訪問記録・Y
――御無沙汰しております。前回は、確か……そうでした。第一次選考、グループ・ディスカッションについて、伺いました。今回は、二次選考について伺いたく存じます。引き続き、宜しくお願い申し上げます。
キリサキ(以下、敬称略):二次選考。「面接」だった。
――「秀才就活生」として、すでにあなたの世評は高かった。重圧などは感じませんでしたか?
キリサキ:……。
――……失礼致しました。
キリサキ:……私に向けられたのは賞讃などでなく、悪罵、皮肉、さげすみのたぐいだった。
――しかし前回、あなたは「賞讃された」と……?
キリサキ:ほんの一時のことだ。選考経過について、情報が開示されるに及んで、私は、糾弾の対象となった。
――なぜ?
キリサキ:殺人者だと。
――しかしあなたは、法廷で裁かれたわけではなかった。
キリサキ:私の行動に、故意性は認められなかった。直接手を下したわけではないのだから、当然だ。……だが、今や私にとって世の中はどこも法廷同然だった。世間の連中は私を、いわば私刑に処したのだ。
――それはさぞかし……おつらかったでしょうね。あなたはそれについて、どうお感じになりましたか?
キリサキ:私は……。
――……すみません。つらい記憶を……?
キリサキ:私は、奴等を蔑んでいた。そう、私のほうこそ、奴等を……。
――……。ともかく、いろいろな含みがあるにせよ、あなたは「秀才就活生」にはちがいなかった。
キリサキ:そうだ。私は秀才にちがいなかった。天才、ではなくて。
――なぜならほんとうの天才は、他に存在したから。
キリサキ:そうだ。天才は、他にいた。
――マサシ。あなたは二次選考で、彼と対戦を?
キリサキ:いや、二次選考終了後のことだった。あの男が私の前にあらわれたのは。
――では、「面接」は?
キリサキ:……ほんとうの天才、それは、マサシだけだ。他の志望者たちなど、眼中になかった。
――さすがです。逆境のなか、見事に勝利を掴まれた。人々の、あなたに対する評価も変わったでしょう?
キリサキ:いや……。世評が覆ることはなかった。悪罵は、止みはしなかった。いっそう過激さを増したくらいだ。
――なぜ?
キリサキ:私の姑息な就活が、他志望者を絶望の淵に追いやった……それが、連中の主張だった。私が他人の精神を崩壊させ、夢を、将来を、生き甲斐までも、奪ったと。
――「面接」で。
キリサキ:二次選考。「グループ面接」だった。
――またもあなたは、革新的な就活を編みだされた。
キリサキ:……「革新的」……。
――つまり……。他志望者は発言の最中、なぜかつぎつぎ異変に見舞われた。にわか雨が降り、雷が落ち、車が横転し、ついには地震さえ……。面接官の注意は外の騒々しさに向いていた。けっきょく落ちついた環境で、採用担当者の関心をじゅうぶんにひきながら、自分のペースで発言することができたのはグループ中、あなただけだった。……これは、偶然でしょうか? だとすれば、「奇蹟」と呼ぶに値するほどの偶然です。なにか……異常な力の介入が疑われるほどの。このころあなたはまだ、彼女には出会っていなかったはずですが……?
キリサキ:存在すら、知らなかった。
――彼女を知ってからですね? あなたの人生が、何もかも変わってしまったのは。
キリサキ:……奇蹟でもなんでもない。ただの計算だ。前日までの気象状況を緻密に読み解けば、何時にどのような天変が起こるか、予測を立てることはたやすかった。あとはその時間帯を慎重に避け、発言の機会を見いだしていくだけの話だ。だから、奇蹟などでは断じてなく……。
――ですが世間の人々には理解されなかった。この、「革新的な」アイデアは。しかし……人々の理解を求める以前に、まず、あなたはこの件についてきちんとご説明されましたか?
キリサキ:そんなもの。必要ないさ。
――それは……理解されようとする努力を、怠っていたのではありませんか?
キリサキ:理解など。
――しかし連日の批判、誹謗中傷に、あなたは……。
キリサキ:しょせん、凡庸な連中の言うことさ。
――しかしあなた自身、その凡庸な人間のひとりであると自認していらっしゃるのでしょう?
キリサキ:そうさ、私は秀才にはちがいなかった。しかし、それは凡庸な……。
――そんなあなたに、一人の理解者があらわれた。それが……。
キリサキ:そんなものじゃない。ただ、あの男が声をかけてきた。それは事実だ。
――天才就活生・マサシ。
キリサキ:……。
――マサシ。しかし……見えてきませんね。つまり、いまいち……彼の人物というものが。もちろん、凡人が天才について語りうる言葉など、たかが知れているのでしょうが、いったいどういう人間だったのです?
キリサキ:誰からも、愛される……。
――あなたとちがって。
キリサキ:……そして、誰をも愛している、ように見えた。そう見せかけることのうまい男だった。
――あなたすらも。
キリサキ:……。
――……いや、失礼致しました。たわむれが、過ぎました。……そのマサシが、あなたの前にあらわれた。いったいどんな言葉で交流のきっかけを?
キリサキ:……挨拶も、世間話も。社交辞令すらもなかった。
――そのとき、あなたはどのように……?
キリサキ:……怒りが湧いてくるまでに、時間がかかった。それから……。
――それから彼は、このようなことを言ったはずです。「就活が、エンターテインメントになったらおもしろいのに」。「バトルだったらおもしろいのに」。そうしたら、あなたも罪の意識に苦しむことはなかったし、誹謗中傷にさらされることもなかった……。しかしあなたは、理解することができなかった。
キリサキ:……。
――そんなあなたが、のちにたったひとりでカツバトの開発を手がけることになろうとは。なんという運命の皮肉でしょう?
キリサキ:……。
――……しかし、これで少しずつ、マサシという人物が見えてきたような気がしますよ。あなたは、どうです? 今こうして記憶を整理されてみて、あらためて、彼という人間についてどうお考えですか?
キリサキ:……。
――……まあ。
――お答えいただけないでしょうね。




