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11 アイラの戸惑い任務



次の日。

学園に到着し馬車から降りようと、いつも通り御者の手をとったつもりだった。


いつものおじいちゃん御者の手ではなく、若い剣だこのある手でびっくりして顔をあげた。



ジョエル様が少し耳を赤くしたまま私の手を握っていた。



「アイラ嬢おはよう。

さぁ一緒に教室に行こう」



はて? なぜだ? 


そういえば最近、婚約者同士で登校するのが流行っているみたいだしジョエル様もそれに倣ったのだろう。



「ジョエル様おはようございます。

エスコートありがとうございます」


「いっ……いや。

今日からはできるだけアイラ嬢をエスコトートしたいと思ってだな……。

いいだろうか?」


「はい」



言いながら口角が上がるのが自分で分かった。


ん?

なぜ私は笑ったんだ?

なぜうれしかったんだろう?


自問自答しつつ顔を上げると、ジョエル様は繋いでいない左手で口を押えつつ斜め上を向いていた。


ジョエル様の耳がまた少し赤くなる。


「ジョエル様? 耳が……」


私は見た通りに声をかける。


「いや……何もない。

大丈夫だ。

さぁ行こう」


そのまま手を引かれたまま教室に向かった。




休憩時間にミレッタが私を訪ねてきてくれた。


「アイラもうすっごい噂になってる。

ジョエル様が教室までエスコートされたって」


「ん? 噂?

それ噂じゃなくて事実よ」


「いやそういうことじゃなくて。

昨日はそんな事一言もいってなかったじゃない」


「うん。

だって今朝、馬車を降りたら急にジョエル様がいらしたの。

それでエスコートしてくださったの。

明日からできるだけやるっておっしゃっていたよ」



するとにわかに、周辺があわただしくなる。

なぜだろうと見渡すと、みんな視線を逸らす。



「そういうことなのね。仲良くていいわね。

またあとでゆっくりお話ししましょう」


言うとミレッタは自分の教室に戻っていった。




午前の授業を終え、昼休憩に入った。


いつも通り、私は生徒会室に向かおうとランチボックスを手に席を立った。


いつもなら午前中の授業を軽く振り返って確認する作業をするのだが今日はいつもと違う。




朝、ジョエル様のエスコートで教室まで到着した。

その別れ際にジョエル様から

「昼は迎えに来る」

と囁かれたからだ。



ジョエル様も私が生徒会室に着くまで、いつもは生徒会の書類仕事をされているのに今日はいいんだろうか?

と思ったが、素直にうなずいた。


そして私はジョエル様が教室にやってくる前に廊下に出ていようと思ったのである。




廊下でジョエル様を待っていると、マリア嬢がジョエル様の取り巻きを連れて私の前を通りすぎて行った。




結局、あの人達はジョエル様の取り巻きなのか?

マリア嬢の取り巻きなのかどっちなんだ?

高位貴族子息も大変だなぁ。

と見送っていると、ジョエル様とアーロンがやってきた。



「アイラ嬢。待たせた」


「いえ大丈夫です」



短い会話のあと3人で生徒会室に向かって歩みを進める。


今日はアーロン様も一緒なのかなぁ?

ごはん足りるかな?

ランチボックスに目をやりジョエル様の背中に視線を遣ると、クスっと聞こえた。



「今日からお二人と昼食をご一緒させていただきます。

理由は後程。

あぁ私の分は持参してますので大丈夫ですよ」



横を見るとジョエル様とそう変わらない身長のアーロンが私に言う。

それを受けてジョエル様が振り向きながら続いて、私にはなしかる。



「あぁ。生徒会室で昼食をいただきながら話そう」


「わかりました」


軽く返事をする。

特に気にすることもなく2人について歩みを進めた。




生徒会室に入りいつも通りお茶を入れ、席に座る。


「お二人はいつも隣合ってお食事されているんですねぇ」


なんとなしに言うアーロンに

「おい!! アーロン!!」

となぜかジョエル様がたしなめる。


またもや耳が赤い。

このジョエル様の耳が赤い件に関して何度も聞いている。


しかしいつも

「大丈夫だ」

と言われてしまう。


なので、それ以上詮索できないでいた。

いい加減なんとか理由をつきとめたい。



ここに公爵夫人の仰っていた感情の把握のヒントがあるような気がしていた。




お茶を手渡すとアーロンが

「これが世界で一番おいしいお茶ですか!」

と言う。


何を言ってるんだ? 

