言うぞ?」
「まぁいいじゃない!
二人でお出かけしなさいよぉ。
花祭り用のお洋服や帽子は私と買いにいきましょう」
盛り上がっている二人。
「でもジョエル様は私と行こうと思われるかしら……」
2人でお出掛けなど今までしたことが無い。
自信なくアーロンに言う。
ところが、自信満々でアーロンが言う。
「絶対行くというと思うが、もしジョエル様が行かないなら三人で行こうぜ。
もしジョエル様が行くならミレッタと俺は二人で行くし。
気にすんな」
「わっ私は二人で行くなんて!」
ミレッタが頬を少し染めて言う。
「じゃ行かないのかよ」
「行くわよ……」
顔を赤くして答えるミレッタに少し意地悪な笑顔を浮かべながら
「よしよし」
と頭をなでていた。
少し考えながらアーロンに聞く。
「では、アーロン。
ジョエル様に伺ってもらえる?」
「もちろん!!」
アーロンから元気に返事をもらった。