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就活生RYO -Grand Design-  作者: 就活史編纂室
第5期「二次選考!ジンジィランドの死闘」
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第4四半期「面接! vs 就活格闘家、オニガワラ」

 わーっと叱咤激励の声があがった。会場内は、面接官をのぞいて無人。でも、付近に観衆がおおぜい集まっているのだ。


 志望者両名の勇姿はでっかいディスプレイに逐一、映しだされている。それを介して、シズナもリョウを見まもっていた。


 ――マナは、回復した。


 正確にいえば、シズナ自身の肉体でなく身につけたペンダントに、相当な量のマナがこめられている。だから、いざとなれば――。


 ……でも、とシズナは思った。あいつはそれを望まない。だからできるだけ、手だしはしたくない。もうリョウに、苦しい思いをさせたくない。


 ――死ぬんじゃないわよ。

 と、シズナは思った。望むのはそれだけだった。

 ――死なないで。






 リョウはまず、半魚人たちの懇親会場に潜入した。


 巨大なビアジョッキやワイングラスが、時にぶつかりあいながら、文字通り目まぐるしく回転しつづけている。

 よく考えもせず、日曜亭のとよく似た茶碗に、リョウは飛びこんだ。郷愁にひたる余裕もなく、器はぐるぐるまわりはじめる。目がまわる。


「しまった!」


 ほかのグラスやジョッキ同士は、乾杯する――ぶつかり合う――ことで、勢いをうまく殺しながらゆるやかに回っている。

 でも、お茶はノンアルコール。

 乾杯の輪にうまく加われない。

 つまり、回転は、加速しつづけるいっぽう――。


「……どうすれば……」


 と、アタマを必死に回転させるうち、――ひらめいた。

 というか、思いだした。


 あの夜祭りの日々、金魚すくいの青年が教えてくれた。


 ――ながれを、見きわめるのです……。


 ……回る茶碗のなか、リョウもおんなじ向きに回りはじめた。

 すると、どうだろう。世界が、止まって見える。茶柱みたいに背のびして、ひょっこり顔をだすと、


「――宜しくお願い、致します!」


 挨拶とともに噴射した息の推進力で、反対方向のカクテルグラス目がけて、茶碗ごと一直線に突っこんでいく。


「乾……杯!」


 器同士のぶつかるその瞬間、なんとカクテルグラスに、後方宙返りで飛び込んだ――そのクリエイティブかつアクロバティックな就活に、各地の観衆はやんや、やんやの大喝采。


 グラスのなか、まるでサクランボみたく浮かんでいた最初の面接官――覆面をしている――が、愛想よく、こう言ってくれた。


「――本日は、ようこそお越しくださいました」


 ディスプレイ脇のスコアボード、リョウの「高評価」欄に、デジタル数字の「1」がともった。


 いっぽう、オニガワラだって負けてない。


「――うす!」

 数字に惑わされることなく、

「精進、あるのみっす!」


 そう言って、満員電車ふうジェットコースターに飛び乗った。

 着ぐるみたちに揉みくちゃにされながら、吊り革を握った手に力をこめ、めりめりめりっと身体を持ちあげる。


 ――そのまま、大車輪、大車輪、大車輪。


 弱冷房の車内に大旋風が巻き起こり、その勢いでコースターは脱線、ロケットみたいに飛んだ車両は、ショップひしめくバザールの、ガラス張りの屋根をぶち抜いた。


 電車は大破。

 オニガワラは無傷。

 しゅたっと何事もなかったみたいに着地を決めると、店から店へ、壁をぶち破って大疾走。


 なるほど、これならいちいちドアをノックする必要もない、戸口でお辞儀する必要もない、怒涛のタイム・マネジメント術。

 タックルにふっ飛んだ面接官はひとり、ふたり、三人と、宙に舞いあがり、噴水広場につぎつぎ落ちてくる。


「――宜しくお願い、致します!」


 噴水の前で、頭を下げるが面接官たちは落下の衝撃でもうほとんどのびている。意識が朦朧としているから、判定も甘い。


 一度のお辞儀で数人ぶんの面接を受けることが可能なだけでなく、高評価につながりやすい、豪快かつ、戦略的な就活。オニガワラの「高評価」が一気に加算された。



 ――重量級パワー馬鹿に見えて、じつは効率重視のスピード就活……!

 事情通その一がつぶやいた。


 ――リョウもどんどんポイントを上げていく!

 事情通その二も驚嘆している。


 ――この就活……。

 事情通その三のこめかみを、冷や汗がつたった。

 ――ひと荒れ、きやがるぜ……!



 奇しくも、彼の予言は成就することと相成った。


 けれども、――時系列に則して報告しよう。


 リョウが目をつけたのは、倒産した某社の旧社宅を模しているらしい、彷徨える亡霊たちの住みかだった。みんな、死してなお転職活動を続行中らしい。


 暗い廊下に、証明写真機が並んでいる。前を通ると叫び声みたいなシャッター音がして、ぬべえっと気味の悪い写真がつぎつぎ吐き出されてくる。とつぜん開いたカーテンから、のっぺらぼうがぬっとでる、なんてパターンもある。


 ――そうだ!


