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就活生RYO -Grand Design-  作者: 就活史編纂室
第5期「二次選考!ジンジィランドの死闘」
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第9四半期「奇蹟、再び」

 その光は、束になってタワー裏の人造湖に直撃、とんでもない量の水を噴きあがらせた。地面が震え、波が押し寄せてくる。燃えつきた園全域が、今度は荒れくるう水のうねりにのまれようとしている。


「リョウ!」

 シズナが駆けあがってきた。


「シズナさん! ……オニガワラさんは?」


「あいつが!」

 もう、名前を覚えていた。

「タナカが!」

 シズナの一撃で昏倒したオニガワラを、下でタナカが介抱しているのだった。


「タナカ? タナカがどうして?」


「わけのわからないことが多すぎるわ!」

 シズナはさげすむように、エリカを睨んだ。


 揺れは激しさを増し、三人とも、もうまともに立っているのも困難だ。とうとう傾きはじめた床を、ソファも、テーブルも、ブランド品その他諸々もあっけなく豪快に、すべり落ちていく。


「くずれる!」

 リョウはとっさにエリカを見た。すっかり薄らいだ、間もなく消えそうな光だけに守られて、ぼんやりと立ち尽くしている。あとすこしでも傾斜が急になれば、どんどん転がり落ちていく家具類といっしょにこのまま、無抵抗に落ちていってしまいそうだ。


「エリカ!」

 リョウは叫んで、手をのばした。

 エリカはわずかにこちらを見て、無表情のまま、すぐよそをむいてしまった。


 がんがらがらんっとものすごい音で、周囲の鉄骨が崩落する――そこに、このままじゃエリカも巻き込まれてしまう。

 もう名前を呼んでもどうにもならない。我を忘れてリョウは駆け寄った。


 馬鹿、とシズナは怒り任せの大声を、無茶な背中にぶっつけた。

 わかっている、塔そのものが倒壊しつつあるこんな状況で、あいつがどんな行動にでようと同じことだ。みな平等に、なすすべもないのだから。それでも黙っていられなかったのは、――許せないからだった、あの女が。妙に。こんなときに。


「でも!」

 リョウはよたよた左右に大きく揺れながら、ときにつまずきながら走ることをやめなかった。エリカのかぼそい身体はもう、片手一本を支えに頼りなく風の煽りを受けている。


「エリカ! つかまって! エリカ!」

 リョウはじぶんも落っこちそうになりながら、せいいっぱい手をのばした。縁につかまったエリカの手に、一瞬だけ力がこもった。


 ――ほんとうに、一瞬のことだった。


 指の一本一本が、だんだんと緊張をなくしていくのがわかった。それは、負荷に耐えかねてそうなったのでなく、エリカが自分から、しがみつきを放棄していったのだった。


 絶叫するリョウの目の前で、エリカははるか下、ガレキの漂う濁った水に消えていった。


「――落ちつきなさい!」


 シズナは必死に声を飛ばした。つぎにリョウの取る行動が、読めてしまったからだった。


 はたして、リョウは、飛び降りた。なんの迷いもなく。


 そんなことをしたってどうにもならないのに。

 エリカも、リョウまでも、ぜったいに助かりっこないのに。


 わかっている、理性じゃない。論理じゃない。……シズナにはわかっていた。

 だからこそ――。


 ――なんで! ほんとうに、なんでなの!


 まさにへし折られようとしている塔の突端、そこにシズナはすらりと立って、両足に力をこめた。そして落ちていくリョウの身体に、すっと手のひらを向ける。


 ほんとうはもう、苦しい思いをさせたくなかった。

 でも、自業自得だ。

 これはリョウの、自業自得。

 そうとでも思わなければ――。


 手のひらから、青い光の束が放たれた。


 はげしい苦悶の声が聞こえた。


 シズナは耳をふさがなかった。目も、つむらない。


 建物がいよいよ、くずれてゆく。不快な浮遊感に包まれながら、両手をひろげて、シズナは光のなかにのまれていった。


 シズナだけでなくなにもかもが、やはり伝説の物語のように、「まばゆい光に包まれて」いったのだった。












 ――またなにかが、大きく変わった。

 けれども、ジンジィランドが救われたわけではなかった。現実と技術の共和国は、すっかり水の底。くずれた城壁や、くだけたレール、割れたゴンドラなどの浮かんだきたない水面に、ぶくぶくと泡が立つ。


「――ぶはあ!」


 と上がってきたのは、タナカ。水中眼鏡に、ウェットスーツ、酸素ボンベに、足ひれもつけている。

 抱えているのは、気をうしなったオニガワラ。もとの、人間らしい姿のオニガワラ。とはいえ、体重でいえばタナカの倍ちかくもあることに変わりはない。


「――こりゃ、大物だ」

 と、誰が見ているわけでもないが、ひとり漁師時代をなつかしんでいる。






 いっぽう、正門前広場。サカミが抱えているのは、自分よりかなり小柄なサユリだ。


「サユリ君。――サユリ君」

 やさしく身体をゆすりながら、呼びかけると、とつぜん、


 ――ぴゅっ!

 サユリが水を噴きだした。


「サユリ君。――無事かい」

「あれ、……サカミさん」

 サユリは目を瞬いて、それからぷい、とそっぽを向いてしまった。サカミの膝のうえで。


「どうしたんだい」


「――なんですか」

 礼も言わずにむくれている。

「うらぎり者のくせに!」


 今度は、サカミの目がぱちぱち。

「ふうむ……」











 高台の上、ジンジィ君の旗の下。

 水面をながれる残骸を、表情もなく、エリカは眺めていた。


 シズナが、やって来た。

 エリカがそちらを向いたとたん、ぱちんと乾いた音がひびいた。


「……あんた! ほんとうに……!」


 打たれた頬を、エリカは機械のようにおさえていた。


「あんたのせいで、――()()()が!」


 エリカの身体が震えた。


「リョウが、また苦しんだのよ!」


 なにも言えなかった。

 言う前に、シズナは行ってしまった。

 空が燃えている。

 西陽が、水面にとろけていた。



以上、第5期「二次選考!ジンジィランドの死闘」となります。


第6期も、明日より更新して参りますので、


引き続き、何卒宜しくお願い申し上げます。

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