アーロンはこんな変な発言をする人間だったのか? 

と不思議に思いながら冷静に答える。


「いえ、普通に学園で支給されるものです。

礼儀作法や食堂と同じ茶葉です」



ジョエル様は隣でゴホゴホむせているし、アーロンは手で口を覆い横を向いてクスクスと笑っていた。



ジョエル様が気取り直して

「さぁいただこう」

とおっしゃるので全員で昼食をとりはじめる。



食事を各々進めていると今日もジョエル様が

「今日もおいしいよ。ありがとう」

と笑顔をむけてくださる。



私も

「ありがとうございます」

といつも通り答える。



このやり取りは、私がジョエル様の昼食を作ってきた日から毎回行われる。

毎回、律儀に言ってくれるジョエル様に申し訳ない気持ちと少し心が温かくなる感覚が湧く。

しかし、それを伝えるのもおかしいなと思い素直にお礼を伝えることにしている。




あらかた昼食も終わり、お茶のお替りを飲み始めた。

しばらく何かを考えていたジョエル様が、真剣な様子で口を開いた。



「アイラ嬢。

昨日の水の件だが、明らかにアイラ嬢を狙って悪意のもと行われたことだと思う。

今日は迎えに行けたが、私も生徒会の仕事などで迎えに行けない時がある。

クラスメイトによると、いつもアイラ嬢は昼食前に午前の授業の確認作業をしていると聞いたんだがあっているか?」



まぁ別にたいしたことでもない。

ほとんどの事は回避できるから一人でいいんだけどなぁ。

と思いつつ、頷いた。


そんな私を確認して更にジョエル様が続けて口を開く。


「そこでアーロンにも一緒に昼食をとってもらいつつ、アイラ嬢の生徒会室までの送り迎えをしてもらおうと思う」



真剣な眼差しで私を見て言うジョエル様に私は申し訳なく思い

「いえ。さすがにアーロン様に悪いです」

と返答をした。


しかしアーロンが人好きする笑顔で声をかけてくれる。


「私は大丈夫ですよ。

食堂でおもしろくもない話を聞きながら食事するよりも、お二方と食事をともにさせていただく方が何倍もたのしいですし。

もし二人っきりでのお食事を望まれるのでしたら、送り迎えだけして私は別室に行きます」



まぁアーロンがいればジョエル様の耳の件も聞きやすくなるか。

と思い直しアーロンにお礼の気持ちも込めて提案する。

 


「ありがとうございます。

それでは明日からはアーロン様の分の昼食もご準備いたしましょうか?」


問うと、アーロンは

「お願いします。ありがとうございます」

と笑いジョエル様は苦笑いを浮かべていた。




そのあと、ジョエル様は生徒会の仕事があるらしくアーロンに送ってもらっていた。

しかし今日はこの後ミレッタと、あの東屋で待ち合わせをしていたことを思い出した。


「アーロン様。

この後、私は友人と約束がございますので……。

ここで大丈夫です」


私の言葉を聞いたアーロンがすかさず

「それってミレッタだよな? 俺も行く」

と言って、そしてそのままついてきてしまった。



アーロンは

「へぇこんなところに東屋があったのかぁ。

いつでもさぼれるな」

と言いながらついてきた。


まぁミレッタとアーロンは同期のカラスだし。

東屋で話す内容もカラス同士であれば特に問題は無いし、いいかと連れていくことにした。



少し歩いて、例の東屋に到着すると、先にミレッタが待っていた。



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