13 憤怒の放課後(マリア視点)
小さな頃から私は綺麗なものが大好きだった。
8歳のころ、王宮のお茶会で王子様達を見て二人のあまりの綺麗さに心を奪われた。
王子様の周りに群がる令嬢たちにイライラしたのを覚えている。
私のほうがかわいいのに!
私のほうが可憐なのに!
でも王子様たちの目に私は入ることは無かった。
しかし神様はいると思った。
私の座っているテーブルに第二王子が到着したとき、たくさんの蜂がやってきて大騒ぎになった。
他の令嬢や令息の避難誘導を第二王子がやっているのに気づき、さりげなく近くに寄った。
今だったら王子様の目に私が映るかもしれない!
そう思ってそばに寄った瞬間。
逃げる誰かがひっかけたテーブルクロスが私にかぶさった。
蜂に刺されることはなかったけど、王子様の目に映ることができなかった。
神様はなんで私のお願いをきいてくれないんだとイライラした。
その数日後、私と同じ伯爵家の令嬢である、アイラが第二王子の婚約者に決まったと聞いた。
詳しくアイラのことをお父様に尋ねると、我が家よりも貧乏な伯爵家だと知って悔しくて仕方がなかった。
我が家は私が生まれたころに、取引先の国の戦争に巻き込まれて以来、仕事がうまく回らずどんどん貧乏になっていったらしい。
それでも昔の贅沢が忘れられないお父様とお母様は借金をしてでも生活の質を保ち続けた。
そんなことも知らない私も、贅沢を覚えていった。
しかし、借金もできなくなりそろそろ没落かもしれないというのが第二王子の婚約したころだった。
これで第二王子の婚約者になることは更に無理になったと思った。
ところがどういうわけか、それからひと月もしない間にまた贅沢な生活に戻っていった。
お茶会などでの話によると、我が家の貿易業はまた持ち直したらしい。
その時、神様はマリアの味方なのだなと思った。
その後、お父様から
「第二王子の婚約はふさわしい婚約者が見つかるまでのつなぎの婚約者だよ。
偉い人がマリアのほうが第二王子の婚約者にふさわしいと言ってくれているよ」
そういわれた私は有頂天になった。
第二王子の婚約者は私なんだと信じた。
それから、第二王子も出席するお茶会や夜会では必ず第二王子のそばにいることにした。
周りからも
「お似合いだ」
といわれるようになったのに!
なかなか婚約破棄しない第二王子にイライラした。
私はもちろん婚約の事を第二王子に直接聞くことはせず、お父様に聞くことにした。
「今は第一王子と第二王子が王太子をめぐって争っているんだよ。
もしマリアを婚約者にしてしまうとマリアが危険な目に遭うかもしれない。
偉い人が言うには第一王子が王太子になれないと決まれば、第二王子の婚約者にマリアはなれるそうだよ」
あぁ。やっぱり私が第二王子の正式な婚約者なんだと信じた。
学園に入学しても私は常に第二王子のそばにいた。
周りも学生たちも、私が婚約者のように扱ってくれた。
仮の婚約者のアイラは第二王子と学園で一緒にいることもしないし、挨拶しかしない。
私が第二王子の腕に抱きついていても、アイラは関係ないとのように無関心だった。
それも私をイライラさせた。
それでも、第二王子のそばにいるのは私で、彼の目に映っているのは私。
正式な婚約者は私なのだからと溜飲をさげていたのに!!
ある日、急に第二王子は昼食を私達とは別でとるようになった。
何度誘ってもそれとなく断られる毎日。
仕方なく取り巻きの令嬢や令息と食堂で昼食をしていた時、ある令嬢が急に言い出した。
「最近、ジョエル様はアイラ様と昼食をとられているそうですね」
私は頭の中が真っ赤になったが、あえて可憐に微笑みながら、すこしさみしそうな表情を作る。
「そうなんですね……」
とだけ言った。すると予想通り周りは
「マリア様のほうがふさわしいです!」
「第二王子は義務的にそうしているだけですわ!」
「お気持ちはマリア様にございますわ!」
口々に言い出す。
私はさみしそうな表情を作ったまま
「ありがとうございます……」
力無く言った。
それから私は一人になる時間があるたびにマリアに小さな嫌がらせをした。
ものを隠したり、虫を入れたり程度の些細な事。
昼食の時間、第二王子を取られたことはやはりイライラした。
アイラが少し困れば私のこのイライラを消化できるはずだった。
でもこの小さな嫌がらせは全然成功しなくて、私をさら苛立たせた。