 リョウはまたまたひらめいた。みんなを呼び集めた。亡霊たちの額が集まった。額といっても、大半の者は頭部がないけれど。

 みんな、うなずいているつもりらしかった。首にぴくり、ぴくりと横じわが浮きでている。


 外に出ると、まさに百鬼夜行。全員連れて、練り歩いた。そしてリョウの、


「――宜しくお願い、致します!」


 のかけ声で、お化けたちはぞろぞろと、シンポジウム・ホール――時間によって着ぐるみたちのセミナーや講演会など様々なイベントが開催されるらしい――になだれこんでいった。


 すると中から、悲鳴。絶叫。お経――おびえきった面接官たちが、どんどん飛びだしてきた。


 おっきな建物内をいちいち探索していたのでは、時間も体力ももったいない。

 リョウの作戦勝ちだった。

 大パニックの面接官たちはリョウの話なんてまともに聴く余裕もなく、高速で生返事を繰り返すと、塩をまきちらしながら逃げ去っていった。

 高評価が、たっくさん増えた。


 そこをたまたまジンジィ君、のガールフレンドの、大きなリボンをつけたモルモット、ケイリィちゃんが通りかかったので、おねがいして写真を撮ってもらった。

 もちろんピースなんかせず、口を閉じ、まっすぐカメラを見て、顎を少し引いて――。


 観戦者みんな、どっと沸いた。

 シッポも、声をあげて笑った。


 シズナは、笑えなかった。あきれていた。


 ――なに? なんなの、あいつ?


 負けたら終わるのよ?

 就活生じゃいられなくなるのよ?

 背負っているものも、こころざしていることも、たくさんあるだろうに――。

 まるで……。

 まるで、就活を楽しんでるみたいじゃないの。

 あの、ZAKURO社の選考を。

 




 ――まさに、その通りだった。


 もちろん開始前には、リョウなりにいろいろ思うところはあった。

 緊張もあった。不安もあった。決意もあった。気負いもあった。それからちょっとした、「使命感」すらも。

 でも、いざ就活がはじまってみると、リョウはそんなよけいなものぜんぶ脇にのけているじぶんを発見したのだった。


 ――楽しい!

 もう、それだけ。

 ――就活、楽しい!


 走る。

 風を感じる。

 笑う。

 声が響く。

 お辞儀。

 モチベーションが、大爆発。


 ――もっと。もっと、もっと、もっと……。

 もっと、就活、していたい!



 その影響は、オニガワラにもおよんでいた。


「――なかなか、やるっす!」

 気持ちを引き締める。でも、表情はやわらかくなる。

「自分も、負けてられないっす!」


 リョウは、ディスプレイを見た――オニガワラの汗が、光っている。

 入場のときは気むずかしげな表情で、取っつきにくい人かと思ったけれど、今はすっごくさわやかな笑顔で、面接官にスクリュードライバーをかましている。

 気絶させ、譫言に讃辞を引きだす作戦だ。


「すごい……」


 リョウは感嘆した。

 わくわくする。ぞっくぞくする。


「オレも、がんばらなきゃ!」



 リョウが、ポップコーンの嵐を巻き起こす。


 するとオニガワラは、観覧車に体あたり。ゴンドラが、木の実みたいに落ちてくる。


 リョウが、人形たちと自己PRを大合唱。


 オニガワラが、水面を走りぬける。


 リョウが、未確認飛行物体を撃ち落とす。


 オニガワラが、いたずら猿をぶちのめす……。



 ――すげえ! すげえ就活だ!

 ――これこそ就活・エンターテインメントだ!

 ――ZAKURO社、バンザイ!


 観戦者一同、もんのすごい盛りあがりようだ。

 画面越しに観ていたり、音声解説で追っている者たちにはこれがほんとの現実か、空想現実か――カツバトか、そうでないかの区別なんて、つきようもない。


 そんなの、もうどうでもいい。

 みんな、白熱している。

 みんな最高だ。

 叫んで、抱きあって、熱くって、泣けてきて、たのしくって、うれしくって、ぐっじゃぐじゃで――それでいい。それが、すべてだ。

 解釈なんて、不要だった。それどころか、害悪だった。


 たぶん、熱狂がピークに達したのはリョウとオニガワラ、両雄がとうとう正門前広場――選考開始のまさにその場所で、ふたたび、相まみえたその瞬間だった。


 両者、見つけだした面接官の数はほぼ、互角。

 リョウが高評価ひとつぶん、リードしている状況だ。


「……なかなか」

 さすがに息を切らしながら、オニガワラが言った。

「やるっすね」


「うん」

 リョウも、汗だらけだ。

「そっちこそ」


 歩み寄り、ここからの最終局面にむけて、会釈を交わす――そんなふたりの姿を、ジンジィランド某所、はるかな高みから、見おろす者がいた。



「いつまでもつづくと思っていたら、ある時とつぜん、プツンと途切れちゃうもの……なあんだ」


 ――シルヴィア。


「それは……『夢』」


 からだが、光をおびていく。青く、青く、青く……。


「『夢』は……いつか、醒めるもの」



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